咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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あ、そうだ、今更ですがご注意点をば。
麻雀の役、ルール、用語などは読者の方が知っている前提で、解説無しでお送りしております。
一部を除き。



06福路美穂子その3 手慣らしとフルボッコ

翌日朝食を終え、一度部屋で休憩した秀介と京太郎は揃って麻雀卓が設置されてある部屋に来ていた。

既に何人もがそこで打っている。

優希と和も同じ卓で打っているのが見えた。

 

「もう打ってるのか、気が早い・・・・・・わけでもないな」

「打ちたくて仕方ないんでしょ」

 

言葉が聞こえたのか、部屋の壁際に設置されているソファーに座っていた久がクスクスと笑った。

 

「確かにそうかもしれないな。

 それはそうと、おはよう久」

「ん、おはよう」

 

久の隣に座りながら挨拶すると久も笑顔で返事をする。

 

「ところでシュウ、あれ」

「ん?」

 

久が指差した先を見ると、そこには昨日すれ違った衣がいた。

 

「噂には聞いてるかしら?

 あれが大会で主将を務めた龍門渕高校の天江衣よ」

 

秀介は新たに買って来たらしいリンゴジュースを飲むと楽しそうに笑った。

 

「・・・・・・噂以上のバケモンだ、まったく」

「あら、まだ打ってないのに・・・・・・」

「昨日会ったよ。

 だがありゃ、人間と思ってかかったらいかんよ」

 

やがて秀介はジュースを久に渡し、席を立つ。

 

「じゃ、俺も軽く打つか。

 ああ、須賀君。

 せっかくの機会だ、強い人と打たせてもらいな」

「え、あ、はい」

 

最後にそう言って卓へと向かった。

 

「じ、じゃあ、俺も誰かに相手してもらいます」

「気をつけて行って来なさい」

 

立ち去る京太郎を見送ると、久は咲に目をやる。

 

「宮永さんは行かないの?」

「わ、私は少し見学してます」

「そう、打ちたくなったら遠慮しなくていいわよ」

 

咲がテーブルから離れたのを見ると、久はリンゴジュースに口をつけながら卓の方を見る。

 

(さて、他には・・・・・・あら)

 

 

「風越のキャプテン」

「はい?」

 

ゆみが美穂子に話しかけていた。

 

「私と打ってもらえないだろうか」

「ええ、いいですよ」

 

美穂子はクスッと笑い、快く承諾した。

 

「私も混ぜてもらえますかしら?」

 

と、そんな2人に声を掛ける人物がいた。

この甲高い声、もしや?とゆみは自分の後ろから声を掛けてきた人物に辺りを付ける。

 

「龍門渕・・・・・・透華」

 

振り向くとそこには予想通りの人物が、腰に手を当てて笑っていた。

 

「・・・・・・そうですね、お手合わせ願います」

 

美穂子がそう言って頭を下げる。

 

「・・・・・・よろしくお願いする」

 

ゆみも軽く挨拶した。

 

「さて、では残る一人は・・・・・・」

「あ、あのー・・・・・・」

 

と、透華がキョロキョロと見回すと、手を上げて視界に入ってくる人物が一人。

 

「お、俺と打ってもらえませんか?」

「あなたは・・・・・・」

「ああ、清澄のマネージャー」

「いや、部員ッス」

「冗談だ」

 

表情を変えないゆみの一言に軽く落ち込む京太郎。

だがこれだけのメンバーと打つ機会なんてまず無いだろう。

 

「俺、あまり強くないですけど・・・・・・よろしくお願いします」

「ええ、いいですよ。

 よろしくお願いします」

 

美穂子がOKを出すと他のメンバーも断れない。

 

「まぁ、いいでしょう」

「ああ、こちらこそよろしく」

 

透華とゆみもOKし、卓に着いた。

その様子を他のメンバー達も目にしていた。

 

「む、風越のキャプテンと龍門渕さん」

「おまけに鶴賀の加治木さんが同卓・・・・・・」

「しかもそこに入ってきたのは清澄の男子だし!?」

「わっはっは、一体どれほどの実力者なんだろーな」

 

たちまち人が集まった。

 

(よし、頑張るぞ!)

