咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
なんて思った?
第五試合
優希→衣→深堀→モモ
優希 47900
衣 76900
深堀 55700
モモ 52000
各々、心の内で考えている事はあるだろう。
点を稼ぎたい、上がりたい、戦いたい、勝ちたい。
東場の彼女にあるのはただ一つ、勝敗や点数以前の誰もが目指す目標であり欲求。
上がりたい、ただそれだけ。
好配牌で高打点を次々に上がっていく様はとても楽しそうであり、その笑顔が彼女の魅力でもあるだろう。
ただそれだけの単純な欲求だからこそ、彼女は好配牌に恵まれるのかもしれない。
東一局0本場 親・優希 ドラ{3}
優希 47900
{三三三四五八⑧⑧12
「リーチ!」
二回戦第五試合、高火力の応酬が予測されるこの試合は優希のダブルリーチから始まり、そして。
「一発ツモ!」
{三三三四五⑧⑧12
たった二巡で上がるところから始まった。
「ダブリー一発ツモドラ1! 4000オールだじぇ!!」
この一瞬の出来事で四人中最下位だった優希は2位に浮上。
その早さにさすがの深堀も衣も改めて驚きを隠せずにいた。
満貫あれば上がり点としては及第点。
それがこの早さ。
さすが個人戦初日トップだっただけはある。
東一局1本場 親・優希 ドラ{⑧}
優希 59900
{一[五]②③④789東東東北白} {白}
今度はダブリーは無理だったか、と本来残念がるべきでない手で残念がる優希。
彼女にとってはこれが東場の当たり前。
{一}を切り出した次巡。
{[五]
「リーチだじぇ!」
カシィン!と横向きになる捨て牌。
またしても一瞬。
「ツモ!」
{[五]六②③④789東東東白白} {
「リーチ一発ツモダブ東赤1! 6100オール!」
そして高打点。
だがまだ足りない、こんなものでは。
それは南場になったら追いつかれるとか、そう言う感情ではない。
まだまだ稼げる! 東場である限り!
それが優希の常識であり、打ち方だ。
チャリンと100点棒を積みながらふと思う。
そう言えばさっきは志野崎先輩が6連荘してたっけ。
それならば自分は。
(満貫以上の上がりだけで八連荘やってやるんだじぇ!)
乗りに乗っている今の自分ならばきっと可能。
深堀とか言う人が相手だろうがのどちゃんが相手だろうが、あの天江衣が相手だろうが。
(このまま東一局で・・・・・・押しきる!!)
東一局2本場 親・優希 ドラ{7}
優希 78200
{四[五]七②②⑤[⑤]34
またシャンテン数が一つ下がった。
代わりに赤が2つとドラ1つ、点は高くなりそうだ。
{西}を切り出す。
直後、声が上がった。
「ポン」
対面の深堀だ。
喰いずらされた、と優希の表情が少し強張る。
(大会のノッポの時みたいに・・・・・・)
そう考えて必死に首を振る。
(ダメだじぇ、そんな弱気じゃ!)
自分の番、優希はぐっと力を込めて牌をツモる。
{四[五]七②②⑤[⑤]
ガッとツモってきた牌は{[⑤]}。
ほら来た、東場の私にはちゃんと流れが来るのだ!
優希は{南}を切り出す。
そして。
{四[五]七②②⑤[⑤][⑤]
(よし、来たじぇ!)
リーヅモドラ1赤3は跳満確定、そろそろ裏ドラが乗ってもいいはず!
優希は迷わずに{七}を手に取った。
「リーチだじぇ!!」
ガンガン押す、引き際など知らぬとばかりに。
「ロン」
「ふぇ!?」
{六八①①123[5]6
パタリと手牌を倒したのは先程優希から鳴いた深堀。
「西ドラ赤、4500」
ぐっと顔をしかめる優希に、深堀はフッと笑いかけるのみ。
運や流れを喰い取ったと言わんばかりに。
東二局0本場 親・衣 ドラ{3}
続くこの局の2巡目、深堀の捨て牌が早々に曲がる。
「リーチ」
深堀捨牌
{東} {
早い巡目でリーチ。
手変わりを待とうという気配も無いほどストレートな打ち方だ、余程いい手なのだろうか。
しかし流れに乗っている優希から一度、それも3900の手を上がった程度でどれほどの手になるのだろう?
