咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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今後の話の展開を考えると浮きそうな気がするんで今のうちに。
今月末辺りでこの小説がハーメルンで連載()を始めて1周年ですよ。
めでたいと言うべきか長引いていると言うべきか。
さすがに2周年まで突っ込む予定は無いんで、これからもどうぞよろしくお願いします。



13竹井久その3 出会いと経験

まずは、と久がその男の前に立つ。

 

「あ?」

 

久の顔を見て、その男は一歩下がった。

 

「お前・・・・・・あの時のか」

「・・・・・・まだこんなことしてたのね」

 

久の言葉に男は舌打ちをし、周囲を見回す。

 

「・・・・・・あのガキは来てねぇのか」

「・・・・・・もう巻き込むわけにはいかないから」

 

久はそう言って麻雀卓に近寄った。

 

「変わります」

「す、すまんね・・・・・・」

 

常連のお客さんにどいてもらい、代わりに久が入る。

まこは続行だ。

 

「・・・・・・久、この男と知り合いなんか?」

「いいえ」

 

まこの言葉に久は冷たく言い放つ。

 

「ただの無関係者よ」

 

 

「ふぅん・・・・・・」

 

久の上家、スーツの男が久を眺める。

 

「あなたがプロを負かしているという人ですか?」

「さぁてね」

 

男の言葉を久はあっさりといなす。

と、不意に対面の老人が笑った。

 

(ふじ)、こやつはどうだ?」

 

どうだ?とはどういうことか?

藤と呼ばれた男は暫し久を眺めた後、小さく笑った。

 

「外れかと。

 この相手に負ける者がプロになれるとはとてもとても」

「まだ打ってないのに笑うのは早いんじゃない?」

 

藤の態度に久は不満気に言う。

が、その言葉には老人も笑った。

 

「ハッハッハ、藤は相対しただけで相手の実力が分かる。

 そうじゃろ?」

「ええ、先程の方よりは打てるようですがね。

 まぁ、せいぜい楽しませてもらいましょう」

 

藤はそう言って笑うのみ。

久はやはり不満げだった。

 

 

 

「さて、では新しい人が入ったことだし、改めてルールを説明しようか」

 

老人が久にそう言う。

 

「通常通り麻雀を打ってもらう。

 オカやウマは無しだ。

 箱割れはその場で終了し、箱割れした者は下がってもらう。

 打ち手がいなくなったら仕方ない、終わろうというルールだ。

 箱割れせずに交代するのも自由だが、一度席を抜けた者が再び入るのは許さん。

 こちらはワシと藤、どちらかがトンだら終わりで構わん」

 

つまり逆にいえば箱割れしなければずっと打ち続けられるという事か。

 

「それだとそちらが不利なんじゃなくて?」

 

久はそう言ってみるが、老人は笑うのみ。

 

「そう言って今まで挑んだものは全員追い出されてるだろう?

 染谷さんはずいぶん残っているがな」

 

その言葉に、まこは「はン!」と笑い返す。

 

「よう言うわ、わしからロン上がりせんでおいて」

 

そう言ってやると、藤も笑い返した。

もっともその笑いはまこの物とは全く違っていたが。

 

「親父と女の子、どちらと打ちたいか明白でしょう」

 

やな奴、と久は思った。

 

「じゃあ・・・・・・女の子が二人入ったこの状況。

 そろそろあなたが退く頃かしら?」

 

そう言うと、藤はおやおやと笑う。

 

「これは痛いですね。

 しかしまぁ・・・・・・」

 

そして藤はまこの方を向いた。

 

「染谷さん、そろそろお疲れではありませんか?」

「こんだけ常連客に嫌な思いさせといて、従業員のわしがあっさりと引いてたまるかい!」

 

まこもまこで怒っているようだ。

ハッハッハと老人は笑い、賽を回すボタンに手を伸ばす。

 

「まぁ、それでは始めようかの」

 

カララララと賽が回っている間に久は聞いておく。

 

「まこ、こいつら何連勝してるの?」

「わしが入ってから4連勝じゃ。

 誰もトバずに終えられた半荘もあったが、わしが入る前から合わせて常連が8人も追い払われとる」

 

忌々しそうにまこは答える。

 

「そう・・・・・・」

 

口だけじゃなさそうね、と久は髪を左右でまとめて気合いを入れる。

 

