咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
「・・・・・・まぁいいわ、分かった」
久はそう言うとあっさり下がる。
そしてスッと対面の美穂子の後ろに向かった。
「今だけ、福路さんの応援をさせてもらうわ」
「おや、酷い。
俺の活躍を応援してくれないのか」
秀介が100点棒を銜えたままにやっと笑うと、久はべーっと舌を出した。
その反応に秀介は笑ったままやれやれと首を小さく横に振る。
「なら仕方がないな」
そう言って秀介は山が積まれた自動卓の賽をカラララと回す。
「風越キャプテンをトバして久を取り戻すとするか」
「・・・・・・分かりました」
不意に美穂子が口を開いた。
そう言えば挑発的な発言を向けられたにもかかわらず、その後存在をスルーされていた気もする。
「私をトバすというその挑戦、受けて立ちます。
今の一撃であなたに逆転されてしまいましたが、私はトバされることなく、むしろ再びあなたからリードを奪って見せます」
正面からそう告げると、秀介は嬉しそうに笑った。
「いいね、そうこなくっちゃ」
南三局1本場 親・秀介 ドラ{⑤}
7巡目。
秀介 64500
捨て牌
{南⑧六①④西} {8}
美穂子は秀介の捨て牌から得た情報を整理する。
(・・・・・・一先ず先程の上がりを考えると、また手牌をバラバラにされている可能性がある。
手牌の並びはもう信用できない。
それでも不要牌は不要牌で手の進行の読みに使える。
まず3巡目に唐突な{六}切り。
おそらくその周辺の牌が手牌に存在しないと思われる。
萬子はあっても手牌に一面子、それも下寄り。
{二三四なら五}を引けば繋がるし切り捨てるはずが無い。
萬子の面子があるとしたら{一二三}。
だけど筒子・・・・・・{①はツモ切りだけど⑧④}は手出し。
それを考えると本命はやはり・・・・・・索子の混一!)
次巡、津山が切った{3}の方に秀介の視線が行き、一瞬動きが止まったのを確認した。
(やはり・・・・・・)
さらに秀介が牌をツモると、少しばかり渋い表情になる。
そして「やれやれ、勿体ない」と言わんばかりに、{
({[⑤]}・・・・・・ドラな上に赤が不要な面子はほとんど存在しない。
やはり手の中に筒子も無い・・・・・・。
仮にチャンタ、純チャン、混一狙いだとしたら、南場で親の第一打に{南}切りはあり得ない。
索子の清一まで警戒した方がいいかも。
それも津山さんの牌を鳴こうとした事を考えるとまだ聴牌していない)
美穂子 55300
手牌
{一二三②⑦⑨33678
聴牌。
待ちはカンチャン{⑧}で決して良くは無い。
だがもし危険牌の索子を引いてきたら抱え込んで{⑦⑨}を切り出してやればいい。
役牌もあることだし、聴牌はとるが後からどうとでも対応できるようにリーチで攻めたりはしない。
{②}を切って様子見とする。
「ロン」
「・・・・・・え?」
秀介から不意に上がった声に美穂子の動きが止まる。
ジャララララと秀介の手牌が晒された。
{一二三①③⑨⑨123789} {
「純チャン三色、満貫の1本付け」
「そんな!?」
秀介の捨て牌には手出しの{④}がある。
一牌で二翻アップが狙える{[⑤]を期待して②-⑤}で待っていれば、平和ツモドラ赤。
リーチをかけていれば満貫、裏ドラが乗れば跳満まで見える手。
まだ手変わりが狙えそうな8巡目だというのに、確定とはいえそれをリーチも掛けずに純チャン三色カンチャン待ち?
いや、純チャン三色なのは別にいい。
それよりリーチをかけていれば跳満確定、一発裏ドラで倍満まで見える手。
なのになぜ黙テン!?
しかもさっき見せた津山さんの{3}を鳴こうかという気配は何!?
出来面子の{123}を崩して鳴く必要は無い。
なのにわざわざ一瞬間を開けたのは・・・・・・。
(やはり・・・・・・私を狙う為・・・・・・!)
