咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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悲劇は物語のスパイス。
食材を作ったのが神で、調味料を作ったのが・・・・・・何だったか(



17志野崎秀介その3 別れと原因

「・・・・・・とまぁ、そういうわけだから」

 

真っ暗な空間で、死神の鎌によって秀介は身体を貫かれてブラーンとしていた。

 

「前も言ったけど、二度と無茶しない事。

 いいわね? 約束しなさい」

「・・・・・・そりゃ、俺だって来たくてここに来てるわけじゃないが」

 

相変わらず軽いノリで両者は会話を交わしていた。

現実の秀介は一週間も意識を取り戻さない重症だというのに。

 

秀介はまたしてもこの空間に来ていて、そして死神が作り出した映像によって久達が医者から聞いているのと同じ話を聞いていた。

来たのは時間で言えばついさっき。

医者の新たな宣告は聞いたが、その前の久や靖子が医者に詰め寄ったところなどは知らない。

 

「っていうか、あんたってホントバカ。

 ガン牌に気付いてたくせに牌を取り替えずにお互い山が見える状況で続行とか。

 そのせいで麻雀卓の中の山に能力行使して、どれだけ苦労してんのよ!

 それがどれだけの負担か学習してたんじゃなかったの!?

 とっとと牌を新品と取り替えて、小上がりで藤ってやつトバしてればここに来ずに済んだのに!

 いい加減危機感が足りないのよ!」

「真正面からコテンパンに倒しておかないとまた絡んでくるかもしれないだろ」

 

死神の言葉に何でも無い事のように返事をする秀介。

そのせいで鎌に貫かれた状態でさらにブンブンと振り回されて傷口を広げられている。

 

「その度に守ってあげればいいでしょうが!

 血を吐いて意識失って、こんなところに来る方がよっぽど久ちゃんに心配かけてるって分からないの!?」

「・・・・・・確かに」

「もっと早くに気付けー!」

 

ヒュヒュヒュヒュン、とまるで何かの技でも繰り出しそうな勢いで鎌を回転された。

 

 

「・・・・・・話を聞いていて思ったんだが」

 

回転が落ち着いたところで秀介が死神に問いかける。

 

「お前、何だか久の肩持ってないか?」

「当たり前でしょ、私だってオンナノコなの。

 恋する乙女の味方なの」

 

死神がどの口でオンナノコなどとぬかすのか。

確かに見た目は人間だし自分達と同じくらいにも見えるし、容姿も悪くは無い。

というか初めて会ったときから年取ってなさそうな。

 

「だから、私は久ちゃんが悲しむようなことはしたくないの。

 でもあんたが無茶すると久ちゃんは悲しむことになるかもしれないの。

 分かる?」

「・・・・・・だったらそもそもこの代償をもうちょっと軽くしてくれないか?」

 

秀介の言葉に死神はブンと鎌を振って秀介の身体を地面に叩きつけると、さらに柄で滅多打ちにし始めた。

 

「バカなの? 死ぬの? っていうか死んでんの?

 「死神の力」なの、そう言う代償で能力与えてんの。

 代償を軽くするんじゃなくて、あんたが代償が軽くなるような使い方をするの。

 分かる?

 あんた自身が銃をどう使おうが勝手だけど、自分で自分に突きつけて引き金を引けば怪我するし、最悪死ぬの」

「・・・・・・その説明は相手に与えるダメージと俺が払う代償の例えとしては不適切だ」

「うるさい!」

 

滅多打ちが酷くなった。

痛いは痛いのだが血が出ているわけではないし危機感は感じられない。

 

 

「今のうちに言っておくわ」

 

滅多打ちを止めたところで死神が告げる。

 

「・・・・・・あんた、次ここに来たらもう戻れないと思いなさい。

 

 戻ったらもう全力は禁止ね。

 

 精々藤田プロをいじめる程度の力しか出しちゃダメ」

 

「・・・・・・十分だ、ありがとう」

 

ニッと笑いかけてやる。

死神は不満そうにプイッと余所を向いてしまった。

そして余所を向いたまま、続きを話す。

 

「・・・・・・それで、さっき医者も言ってたでしょ?