周囲がそう思う中、たった4巡で再び深堀の手牌は倒された。
「ツモ」
{一二三五五[五]六七南南北北北} {
「リーヅモ面前混一南赤、3000・6000」
手が高過ぎる! 優希じゃあるまいし!
清澄メンバーからはそんな声が上がるに違いない。
一回戦の打ち方から、深堀は前半様子見して後半で一気に捲くるタイプの打ち手かと思ったがどうやらそう言うわけでもないようだ。
チャンスと見れば一気に駆けあがり、敵を引き離すタイプ。
引き離すというよりむしろ・・・・・・打ち倒す、か。
東三局0本場 親・深堀 ドラ{⑥}
配牌を受け取り、カチャカチャと手牌整理。
ふむ、と一呼吸置いた後に深堀の手から{⑨}が捨てられる。
「リーチ」
遠慮など無く横向きに。
県大会では残念ながら見られなかったが、これが風越女子副将を務めた深堀純代の実力か。
タァン、とツモ牌が表向きでに晒された。
{二三四四③③③
「一発ツモ、タンヤオドラ1で6000オール」
東三局1本場 親・深堀 ドラ{南}
続く深堀の親番、もはや完全に流れを掴んだか。
深堀 80100
{七八九①①①②③④⑤⑥⑦⑧} {1}
「リーチ」
{1}を切り出してダブルリーチ。
しかもとんでもない多面張、{②-⑤-⑧、③-⑥-⑨}待ちだ。
もはや引けない理由が無いほど。
そんな配牌を見ていた純は少しばかり残念がる。
(東場じゃ無敵と噂のタコスだが、大会でも俺がやったとおり喰いずらせば上がれなくなる。
そして上がりを相手に取られれば調子が落ちてずるずると点棒を失っていく。
・・・・・・本当に残念だ、タコス。
一度の鳴きや上がりで調子を落とすなんて)
チッと小さく舌を鳴らして純はため息をつく。
(そんなんじゃ、全国は任せらんねぇぞ)
やれやれと首を横に振る純。
だが直後、卓の外にいる自分にも感じられるほど強い流れを感じた。
(・・・・・・何?)
出どころは深堀の対面・・・・・・そう、タコスこと優希である。
彼女はにやっと不敵に笑うと、手牌から{東}を横向きに捨てた。
「リーチだじぇ!!」
(追いついただと!?)
鳴かれて上がられて、調子を落としたんじゃなかったのか!?
驚いたがしかし、すぐに純はこの深堀の多面張にはかなうまいと思い直す。
何せ6面張、一発で上がって終わりだろう。
そう思っていたのだが、深堀の一発目のツモは{3}。
上がり牌ではないのでツモ切りせざるを得ない。
モモの
思い返すのはこちらの様子を見ている純との対決。
(・・・・・・あの時は喰いずらされて上がられて、それでドンドン弱気になっていっちゃったんだじぇ・・・・・・。
多分それが敗因・・・・・・。
一回くらい鳴かれようと上がられようと・・・・・・)
優希はぐっと力を込めて牌をツモる。
(私はもう、絶対に揺るがない!!)
タァン!と力強く牌が晒された。
{一二三四五⑥⑥⑥22789} {
「ダブリー一発ツモ!」
裏ドラを返すと現れたのは{⑤}。
つまりこの手。
「裏3で3100・6100!!」
点数の行ったり来たりが激しい。
ここまで荒れた試合も珍しいだろう。
開始時点で最下位だった優希が今の上がりでトップ。
総合2位だった衣がこの卓の中で3位に転落。
モモの持ち点は3万を切っている。
(・・・・・・東場はまだある)
そんな荒れた状況の中、優希は深堀にニッと笑いかけた。
(まだまだ、思いっきり楽しむんだじぇ!)
それを見て深堀もフッと笑うのだった。
優希 77000
衣 51700
深堀 74000
モモ 29800
第六試合
智紀→和→マホ→久
智紀 36700
和 55600
マホ 64200
久 46600
東一局0本場 親・智紀 ドラ{北}
久手牌
{一四五七④⑥⑨6
さてどうしようかとしばし考える。
場風でも自風でもない{南}が配牌で暗刻。
混一やチャンタでも狙えそうならいいがこの配牌でそれは遠そうだ。
どうするかと考えてみるがどうしようもなかろう。
安手でもいいから上がりを目指しつつ、誰かに先制されたら降りればいいかと考え{一}切りから手を進めて行く。
次巡{⑦をツモって中切り}、手を進めて行く。
5巡目。
{四五
一向聴。
索子が面子になってくれれば{三-六}待ちだが、そちらを先に引くと{④と6のシャボ待ちか、7}のカンチャン待ちになってしまう。
いくら巡目が早くてもリーチで勝負できるような手ではない。
いい形で聴牌になってくれるようにと願いながら{⑨}を捨てた。
「・・・・・・むぅ・・・・・・」
透華は気になっていた。
試合が始まる前の、あの智紀の様子が。
そして今も。
(ともき・・・・・・あなた何故・・・・・・?)