宣言通り、秀介は本気で美穂子をトバしにきているようだ。
人を狙い打つという経験は数々してきたものの、これだけ狙い打たれた経験は始めてだ。
いや、思い返せば一度あった。
あれは確か中学3年での試合。
竹井久が上埜久だったころ、あの悪待ちで点棒を削られた経験があった。
あれ以降さらに能力に磨きをかけ、今では校内で自分を狙い打とうなんて考える輩もいないほどの実力を身に付けた。
その自分が、今再びこうして点棒を削られている。
相手はあの上埜久と仲の良さそうな謎の男子、志野崎秀介。
(・・・・・・冗談じゃない)
美穂子は再び久と戦う時を夢見てここまで実力をつけて来たと言っても過言ではない。
なのに久と戦う機会無く、よりによって彼女と一番仲の良さそうな、しかも男子に負けるなんて!
・・・・・・負けられない!
今自分の後ろで応援してくれている上埜さんの前でそんな真似はできない!
何としても絶対に負けられない!
不安を振りきるように、キッと秀介を睨むように視線をぶつける。
秀介はそれを見てフッと笑い、右端に100点棒を一つ追加する。
「2本場、続けて行くぞ」
南三局2本場 親・秀介 ドラ{①}
美穂子 43000
配牌
{三②②④⑧2
まずは{⑧}を切り出していく。
次巡{中}をツモった。
役牌が対子、誰かと持ち持ちにならない限り一翻は確保したと言ってもよさそうだ。
{東}を切り捨てる。
手は進んで行って7巡目。
{三四五②③④23567
{中}が手牌で暗刻になったのは幸いだが、配牌からあった他の対子が横に伸びてしまい、結果的に頭が無くなってしまった状態だ。
両面受けの{23を残す為に、}途中で{233から3}を切ってしまったのは失敗だったようだ。
それを頭でとっておけば上がりの形だったのに。
(・・・・・・後悔しても仕方がない)
他の面子が伸びるのに期待するとする。
{3を切り出して2}で単騎待ちだ。
出てくれればラッキー程度だが、そうそう幸運なことは起きない。
次巡。
{三
運よく頭ができた。
{三-六}待ちで聴牌。
美穂子はちらっと秀介に視線を向ける。
(・・・・・・先程から狙い打たれてる・・・・・・この局も何か仕掛けてくると思っていた方がよさそうね)
聴牌にとるがリーチはかけない。
危険牌を引いても対応できるようにと考えての事。
そして次巡、秀介から声が上がる。
「カン」
パタパタと手牌の{⑦}が4つ晒される。
「カンドラ、めくってもらえますか?」
「・・・・・・分かりましたわ」
秀介に言われて王牌が目の前にある透華が新ドラをめくる。
現れたのは{⑥}だ。
「なっ・・・!?」
めくった透華も驚く。
これで秀介はドラ4確定。
ノミ手で満貫だ。
嶺上牌の{南}はツモ切り。
聴牌と考えた方がいいだろうか。
そう思いつつ美穂子は牌をツモる。
{三三四五②③④
秀介捨て牌
{二八東北1③85} {南}
今ツモってきた{西}はまだ誰も捨てていない生牌だ。
待っている可能性もあるかもしれない。
かと言って美穂子が聴牌を維持するには{西か三}を切るしかない。
その{三}は最初に萬子整理がされていて安全そうに見える。
しかし相手は志野崎秀介、昨日の池田といい今回の東三局といい最初に整理した色を頼りに捨てていたら上がられていたという事態があったし迂闊に信用できない。
どうする?
美穂子にしては珍しく長考する。
いっそ降りる?
いや、それこそ負けを認めたようなもの。
このまま上がり続けられたら自分に限らずいずれ誰かがトバされる。
その頃には点数も大きく引き離されてしまっている事だろう。
なら聴牌を維持し続けるしかないか。
切るのは{三か西}。
両方が待ちになっている可能性は・・・・・・{三と西}のシャボ待ち。
あるいは{四五六六六西西}と言った変則三面張。
だが透華の捨て牌に{三}が一つ。
自分の手牌と合わせて3枚見えている。
シャボ待ちの可能性はあり得ない。
そして津山の手牌。
自分の読みからして{六}は2枚入っているはず。
変則三面張もありえない。
やはりどちらかが通る。
なら、通るのはどちらか?