 あんたは記憶に障害を持つわ。

 と言っても軽いものだけどね」

「・・・・・・というと、今ここでこうしている事とかを忘れるのか」

「今ここで話したことを忘れたら、あんたすぐにまた戻ってくるでしょ」

 

そうじゃなくて、と死神は言葉を区切り、それを告げた。

 

 

 

「あんたが忘れるのは、あんたが久ちゃんに告白したことよ」

 

 

 

「・・・・・・何?」

 

「久ちゃんに告白したこと。

 それからそれを決意するに至った出来事や思考、ぜーんぶ忘れるの。

 だけどその辺だけを抽出して忘れさせると矛盾が生じるところも出てくるかもしれないから、あんたが倒れた日から何日分か記憶が消えると思うわ。

 もしかしたらあの日だけで済むかもしれないけど」

 

 

しばし秀介の思考が停止する。

 

俺が久の事が好きだと気付いたことまで全部忘れる・・・・・・?

 

 

「・・・・・・それは俺だけじゃなく、きっと久も悲しむと思う。

 さっき久が悲しむようなことはしたくないとか言ってたのにそういうことするのか」

「私が決めたんじゃないわよ。

 上からの命令なの」

 

だからその上と言うのは誰なのか。

やはり大王か何かがいるのかもしれない。

 

「これでもギリギリなの。

 あんたの為にわざわざ私が持ってるコネとか弱みとかお金とか使っちゃったものがあるんだからね」

 

お金とかあるのか、なんて思う秀介だがそれ以上に気になる。

そんなものを志野崎秀介一人の為に注ぎ込むとは、一体どういうわけなのか。

担当した魂がちゃんとした結果を残さないとペナルティでも発生するのだろうか?

だとしてもそうじゃないとしても、それだけの物を支払わせたとあっては謝らなければなるまい。

頼んでないなんて突っぱねるのは秀介のすることではない。

 

「・・・・・・すまん、負担をかけたようだな・・・・・・」

「・・・・・・私が勝手にやったことだもん、謝られる覚えは無いわ」

 

秀介の言葉に、死神はプイッと横を向く。

何となく顔が赤く見えるが気のせいと言う事にしておこう。

 

「とにかく、悪いと思うのならもう二度とここには来ちゃダメ!

 次来られたらもうどうしようもないわ。

 ありったけの物を全て支払って、身ぐるみ剥がされて最下層に貶められても庇いきれないの!

 こっちの身だって危険になるんだから!

 そんなのヤだからとっとと見捨てて地獄に送ってやるんだからね!」

 

ビシッと指差しながら言われ、秀介もやれやれと首を振りながら返事をする。

 

「分かったよ。

 そこまでして貰うのは悪いし、そこまでして貰う気は無い。

 万が一また俺が何かの間違いでここに来たら、その時は遠慮なく俺を地獄に突き落してくれ」

 

そもそも死神も最初からそこまでして庇う気は無いだろうし。

 

「分かればよし」

 

そう言いながらも死神はまだ怒ったような表情を崩さない。

そして鎌を振るうとあのドアを出現させた。

 

「ほら、とっとと戻る。

 告白を忘れちゃうのは悲しいだろうけど、あんたが起きればそれはそれで安心させられるんだから」

「・・・・・・そうだな、とっとと戻ろう」

 

秀介はドアに近寄り、ドアノブに手をかける。

そしてそのまま死神の方に振り向いた。

 

「・・・・・・何よ」

 

死神は相変わらず不機嫌そうだ。

秀介はそんな死神に笑いかけてやった。

 

「・・・・・・俺がもうここには来ないってことは、これでお別れってことか」

 

その言葉にピクッと肩が跳ねたのが見えた。

 

「名残惜しいとか思ってくれてるのか?

 ははっ、嬉しいね」

 

そう言うと、死神の表情が崩れる。

 

不機嫌そうな表情から、悲しげな表情に。

 

涙はこぼれていたりしないが。

 

「・・・・・・そりゃ寂しいわよ、もう会えないんだもん・・・・・・。

 で、でもこれはきっとあれよ!