「ん、ワシが親か」

 

親巡

老人→藤→久→まこ

 

「では、よろしくお願いしますよ」

「よろしくお願いします」

「・・・・・・よろしくお願いします」

 

藤の言葉に二人はつっけんどんだが挨拶はしっかりとする。

挨拶は礼儀だ。

 

 

 

東一局0本場 親・老人 ドラ{六}

 

久手牌

 

{一七九③④⑥⑥23(横4)8南北發}

 

(まこがシュウに似た打ち手と言ったこの藤という男・・・・・・。

 まずはどれくらいの腕前か見せてもらいましょう)

 

久は通常通り字牌整理から手を進めていく。

やがて。

 

(・・・・・・ん?)

 

ある牌をツモる。

 

(この牌が来た意味・・・・・・)

 

久はその牌を伏せたまま手牌の端に加えた。

そして不要牌を切っていく。

 

「ん? その伏せた牌は?」

「どう打とうが勝手ではありません?

 それとも、伏せられると何か不都合でも?」

 

藤の言葉に久は笑って返す。

その打ち方にまこははっとする。

 

(そうか、以前わしが志野崎先輩にいじめられた時も、手牌の一部だけを隠して待ちを読めんようにしとった。

 ツモった牌が見られないように伏せておけば、後ろの男達もわしらの手を通せんちゅうことか!)

 

まこもそれを即座に真似る。

老人はほほうと笑った。

 

「手牌を通していると疑っているようだな。

 酷い疑いをかけられたもんだのう?」

 

その言葉に藤も「まぁまぁ」と声をあげる。

 

「どう打つかは確かに個人の自由です。

 好きにさせようじゃありませんか」

 

(言ってなさい)

 

この手で直撃してやるんだから、と久は手を進める。

そして。

 

{七九②③④⑤⑥⑥⑥(横八)234■}

 

(来たわね)

 

久はニッと笑う。

 

(これが私の打ち方よ!)

「リーチ!」

 

タァンと捨て牌に{⑤}が横向きに置かれた。

それには後ろの男だけでなくギャラリーの常連からもざわめきが上がる。

 

(多面待ち捨てて伏せてある牌を残す!?)

(どう考えても{⑤}を切る理由が思い浮かばん!)

(一体伏せたのは何!?)

 

そんな中、まこもざわめきから久の手を察する。

 

(周りの騒ぎ様から考えて、また多面待ち捨てて悪待ちかぁ?)

 

そして、スッと眼鏡を外して久の捨て牌をじっと見た。

 

(・・・・・・この形・・・・・・以前似たような譜面を見た覚えがある・・・・・・)

 

その時久はどのように打っていたか?

そこから待ちを予測し、それ以外の牌を切る。

 

「ふむ・・・・・・」

 

と、老人の手が止まる。

おそらく通し(サイン)により多面待ちを捨てて何かの単騎待ちと知らされている事だろう。

となれば安牌以外は容易に切れない。

 

(さぁ、どうする?)

 

久は笑ってやった。

老人はそれを見てやれやれと藤に声をかける。

 

 

「藤、ワシは何を切ったらいい?」

 

 

何を切ったらいい?とは何ともおかしな質問だ。

確かにこの場で「何待ちだと思う?」や「お前の欲しい牌は何?」なんて聞くわけにもいかないだろう。

しかし「自分は何を切ったらいい?」とはまたおかしい。

 

何を考えているの?と訝しむ久。

そんな中、藤はフッと笑うと答えた。

 

 

「当たり牌はありますが、面子として使われているので手を崩さない限り平気ですよ」

 

 

「は?」

 

思わず声を上げてしまう。

何それ・・・・・・?

それはまるで・・・・・・。

 

(いや、私の待ちが分かるわけが・・・・・・)

 

 

久の伏せてある牌、それは{六}である。

つまり久の手牌は、

 

{(ドラ)七八九②③④⑥⑥⑥234}

 

ノベ単{六-九}待ちである。

高目のドラで上がり、裏が絡めば満貫が狙える形。

 

(まさか、捨て牌でも読めるわけが・・・・・・)

 

多少絞り込むことはできるだろうが一点読みができるとは思えない。

 

(・・・・・・それにあの言い方、自分の上家のお爺さんの手牌も見えてるの・・・・・・?)

