意図せず世界を手中に収めよう   作:マーズ

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院長のクズ日記、W月T日を更新しました。


シャルロットと本音と一夏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はISの実技授業を行う。専用機持ちは前に出て、実演しろ」

 

IS学園一年一組の授業は、アリーナで行われていた。

生徒たちの前に立つ千冬の言葉に、専用機持ちたちが三人前に出る。

 

そのうち二人は、以前の決闘でおなじみの一夏とセシリアである。

最後の一人は……。

一夏がそう思った時、その人物が前に出てくる。

 

「頑張って~、シャルルん~」

「うん、行ってくるよ」

 

クラスメイトののほほんとした雰囲気を醸し出す女子生徒に応援を受けた、シャルル・デュノアであった。

一夏は、彼女を見て心臓をドクンと跳ねさせる。

 

能力のみならず、容姿でも優れた生徒が多いIS学園であるが、シャルルの容姿は群を抜いていた。

少しクセっ気のある蜂蜜色の髪の毛を後ろでくくり、長い髪でも動きやすいようにしている。

 

顔は柔らかで、中性的に整っている。

身長は一夏よりも結構小さいのだが、スラリとしたスタイルによって少々大きく見える。

 

さらに、思春期の一夏の目を引くのは、彼女の胸部である。

ISの実技授業であるから、生徒たちは一夏も含めて皆ISスーツに着替えている。

 

このスーツが一夏の男心をくすぐりまくる。

身体の線がハッキリと浮き出てしまうほどぴったりと肌に吸い付くこのスーツは、瑞々しい女子高生たちの肢体も浮かび上がらせてしまうのである。

 

高校一年生、思春期真っ盛りの一夏にとって、これは中々に刺激的な光景である。

しかも、シャルルは服の上からではわからないが、かなり豊満な乳房の持ち主である。

 

本人と院長しか知らないことであるが、カップはなんとE。

鈍感にもほどがあると評される一夏も、性欲は年相応にある。

 

このような爆弾を見せられたら、顔が少し赤くなるのも仕方がない。

これだけですんでいるのは、シャルルの身体を見る前にそれを上回るおっぱいを見ているおかげである。

 

それこそが、同室のクラスメイトであるクロである。

小柄な体躯に不釣り合いなほど実った超ド級のおっぱいに、一夏は少量の鼻血を漏らしたのであった。

 

「よろしくね?」

「お、おおう!よろしく……」

 

そんな一夏の心の中を読み取ったのか、シャルルが柔らかく一夏に笑いかける。

慌てて返事を返すが、おかしいとは思われなかっただろうか?

 

同級生にエロいことを考えていたなんて知られたら、もう生きていけない。

そう思う一夏であったが、シャルルはニコニコとしているのでばれなかったのだろう。

ホッと胸をなでおろす。

 

「よし、ISを展開して、飛んでみろ」

 

千冬の指示に従って、三人はそれぞれ専用機を展開する。

一夏は白を基調とした白式を。

 

セシリアは青を基調とした『ブルー・ティアーズ(蒼い雫)』を。

シャルルはオレンジを基調としたラファール・リヴァイヴ・カスタムIIだ。

 

三人はISを身に纏うと、凄まじい加速力で―――一夏はやや遅れていたが―――上昇する。

そのあと、急降下して地上から十センチの位置で完全停止をしろという指示が入る。

 

まず最初にシャルルが実行し、見事にそれを成し遂げた。

上からその様子を眺めていた一夏は、感心したように呟く。

 

「おぉ、すげぇ……」

「まあ、デュノアさんはフランスの代表候補生……つまり、イギリスの代表候補生であるわたくしと同じ位実力は持っていますわ」

「へー、そうだったのか」

 

一緒に眺めていたセシリアからの注釈に、一夏は納得する。

セシリアと口論をしたときは茶化していたが、彼も専用機を持たされている人物の凄さは理解している。

 

ISは世界中に467機しか存在しない超兵器である。

一機あるだけで一国の防衛を担うことができ、また、一国を滅ぼすこともできる。

 

現代の国家において、ISの確保とその操縦者の育成は一大任務であった。

そんな貴重なISを、弱冠15歳の少女に貸与しているのだ。

その少女たちがどれほど優秀であるかは、語らずとも理解できよう。

 

「それに、デュノアさんは確か、世界で第一位の量産機ISシェアを誇る大企業、デュノア社のご令嬢であるはずですわ。ISに造詣が深いのは、ある意味当然ですわね」

「はー、俺とは全く違う世界に生きているんだなぁ」

 

一夏は思わずごくりと喉を鳴らす。

お金持ち、ご令嬢といった要素では、隣にいるセシリアだって負けていないだろう。

 

イギリス名門貴族の当主である。伝統という意味で見れば、セシリアに軍配が上がるだろう。

しかし、資産や経済力といった面で見ると、軍配はシャルルに上がる。

ISにろくに触れてこなかった一夏でさえ知っている名前であるデュノア社は、それだけの力を持っていた。

 

『おい、一夏!何をしている!早く下りて来い!』

「うわっ」

 

突然、大きな声に呼び掛けられ、一夏は耳を塞ぐ。

下を見れば、拡声器を手に目を吊り上げた箒がいた。

 

