咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
改めてルール説明
全員に50000点支給、持ち越しで半荘3回
ドボンあり、箱割者はその場で失格
組み合わせを変えて半荘3回終了後、上位4名で決勝
見学、休憩も兼ねて一度に二試合ずつ
ルールは標準
一発あり、裏ドラ、槓ドラ、槓裏あり、赤あり、喰いタン後付けあり
親と席を決める為に、場に伏せてある風牌を引いていく一同。
第一試合 親順
池田→モモ→透華→久
第二試合 親順
純→秀介→妹尾→一
(・・・・・・そういえば・・・)
池田がふと下家のモモを見ながら思い出す。
(下家の東横って人、大会中やたら周囲の人が振り込んでたっけ。
何かあるのかな?)
そんな視線に気づいているのかいないのか、モモは笑顔で池田に挨拶をする。
「よろしくお願いしますっす」
「あ、うん、よろしくお願いします」
「じゃあ始めましょう?
よろしくお願いします」
久も混じって挨拶を交わす。
「よろしくお願いしますわ」
そしてこちらはモモに振り込んだ本人、透華。
(あの時はやたらに振り込んでしまいましたけど、今回はそうはいきませんわよ?)
一人リベンジに燃えていた。
一方同時に試合が行なわれるもう一卓、一は対面の秀介に気を向けていた。
(透華が注意しろって言ってたけど・・・・・・そんなに危険なのかな?
特に変な感じはしないんだけど・・・・・・)
「よろしくお願いします」
そんなことに気づかないのか、秀介は頭を下げてくる。
一もつられて頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす」
妹尾と純も挨拶を済ませ、対局開始となった。
第一試合
東一局0本場 親・池田 ドラ{⑥}
9巡目、透華に聴牌が入る。
{五六七八①
(三色崩れの平和ドラ1・・・・・・東一局から安手でリーチをかけるなんて私の打ち方ではありませんわ!)
三色への手変わり狙い。
{①}切りで聴牌はとるもののまだリーチはかけない。
一方のモモ。
{四七八
一通ドラ1の一向聴。
だがカン{⑤}にしろ頭を作るにしろ待ちが良くない。
いっそのこと{①④⑥⑨}でも引いて平和手にした方が上がりやすそうな気もする。
789の三色も見えるし。
とりあえず{四}切りで様子見だ。
11巡目、池田に聴牌が入る。
{四[五]六②③④④
こちらも平和ドラ1。
だが透華のように守りに入るようなタイプではない。
(東一局の親番は慎重に・・・・・・なんてのがセオリーらしいけど。
華菜ちゃんに言わせれば、親番っていうのはたくさん点を取る為にあるものだし!
曲げた打ち方なんかしないし!)
ダァンと力強く{④}を横に倒す。
「リーチだし!」
チャリンと千点棒が卓に転がる。
(ありゃりゃ、怖いっすね)
モモがツモって来たのは安牌、ここはツモ切りする。
そして未だ一人不要牌を手に抱える久。
{一二三四
(手が遅いわね・・・・・・。
折角ヤスコが用意してくれた対戦の場、不本意にならないように頑張りたいんだけど・・・・・・)
池田の捨て牌を確認しつつ{9}を切る。
そしてぐるりと1巡回って再びモモの手番。
ツモったのは不要牌の{1}、池田にも安牌である。
考える間もなくツモ切り。
それにひくっと頬を引き攣らせたのは透華だ。
三色を待っていたところに出て来た上がり牌。
タンヤオも消えるド安目である。
が、池田のリーチを考えると見逃せはしない。
「・・・・・・ロンですわ」
ジャラッと手牌を倒した。
{五六七八八
「平和ドラ1、2000」
「ありゃ、はいっす」
モモは素直に点棒を渡す。
(まだ完全には消えきれてないっすね。
でも後半にはそうはいかないっすよ)
一方渋々上がりながらも、ふとモモの捨て牌に目をやる透華。
(そういえば・・・・・・上家の捨て牌、ちゃんと見えてるじゃありませんの。
やはり前回やたらに振り込んだのは何かの間違いでしたのね。
おそらく原村和に気を取られ過ぎていたのでしょう。
ちゃんと向き合えば私の敵ではありませんわ!)
フフンと気を取り直して点棒を受け取った。
そしてリーチを上がりきれなかった池田。
(ぐぬぬ・・・・・・上がれなかった・・・・・・。
でもこれでいいし。
攻めるのが華菜ちゃんの打ち方だし!)
こちらも気落ちしてはいなかった。
そして取り残されている久。
(・・・・・・次からちゃんと混ざれますように)
第二試合
東一局0本場 親・純 ドラ{三}
秀介捨て牌
{南①中⑧⑨六一3}
手牌
{二七七八八九①②②
秀介は手作りを無視してメンバーの力量を測っているようだった。
(龍門渕さんはどちらも中々打てるようだが・・・・・・。
下家の鶴賀は・・・・・・)
妹尾捨て牌
{九九8五東南一9}
({一9}はツモ切り、そしてあの微妙そうな表情。
筒子に染めたいんだろうけど、牌が寄り付かないんだな)
秀介は苦笑いしながら牌を切っていく。
2巡後。
「リーチ」
純が{7}を切り出し、リーチを宣言する。
純捨て牌
{北西發八一91④四} {
秀介はチラッと捨て牌を見たのち、{北}を切る。
一も純の切り出しに目を向ける。
(・・・・・・筒子の出が少ないけど、{④四7}が手出しだし染め手じゃないね。
{三がドラということを考えると三四}とあるところにドラを重ねて別のところでの両面待ちかな?