 

京太郎は一人自分に気合を入れる。

 

(なんたってこんな・・・・・・)

 

同卓の美穂子、ゆみ、透華、そして周囲の女子達を順に見て、ぐっと握り拳を作った。

 

(こんなたくさんの美人に囲まれて打つ機会なんて無いからな!!)

 

こうして京太郎の戦いが始まった。

 

 

 

「おい智紀、お前は・・・・・・データ収集か」

「・・・・・・はい」

「ん、分かった。

 一は・・・・・・タコスと打ってんのか」

 

純はくるっと辺りを見回す。

と、まこと目が合った。

 

「龍門渕の先鋒さん、お付き合いいただけるかの?」

「清澄の・・・・・・次鋒だっけ? いいぜ」

 

 

「むー・・・・・・私も軽く打つかデータ集めしたいなー?」

 

華菜はそんなことを呟きつつ卓を見て回る。

キャプテンの美穂子が気になっているのだが、見てるだけよりも打ちたいタイプなのであった。

 

「やーやー、風越の大将さんだよね?

 打たせてもらえないかなー?」

 

と声を掛けてきたのは鶴賀の蒲原。

 

「あ、鶴賀のキャプテンさん。

 そっちの試合見てたんじゃ・・・・・・?」

「見るのもいいけど打つ方が楽しいと思ってねー」

「それには同意します。

 いいですよ、打ちましょうか」

 

池田は嬉しそうに答えた。

 

「んじゃ、後のメンバーは・・・・・・」

 

と、蒲原&池田と目が合ったのは、先ほど対戦を誘ったまこ&純。

ニコッと笑いあった。

 

「ちょうどメンバーが揃ったようじゃの」

「おう、さっさと打とうぜ」

 

こうして各々好きに打ち始めた。

試合をしているというわけではないのだが、熱くなっていく卓も現れる。

 

 

 

「ロンだじぇ」

「ふぇ!?」

 

「ロンですね」

「ひゃあ!」

 

「ロンです」

「うえーん!」

 

次々と狙い撃ちされているのは鶴賀の素人、妹尾であった。

同卓の優希、和、一にいいように狙われ、結局一人上がれることなくトビとなった。

 

「ありがとうございました」

「おつかれだじぇ」

「まぁ、手慣らしにはなったかな?」

 

3人が去った後に、ガクッと卓にうつぶせる妹尾。

 

「あうー・・・・・・全然あがれませんでした」

「大丈夫っすよ」

 

ふと声が掛けられる。

いつの間にか妹尾の顔を覗き込むようにモモが立っていた。

 

「あ、桃子さん」

「お疲れ様っす。

 まだみんなより経験浅いんすから、落ち込むことないっすよ」

「あうー・・・・・・でも一回くらいはあがりたかったですー・・・・・・」

 

慰めるモモの前でうるうると涙ぐむ妹尾。

そんな妹尾をモモは笑顔で元気づける。

 

「次は頑張るっすよ」

「・・・・・・はい、頑張ります。

 あ、ところで桃子さんは打たないんですか?」

「私はもう少し気配を消しておきたいんすよ」

 

ゆらっと肩の辺りが揺れた気がした。

 

「な、なるほど・・・」

「目立たないようにうろうろしてるけど、ちゃんと見守ってるっすからね」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

桃子が元気を取り戻したのを見て、モモは笑顔でその場を後にした。

付き合いが短い妹尾にはすぐにその姿が見えなくなる。

 

「よ、よし、次こそは・・・・・・!」

 

妹尾はぐっと両手に拳を作ると自分に気合を入れ、新たな対戦相手を探しに出かけた。

 

 

 

一方の京太郎も同じような目に合っていた。

 

「ロンです」

「ロン」

「ロンですわ!」

 

あっという間に空になる点棒。

 