 

まぁ、味方同士だしサインで通し合っていても不思議ではないが・・・・・・。

不審に思いながら自分の番にツモ切りする久。

 

そしてしばらく後。

 

「・・・・・・ふむ」

 

藤がツモった牌を表にする。

{九}だ。

出た!と久が手牌に手をかけた瞬間。

 

「ツモです」

 

ジャラッと手牌を倒したのは藤だった。

 

{七八②③④23456788} {(ツモ)}

 

「平和ツモ、700・400」

「!?」

 

久は藤の捨て牌に目をやる。

久のリーチ後に{三四}が切られているのだ。

 

(タンピン三色を捨てて{七八}を抱えてる!

 本当に私の待ちが読まれてる!?)

 

久の手牌を通しで教えてもらったのなら尚の事、伏せ牌が{六}とは推測できるはずがない。

{六があるなら通常九}を切ってリーチ、タンヤオ多面張を狙うからである。

久が悪待ち狙いだとあらかじめ知っていたとしても、やはり一点読みは不可能なはずだ。

 

ゾクッと背筋が寒くなる。

 

まこが秀介に似た打ち手だと言っていたが、久もそれに似たものを感じていた。

 

 

思い返せば、秀介と打って久が勝ったことは一度も無い。

いや、あるにはあるが手加減をしていたのだろう。

本気を出した時の秀介を知っている久としては、それまでの秀介の打ち方は手加減していたと断言できる。

靖子を交えて打った時にも、おそらく僅差を演じていたのだろう。

 

そんな秀介と同じように打てる相手に勝つ・・・・・・?

私が?

 

そんなことできるの・・・・・・?

 

 

「さぁ」

 

ガシャッと手牌を崩し、藤は自動卓に流し込み始めた。

 

「続けましょうか」

「・・・・・・っ」

 

久は不安な思いを飲み込み、手牌と山を崩して同様に流し込む。

 

 

 

それからも同様の事は続いた。

 

久がリーチをしてもかわされる。

まこがリーチをしたと思ったら鳴きを入れてツモをずらし、まこが上がれない間に安手で上がる。

何を狙っているのかよく分からない鳴きがあったと思ったら、老人が満貫手をツモ上がる、などなど。

 

極めつけはこれだ。

老人がツモった牌をツモ切りしようとした時のこと。

 

「ああ、それは切らない方がいいですよ」

「む? そうか、分かった」

 

当然藤に老人がツモった牌が見えるはずがない。

ツモってから切るまでの間に何をツモったのかサインを送ったとも考えられない。

にもかかわらず、その結果老人が高い手を上がったり、流局後の手牌を見てみるとこちらの上がり牌だったり。

 

(・・・・・・本当にシュウと打ってるみたいだわ・・・・・・)

 

いや、秀介は少なくとも久を相手にこんな打ち方をしたことは無い。

似た打ち方はしていてもここまであからさまな真似はしないし、まこや靖子が普段の対象だ。

体験したことがない自分すら似ていると感じるのだ、よく狙われているまこは秀介に似た打ち方だとなおさら敏感に察知したのだろう。

 

 

半荘終了した時点で久もまこも点棒は残っていた。

なのでここでの脱落は無い。

が、かなり差をつけられてしまった。

 

「とりあえず半荘生き残ったか」

 

老人は楽しげに笑う。

 

「まぁ、最初は挨拶程度ですよ。

 では」

 

藤もフッと笑った。

 

「次の半荘行きましょうか。

 染谷さん、次で休憩させてあげますよ」

「くっ・・・・・・」

 

まこは悔しそうに藤を睨みつける。

 

 

 

そして点数をリセットし、次の半荘。

 

「ロン」

「なっ・・・・・・!」

 

{七七八八} {横555横77722横2} {(ロン)}

 

まこが標的にされた。

東一局目から染め手に見せかけたタンヤオ対々。

さらに東二局では不要牌を狙った七対子。

 

そして東三局、藤が親である。

得点力1.5倍のこの状況で振り込むのはキツイ。

まこもそれを分かっているので回避に専念する。

 

8巡目。

 

まこ手牌

 

{二二三四四六六七八(横三)九8白白}

 

ここでまこは少し考える。

 

(・・・・・・藤って男、完全にわしを狙っとる。

 今回もそうじゃろう。

 つまりこの手、通常なら混一狙いで{8}切りするところを狙う。

 

 ・・・・・・となるとそれを回避する為に・・・・・・どうする?

