咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
第三試合 親順
京太郎→数絵→未春→妹尾
京太郎 17500
数絵 53100
未春 45100
妹尾 82900
第四試合 親順
美穂子→津山→秀介→透華
美穂子 75700
津山 41400
秀介 52300
透華 57600
「「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」」
第三試合の卓、第四試合の卓共に和やかな空気で挨拶が交わされた。
表面上は、であるが。
まず津山。
現在彼女は同卓のメンバーの中唯一原点割れをしている。
トップの美穂子との差は3万点以上。
ましてや風越のキャプテンとして慕われている存在だ。
龍門渕の部長透華も当然注意の対象である。
唯一秀介は津山にとって未知数の存在だが、和の試合の解説を聞いた限りではやはり実力者と判断できる。
自分が最も実力が劣る。
が、津山も鶴賀の先鋒を任された身であり、新たな部長を任される身でもある。
無様な戦いはできないと、自然と気合いが入る。
美穂子、透華は揃って秀介に意識を向けている。
美穂子は先日からずっとマークしていてデータまで取った身だ。
念願の直接対決だし狙い打ちをして勝利し、しっかりと格付けをしておきたいところ。
透華は当然、ずっと一の仇討ちのことばかりを考えている。
だがその心の内、対局を直接目撃したわけではないがおそらく相当な強者であろうと予測がつく秀介との対決ともなれば十二分に白熱している。
秀介はそんな二人の視線をおそらく分かっていながら、それでも相変わらずの自然体。
この第三試合、第四試合のメンバーの中では最もリラックスしているように見える。
が、その心の内は果たしてどうか。
また第三試合のメンバーの心の内も様々だ。
まず数絵。
交流という名目でこの合宿に来たが、同じ学校の人間がいない完全一人身だ。
交流ももちろん大切だが、学校の看板を一人で背負っている以上無様な結果を残すわけにはいかない。
県大会の個人戦でも結果は残せなかったし、この試合の一回戦でも思いの外点数が稼げずに10位という結果に終わっている。
この二回戦で少しでも点数を伸ばして上位に食い込みたいところだ。
未春も風越の面子として低い順位に甘んじるわけにはいかない。
まだまだ点数を稼がなければならない身だ。
妹尾は一回戦で役満を上がり現在トップ。
二回戦で同卓のメンバー相手でも、二位の数絵を相手に3万点近い差がある。
だが自力ではまだおそらく京太郎にも劣るだろう。
もう一度役満が上がれればトップは揺るぎなくなるだろうが、代わりに役満手が入らなければその点数はむしられるのみ。
数絵と未春に狙い打ちをされればあっという間に転落だ。
気を緩めるわけにはいかない。
そして京太郎。
一回戦でトビだった一を除けば最下位。
この初めの親番で少しでも稼いでおきたいところだ。
第三試合
東一局0本場 親・京太郎 ドラ{⑧}
京太郎配牌
{一二四②⑤⑥⑦
むぅ、と悩みたくなる。
{東}が重なればダブ東ドラ1。
あと何か役が入れば満貫まで見えるところだ。
とりあえず{東は取っておくとして不要なのは9や②}か。
それと萬子は{三が入れば一二三か二三四}で面子が組める。
他に頭ができそうなら{一を切り飛ばして二三四}の受けに絞り込むのも良しだろう。
まずは{9}を切り出す。
手が進んで数巡後。
{一二四⑤⑥⑦
運よく{東}が重なった。
{2も頭にできそうだしここで一}を捨てる。
後は{東}が鳴ければいいのだが。
「ポン」
ふと未春から声が上がった。
{發}ポンで一役確保だ。
折角の親番でダブ東が作れそうなこの手、未春に先を越される前に上がってしまいたい。
が、結局{東}は鳴けず引けず、有効牌もようやく一牌引けたところで未春に上がられてしまった。
{九九九④[⑤]⑥⑦
「ツモ。
發ドラ赤、1300・2600」
それほど高い手ではないが、最下位なのに親っかぶり。
京太郎にとって良くない出だしだった。
東二局0本場 親・数絵 ドラ{六}
京太郎 14900
{四
{東白中}が役牌。
