機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第7話 ローエングリンゲート攻略作戦

ミネルバの次なる目標は連合軍ガルナハン基地のローエングリン砲を陥落する事だ。

目的地であるジブラルタルに向かうにはこのスエズ基地は避けては通れない。

スエズ基地は山道を遮るように建設されており、これを抜けるには大きく迂回するか上空を飛んで跨ぐしかないが、ローエングリン砲がこれを邪魔する。

射程距離の長いローエングリン砲が上空を飛ぶミネルバに砲撃して来られては防ぐ手だてがない。

今後のザフトの作戦行動も考えればここでスエズ基地を破壊する方がやりやすい。

アスランに招集の掛けられたモビルスーツパイロットのシン、レイ、ルナマリアの3人は一緒にミーティングルームへ入った。

ミーティングルームにはまだアスランは来て居らず、ヒイロだけがシートの上に座りながらマニュアルを片手に待って居る。

シンはヒイロの事を睨むようにして隣に立つレイに小さく言う。

 

「アイツ、やけに早いな」

 

「遅れられるよりは良い」

 

「まぁ、そうだけどさ」

 

「次の作戦はこちらから連合の基地へ攻め入るんだ。今までとは違う。雑念は捨てろよ、シン。出来なければ死ぬ事だってある」

 

「わかってるよ。俺はアイツを倒すまでは死ぬ訳には行かないんだ」

 

シンの脳裏にはまだあの時に見たモビルスーツの姿がハッキリ残ってる。

青い翼を持つモビルスーツ。

家族を殺された復讐を成し遂げるまで彼の憎悪が晴れる事はない。

その闘争心を感じたレイはこれ以上は何も言わず設置されたシートの上に座る。

シンとルナマリアも隊長であるアスランが来るまでは待つ他ないので同じ様に座った。

ふとルナマリアは前のシートに座るヒイロが読むマニュアルを後ろから覗き見る。

読んでたのは最新鋭機であるインパルスのマニュアルだ。

 

「何でアンタがそんなの読んでんのよ?」

 

「いずれ必要になる時が来るかもしれない。その時になってからでは遅い」

 

「あぁ、そう。止めはしないけど赤服のシンがやっと支給された機体よ。配属されたばかりのアナタが乗るような事はないと思うけど。インパルスも良いけれどグフの操縦もちゃんとしてくれないと困るわよ」

 

「当然だ。俺はガンダムのパイロットだからな」

 

(ガンダム?)

 

ルナマリアは理解出来ない単語に疑問を持つが、時を同じくして隊長のアスランがミーティングルームに入って来た。

部屋には緊張感が走りさっきまでの会話は頭の隅に押し込みこれからの事に集中する。

4人の前まで来たアスランはファイルを片手に作戦概要の説明を始めた。

 

「スマナイ、艦長との話で少し遅れた。ではこれよりガルナハン基地、ローエングリンゲード突破作戦の詳細を説明する。ガルナハン基地は以前にも現地のレジスタンスが突破を試みたが失敗している。敵との戦力差も勿論あったが、1番の要は敵基地に設置されたローエングリン砲だ。皆も知っての通りアレの直撃を受ければ艦艇と言えども無事では済まない。だが弱点はある。それは連射出来ない、エネルギーチャージに時間が掛かる事だ。敵はその弱点を補う為にモビルスーツ部隊と2機のモビルアーマーを配置させて居る。モビルスーツは既存のモノだがモビルアーマーはデータにない新型が。今スクリーンに映像を映す」

 

言ってアスランが設置されたコンソールパネルに指を伸ばし、シン達の前にあるスクリーンにレジスタンスが突入した時の映像を流す。

資金源もない故に戦力が乏しいレジスタンスが用意したモビルスーツは1番新しいモノでも1世代前の機体。

ビーム兵器は実装されて居らず、敵のウィンダム部隊の前に尽く破壊されて行く。

白兵戦は歯が立たず、長距離からの砲撃を試みるが、結果は1発たりとも敵に届く事はなかった。

連合軍が用意した陽電子リフレクターを搭載した新型モビルアーマー、ゲルズゲーを配備しており強力なバリアによりレジスタンスの攻撃を無効化する。

そうする事でエネルギーチャージまでの時間を稼ぎローエングリン砲で全てをなぎ払う。

 