「・・・・・・ありがとうございました」

「ふん、腕慣らしにもなりませんでしたわね」

 

ガクーンとうなだれる京太郎を尻目にゆみと透華は早々に去っていってしまった。

 

「・・・・・・フッ、まったく戦えなかったぜ」

「・・・・・・何あれ」

「あのメンバーの中に入ってくるからどれだけの実力者かと思ったら・・・・・・」

「ただの身の程知らずじゃない」

 

ボソボソと聞こえる周りの女子の声が痛い。

 

「大丈夫ですか?」

 

クスッと笑い、そんな京太郎に優しい言葉を掛けてきたのは美穂子だった。

 

「え、ええ、なんとか・・・・・・。

 痛いほど実力差を感じましたよ」

 

ははは、と苦笑いしながら京太郎は答えた。

 

「あなたの打ち方には、まだまだ成長の余地が感じられますよ」

「え? そうっスか?」

「ええ、頑張って強くなったら、また打ちましょうね」

 

美穂子はニコッと笑い、去っていった。

残された京太郎は暫しボーっとしていたかと思うと不意に立ち上がった。

 

「よっしゃー!! 頑張るぞー!!」

 

 

「お疲れ様ですキャプテン、お水どうぞ」

「あら、ありがとう」

 

対戦、と呼べるかも微妙なものだったが、終えた美穂子に文堂が声を掛けてくる。

 

「圧勝でしたね」

「ええ、まぁ」

 

軽く一息つく美穂子。

例え相手が格下でも手を抜くのは失礼と考えるのが彼女だ。

それは優しさでもあり、厳しさでもある。

 

「ところで、清澄のもう一人の男子の方ですけど・・・・・・」

 

文堂が言うのは当然秀介の事である。

美穂子は今日は彼の打ち筋を見るようにも、牌譜を取るようにも指示していなかった。

「本当にいいんですか?」という文堂に笑顔を返す。

 

「残念だけど、彼は本気で打ってくれないわ。

 どうしてもやる気になるような相手でも現れたら別でしょうけどね」

「・・・・・・そうですか・・・・・・」

 

良く分からないという表情の文堂。

 

美穂子はちらっと、打っている秀介に目を向ける。

 

昨日のあのにらみ合いを見る限り、おそらく天江衣なら秀介に本気を出させるだろう。

 

多分、いつかは戦うはずだ。

 

合宿は明日までなのだから今日中には。

 

(オカルト、なんて笑われるかもしれないけど。

 統計上間違いなく、天江衣は夜が近くなるほど一向聴地獄と速上がりの攻撃力が上がる。

 

 なら・・・・・・戦うのは夜になるかもね)

 

衣の方にも目を向ける。

彼女は彼女で別のメンバーと打っているようだ。

 

 

いつ、どういう切っ掛けでぶつかるのか。

 

それは彼女にとっても是非とも見てみたい楽しみな瞬間である。

 

 

 

 

 

南四局0本場 親・まこ ドラ{2}

 

まこ 14100

手牌

 

{三1(ドラ)33478999白(横白)白}

 

「うし、リーチじゃ!」

 

{三}を切ってリーチをかける、すでに眼鏡を外しているまこ。

索子の混一色、跳満確定の手だ。

しかし。

 

「チー!」

 

それを阻んだのは下家の純だった。

 

純 36200

手牌

 

{一五六七④[⑤]⑥⑦⑨34} {横三二四}

 

(門前でも十分行けたかもしれねーが・・・・・・上家の手はでかそうだし、先にリーチ掛けられたしな。

 一発とは行かないまでも引かれそうな気がするぜ)

 

純は{一}を切り出す。

役なしの仮テン、だが{④-⑦、2-5}を引けば喰いタンに移行できる形だ。

 

続いて頭を悩ませているのは蒲原。

 

(う~ん・・・・・・)

 

蒲原 29300

手牌

 

{二三四[五]六⑦⑧⑧(ドラ)2} {發發横發}

 

(清澄の・・・・・・捨て牌から察するに索子の染め手だねぇ・・・・・・。

 索子は寄りそうにないからドラだけ残してとっとと切っちゃったんだけど。

 引いたらどうしよ?)