 例えペットとかでももう会えないってなったら悲しいでしょ!?」

「俺はペットか」

「ペットみたいなもんよ! きっとそうよ!」

「そうかそうか」

 

ははっと笑いながら秀介はドアを開けた。

同時に身体が引き寄せられる。

 

「・・・・・・そういや死神、お前の名前聞いて無かったな」

 

振り向きながらそう言う。

しかし死神は首を横に振った。

 

「教えてやらない。

 二度と会わない相手に未練がられるのもヤだからね」

 

秀介はやはり笑って返事をした。

 

「お前の事、嫌いじゃなかったがな」

「そりゃどーも。

 これだけの事をしてあげたんだもん、当然でしょ」

「はは、なるほど」

 

 

最初に出会ってから・・・・・・年代的には多分50年近く経っているのだろう。

もっとも前回死んでから生まれ変わるまでの期間を計算すれば、だが。

それだけの長い付き合いだし、色んなものを支払ってまで助けてくれたし。

 

なるほど、これだけの事をしてくれた相手を嫌うとはとんだ罰あたりだ。

 

「恩に着る、死神。

 次に来る時は寿命で死んだ時だな」

「そうね、その時はちゃんとした手続きを取って、あんたの魂は私の所有物にしてコキ使ってやるんだから」

 

手続きって何だ、と笑いながら秀介の身体はドアの向こうに吸いこまれていった。

 

 

 

 

 

検査を終えて医者が戻ってくる。

その後ろからは久しぶりの覚醒でまだふらふらするという秀介が車椅子で押されて戻ってきた。

病室で待っていたのは秀介の両親と靖子、それに久とまこだ。

医者はコホンと咳払いをして一同に告げる。

 

「検査の結果、特に一般常識やご自身に関する記憶の欠落は見られませんでした」

 

ホッと一息つく。

しかし医者はチラッと久の方を見ると言葉を続けた。

 

「・・・・・・しかしそちらの方がおっしゃっていたように、確かに八日前の記憶は一切ありませんでした。

 それ以前もところどころ怪しいところがあります」

「ほんなら先輩は自分が何で倒れたかも覚えてないんですか?」

 

まこの言葉に秀介がこくっと頷く。

 

「血を吐いたってのは聞いたけど、その時の苦しさとかまったく記憶に無い。

 未だにふらふらするのはその名残なんだろうから、何となく実感は湧くけどな・・・・・・」

 

ナースや家族に支えられてベッドに戻る秀介。

ただそれだけの動作でも息を切らしている。

 

「・・・・・・その・・・・・・」

 

秀介の様子を見ながら久が言い辛そうに口を開く。

 

「・・・・・・記憶って戻ったりするんでしょうか・・・・・・?」

 

その言葉に医者は久に向き直って返事をした。

 

「しばらくして体調が落ち着けば徐々に記憶が戻ってくるというのはよくあることです。

 ただ一切戻らないという事態もそれはそれであることです。

 様子を見てみない事には何とも言えませんね」

「・・・・・・そうですか・・・・・・」

 

戻る可能性があるというのならまだ希望は持てるところか。

それでも久は複雑そうな表情になってしまう。

 

「まぁ、しかし大したことは無くてよかった。

 その時の状況を詳しくは知らんが、苦しかったことを覚えていないのならそれはそれで幸運だろう」

 

靖子はそう言って秀介の肩をポンポンと叩く。

両親やまこも揃って「よかったよかった」と笑顔で秀介を囲んだ。

 

「よかったなぁ、久」

 

まこはそう言って久の方を振り向く。

 

が、久は嬉しそうなわけではなく、むしろその表情はどことなく悲しげだった。

 

「久?」

 

まこは歩み寄ってその肩を叩く。

 

「どうしたんじゃ? 久。

 志野崎先輩は命に別条も無いし、きっとすぐに元気になるんじゃぞ?」

「・・・・・・う、うん・・・・・・そうね」

 

 

この中で、いや、おそらく世界中で唯一久にとってあの日の出来事を秀介が覚えていないというのは大問題である。

長い付き合いで、告白して、それを断られて。

しかしあの日ようやく、今度は秀介の方から告白してきてくれたのだ。

 

念願の時、秀介が自分に振り向いてくれた。

 

その出来事を秀介が丸々忘れているとなれば、久にとってこれほど辛いことは無い。

 

いっそまこが聞いてくれていればまた結果は違っていたかもしれない。

 

だがそんなことはもはや後の祭り。

 