 手を回すなら一枚切れの{白}・・・・・・?)

 

まこは{白}に手をかけ、止まる。

 

 

そして

 

パシッと

 

 

{七}を切った。

 

 

この時既に藤は聴牌。

 

{①②③④⑤⑥⑦⑧⑨678白}

 

しかも待ちは{白}単騎である。

もし{白}を切っていたら直撃だった。

藤の表情がわずかに変わる。

 

「・・・・・・ふむ、かわしますか」

 

そう言うと次巡、手牌から{白}を切り捨てる。

 

(まこ・・・・・・藤って男の狙い打ちをかわしたの?)

 

ちらっと久がまこを見ると、まこはニッと笑っていた。

 

(わしが今までどれだけ志野崎先輩に振り込んだと思うとるんじゃ!)

 

狙い打ちする輩の思考にも慣れたもの、と言う事か。

今までの経験が生きる、それがまこの強みだ。

 

その後も{白}二枚を落とし、安牌を切ってベタ降りするまこ。

しかし、藤の追撃は続いた。

 

「チー」

 

老人の切った{⑦を鳴き、横⑦⑥⑧}と晒す。

さらに。

 

「ポン」

 

老人の切った{④}をポン。

 

{■■■■■■■} {横④④④横⑦⑥⑧}

 

(・・・・・・清一に移行しよったか・・・・・・)

 

筒子も溢れてくる。

完全に筒子待ち。

となれば、萬子が手牌に多いまこはもう振りこむことは無い。

 

(・・・・・・ちゅーのが狙いどころじゃ。

 志野崎先輩にも何度もやられとる)

 

晒されているのは{横⑦⑥⑧}と{横④④④}。

溢れている筒子は{①③⑨}。

清一以外にも狙い目はある。

 

(ベタ降り、不要牌、何でも狙ってわしが降りることも攻めることもできんようにする気じゃな。

 そうして錯乱状態にしておいてから点数を絞りとるっちゅうのが狙いじゃろ。

 なら今はまだ点数は関係ない。

 

 喰いタンのみでも狙ってくる!)

 

となれば、混一狙いで手牌にあることがばれている萬子の中張牌などは狙い目だ、切れる牌ではない。

 

(絶対にかわしきっちゃる!)

 

そこから藤は次々に待ちを変えてまこを狙い打とうとしてくる。

が、まこはそれならばと萬子を切り出す。

 

そうやって攻めと守りの応酬が繰り広げられ、そして。

 

「・・・・・・流局じゃな」

 

パタンと手牌を伏せるまこ。

 

「聴牌」

「聴牌」

「ノーテンじゃ」

「・・・・・・ノーテン」

 

藤と久が聴牌、まこと老人がノーテンで終わった。

 

「ふむ、まさか回避しきるとは・・・・・・」

「ふっ、舐めたらあかんよ・・・・・・」

 

まこは再び笑いかけてやる。

 

「どうやら普段から誰かに狙われているようですね」

「・・・・・・ほっといてくれるか」

 

藤の言葉にまこの表情が苦笑いに変わる。

フフッと今度は藤が笑った。

 

「面白い、かならず打ち取ってあげますよ」

「フン、やってみぃ」

 

 

それから対局は続いたが、まこは一向に振り込まなかった。

 

 

(・・・・・・志野崎先輩なら、ここからさらに一つ上を読んで降り打ちを狙う。

 なら、ここはあえて危険牌を切る!)

 

(・・・・・・不要牌ツモ・・・・・・。

 藤は既に聴牌しとるようじゃし、その時点でわしの手牌に無かったこれで待つんは通常不可能。

 じゃけど・・・・・・志野崎先輩にもそれで振り込んだことあるし、これは切れん)

 

(今の待ち変え・・・・・・普通は山越し狙いじゃ。

 しかし志野崎先輩はそれを読んで狙い打ちしてきた。

 ならここは逆に合わせ打ちが安全じゃ!)