「見ての通りだ。このモビルアーマーのせいで長距離からの攻撃は通用しない。その為、接近して破壊するしかないのだが渓谷に作られた砲台がどこへ行こうとも狙い撃って来る。周囲に隠れるような場所も存在しない。これを攻略するのが俺達の任務だ」

 

ここまでの説明と映像をヒイロはマニュアルを読む片手間に聞いてただけだ。

一方のシンもアスランを煽るように言葉を続ける。

 

「なら隊長がモビルアーマーを撃破して下さいよ。その間に俺が砲台と基地を攻めますので」

 

「そうだな、俺と他の3人でモビルアーマーは抑える。シンは単独で基地に突入してくれ。当然だが援軍も支援もないぞ。ローエングリンがお前を狙っても自分で何とかしてくれ」

 

「冗談……ですよね?」

 

一瞬、冷や汗を流すシンは恐る恐るアスランに聞き返した。

 

「あぁ、冗談は終わりだ。ローエングリンゲートを突破しガナルハン基地に攻め入る為の作戦はもう考えてある。この周囲には現地人でないと知らない坑道跡が幾つもある。だがモビルスーツでそこを通るのは不可能。そこでコアスプレンダーで谷の坑道跡を通って砲台の裏側に出てローエングリン砲を奇襲する」

 

「やるのは良いですけど、その坑道跡ってのはどんな状況何ですか?」

 

「細かな経路は後で渡す。整備班に頼んで座標データ等は入力して貰った。シンは作戦開始時刻までに進路を頭に入れてくれ。そうしないと坑道跡を抜けるのに時間が掛かる」

 

「どんな所かもわからないのに行けって言うんですか?」

 

嫌味を漏らすシン。

反抗的な態度に表情を険しくするアスランだったが部屋の中にパタンと音が響いた。

全員が視線を向けるとヒイロが読んで居たマニュアルを閉じてシートから立ち上がる。

鋭い視線でシンを睨むとすぐに今度はアスランに向き直り口を開く。

 

「だったら俺がやる。アイツには俺のグフを使わせろ」

 

突然の宣言にシンは驚くと同時にヒイロに食って掛かる。

 

「お前、何言ってんだよ!! そもそもインパルスを動かせないだろ!!」

 

「操縦マニュアルは理解した。問題ない」

 

「マニュアルを読んだだけで出来る訳ないだろ!! だいたい坑道跡って事はコアスプレンダーで行くにしてもかなり狭い筈だ。そんな繊細な操縦技術がお前にあるのか?」

 

「お前には出来ない。俺には出来る」

 

「ナニッ!!」

 

ヒイロの言葉を聞いて頭に血が上るシン。

2人はまたしても一触即発の事態になるが、感情を堪えたシンはアスランに向かって叫ぶ。

 

「インパルスの正規パイロットは俺ですからね!! こんなヤツに任せられるもんか。俺がやります!!」

 

「シン……わかった。コレが坑道跡のデータだ。さっきも言ったが作戦が始まるまでに頭の中へ入れておいてくれ」

 

アスランは上着のポケットから記憶端末を取り出しシンに差し出した。

奪い取るようにソレを持ったシンは1人でミーティングルームから出て行ってしまう。

扉の向こうに行ったのを確認したアスランは次にヒイロに自分の考えを述べた。

 

「ヒイロ、わざとあんな事を言ったな?」

 

「何の事だ?」

 

「とぼけるなよ。やり方はどうかと思うがシンをやる気にさせてくれた。本気でインパルスに乗る気なんてないんだろ?」

 

「俺はそんな回りくどい事をするつもりはない。ここで無駄な時間を使うくらいなら俺が乗る方が早い。それだけだ」

 

言うとヒイロもミーティングルームから出て行ってしまう。

部屋に残る3人。

ルナマリアはレイになるべく小さな声で聞いた。

 

