咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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23染谷まこその5 罰ゲームと注目

「おかえりなさいまし! はじめ!」

「わわっ!? ちょっと透華!」

 

試合を終えた一を真っ先に迎えたのは、試合中から一の復活を喜んでいた透華だった。

 

「さすがはじめ! 見事な復活っぷり! いい試合でした! 私も鼻が高いですわ!」

 

一としても透華を安心させることができたのは嬉しく思う。

しかしだからと言って、延々と褒められながら頭を抱えられてすりすりと身を寄せられるのはちょっと遠慮したい、なんて思うのだった。

 

「まぁ、その辺にしておけ」

 

そんな一の気持ちを察したのか、ぐいっと引き離してくれたのは同じく試合を終えて戻ってきた純だ。

 

「ともかく、ホントにもう完全に大丈夫みたいだな」

「うん、心配かけてごめんね、純くん」

 

純の言葉に笑顔で返事をする一。

 

「お疲れ様です」

「衣は一を信じていたぞー!」

 

智紀と衣も迎えてくれる。

試合前は笑顔で見送っていたがやはり心配だったのだ。

みんなを安心させられて良かったと、一は一で安堵したのだった。

 

 

 

「戻ったぞ」

「・・・・・・戻ったぞー、ワハハー・・・・・・」

 

大量にではないが稼いできたゆみと、大量に失点してきた蒲原も鶴賀陣営に戻ってきた。

 

「お疲れ様っす、先輩!

 素晴らしい戦いぶりでしたっす!」

「いや、あの面子相手では厳しかった。

 思ったよりも稼げなかったし・・・・・・」

 

迎えてくれたモモとゆみが「二人だけの空間」と言わんばかりに話し始めたのを見て、津山と妹尾は蒲原のフォローに向かう。

 

「お疲れ様、智美ちゃん」

「お疲れ様でした、部長」

「・・・・・・うん、ありがとう二人とも。

 ごめんな、こんな部長で・・・・・・」

「い、いえ、そんな・・・・・・」

 

いつに無く落ち込んでいる様子の蒲原を何とかして慰めようとする二人。

やがて妹尾の「大丈夫、智美ちゃんは頑張ってるよ。誰も責めないから安心して」と言う言葉に、蒲原は落ち着きを取り戻したようだった。

 

「ワハハー、ごめんなー、二人とも。

 気を使わせちゃって」

「気にしてないよ。

 やっぱり智美ちゃんにはその笑いが似合うかな」

「佳織は褒め上手だなー、照れちゃうぞー」

 

そんな蒲原の笑いを見て、妹尾も津山も、離れて様子を見ていたゆみとモモも一安心だった。

 

「いやぁ、さすがにこれ以上点数減らしたらまずいし、最後の三回戦は隠された能力でも使わないと無理かなー」

「「「「・・・・・・隠された能力?」」」」

 

そんなものがあるの?と顔を見合わせる一同。

蒲原はいつもの調子でわっはっはーと笑いながら言葉を続けた。

 

「まぁ、嘘だけどなー」

 

うん、そうだと思った。

その一言は一同揃って口にしなかった。

 

「まぁ、仮にそんな能力があるとしたら、県大会の決勝戦で使わなかった事に文句が言いたくなるわけだが」

「ワハハー、私に逃げ道は無いわけだなー」

「八方塞がりってやつだ」

 

ゆみの言葉に、最終的に遠い目をする蒲原であった。

 

 

 

「-3900でした」

「私は-2000だ、揃ってマイナスだな」

 

自分の得失点差を報告し合うのは文堂と池田だ。

マイナスが少ないのは喜ばしい事だが、対戦相手は決して遥か格上というわけではなかった。

それを考えるとプラスで終われなかった事は残念だ。

 

「まずいな、親善試合とは言え結果が残せないと・・・・・・」

 

くっと表情を歪めながら池田が呟く。

 

「来年の大将は任せてもらえないかもしれない」

「もう来年の心配を・・・・・・いえ、確かにそうかもしれませんね」

 

どうしましょう、と文堂も考え込んでしまう。

 

「そうなったらその時、私はキャプテンにどんな顔を向ければいいのか・・・・・・」

「その時にはキャプテンはもう卒業していますよね」

 

むむむと考え込む池田の言葉にそう突っ込む文堂。

池田はしばし固まった後、くるっと文堂に振り返って言った。

 

「そ、そう言う問題じゃないんだよ!」

「・・・・・・済みません、良く分かりません」

「まったく、だからお前は文堂なんだ」

「・・・・・・つまり池田先輩は池田先輩ってことでしょうか?」

「そうだ、文堂にしては良く分かってるじゃないか」

「いえ、あまり分かってません・・・・・・」

 

訳の分からない事を言い合いながら二人はとぼとぼとキャプテンの元へ戻った。

結局心配は杞憂だったようで美穂子はいつも通りの笑顔で二人を迎えてくれた。

なのでいつも通り二人は「よかったけど次の試合こそはしっかりやらないと」と自主的に気合いを入れるのだった。

 

 

 