{三}か、
{西}か。
美穂子の思考はいつになく長く、しかし他家の迷惑にならない程度の時間。
やがて美穂子は捨て牌にトンと
{西}を置いた。
「・・・・・・どうですか?」
ホッと一息ついたのは秀介の手を確認した上で、現在美穂子の後ろで手牌を見ている池田。
秀介 76800
手牌
{二四六六999西西西} {
三暗刻カンチャン{三}待ち。
もし振っていたらドラ4と合わせて跳満だ。
(さすがキャプテン!ちゃんと回避したし!)
自分の事のように嬉しくなる池田。
秀介の方を見るとそちらも、ほぅと感心したような表情をしていた。
「やるね、風越キャプテン」
フッと秀介は笑った。
通した!と美穂子も笑う。
が、秀介はパタパタと{西}を倒した。
「そっちは安目だよ。
カン」
{西}の大明槓!?
三暗刻が崩れて一気に役無しだ。
何をやっているの!?と後ろで見ていた面子も顔をしかめる。
そんな中、
咲は一人、とてつもない寒気を感じていた。
「み、宮永さん?どうしました?」
和がおろおろしながら咲を気に掛ける中、秀介は嶺上牌に手を伸ばした。
途端。
「ひぅ!?」
咲は感じていた寒気に耐えきれず、座り込んでしまった。
例えるなら、自分の領域を土足で踏み荒らされたような悪寒!
それはマホに自分の模倣をされた時とは比べ物にならないほどの不安、そして恐怖だった。
タァン!と秀介のツモ牌が卓に叩きつけられる。
「ツモ」
ジャラッと手牌が倒された。
{二四六六999} {西横西西西
「
結局{三}で跳満に振り込んだよりもわずかに安かった程度、結果はさして変わらない。
{三切りでも西}切りでも、どちらにしろ上がられていた。
なら・・・・・・どう打てば良かったのか。
降りていればあっさり津山か透華が上がっていたかもしれない。
しかし逆に{9}をツモられていたら、暗カンから嶺上開花三暗刻という可能性もある。
美穂子が降りたのを見て大明槓の責任払いを諦め、リーチを掛けられていたりしたら裏ドラがどうなっていたか。
正解は分からないまま、積み棒は3つに増えた。
南三局3本場 親・秀介 ドラ{六}
透華 67200
配牌
{三四五七八⑤⑦⑦399西中}
(・・・・・・あら?)
平和手の三向聴。
この局、秀介の流れ一辺倒になってから初めて、透華に好形の配牌が来る。
ちらっと秀介と美穂子の様子を窺う。
(この二人の対決・・・・・・というより、もはやこの志野崎という男の独壇場・・・・・・。
風越の部長さんが一矢報いるのかどうか気にはなりますけれども・・・・・・)
ピーンと、透華のアホ毛が立ちあがった。
(だからと言って私が目立つのを控えるという選択肢はあり得ませんわ!
チャンス手も来たことですし、この場はお二人だけの場ではないということを知らしめてやりませんと!)
フフフフフと怪しく笑う透華。
果たしてその思惑通り、手は順調に進んだ。
そして6巡目。
{三四五七八九⑤⑥
多少無駄ヅモはあったものの、誰よりも早く聴牌である。
しかも変則三面張、待ちは広い。
さて、と透華は秀介に視線を向けた。
(この志野崎という男、今回も風越の部長狙いなのでしょうけれども・・・・・・。
その隙を突く為なら黙テンが一番。
しかしそれでは役無し、ロン上がりができませんし・・・・・・)
チャッと透華は{6}を手に取る。
(やはり、目立てませんものね!!)