「これが男の友情ってヤツ?」

 

「違うな」

 

ハッキリと言うレイにルナマリアは取り敢えず納得した。

 

///

 

ミーティングが終了して数時間後、ローエングリンゲート及びガルナハン基地攻略作戦が開始された。

戦闘態勢に入るブリッジ。

シートに座るタリアが指示を飛ばすと同時に各クルーが動きミネルバは戦闘へ突入する。

 

「これより作戦を開始します。トリスタン、イゾルデで進路を開きます。メイリン、モビルスーツを順次発進。指揮はアスランに任せます」

 

「了解。ハッチ開放、カタパルトスタンバイ」

 

目前に迫る戦闘。

コアスプレンダーのコクピットシートに座るシンは力強く操縦桿を握る。

 

「こんな作戦、俺1人でやってやる!!」

 

ヒイロに対抗心を燃やすシン。

それは同時に闘士にも繋がり今の集中力はとても高い状態で維持されて居た。

開放されたハッチの向こうに見える景色を見据えて、シンは最後に息を呑んだ。

フルフェイスのヘルメットから通信士のメイリンの声が聞こえて来る。

 

『進路クリアー。コアスプレンダー、発進どうぞ」

 

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!!」

 

コアスプレンダー、続いてチェストフライヤー、レッグフライヤー、シルエットフライヤーがカタパルトから射出される。

ミネルバの進路上から大きく迂回するコアスプレンダーは当初の作戦通りローエングリン砲を奇襲する為に坑道跡に向かい飛ぶ。

モビルスーツデッキからセイバーがカタパルトへ設置され搭乗するアスランが他の3人に指示を出す。

 

「いいか、残った俺達はシンが奇襲を掛けるまで敵のモビルスーツをこちらで引き付ける。ミネルバから離れ過ぎるなよ。セイバー、発進する」

 

背部の両翼を広げて発進するセイバー。

電力が供給され灰色だった装甲が鮮やかな赤に変わる。

 

「ヒイロは俺と前線に向かう。レイは地上部隊、ルナマリアは砲撃と援護を頼む」

 

セイバーの後方に位置する3機のモビルスーツ。

ヒイロのグフはセイバーと横並びになると言われた通りに前線に向かう。

飛行出来ないレイのザクは連合軍の地上部隊を叩く。

 

「ルナマリア、聞こえたな? 地上部隊は俺がやる。支援は任せたぞ」

 

「了解。でも今回も厄介なヤツが居るから気を付けてね」

 

「大丈夫だ」

 

一方のシンも予定通り坑道跡に到着して居た。

 

「これか? 出口までの距離は16、17分から20分以内にここを抜けてローエングリン砲を落とす。こんなの簡単に出来る」

 

データに入力された坑道跡の入り口を見つけたシンは各フライヤーを引き連れて狭い道を進む。

入った先の坑道はまったく光りが届かず完全な闇で視界はまったく見えない。

コアスプレンダーの羽が周囲の岩にかすり火花が飛ぶ。

「ウソだろ!? ヴィーノにわざわざライト付けて貰ったってのに殆ど何も見えないじゃないか!! ミスしたら岩に激突して死んじまう!!」

 

目に頼って何とか先を見ようとうするがコアスプレンダーの底面に岩がまた少し触れてしまう。

コクピットに激しい振動が伝わりシートベルトがキツく体を固定して来る。

 

「クッ!! これならモビルスーツ戦の方がずっと楽だ。アイツに――」

 

ヒイロはこれぐらい自分になら出来ると断言した。

一瞬だけ任せれば良かったと考えてしまうが頭を振りそんな思いをかき消す。

赤服としてインパルスを任されたプライドがシンを奮い立たせる。

目に頼るのを止め、入力されたデータに従い操縦桿を動かしコアスプレンダーを進めて行く。

 

「いや、あんな訳のわからない奴に任せられるか。インパルスのパイロットは俺だ!!」

 

右足でペダルを踏み出口に向けてスピードを上げた。

機体の角度を細かく調整しながら、それでも時折岩と接触しながらも目標であるローエングリン砲に向かう。

 