「ただいま、原村さん」

「お疲れ様です、宮永さん」

 

十分と言えるほど点数を稼いできた咲を笑顔で迎えたのは和、そして秀介だった。

 

「+21500か、残念ながら罰ゲームは回避だねぇ」

「え、残念なんですか?」

 

秀介の言葉に咲が少しばかり表情をしかめる。

するとそんな咲の前に和が立ちはだかってくれた。

 

「そう言うわけで志野崎先輩、宮永さんは罰ゲーム無しですよね?」

「ああ、そうだね」

 

秀介にしっかりとそれを認めさせると和は笑顔で咲に向き直った。

 

「大丈夫です、宮永さんは私が守りますから」

「えっと・・・・・・私、何やらされるところだったの?」

「・・・・・・そ、それは知らなくていい事です」

 

おどおどしながら咲が和に問いかけるが、和は何やら赤くなって言葉を濁す。

キョトンと首を傾げなら秀介に視線を送ってみると、秀介は笑顔で答えてくれた。

 

「抱き枕」

「だ、抱き枕!?

 わ、私、志野崎先輩の抱き枕になるところだったんですか!?」

「ちょ! 志野崎先輩! 試合が始まる前は私と膝枕だと言っていたじゃないですか!」

「ああ、そうだった。

 ごめん、間違えたよ」

「間違えにも程があります!」

 

ガー!と怒る和を秀介は相変わらず笑いながらいなす。

咲は「よかった、抱き枕じゃないんだ」と安堵しつつ、しかし膝枕は膝枕で恥ずかしいんじゃ?と思い直していた。

 

(・・・・・・でも原村さんだったらいいかな・・・・・・?)

 

そんな事を思いつつちらっと和に目を向けると何やら赤い表情の和と視線がかち合い、そしてまたお互いにカーッと赤くなるのだった。

 

 

「さて、まこ」

 

そんな秀介の言葉にビクッと飛び跳ねたのは、いつの間にか久の影に隠れていたまこであった。

 

「お前の出資を報告してみたまえ」

「ぷ、+24300じゃ」

「+4300だろ、2万も多いじゃないか。

 算数もできなくなってしまったのか、俺は悲しいぞ。

 これはもう・・・・・・「あれ」+算数のお勉強会かな」

「ダブルで!?」

「じゃあどっちか」

「算数を教えてください志野崎先輩!」

 

がばっと頭を下げるまこにやれやれと久が助け船を出してやる。

 

「大丈夫よ、罰ゲームは以前の「あれ」と違うから」

「・・・・・・ほ、ホンマか?」

 

ちらっと顔をあげるまこに秀介は笑顔で告げた。

 

「ああ、今回は抱き枕になった」

「抱き枕!?」

「そのやりとり、さっきのどちゃん達としてたじぇ」

 

もぐもぐとタコスを齧りながら優希が突っ込みを入れる。

それを見てテンパっていたまこもようやく「何だ、冗談か」と落ち着いた。

 

「全く・・・・・・志野崎先輩は人が悪いのぉ」

「いつものことじゃない」

 

やれやれと首を振る久。

そんな反応をじーっと見ながらまこは不意に久に声をかける。

 

「・・・・・・どんな罰ゲームか知らんがいざって時は助けとくれ、部長」

「何で私が」

「部長から言えば志野崎先輩も少しは自重・・・・・・」

「すると思う?」

 

久にそう返されるとまこも、うーんと頭を抱えてしまう。

 

「・・・・・・代わりに私も罰ゲーム受けることになったりしたら、まこは助けてくれるのかしら?」

「えっ!?」

「当然でしょう?」

 

しまった、その心配をしていなかった、とまこは再び頭を抱える。

が、やがてまこは顔をあげた。

 

「・・・・・・部長、タダでわしの罰ゲームを手伝っとくれんか?」

「学生議会長だからって慈善事業はお断りよ」

「いーや、取引じゃ」

「取引?」

 

まこの言葉に久は再びやれやれと首を振る。

 

「取引というのはお互いに対等のカードが無いと成立しないのよ。

 素寒貧(すかんぴん)にその資格は無いわ」

 

そう言ってバッサリと切り捨てる。

が、まこは何やらフフフと笑った。

 

「部長、これは一方的なお願いってわけじゃない。

 代わりに引っ込めとる札もあるんじゃ」

「何よ、それ?」

 

それはつまり、まこが久に一方的なお願いができるほどのカードを持っているという事。

一体それは何?と心当たりが思い浮かばない久は首を傾げる。

が。

 

「・・・・・・部長が志野崎先輩の見ていない所で、わしと同じ罰ゲームを勝手に・・・・・・」

 

そんなまこの発言は久の(圧力)により、最後まで語られることは無かった。

 

 

 

 

 

「さぁ、それでは次の試合のメンバーを発表するぞ」

 

その言葉にまた周囲が静まり返る。

靖子はそれを確認するとメンバーの名前を読み上げ始めた。

 

「第三試合、風越女子-吉留未春、鶴賀学園-妹尾佳織、清澄-須賀京太郎、平滝-南浦数絵」

 