{東か白}も重なってくれるといいなと思いながら手を進めて行く。
5巡目。
{四
{白}が重なる。
字牌対子は二つあれば十分と{東}を切り出した。
7巡目、京太郎はようやく場に現れた{中}をポンする。
そして9巡目。
「ポン」
{白}も鳴けた。
河にはまだ{發}は1枚のみ。
その後{發}を引いたと思われる数絵が少し残念そうにしたのが京太郎にも分かった。
他家の手が止まっている今のうちに聴牌し、さっさと上がってしまいたい。
そんな思いが実り、12巡目。
{
{⑤}を切り出して聴牌した京太郎。
よしよし、後は{五-八}をツモってしまえばOKだ。
が、同巡上家の素人妹尾の手から{發}が零れ落ちた。
(ぐっ・・・・・・)
数絵も未春も京太郎に視線を向けたのが分かったが動けない。
自分の手は{發}を対子で抱えた大三元でなければ、一枚持ちの小三元でもない。
(くそ、なんてことするんだよ・・・・・・)
京太郎は無駄ヅモをそのまま捨てながら妹尾を睨むように視線をぶつける。
が、当の妹尾は自分の手牌で精いっぱいの模様。
そこで余裕あり気に笑いかけられたりしたら「まさかこいつ、俺の手を読み切って!?」なんて勘違いさせられただろうが、妹尾にそんな余裕は無い。
その証拠に次巡、京太郎の上がり牌が手から零れ落ちた。
「ロン」
「はぅ!?」
{
「白中ドラ1、5200」
先程の負けは何とか挽回したが、いまだ最下位に違いは無い。
まだまだ上がりを取っていかなければ。
東三局0本場 親・未春 ドラ{4}
京太郎 20100
{四七七九①④⑦⑨79西白發}
手は未だ良くない。
が、西家の京太郎の手元の字牌はどれも役牌になるもの。
先程の局のようにテンポ良く鳴いて行って手を進めて行きたい。
もしくは上の三色でもいいな、と思いながらツモった牌は{西}、幸先がいい。
三色も目指しつつ{①}を捨てる。
その後無駄ヅモが重なったが4巡目。
{四七七九④⑦⑨79
これで役が確保できた。
{白}を切る。
後は他が三色まで伸びれば最高だが、それをブラフに他の場所でロン上がりというのも狙いたいところ。
7巡目。
「チー」
妹尾の手から零れた{8}を鳴き、{④}を捨てる。
{四七七九⑦⑨西西西發} {横879}
三色まで行っても行かなくてもよし。
そんな心持で9巡目。
{四七七九
三色の筒子部分が埋まった。
{四}を切り出す。
このままチャンタまで絡められれば満貫だ。
この手、何とかして上がりたい。
そんな京太郎の想いに応えたわけでは全然ないが、再び妹尾の手から急所の牌、{八}が出てくる。
「チー!」
{⑦⑧⑨西西西發} {横八七九横879}
ようやく聴牌だ。
{發}はまだ一枚も場に出ていない。
誰かが暗刻で抱えている可能性もあるが山に一枚くらい眠っている可能性もある。
攻める価値は十分にある。
それに。
(危険な橋を渡ってこそ麻雀だろう!)
フッと笑いながら京太郎は次巡{3}をツモ切りした。
「ロンです」
「えっ!?」
パタンと手牌を倒したのは未春だ。
東一局といい今回といい、もしや未春に狙われている!?
そんなことは無いと思われるのだがそう思わざるを得ないような理不尽さを京太郎は感じていた。
そして理不尽は重なる。
{二三四②③④⑤⑥⑦2
「タンヤオ三色ドラ3、18000」
「ぐあっ!?」
京太郎の表情が変わる。
この上がりで京太郎の残り点数はわずか2100。
一本場もあるので2000の手に振り込むとトビで終了だ。
しかし直撃を避けても親の2000オール、子の満貫ツモでやはりトビ。
俵に足がかかった京太郎、漢を見せられるか。
京太郎 2100
数絵 51800
未春 68300
妹尾 76400
第四試合
東一局0本場 親・美穂子 ドラ{6}
美穂子 75700
{七九九②③[⑤]⑤25788白} {中}
打倒秀介を目指す一人、美穂子。
東一局の配牌はドラも絡みやすそうな平和手。
既に赤もある。
ならばここは他家が役牌を重ねる前にと、{白}を第一打とした。
次巡{⑦}をツモって{中}切り。
そしてそれを見て、秀介の後ろでその手を見ていた久が少しばかり不機嫌になったように見えた。
(・・・・・・?)