その前に何があったかを思い返してみる。
睨んでいた相手はあの志野崎秀介。
彼がやったことと言えばあの連荘と狙い打ち。
しかしそこで智紀が不機嫌になる理由は無いだろう。
(何をそんなに怒っていますの?)
そして当の智紀は今も不機嫌そう。
卓上は見ているが意識はどうもそこにない。
時折視線を外しているところから、もしかしたら未だに秀介をちらちらと睨んでいるのではないかと思われる。
何故? どうして? 何を怒っている?
透華の疑問ももっともだ。
智紀本人を問い詰めたところで答えが返ってくるかどうか。
(・・・・・・志野崎秀介・・・・・・)
ふと、再び秀介と視線があった。
しかし彼はキョトンとしている。
無理もない、睨まれる理由が分からないのだから。
(・・・・・・私は・・・・・・)
智紀はスッと眼鏡を上げた後、手牌の一部に手を添える。
(あなたを認めない)
「チー」
{横⑨⑦⑧}と晒された。
智紀捨牌
{81發中白} {七}
{⑦⑧⑨}の鳴きから考えられるのは混一、チャンタ。
捨て牌から言えば混一の方が可能性が高そうに見えるが、果たして。
同巡、マホに聴牌が入る。
マホ手牌
{二三五七八九⑦⑧⑨
(来ました! {[5]}ツモって平和聴牌です!)
三色にはならなかったが{一-四}待ちの平和赤1。
リーヅモと裏で満貫が狙えるし、この早い巡目で両面待ちなら攻めるに限る。
それに{五}切りなら今しがた鳴きを入れた智紀にも通るだろう。
もちろん三色まで待つというのも手だが。
「リーチです!」
マホは攻めを選択した。
牌を横向きに捨て、点箱から1000点棒を取り出そうとする。
「・・・・・・リー棒はいりません」
「ふぇ?」
「ロン、です」
そう宣言して智紀は手牌に手をかける。
まさか・・・・・・あの鳴きと捨て牌で{五}待ち?
一体何を狙って・・・・・・?
パタンと手牌が倒された。
{二二二[五]②②②222} {横⑨⑦⑧} {
「三色同刻三暗刻赤1、12000」
その晒された手牌に表情をしかめたのは久だった。
(・・・・・・{⑥⑦⑧で鳴けばタンヤオがついたし⑦⑧いずれかが重なるのを待てば対々もつけられたのに、わざわざ⑦⑧⑨}で鳴く必要はないはず。
でもあの鳴きで混一かチャンタの可能性を考えさせた。
そして混一でもチャンタでもない{五}でロン上がり・・・・・・)
むぅ、と手牌を崩しながら智紀に視線を向ける。
(・・・・・・この子の打ち方・・・・・・)
東一局1本場 親・智紀 ドラ{五}
智紀捨牌
{西北八①74⑦
この捨て牌に対しマホが取った行動は目を閉じての深呼吸。
そして再び目を開いた瞬間、時間が凍りついた。
同時に視線は智紀の手牌に。
(・・・・・・捨て牌では初めに{八}が切られているけれども、切り出し方と手牌整理から手中には萬子が多いです。
おそらく混一と役牌合わせての満貫手)
その手牌読み、秀介に倒されこそしたものの強力無比に違いない美穂子の能力だ。
(となれば・・・・・・)
考えた末にマホが切り出したのは{④}。
{①⑦}と捨てられているし、完全にスジで大丈夫だろうと思って切り出す。
が。
「ロン」
「あぅ!?」
{二三四③⑤四
「リーチ中ドラ1、
{中}暗刻と三元牌対子、カンチャン待ちで42符は50符。
だが重要なのはそこではない。
先程安全と判断した根拠を覆す{①⑦捨てられての④}待ち。
さらに手牌を並び替えて混一に見せかけた切り出し方。
(・・・・・・やっぱり・・・・・・。
似てるわ、この子の打ち方・・・・・・)
未だ半信半疑だが、久は一つの結論を出す。
(・・・・・・別の役に意識を振っての狙い打ち。
安全を演出しての狙い打ち。
どっちもシュウにそっくり・・・・・・)
おまけに智紀がちらちら視線を逸らしている先には、未だソファーに座ったままの秀介がいる。
先程の試合を見たことで、そちらを意識しての打ち方をしているのは間違いないだろう。
現に一回戦の打ち方を見た限りでは秀介に似ているなんて考えは出てこなかった。
(・・・・・・でもどうして?)