タンピンドラドラ・・・・・・。
{④が④⑤⑥⑦}からの切り出しだとしたら567の三色もあるかも・・・・・・。
となると最後の{7は677}からの切り出しかな・・・・・・?)
ん~、と自分の番が来る前に考える一。
そして妹尾はツモってきた牌を見て、ため息をつきながら{8}を切り出してきた。
「ロン」
純が手牌を倒す。
{
「リーチ一発タンピン一盃口ドラドラ。
裏無し、18000!」
「ふえぇぇ!」
がくっとうなだれる妹尾。
純は一本積み、親を続行だ。
秀介はやれやれといった様子で見守っていた。
そして局は進み、
それは起きた。
第一試合
東四局0本場 親・久 ドラ{⑨}
透華 60000
{四五六八①②③
(ドラはありませんけどリーヅモ發、裏ドラ乗れば満貫と言ったところかしら)
{白}を切る。
「ポンだし!」
池田から声が上がる。
(
聴牌しつつ流れを潰したつもりの池田。
だが、再び透華のツモ。
{四五六八①②③
(さぁ・・・・・・リーチと行きたいところですけれども)
透華は{2}を手にしつつ、しかし池田の捨て牌に目をやる。
その刹那。
「ろ、ロンです!!」
「「「「!?」」」」
声が聞こえたのは後ろ、つまりもう一つの卓からだ。
(・・・・・・びっくりしましたわ・・・・・・)
ふぅと息をつき、チラッと後ろを振り返る。
上がったのは鶴賀の妹尾のようだ。
その様子を何か信じられない物を見るかのような目で見ている一。
「はじめ? どうかなさいましたの?」
第一試合の途中にもかかわらず透華が声をかけるが、一に反応は無い。
「・・・・・・はじめ?」
第二試合
東三局0本場 親・妹尾 ドラ{八}
秀介 52300
配牌
{二四④⑥⑨14
メンバーの顔とその手牌、そして山に視線を送る秀介。
もちろん常人に牌が透けて見えるはずが無いのだが。
だが秀介はなにか面白いものでも見つけたかのような表情で{發}を切り出した。
(・・・・・・第一打が{發}?)
({南}の方がいらないですよね・・・・・・?)
後ろで見ていた何人かがボソボソと話している。
そして数巡後。
今度は{白}を切り出す秀介。
「えと、ポンです」
妹尾が{白}を2つ晒し、手牌から不要牌を切り出す。
({白}・・・・・・速攻で上がって連荘する気?)
一はそんなことを思いながら手を進めていく。
秀介手牌
{二四
チラッと妹尾の方を見るが妹尾は自分の手牌のことでいっぱいのようだ。
(えと・・・これが来たら・・・こうして・・・・・・・・・んと・・・これ何ていう役だっけ?)
秀介はそんな様子をみて小さく笑い、{⑨}を切り出す。
次巡。
一 47900
手牌
{五七
(ん、一向聴か)
{8}を切り出す。
({南}がもっと早くに出てくれればガンガン鳴いていけたんだけど・・・・・・。
誰かと持ち持ちになってたら上がれないし・・・・・・)
だが2巡後、秀介の手牌から{南}が出る。
「ポン」
「あぅ」
飛ばされた妹尾から声が上がるが気にしない。
ともかくこれで聴牌だ。
{七
同巡。
「チー」
秀介が{横三四五}と晒し、{4}を切ってくる。
(かすった・・・・・・、あんなところを切ってくるなんて、聴牌かな?)