傍目に見て久が秀介と仲がいいのは明白だ。
秀介は普段は実力を隠しているが相当な実力者。
先程の第一回戦でも彼は自分が上がるのではなく妹尾に役満を上がらせるという形で実力を披露してきた。
おそらく久はそれが気に入らなくて秀介に本気で打って欲しいのだろう、美穂子はそう考える。
さすがの美穂子もこんな早い巡目から全ての牌を見通せるわけではないが、久の不機嫌そうな表情を見るとおそらく何か正着手ではない立ち振舞いをしたのだろう。
多分、秀介の手の中で{中}が対子になっているのだ。
それを鳴かないで手を進めるということは。
(志野崎さんが本気ではない・・・・・・と考えるよりはおそらく{中}を鳴かないで進める方が彼にとって都合がいい、そう考えておいた方がいいわね)
手加減しているのだろうなどという甘い見通しで打って勝てる相手だとは思っていない。
こちらも対秀介を想定して彼の打ち方を観察してきたのだ。
絶対に勝つ、その為に読みは緩めない。
そして、チラッと秀介の手牌右側に目を向け、くすっと笑う。
(萬子が6牌。
私には見えていますよ、志野崎さん)
秀介 52300
{二五六六七八③
美穂子の読み通り、秀介の手牌には{中}が2牌。
ここで切り出すのは{西}だが、鳴かなかった以上{中}はツモる確信を持っているか後々切り捨てるのだろう。
次巡。
{二五六六七八③⑥
このツモにあっさりと{中}を切り出す。
そこから平和手に移すらしい。
{二五六六七八③④
{二五六六七八③④
{五六六七八③④⑥
途中無駄ヅモがあったが、{六}を切ってあっという間にタンピン三色一向聴である。
まだ7巡目、この面子を相手に先制を取るのかと思いきやそうはいかない。
親の美穂子の手の進みも中々の物。
美穂子手牌
{七九九②③[⑤]⑤
{七九九②②③[⑤]
{七九九②③[⑤]⑤
{七九九②③[⑤]⑥
{七九九②③[⑤]⑥
「リーチです」
{七}を捨ててリーチ宣言、秀介に一向聴が入った次巡のことだった。
先制を取ったのは美穂子。
数巡後に秀介にも聴牌が入るがダマのまま。
そして11巡目。
「ツモです」
{九九②③[⑤]⑥⑦345789} {
美穂子の上がりだ。
裏ドラ表示牌は{2}。
「リーピンツモ赤1裏1、4000オールです」
まずは美穂子がリードを広げる。
ここから他家はどう食いついていくか。
東一局1本場 親・美穂子 ドラ{三}
美穂子 87700
{一二
悪くない配牌だ、今の上がりで流れを掴んだか。
{9を切り出し、次巡[⑤]}をツモ。
字牌を整理して一気に突き進む。
が。
「ポンですわ!」
秀介の捨てた{東}を鳴いたのは透華。
透華 53600
{一二四九⑦⑧⑨北北北中} {横東東東}
{四}を捨ててチャンタを目指す。
それを見て秀介も美穂子に連荘されるよりはましと考えたのか、{
「チー!」
{九⑦⑧⑨北北北中} {
暫し考え、{九}を切り出して聴牌にとる透華。
{中}はまだ生牌だ。
誰かの手に抱えられている可能性もあるだろうが、さすがに暗刻ではあるまい。
そう考えての{中}単騎待ち。
実際{中}はまだ美穂子の手に一枚抱えられているだけであり、残りは山の中だ。
ツモでなくても誰かがツモ切りする可能性大である。
そしてそんな中、秀介が動いた。
「チー」
秀介 48300
{二六六七⑥⑧567發發} {横③④⑤}
そして{發}を切り出す。
その様子に久に限らず秀介の手牌を見ていた面子が顔をしかめた。
(出来面子の{④⑤⑥}を崩してチー?)
(しかも役牌対子まで崩して・・・・・・)
(な、何考えてるんだ?)
その場では誰も分からない。
が、その2巡後。
美穂子手牌
{一二
面子の急所、カンチャンの{八}ツモだ。
ここから字牌を整理していけば好形の平和手になるだろう。
これを上がればリードはさらに広がる。
が、その為には字牌、しかも透華の上がり牌である{中}を切らなくてはならない。
美穂子も透華の手がチャンタであることは察している。
となると。
(・・・・・・この字牌はどちらも危険。
しかも志野崎さんの先程のチー・・・・・・龍門渕さんも私も手が早いという事を察したうえで上がりを目指した鳴きなの・・・・・・?)