思わず、ひっと小さく悲鳴を漏らす。

すぐに、隣であわあわと慌てている真耶を見て、ほっこりとする一夏であった。

 

「まあ、うるさいですわね。でも、このままいても授業進行の妨げになりますわね。それでは一夏さん、お先に失礼しますわ」

「お、おう。頑張れよ」

 

その後、シャルルと同じく見事に成功させたセシリアと、地面に墜落した一夏がいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~……」

 

本音は目の前でISが動いているのを見て、改めて感心する。

ISが凄い機械なのは当然理解していたが、実際に目で見てみると受ける印象は意外と大きい。

 

今は、クラスメイトの三人が専用機を使って実演してくれている。

先ほどの降下訓練は見事なものであった。

 

シャルルとセシリアは、流石代表候補生と言える素晴らしい能力を見せてくれた。

一夏は墜落してしまったものの、ISに触れ初めて一月ほどしか経っていないことを考えれば、なんだかんだで乗りこなしていることが凄い。

降下訓練の後に行われているのは、武装の呼び出し訓練だ。

 

「織斑、お前はもっと素早く呼び出せるようになれ。オルコットは近接武器の呼び出しが課題だ。何度も反復して、次の実技の時までに改善しろ」

「(うわ~、織斑先生厳し~)」

 

一夏だけでなく、イギリス代表候補生のセシリアにまで容赦なく指導を行う千冬。

あまりの厳しさに、本音は苦笑いだ。

 

だが、一夏はまだしもプライドが非常に高いセシリアも、文句は言いつつも指導を聞き入れないことはなかった。

それは、千冬が世界最強の称号を持っていることに理由がある。

 

「次はデュノア。やってみろ」

「はい」

「(あ、シャルルんだ~。頑張れ~)」

 

本音は声に出さないで応援する。

シャルルはそれに気づいたのか、本音を見てニッコリと笑う。

 

そして、シャルルの実技が行われた。

彼女は一秒を待たず、すぐさま武装を呼び出して手の中に具現化させる。

 

それは、黒光りする実弾銃である。

そのあまりの素早さに、千冬も小さく驚く。

 

「ほう……他の武装に切り替えてみろ」

「はい」

 

そのあと、シャルルは千冬の指示に従っていくつか武装を呼び出す。

これは『高速切替(ラピッド・スイッチ)』と呼ばれる業で、シャルルの特技であった。

 

「よし、いいぞ。織斑とオルコットはデュノアを見習え」

「(すご~い、シャルルん!)」

 

本音はパチパチと手を叩いて喜ぶ。

あの厳しくてほとんど人を褒めない千冬が、遠まわしにとはいえシャルルを認めたのである。

 

友人として、とても嬉しい気持ちになった。

シャルルも拍手をする本音に向かって、ひらひらと手を振ってくれていた。

 

「(こんなにいい人のシャルルんを監視しろって~、楯無おじょーさまはなにを考えているんだろ~?)」

 

本音は自分の仕える家の当主に指示された内容を思い、小首を傾げる。

本音の実家である布仏家は、代々更識家に仕えてきた由緒ある家である。

 

布仏家の次女である本音も、更識家次女の更識 簪に仕えていた。

そして、彼女は主の姉である楯無に、シャルルの監視任務を受けていた。

 

楯無曰く、今の学園の中には何人かの不穏分子が紛れ込んでいる可能性があるらしい。

そのうちの一人がシャルルだと言うことらしいが……。

 

「(紛れ込めるのかな~?)」

 

本音はそこが疑問であった。

IS学園は、世界中から若きエリートたちが集う場所で、将来は国家を支える柱となる人材を育成する機関である。

 

だから、敵対勢力から何らかの接触を図られないように、この学園にはいかなる国家や組織、機関からも影響を受けないとされている。

さらに、セキュリティも万全である。

 

もし、少しでも背景におかしな部分があれば、書類選考の時点ではじかれるだろう。

本音からすると、もぐりこむことは到底現実味を帯びていなかった。

 

「(それに~、ものすご~い技術を持った人がデータを改ざんしないとダメだし~)」

 

IS学園はネットセキュリティも非常に高い。

ハッキングして改ざんすることができる人物など、果たして世界に存在するだろうか?

それこそ、あの大天災レベルでないと無理だろう。

 

「(でもでも~、楯無おじょーさまの言うことには逆らえないしね~)」

 

どれだけおかしいと思ったとしても、本音は更識家に逆らうことはできない。

ただ、与えられた任務を遂行しなければならない。

 

「(シャルルんは大丈夫だと思うけどな~)」

 

本音は、もし学園内に不穏分子がいたとしてもシャルルはありえないと思っていた。

彼女の背景は、暗いところがまったくないからである。

 

フランスの正式な代表候補生であり、世界第一位のシェアを誇る大企業のご令嬢。

片方だけでも確たる信頼に値するというのに、それが二つもついている。

 

本音には、どう考えてもシャルルが不穏分子だとは考えられなかった。

背後関係を偽装するにしても、到底偽装できるものではない。

 

「(報告の内容は安定だね~)」

 

週一回程度、生徒会では監視結果の報告会がある。

本音はその後、報告会でこのように報告した。

 

『シャルル・デュノアに、不穏な動きなし。問題はないと思われる』。

 

 

 





明けましておめでとうございます。
お年玉ください。

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