 

そんなことを考えつつ、ツモって来たのは{七}。

 

(あ、張った、發ドラドラ。

 高めのドラが引ければ逆転だけど・・・・・・混一色狙いの清澄にも1枚か2枚入ってそうだよなー・・・・・・。

 とりあえず聴牌取っとこうか)

 

{⑦}をペチッと切り出す。

そして残った一人。

 

池田 20400

手牌

 

{二三四②③④⑥⑥3455(横5)6}

 

(むむ・・・・・・弱ったなぁ)

 

チラッとまこの捨て牌を見る池田。

索子の染め手というのは察しがつく。

しかしこのまま不要な索子を抱えては手が伸ばせない。

 

(トップの龍門渕とは15800点差。

 清澄の1000点棒があるから逆転するには跳満ツモ。

 龍門渕からの直撃なら満貫で届くけど・・・・・・)

 

池田は暫し考え、{6}に手を掛ける。

 

(どうせ行くなら、強く!)

「通ればリーチ!」

 

{6}を切ってリーチをかけた。

 

「・・・・・・通しじゃ」

 

まこは苦笑いしながら{一}をツモ切る。

 

(無茶する奴だな、風越も)

 

純も半ば呆れながらツモる。

 

純手牌

 

{五六七④[⑤]⑥⑦⑨34(横[5])} {横三二四}

 

「!」

 

喰い取った牌は索子、しかも赤ドラ。

もし先程鳴いていなければまこのツモだった牌だ。

 

(危険極まりない・・・・・・。

 もしかして本当に清澄の一発ツモだったかもな)

 

純は{⑨}を切り出して聴牌を取る。

 

 

そして2巡後、決着はついた。

 

「ツモ!」

 

{2}が添えられ、ジャラッと手牌が倒される。

 

 

{二三四②③④⑥⑥34555} {(ドラツモ)}

 

 

上がったのは池田だった。

 

「リーヅモタンヤオ三色ドラ1! 裏はめくらないでおいてやる!」

「見なくても逆転だろ」

 

池田の言葉に舌打ちで返すのは、池田の上がりでトップから転落した純。

 

「お疲れっ」

「お疲れ様」

「裏ドラサービスだし!」

「分かったから!」

 

ペコッと頭を下げて解散となった。

 

 

 

「お疲れ様です、染谷先輩」

「おう、見とったんかい」

 

迎えてくれた咲に苦笑いを見せるまこ。

 

「一歩届かんかったわぁ。

 昨日はわしの一番好きな役満上がられたり・・・・・・ちょっとついてないんかなぁ」

 

 

 

「お疲れ、純くん」

 

純を迎えたのは一と透華だった。

 

「あぁ、ラストに逆転されちまったよ」

「まったく、逆転を許すとは情けない!」

 

ツンとそっぽを向きながら純に文句を言う透華。

 

「運が無かったよ、ったく・・・・・・。

 ま、こんなこと無いようにするよ」

 

純が頭を掻きながらそういうと、透華もそれほど怒ってはいない様子で話を続けていた。

 

 

 

「届かなかったわー」

「ツキがなかったな、最後に引き負けるとは」

 

戻ってきた蒲原に、様子を見ていたらしいゆみが慰めの言葉をかけた。

 

「ま、今のうちに不幸を体験しとけば、いずれ幸運に恵まれるって」

「ど、どこのオカルトですか?」

 

蒲原の言葉に津山が突っ込む。

 

 

 

「勝ってきましたよキャプテン!」

「お疲れ様、華菜」

 

池田がテーブルに戻ると美穂子が笑顔で迎えてくれた。

 

「ラストの逆転、綺麗に決まったわね」

「えへへー」

 

ゴロゴロとまとわりつく池田を撫でてやる美穂子。

その様子を他のメンバーも微笑ましげな様子で見守っていた。

 

 


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