一は秀介を見ながらそう思う。
が、直後に妹尾が{東}を切ると。
「ポン」
再び鳴いた。
(まだ張ってなかったのか。
でもこれでニ副露、さすがに聴牌だろう)
そして直後、妹尾から声が上がる。
「あ、えっと・・・・・・リーチです!」
タァン!と音を立てて牌を横倒しに捨てる妹尾。
ガクッとずっこける一同。
「・・・・・・鳴いてたらリーチできないだろ」
「え!? あ、えっと、そういえば・・・・・・ご、ごめんなさい!」
秀介の指摘に、妹尾はあたふたしながら牌を縦に直した。
(おっちょこちょいだなぁ、まったく。
緊張感が切れちゃうよ)
一はため息をつきながらツモる。
ツモったのは{發}。
迷いなくツモ切った。
直後であった。
「ろ、ロンです!!」
「え・・・・・・?」
パタンと倒された手牌は。
{三三} {⑤⑥⑦} {發發} {中中中} {横白白白} {
「えと・・・・・・白發中・・・・・・三翻で、えっと・・・・・・ご、5200?」
「おいおい・・・・・・」
妹尾の言葉にあきれる秀介。
「だ、大三元だと!?」
純が思わず声を上げる。
周囲からもざわめきが上がる。
「あ! そ、そうです、確かそんな名前で・・・・・・」
「ちょ、待て! ってことはどうなる?」
妹尾の言葉を遮りながら純が言う。
「親の役満48000で・・・・・・一、お前の点数は・・・・・・」
「・・・・・・47900・・・・・・」
呟くように一が言う。
「ってことは・・・・・・」
「トビ、だな」
秀介が席を立ちながらそう言う。
「・・・・・・そんな・・・・・・」
ガクッとうなだれる一。
「はじめ? どうかなさいましたの?」
透華の声も耳に入らない、それほどの出来事。
「・・・・・・し、信じられんな・・・・・・」
「当の本人、どれだけの事やったか分かってないみたいだ。
教えてやろうよ」
蒲原が遠目に眺めていたゆみをつれて妹尾のいる卓へ向かった。
「や、役満? 鶴賀が?」
「誰か牌譜取ってない・・・・・・?」
「ごめんなさい、龍門渕と清澄はチェックしてたんですけど・・・・・・」
風越のメンバーがあたふたとしている。
大会の時には素人だったし、今日も打ち方が大して変わっていなかったので、誰もチェックしていなかったのだ。
それがまさか、役満を出すことになるとは誰も予想してなかったようだ。
(この人・・・・・・今のを故意に・・・・・・!?)
唯一、秀介を後ろから観察していた美穂子だけが、その不思議な手順とその結果起きた事態を理解していた。
頭では理解していても受け入れられてはいないようだが。
(・・・・・・もし・・・・・・)
ごくっと唾を飲み込む。
(他人を上がらせる為に使った今の流れ・・・・・・自分の上がりに使ったら・・・・・・!)
どんな事態が起こるのか。
それは打ってみなければ予測もつかない。
第二試合終了
妹尾 82900
純 64900
秀介 52300
一 -100
靖子は頭を抱えていた。
「・・・・・・やりやがった・・・・・・」
負けるとは思ってなかったし、何かやるかもとは思っていたが、まさか役満を直撃させるとは!
確かに上がったのは秀介ではないし、周囲の人間も牌譜を取っていなかったようだし気付かれる可能性も少ないだろうが。
それでも靖子は秀介の仕業だと確信していた。
こう見えて付き合いは長いのだ。
一方声で状況を聞いただけの久も頭を抱えていた。
(シュウ・・・・・・久々に会ったヤスコが期待寄せてたみたいだし、どうせまたあんたが何かやらかしたんでしょう?
まったく、自分が上がって盛り上げればいいのに)
やれやれ、と小さく首を振る。
久の応援をしていた和と咲も秀介の卓の近くで顔を見合わせている。
「し、志野崎先輩が3位?」
「でも役満が出たんじゃ仕方ないよ。
あの人安手を連荘して順位を上げるタイプだし・・・・・・」
「そうかもしれませんけど・・・・・・」
何か引っかかります、と和は捨て牌と全員の手の進行状況を確認しようと卓に向っていく。
咲も慌ててそれについていった。
(・・・・・・は、はじめが・・・・・・トビ!?
そんなまさか・・・・・・)
透華が意識を隣に奪われながら切った{2}。
「ロン」
「・・・・・・はっ!」
池田が手牌を倒す。
{三四五1134456} {白横白白} {
「白のみ、1000」
「くっ・・・・・・はい」
点数を差し出す透華。
その後、透華は自分の顔をパンと叩いた。
(いけませんわ、今は自分の事に集中しないと・・・・・・。
私がこんな調子じゃ、一も不安になってしまいますわ!)
そんな中、モモは一人クスッと笑った。
(みなさんお互いに意識が行っているようっすね。
時間的には早いけど、そろそろ頃合いかもしれないっす)
四者四様に見合いながら局は進む。
「ツモ、2000・1000」
流れを変えるべく、次局透華がアガリを取る。
そして、
南一局0本場 親・池田 ドラ{四}
透華 63000
{三
(これでタンピン三色聴牌ですわね。
この試合、何としてもトップではじめの元に帰りませんと!)
「リーチですわ!」
流れを掴んだのか、順調に聴牌した透華は{⑨}を切り出してリーチを宣言する。
しかし。
「・・・ロンっす」
「・・・・・・え?」
{二三
パタンと手牌を倒したのはモモだった。
「リーチ中ドラ1、5200」
「!?」
振り込んだ透華の動きが一瞬止まる。
(り、リーチ!? いつの間に!?
まさか! 私が見逃していたと!?)
「あ、あなたリーチの・・・・・・」
「したっすよ」
以前交わしたやり取りと言うこともありあっさりと返事をするモモ。
そんな素っ気なさに透華はぐぬぬと表情を歪める。
(これを上がってようやく3位。
思ったよりも点数は持っていかれてないっすけど、そろそろ返してもらうっすよ)
スーパーデジタル打ちの化身原村和がいないこの卓、まさにステルスモモの独壇場になろうとしていた。
ごめんよはじめちゃん、決して君の事が嫌いなわけじゃないんだ。