どうしてこんなにそっくりな打ち方をしているのだろう?
否、どうしてこんな打ち方ができるのか?
(シュウの打ち方はシュウにしかできないと思っていたけれど・・・・・・やろうと思えば誰でもできる?)
そんなバカな。
そのような打ち方の人間に倒されるほど美穂子はヤワではないはず。
自分だってあのトリッキーな打ち方に憧れたこともあるが、結局今の悪待ちがせいぜいだ。
少なくとも今日一日その打ち方を見ただけで真似することは不可能。
では、もっと前からそのような打ち方を真似ていたとしたら?
(それこそあり得ないわ。
中学、高校とシュウは大会に出場したことが無い、つまり牌譜が存在していない。
私はシュウとずっと一緒にいたし・・・・・・私の知らない所で牌譜が残るはずがない、と思う・・・・・・。
まこの実家「
唯一あり得るのはネット麻雀だけど、その時のシュウは完全デジタル打ち、普段のあんなあり得ない打ち方はしていない)
ならば秀介の打ち方を知っていた人間は、少なくともこの場には自分とまこと靖子くらいしかいないはず。
・・・・・・とも言い切れない。
(・・・・・・さっきの南浦プロの言葉がものすっごく気になってくるんだけど。
シュウの打ち方を見た南浦プロが「新木桂」と言う人物を連想した。
ってことはシュウの打ち方がそもそも新木桂と似ているという事。
ならその新木桂って人の牌譜が手に入ったのなら、沢村さんがその人に打ち方を似せたって可能性もある)
牌を卓に流し込み、新たな山ができるのを待ちながら、久も秀介に視線を送る。
(シュウ・・・・・・新木桂って誰なのよ?)
一度聞いて答えが返ってこなかった以上、もう何度聞いても答えは聞けなさそうだ。
それでも気になって仕方が無い様子の久。
かと言って麻雀に集中していないのかと言うとそう言うわけでもない。
この秘密を解くことがすなわち彼女の打ち方の秘密に繋がる様な気がするからだ。
とは言え今すぐその回答は得られなさそうだ。
なら仕方が無い、久はぐるっと首を回して気を入れ直す。
(考えるのは後ね。
シュウの打ち方に似ていようがいまいが、ともかく倒して点数を稼がなきゃならない事に変わりは無いんだし)
まずは上がりを取って沢村さんの連荘を止めるところから始めないとね、と久は改めて卓上に意識を向ける。
(むぅ・・・・・・)
一方頭を悩ませているのはマホだ。
先程は美穂子の能力が引けて智紀の上がりを回避できるかと思ったのに、まさか手牌入れ替えで狙い打たれるとは。
マホは能力をほぼ完全な形で
つまり今のは美穂子の模倣が甘くて振り込んでしまったのではなく、単純に智紀の仕掛けた策が美穂子の読みを上回っていたということだ。
逆にいえば、今の策は美穂子本人であっても振り込んでいた可能性が大いにあるという事。
(・・・・・・信じられないです。
キャプテンさんの打ち方は傍目には鉄壁。
志野崎先輩さんに負けたのはそれだけ志野崎先輩さんが強かったからだと思ったのですが・・・・・・)
それはつまり美穂子の能力を使っていれば秀介本人以外には負けなかっただろうという読み。
だが結局智紀にも狙い打たれてしまった。
(相性が悪いんでしょうか? むむむ・・・・・・)
マホが能力を引くのはランダムだ。
他人の能力が発動しない事もある。
同卓を囲んでいないメンバーの能力を引くこともある。
意識して誰かの能力を引くなんて真似はできない。
だがしかし、マホの能力は憧れの延長線上にある物。
ならば一つの能力に憧れる思いが強ければ強いほど、求めるその能力を引く可能性が上がるのだろう。
現に衣の能力に憧れを持ったところ、本人を目の前にして海底牌をかっさらうこともしたし。
もしかしたら「憧れの和先輩にいいところを見せたい」と思って和のデジタル能力を発動することがあるかもしれないし、「宮永先輩の嶺上開花が凄かったです!」と思って咲の能力を発動することがあるかもしれない。
今マホが最も憧れているのは、先程引いた美穂子の読みをあっさりと上回った智紀であり、その智紀と同じような打ち方をしていた人物。
(・・・・・・志野崎先輩さん・・・・・・)
あの打ち方を見て恐怖を抱いた人間もいるだろう、対抗心を燃やした人間もいるだろう。
だが自分にとっては。
相手の読みを上回り、自分みたいに色んな打ち方で色んな上がりを取ったり。
あんな打ち方を見せられたら憧れるに決まっている。
その憧れが、彼女の模倣の原点。
そういえば、とマホは不意に思う。
(・・・・・・志野崎先輩さんの能力ってどういうものなんでしょう?)