どうも怪しい。
そしてその数巡後に自分の手に舞い込んだ有効牌。
(・・・・・・普通ならあり得ない事と思うけれど・・・・・・案外この{西か中}が龍門渕さんの上がり牌で、それを吐き出させる為に私に有効牌を入れたのかも・・・・・・)
美穂子の言葉通り、通常ならそれはあり得ない事、できるわけが無い事。
なのだが、しかし。
(・・・・・・昨日の吉留さん、今日の妹尾さん、どちらも志野崎さんが鳴きで他家に有効牌を入れたりしていた。
それを考えると・・・・・・あり得ないとも言い切れない)
仕方ない、と美穂子は{九}を切って手を崩して上がり放棄。
そして同巡、透華が手牌を倒した。
{⑦⑧⑨北北北中} {
「ツモ、東北チャンタドラ1、2100・4100ですわ」
何とか透華がツモ上がり、美穂子に食らいつく。
(この志野崎という男を倒すのも目標ではありますけれど、だからと言ってあなたを蔑ろにするつもりもありません事よ?)
チラッと向けられた透華からの視線に、美穂子は相変わらずの笑顔で返すのだった。
東二局0本場 親・津山 ドラ{東}
津山 35300
{一三③④⑤⑦17899
実力が一番劣っていると自覚している津山の親番、配牌は中々の物だった。
ツモがはかどればあっという間に上がれそうな好配牌。
しかしその肝心のツモがはかどらない。
一先ず{1を切り出した後の津山のツモは⑦、發、七、五、西、2}。
ドラの{東}を切り出して受け入れを広くしてもなお7巡でこの形だ。
{一三五③④⑤⑦⑦789南南}
その後も字牌を掴まされ、結局この手が聴牌まで到達できない。
秀介 46200
{一二四①[⑤]57
秀介は配牌こそ今一つだが逆にツモが好調。
{一二三四①[⑤]57
{一二三四①[⑤]57
{一二三四①④[⑤]
{一二三四①④[⑤]
{一二三四①④
{一二三四四①①④
7巡目で津山と同じ一向聴まで追いつく。
{①を切り出し、③-⑥-⑨}をツモれば聴牌だ。
透華 61900
{一五[五]九②⑦⑧
そして透華、こちらは配牌が良くなくツモも今一つ。
{一}を捨てて手を進める。
{五[五]九②⑦⑧1
{五[五]九⑦⑧13
{五[五][⑤]⑦⑧13
{五五[五][⑤]⑦⑧1
{五五[五][⑤]⑦⑧1
{五五[五][⑤]⑦⑧1
赤は寄ってきてくれているのだがどうにも面子がまとまらない。
そして美穂子。
美穂子 83600
{四六七八八九①
この配牌にツモが好調だった。
まず{9}から捨てて行く。
{四六七 八八九①
{四六七八八九①
{四六七八八八九
{四六七八八八九
{四六七八八八九
{六七七八八八九
ドラも絡まない手だが、{八}を切り出して7巡目で聴牌。
理牌の癖から手の進行を読む限りまだ誰も聴牌していない。
リーチをかけても構わないのだが、万が一すぐに追いつかれてリーチを掛けられ、挙句に危険牌をツモるという事態は避けたい。
それに現在の美穂子の点数は、現在隣の卓で打っている妹尾が高い手を上がっていない限り既に総合得点でもトップになっていておかしく無い点数である。
なので点数など特に気にせず、安い手で場を流すだけでも美穂子のトップは揺るぎないものとなるのだ。
2巡後。
「ツモ」
{六七七八八九九①②③234} {
「平和ツモ一盃口、700・1300」
トップの美穂子があっさりと上がりを取る。
こうして徐々に、だが確実に点差をつけて行けば他家は高い手を作らざるを得ず、その結果一層手が読みやすくなるという事態になる。
県大会決勝の池田がいい例だ。
そうなれば驚異の手牌読みを可能とするこの美穂子の勝利はより盤石なものとなるだろう。
が、そんな打ち回しがどこまで通用するのか。
(・・・・・・さて)
(・・・・・・いよいよ・・・・・・)
美穂子と透華が揃って視線を向ける。
試合前に久に活を入れられていた男、志野崎秀介の親番である。
美穂子 86300
津山 34000
秀介 45500
透華 61200