そしてそれを横向きに捨て牌に並べた。
「リーチですわ!」
周囲の視線も秀介と美穂子に向いていた模様。
突然の透華のリーチ宣言にざわざわと声が上がる。
美穂子も思わず透華の方に顔を向けた。
(リーチ? 手がよさそうだとは思っていたけれど、志野崎さんに流れがあるこの状況でこんなに早いリーチが入るなんて・・・・・・。
志野崎さんなら私だけでなく他家の手の進行を阻害する為に何かしそうですけど・・・・・・)
ちらっと秀介に視線を向ける。
(ここで仮に龍門渕さんに上がられたら志野崎さんの連荘が止まる。
既に私と彼との点差は十分と見て局を流すつもり?
でも私をトバすという宣言までしたし・・・・・・それとも他に何か狙いが・・・・・・?)
分からないがともかくある意味チャンスかもしれない。
これで秀介の意識が透華に向いてくれれば自分へのマークが甘くなり、もしかしたらその隙に上がれる可能性もあるかも。
美穂子はそう思い、安牌を切りつつも聴牌を目指していく。
一方の秀介は特に慌てる様子も無く安牌を切ってくる。
(ならば私自らツモ上がるだけですわ!)
透華はぐぐぐっと力を入れてツモる。
が、上がり牌は来ない。
(一発ならず・・・・・・まぁ、いずれ来るでしょう)
誰かが捨てたらロンでもいい。
気楽に考えて巡を進めて行く。
そうして訪れた17巡目、残りツモ5牌である。
(な・・・・・・何で上がれませんの!?)
待ちは{④-⑦・9}。
12牌の内{⑦}は自分で3枚、{9}は2枚使っているので残りは7枚。
他家にツモられる可能性は十分にあるがそれでも1枚くらいはツモってもいいはずだ。
引いて頂戴!と願って引いた牌は{中}。
上がり牌ではないし他家も捨てている完全なる不要牌だ。
顔をしかめながらツモ切りする。
これで自分のツモは残り1回。
親が上家の秀介で誰からも鳴きが入っていないので、透華のラスヅモは海底牌。
(海底で劇的に上がり!なんてやってみたいですわね、衣みたいに)
もっとも衣にとっては劇的でも何でも無く、当たり前のようにやっていることなのだが。
一方の美穂子。
{一一①②③34[5]南南白白白}
この終盤、美穂子も聴牌していた。
{一と南}のシャボ待ち。
だが残念、既にどちらも捨てられており上がり目0だ。
美穂子にとってのラスヅモは{⑨}、問題なく切る。
そして津山。
{五五
聴牌にはならず。
そしてツモってきた牌も{北}。
ため息交じりに切り出した。
そして18巡目。
秀介が牌をツモる。
ふむ、と一息つくとその牌をそのまま捨て牌に置いた。
横向きに。
「リーチ」
はっ???
全員の視線が秀介に集まる。
だって、もう残るツモは無い。
後は透華がツモる分しかないのだ。
つまり秀介のその手、上がる可能性があるとしたらあと一牌・・・・・・。
リーチ一発河底というバカバカしい上がりのみ。
透華の目が大きく開かれる。
(まさか・・・・・・私がここであなたの上がり牌を引くとでも!?)
ありえない。
ありえない。
ありえない。
デジタルの思考としてありえない、受け入れられない!
でも。
まさか・・・・・・?
(もしここで私が引いたりしたら・・・・・・?)
ごくりと喉が鳴る。
ありえない、通常ありえない。
ありえないけど・・・・・・まさか・・・・・・もしかして!?