 

もしも秀介があの日の事を思い出してくれなかったら、

 

 

あの出来事を知っている人間はもはや久以外にいないのだ。

 

 

「・・・・・・久? な、何で泣いとるん?」

 

まこの言葉に顔に手を当て、ようやく久は自分が涙を流していたことに気付いた。

しかし今この場で事情を語ることもできない。

 

「・・・・・・何でも無い、何でも無いの・・・・・・」

 

そう言うほどに、しかし涙は溢れてくる。

 

「・・・・・・久・・・・・・」

「・・・・・・ごめん・・・・・・ホント・・・・・・何でも無いの・・・・・・」

 

ポロポロと涙は止まらない。

 

「久」

 

そんな久に、秀介はおいでおいでと手を振る。

そして久が近寄ると、その肩をグイッと抱き寄せる。

 

「あっ・・・・・・」

 

そのまま頭をポンポンと撫でられた。

 

あの時のように。

 

「大丈夫だ、すぐに退院するからな。

 また麻雀でも打とう。

 それまで待っててくれ」

 

待っててくれ、そうこの男に言われたら久が待たないわけにはいかない。

 

小さくこくっと頷き、返事をした。

 

あの時のように。

 

「・・・・・・待ってるから・・・・・・」

 

「・・・・・・ごめんな・・・・・・」

 

 

大丈夫、シュウ。

 

私、

 

待つのは慣れっこなんだから・・・・・・。

 

 

 

それはそれとして、

 

一つ、久の頭に疑惑が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「よかったなぁ。

 志野崎先輩のことじゃ、きっとすぐに退院しよるじゃろ」

「そうね」

 

久はまこと共に病院を後にしていた。

秀介の両親からは家まで送ると言われたのだが、それを断りわざわざまこを誘ったのだ。

 

「・・・・・・しかし、何で志野崎先輩は倒れたんじゃろう。

 原因が分からんてそんなことあるんかいな?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

そう、そのことだ。

その原因について、久は一つの疑惑を胸に抱いていた。

 

普通の人にはバカらしくて話せない疑惑。

 

おそらく靖子も話せば聞いてくれるだろうが、しかしプロとして忙しい身である。

余計なことは言えない。

ならば話せるのはまこしかいない。

幸い同じ学校の同じ部活、いざという時に助けになってくれるだろう。

 

「まこ」

「なんじゃ? そろそろ何の話か教えてくれると助かるんじゃがな」

 

まこは何でも無いようにそう返事をする。

 

「気づいてたの? 話があるって」

「あんな誘い方しておいて何にもなかったらそれはそれで困るわ」

「・・・・・・それもそうね」

 

はっはっはと笑うまこに苦笑いを浮かべる久。

観念したように口を開いた。

 

「私はこれから馬鹿げた話をするわ。

 オカルトなんかじゃ収まらないようなヘンテコな話。

 で、まこの意見を聞かせて欲しいの」

「なんじゃそら」

 

何を話す気じゃ?とまこは首を傾げる。

 

 

「シュウが倒れた理由」

 

 

「・・・・・・ほぅ、なんぞ思いつくことでもあるんか?」

 

まこの問い掛けに久は「まぁね」と軽く返事をした。

 

 

「シュウの両親やヤスコの話から分かると思うけど、シュウは以前にも一回倒れてるの。

 同じように麻雀を打っていて、それが終わったら血を吐いて倒れた・・・・・・」

 

むむ、とまこの眼鏡が光る。

 

「前回も倒れたっちゅーのは分かったけど・・・・・・その時も麻雀を打っとったんか。

 誰と打ったんじゃ?」

「・・・・・・」

 

久は少し戸惑ったが、今更隠すのもよくないしややこしくなるだろうと思い、全てを語った。

借金の事、秀介を巻き込んだこと、助けてくれたこと、苗字が変わったことも。

 

「・・・・・・そんな過去を抱えとったんか・・・・・・」

 

腕組みをして複雑そうな表情を浮かべるまこ。

そこで「何で話してくれなかったんじゃ?」と聞いてこない辺り気がきいている。

もし聞かれていても「話したくなかった」とかありきたりな返事しかしようがない。

こういう細かいところが、まこと友人でよかったと久が思う所である。

 