 

 

東三局以降まこは一度も振り込んでいない。

藤も聴牌しきれずに流局になった局もあり、南場に突入する。

局は進んで南三局、藤の聴牌が続いて再び局の進行が止まる。

 

「聴牌」

「・・・・・・ノーテンじゃ」

 

流局、もしくは藤の上がりが続いて既に11本場。

 

「しぶといですねぇ・・・・・・」

「それも取り柄の一つなもんでのぉ・・・・・・」

 

激しい攻防にさすがにまこも疲労を感じているようだ。

 

 

(・・・・・・このままじゃまずいわね)

 

久はまこの様子を見ながらそう思う。

それは疲労の様子だけではない。

 

藤の狙いを回避する為に、まこは聴牌すらおぼつかない状況だ。

ノーテン罰符や藤のツモ上がりで点棒は減るばかり。

つまり、このまま行くとノーテン罰符でトビ、終了と言う可能性もある。

 

(・・・・・・まこはどうしてもノーテンになる。

 ノーテン罰符は3人聴牌で3000点、2人聴牌で1500点、1人なら1000点。

 藤が聴牌を続けるからまこは最低でも毎回1000点はとられる。

 そこに私が聴牌したら500点多く取られることになる。

 それに気づいて私も極力聴牌しないようにしてたんだけど・・・・・・)

 

しかしこのままではただの延命措置になってしまう。

逃げているだけでは勝てないのだ。

 

(上がりにかけないとね)

 

 

 

東三局12本場 親・藤

 

(仮に上がれなくても・・・・・・聴牌したらリーチをかけてやるんだから!)

 

そう思いつつ手を進める久。

しかし。

 

「チー」

 

藤の鳴きが入る。

 

(・・・・・・っ・・・・・・喰いずらされたか・・・・・・!)

 

聴牌もおぼつかず、そのまま流局となってしまう。

 

「聴牌」

 

手を晒すのは藤一人のみ。

 

{三五六七八⑨⑨456} {横③②④}

 

「「「ノーテン」」」

 

(・・・・・・形式聴牌って・・・・・・)

 

やりたい放題ね、と久は表情を歪める。

まこを狙いつつ、久に聴牌が入りそうなら喰いずらす。

そして自分は仮聴牌に終わっても、流局させられればそのまま連荘だ。

手の着けようがない。

 

(なんとか・・・・・・なんとかしないと・・・・・・!)

(何か! 何か手があるはずじゃ!)

 

久もまこも必死に頭を働かせる。

しかし答えが思いつかない。

 

 

そのまま流局は続き、そして。

 

「聴牌」

「・・・・・・ノーテン・・・・・・罰符でトビじゃ・・・・・・」

 

まこは点箱の中身をすべて吐き出した。

 

「ふぅ、しぶとかったですね。

 狙い打てなかったのは残念ですが、これで終わりです」

 

さすがに疲れたのか、藤も汗をぬぐった。

 

「・・・・・・すまん、久。

 わしはここまでじゃ」

「・・・・・・いいえ、私も何も出来なかった・・・・・・」

 

がたっと席を立つまこ。

 

「さ、代わりの方は?」

 

藤の言葉に常連の一人が「俺で役に立つか分からないが・・・・・・」と入った。

しかし彼も藤に狙い打たれ、すぐに点棒が空になる。

 

 

(・・・・・・まこに助けを求められて来たって言うのに何も出来ない・・・・・・お世話になってる喫茶店だっていうのに・・・・・・)

 

久は席を立つ常連客を見送りながら思う。

確かに閉店時間になればさすがに帰るだろうが、しかしその間常連客にもそうでない客にも迷惑がかかるのは間違いない。

また次の日に、という可能性もある。

何とかしてやりたいのだが彼女にはどうしようもない。

 

(・・・・・・こんな時でも、「シュウがいてくれたら」って思っちゃう・・・・・・。

 

 巻き込まないって決めたのに・・・・・・ホント・・・・・・)

 

思わず項垂れる。

 

 

(・・・・・・シュウ・・・・・・)

 

 

そんな久の肩が、ポンと叩かれる。

 

まさか?と思うが、彼以外に思い当たる人物がいない。

 

来てくれたんだという思いと、また巻き込んでしまったという思い。

 

嬉しい気持と謝罪の気持ちが同時に湧きあがる。

 

 

ありがとう、ごめんなさい、どちらを言うべきかと悩みながら久は顔を上げた。

 

 

 

彼はマントと仮面を身に付けていた。

 

 

「誰っ!?」

 

 




わ、笑いで締めないと死んでしまう病が・・・・・・多分来週には完治しています(

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