秀介の表情はなんてことない、余裕に満ちている。
自分が特別な事をしているという感情も無いのだろう。
口に銜えた100点棒がくいくいと動いている辺りからもそれが感じられる。
ただ、リーチがしたいからリーチをした。
それだけ、とでも言いたげに。
そしてその余裕がさらに透華を不安にさせる。
まさか、まさか、まさか・・・・・・。
そう思いながら透華は山に手を伸ばした。
「・・・・・・おい、シュウ」
不意に声が上がり、透華はその手を止めた。
何事?と一同の視線が声を上げた人物に集まる。
声を上げたのは靖子だった。
この状況で何を?と注目が集まる中、靖子はあきれ顔で告げた。
「自分のツモが残っていない状態でのリーチは禁止されているぞ」
「・・・・・・マジで? そうだっけ?」
「だからあれほど大会に出ておけと・・・・・・」
やれやれと靖子はため息をつきながら頭を抱えた。
そう言えばいつぞや連荘で和をトバした時も「八連荘って無いんだっけ?」とか言っていた気がする。
大会に出ていなかったからルールもよく分かっていないという事か。
そんなルールもあったっけ?と忘れるほどに周囲の一同も今の場面に飲まれていたのだろう。
その空気も今のやり取りで弛緩した。
「・・・・・・まったくいいところだったのに・・・・・・気を付けるんだぞ」
「はいはい」
靖子に言われて秀介は牌を縦に戻す。
しかしリーチ棒を出す気配がなかった辺り、実はルールを知っていて悪ふざけをしていたのではないか?とも思える。
とりあえず先程までの緊張感は霧散した。
が。
(・・・・・・むぐぐ・・・・・・!)
これから海底牌をツモる本人、透華は山に手を伸ばすとやはり緊張が再びこみ上げて来た。
だがこのままツモらないわけにもいかない。
チャッと海底牌をツモる。
{七}
既にリーチをかけている透華は上がり牌で無い以上ツモ切りするしかないのだが、一応ちらっと全員の捨て牌を確認する。
海底牌ということは捨て牌もかなり切られているので確認も一苦労。
{七}は・・・・・・美穂子も津山も切っている。
スジの{四}も同じく。
というか{四}に至っては自分も切っている。
では肝心の秀介は?
萬子はあちこち切られている。
透華の記憶が確かならばツモ切りされた牌もかなりある。
しかし、肝心の{四-七}は切られていない。
上がり牌という可能性はある。
あるが、しかし。
(・・・・・・い、いえ、そんなことあるわけがないですわ)
透華は不安を振りきるように{七}を捨て牌に置いた。
さぁ、秀介はどうする?
上がるのか?
それともこのまま流局か?
パタンと秀介の手牌が倒された。
流局の聴牌宣言?
否、である。
{五
「ロン、河底ドラ1。
辺りは静まり返っていた。
まさか、本当に河底ロン上がり!
しかも他に役が無い!
本当に、本当に、河底一牌にのみ狙いを絞ったかのような上がり!
それだけでは無い。
透華の残った上がり牌の内6牌が押さえられている!
「・・・・・・ちょっと失礼しますわ」
さらに透華は自分の前の王牌に手を伸ばし、チラッと裏ドラを確認した。
他の誰も確認できない早さで、それはすぐにパタンと閉じられる。
周囲は「えー、見せてよ」と不満気だった。
しかし透華の表情から、まさか?と察する者もいる。
危うく声を上げるところだったその裏ドラ牌は、
{8}
つまり裏ドラは{9}。
もし先程のリーチが認められていたとしたら・・・・・・?
秀介のこの手、リーチ一発河底ドラ1、さらに裏2。
4つ抱えられた{④}がそのままドラになる事は無かったが、6巡でリーチを掛けることができたのに危うく跳満直撃されるところだった。
この一事には透華も動揺してしまう。
鳴きも無かったのに上がり牌はほぼ押さえられていて、しかも河底ロン上がり・・・・・・。
はっと思い至り、透華は衣に視線を向けた。
一向聴で手が止まったまま誰も上がれず、そして海底牌で上がりをさらう衣。
今の秀介の打ち方はそれに似ている。
しかも海底ではなく河底。
これはまさか・・・・・・いや、間違いあるまい。
志野崎秀介から天江衣への挑戦状!!
衣の表情は傍目には無表情。
だが付き合いの長い透華には分かる。
わずかに滲み出る怒りのような感情。
そして同時に湧き出る、
歓喜の感情!
自動卓に牌が流しこまれ山が出来上がっても、秀介の視線は衣に向かなかった。
意識して避けているように。
しかしそれにもかかわらず、衣の感情を感じ取ってそれをからかって遊んでいるかのように。
そしてまだこのメンバーでの対決は終わらない。