名前が呼ばれたメンバーは周囲に励まされたり、自身で気合いを入れたりと様々だ。

そんな様子を見ながら靖子はメンバー発表を続ける。

 

 

「第四試合、鶴賀学園-津山睦月」

 

 

「頑張りましょう」

「う、うむ・・・・・・」

 

ゆみや蒲原も肩を叩いて「頑張れよ」と応援してくる。

それが嬉しくもありプレッシャーでもある。

それらを気負いつつ、対戦相手の名前に耳を傾ける。

 

 

「風越女子-福路美穂子」

 

 

「キャプテン! 頑張ってください!」

「ええ、頑張ってくるわ。

 吉留さんも頑張りましょう」

「はい!」

 

 

「龍門渕-龍門渕透華」

 

 

「あら、私ですの」

 

名前を呼ばれた透華は一達の応援を受けつつちらっと美穂子の方に視線を向ける。

と、あちらも透華を見ていたようで視線があった。

去年の県大会でぶつかったらしい両者、共に再戦できることを期待していたようでお互いに笑い合った。

 

その様子を靖子も見ていたようで楽しそうに笑いながら、

 

「清澄」

 

最後の一人を読み上げた。

 

 

「志野崎秀介」

 

 

途端に、一部からざっと視線が集まる。

 

「ん、俺か」

 

にもかかわらず、本人は何でも無いように普段のままの立ち振舞いだった。

 

 

(あの男と!?)

 

透華も秀介に視線を向けた一人だ。

というか龍門渕のメンバーは全員が彼の方を向いている。

 

(一の仇・・・・・・絶対に討って見せますわ!)

 

「透華・・・・・・大丈夫?」

 

一が心配そうに透華の方を見るが、透華は任せなさいとばかりに自分の胸に手を当てる。

 

「お任せなさい、はじめ。

 あなたの仇、とってきますわ」

 

そう言って笑うと、他のメンバーにも笑みが浮かぶ。

不意にグイッと引っ張られ、透華が視線を下ろすとそこには衣がいた。

 

「透華、油断するでないぞ」

「・・・・・・もちろんですわ。

 何せ・・・・・・」

 

透華は卓の方を向くと自信満々に宣言した。

 

「私は、龍門渕透華なのですから」

 

 

(あらあら・・・・・・)

 

美穂子も秀介に目を向けている。

散々注意していて対策も考えている相手、戦わずに終わったりしたら残念と思っていたがここで戦えるとは。

 

「・・・・・・キャプテン・・・・・・」

 

ちらっと池田と未春が視線を送ってくる。

先日の対戦の様子といい第一回戦での試合の様子といい、秀介の強さを一部だけだが見ている身として不安なのだろう。

が、美穂子はいつもの通りの笑顔。

 

「華菜、吉留さん」

「「は、はい」」

「あなた達のお陰で集まった彼への対策、無駄にならなくて済むわ」

 

それは絶対的自信からこぼれた言葉。

その一言に風越メンバーは安心したように緊張から解放される。

 

「頑張ってきてください、キャプテン」

「ええ、行ってくるわ」

 

部員たちの励ましに、美穂子はやはり笑顔を返して卓に向かうのだった。

 

 

「また強敵が相手だねぇ、須賀君」

「他人事だと思って・・・・・・」

「頑張っていい試合をしてこいよ」

「そりゃ頑張りますけど」

 

そんな会話を交わし、秀介は京太郎の肩をポンポンと叩く。

 

「あの・・・・・・京ちゃん頑張って。

 志野崎先輩も応援してます」

「二人とも頑張れーだじぇ!」

「お、おう、頑張ってくるぜ」

「ん、応援ありがとう」

 

チラッと秀介が和に視線を送るが、和は少しむっとした表情で秀介を無視し、京太郎の前に移る。

 

「頑張ってください」

(和が俺だけを褒めてくれただと!?)

 

ぐっと親指を立てた京太郎には、もはや迷いや不安は無いように見えた。

 

「おう! まかせろ!」

 

和パワーおそるべしである。

 

「シュウ」

「ん?」

 

そんな京太郎の様子を見て笑い、卓に向かおうとした秀介を不意に久が呼び止める。

 

「・・・・・・少しくらいは本気出しなさいよ。

 見ていて分かってるでしょうけど、風越のキャプテンも龍門渕さんも強いのよ」

 

少し頬を膨らませながら秀介にそう言う久。

それを受けて秀介はフッと笑うと、何かを掴むようなしぐさをした後にそれをくいっと捻った。

 

「・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

それを見て久がため息をつくが、他のメンバーには意味が分からない。

 

「・・・・・・今のは何だじぇ?」

「わしも知らん。

 あの様子を見ると部長は知っとるみたいじゃな」

 

優希とまこが首を傾げているのに気づいたのか、久がため息交じりに答える。

 

「んー、そうねぇ・・・・・・」

 

と言ってもそのまま意味を答えてくれるわけではなく。

 

 

「・・・・・・ようやく少しはやる気になったみたいよ」

 

 

そんな返事をしただけだったが。

 

 


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