「その時の麻雀も酷かったわ。

 藤を倒したあの時なんかよりもよっぽど」

「・・・・・・ちなみにどんな感じだったんじゃ?」

 

興味本位という感じでまこが問い掛けてくる。

久は苦笑いして答えた。

 

「上がったのは全部シュウ。

 しかも役満とローカル役満のみ」

「なんじゃそら・・・・・・」

 

めちゃくちゃにも程がある、とまこも苦笑いしてしまう。

その後、もしやとまこは口を開いた。

 

「・・・・・・もしかして、久は志野崎先輩が「役満を上がったら血を吐いて倒れる」とか思っとるんか?」

「いいえ、それは思わなかったわ。

 でも確かにそう言う可能性もあるわね」

「・・・・・・ほんなら何?」

 

まこの言葉に久は小さく深呼吸をして話を続けた。

 

「・・・・・・昔あいつが冗談交じりに言った事があるの」

「・・・・・・なんて言ったんじゃ?」

 

 

 

「「俺は全力を出すと5リットルの血を吐いて死んでしまう身体になってしまったんだ」ってね」

 

 

 

まこの目が大きく見開かれる。

対して久はくすっと笑った。

 

「あの時は「嘘おっしゃい」ってあっさりスルーしちゃったけど、こうまで重なるともう偶然とは思えない」

 

その後、寂しげに笑った。

 

「・・・・・・今となっては本当なんじゃないかって思うの。

 あいつは・・・・・・本気で麻雀したら死んじゃうんじゃないかって・・・・・・。

 オカルトどころじゃない馬鹿げた話でしょ?」

「・・・・・・い、いや、待った、久」

 

コホンと咳払いをしてまこが久の話を止める。

 

「・・・・・・やっぱりおかしいと思う?」

「い、いや・・・・・・あるかもしれんし、偶然とも思えん。

 じゃが忘れとらんか?

 普段から藤田プロが志野崎先輩にいじめられとる事。

 もし本気を出したら・・・・・・その、死んでしまうんじゃったら、普段からあんな打ち方できんはずじゃ」

 

まこの言葉に久は「確かにそうね」と頷いた。

 

「・・・・・・もしそれでも私の考えが正しかったとしたら・・・・・・」

 

久は寂しげに、しかし自分の事のように嬉しそうに言葉を続けた。

 

 

「ヤスコくらいの腕じゃ、シュウは本気を出さなくても倒せるってことになっちゃうわね」

 

 

「・・・・・・はは・・・・・・」

 

まことしても苦笑いを浮かべるしかない。

そこまで嬉しそうな笑顔を見せられたりしたら、たとえそれが仮の話だとしても余計な突っ込みはできなくなる。

 

「ま、何なら明日志野崎先輩に確認してみてもええじゃろ」

 

苦笑いのまま、まこはそう言った。

 

「・・・・・・」

 

が、今度は久は黙ってしまった。

 

「・・・・・・久?」

「・・・・・・それはね、どうしようかって思ってるの」

「なんでじゃ?」

 

折角見つけた可能性。

もしそれが真実だとしたら、それに思い至ったのが久なのだ。

ならなおの事、二人はお互いの事を知ったお似合いのカップルとなるであろう。

既に秀介が久に告白した事を知らないまこは、早い所二人がくっつけばいいのに、その為にもいい材料じゃないのか?と考えている。

 

「・・・・・・今はダメよ。

 記憶が飛んでるような状態だし、落ち着いてもう少し元気になったらにしましょう」

「・・・・・・それもそうじゃの」

 

それらしい理由を付けてその場は終わりにする。

 

 

久としては秀介に問いただすなどとんでもないことだと思っている。

まこ相手でさえあっさり話したように見せたが、その心の内は心臓バクバク、緊張ではちきれそうだったのだ。

それを本人に問いただすなどとてもできない。

ましてや話の内容は突拍子もないし通常であればとてもあり得ないようなものだ。

無理無理、とても無理、そんな事聞けないって。

 

 

そうして悩みに悩んで、毎日お見舞いに行くもどうしても聞くことができず、そのまま一週間が経ってしまった。

 

 




もうじき終わります、「B story」。
というか「A story」に戻ってからもあと何話くらいだろう?

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