和はデジタル、咲は嶺上開花、優希は東場の速攻、久は悪待ち、衣は海底及び速攻、などなど。
今まで模倣してきた人物は皆どういう能力なのかはっきりとしている人物だ。
未だに正体不明の打ち手である秀介の模倣が、果たして彼女にできるのだろうか?
(・・・・・・まぁ、やってみましょう)
そんな軽い気持ちでマホは目を閉じた。
山がせり上がった音がする。
智紀が賽を回した音がする。
さぁ、試合が始まるですよ。
『・・・・・・・・・・・・』
(・・・・・・ん・・・・・・?)
『 ー、 』
何か声が聞こえた、気がする・・・・・・。
同時に何かが見えたような・・・・・・。
血 痛
『あ は はは』
鎌 刺
『血 吐 死 』
爆 痛
『 、死 。
は いな 』
血 血 死 血
「痛いっ!!」
がくんとマホが頭を抱え込む。
卓に腕がぶつかったが山が崩れなかったのは幸いか。
「ど、どうした? マホ? 大丈夫か?」
マホを後ろから応援していたムロが駆け寄ってくる。
「・・・・・・なんか・・・・・・頭が痛いです・・・・・・」
「平気か? いきなりどうしたんだ?」
「分からないです・・・・・・」
辛そうにしながらマホはゆっくりと目を開いた。
同時に、その目が見開かれる。
「何・・・・・・これ・・・・・・!?
んがっ!?」
いつの間にか顎に手を回されていて、グイッと上を向かされた。
同時に口に何かが突っ込まれる。
「んぐっ!?」
「飲むんだ」
そこにいたのは今しがた憧れの意識を向けていた秀介。
そして口に突っ込まれたのは形状からしてペットボトル、そして味からしてリンゴジュース。
何? え? どうして?
そんな事を思いながらも言われるままにそれをごくごくと飲む。
そしてある程度飲むとようやく秀介はマホを解放した。
「ぷはぁ! いきなり何をするですか!?」
「頭痛は平気か?」
マホの文句を意に介さない秀介の言葉。
むーっと睨みながら頭に手を当てる。
「・・・・・・平気です・・・・・・」
「じゃあ次に卓を見て」
その言葉にマホはくるっと卓の方を向き直す。
そして秀介は聞いた。
「何か見えるか?」
不機嫌そうなままマホはじーっと卓を見る。
そして答えた。
「・・・・・・いいえ、何も見えないです」
「そうか、それは何より」
ポンとマホの肩に手を当てると、秀介は備え付けのテーブルにリンゴジュースの残りを置いた。
「具合が悪くなるようだったらそれを飲むといい」
「・・・・・・どうもです」
ふぅ、とため息をつくマホ。
どうやらもう頭痛は平気のようだ。
が、周りには何のことやら全く意味が分からない。
全員が揃って今の秀介の行動に首を傾げている。
去り際、秀介はマホに言った。
「もう二度と、それを使うなよ?
それから今見たことは誰にも内緒だぞ?」
口元に人差し指を当てながら。
マホはやはり不機嫌そうに答えた。
今の仕打ちもそうだろうが、それ以外の部分でも気に入らない事があった様子で。
「・・・・・・志野崎先輩はいつも、あんなのが見えていたですか?」
その問い掛けに秀介は、ははっと笑いながら答えた。
「ろくでもない物だっただろう? それ」
流れ的に分かっていると思いますが、次の試合は衣のいる方の卓です(
自分でやっておいて何ですけど、志野崎先輩さんって呼び方はどうだろう?
マホならやりかねないと思ってもらえれば幸いですが。