「クソォォーーー!!」

///

アスランらはローエングリンの防衛部隊と戦闘に入った。

フライトユニットを装着した105ダガーが編成を組んでセイバーとグフの前に立ち塞がる。

ビームライフルを装備する敵は銃口を向け容赦なくビームを発射して来るが、パイロットの技量も相まって機動力と運動性能の高いセイバーは必要最小限の動きで回避した。

 

「ヒイロ、無理に迎撃しなくても良い。インパルスが突入すれば自ずと敵の態勢は崩れる」

 

「了解した」

 

良いならがアスランも敵にビームライフルを向けてトリガーを引く。

量産機とは違う高い威力を持つビームは105ダガーのシールドを吹き飛ばす。

防ぐ手立てが失くなれば撃破するのは容易だった。

連続して放たれるビームライフルに敵パイロットは回避しきれず右脚も破壊されてしまう。

 

『しまっ!?』

 

バランスを崩した機体は制御出来ずに落下してしまうが、握ったビームライフルの照準はまだセイバーを狙ってる。

照準を合わせトリガーを引く。

発射されたビームはセイバーに向かう。

だがアスランの反応はコーディネーターの中でもトップクラスであり、敵の動きは既に見切られて居た。

スラスター制御でビームを回避するとビームライフルの銃口を向ける。

けれどもアスランがトリガーを引くよりも早くに細かなビームの弾が落下する105ダガーに直撃し爆散した。

見るとヒイロのグフが右腕の4連装ビームガンを向けて居る。

 

「ヒイロか?」

 

「敵の数は多い。雑魚に時間は掛けられない」

 

「そうだな。敵の新型モビルアーマーも居る。俺達で仕留めるぞ」

 

シールド裏からテンペストビームソードを引き抜くグフはメインスラスターを吹かし敵陣に突入する。

敵機はビームライフルの銃口をグフに向けるが、以前の戦闘のようにヒイロはビームコーティングの施されたシールドで無理やりにでも防ぐ。

自身に向かって放たれるビームを物ともせず接近すると切っ先を突き刺した。

 

「まずは1機」

 

戦闘不能になった105ダガーを盾にするようにして次の敵を照準に収める。

もう動けないとは言え味方に攻撃する事に躊躇する連合軍兵。

その隙に左手首からスレイヤーウィップを伸ばし敵機のビームライフルを絡めとる。

高周波パルスを流し込みライフル内のエネルギーを爆発させマニピュレーターごと破壊した。

ヒイロは4連装ビームガンを発射しようと操縦桿のトリガーに指を掛けるがセイバーからの援護の方が早い。

発射されたビームが頭部とコクピットを撃ち抜く。

 

「このまま敵を引き付けるぞ。モビルアーマーが優先だ」

 

ヒイロは無言のまま4連装ビームガンのトリガーを引く。

回避行動に映る105ダガー部隊。

だがセイバーとグフの後方からはミネルバからの砲撃が連合軍の機体を狙う。

戦艦から放たれる高出力のビームに敵部隊も簡単には攻め込めず、アスランとヒイロも必要以上には接近しない。

その事に連合軍司令官を薄々感づいて居た。

岸壁の内部に作られた基地の司令部で男は顎に手を添える。

 

「敵の目的は何だ? こちらを誘ってるのか、新兵器でも投入したのか? ローエングリンの照準を敵戦艦に向けろ。発射後はゲルズゲーを展開、エネルギーチャージを急がせろ」

 

「了解。目標、ザフト艦」

 

司令官の一声でシェルターが開放されローエングリン砲がエレベーターで地下から上昇する。

砲身を地上に見せたローエングリンは遥か先のミネルバに狙いを付けると数秒後には赤黒く強力なビームを発射した。

高出力で太いビームは空気を焼き払いミネルバに迫る。

ブリッジのタリアは直ぐ様、指示を飛ばす。

 

「取舵一杯!! メインエンジンの出力最大!!」

 

進路を変更するミネルバの頭上をビームが通過して行く。

直撃は免れたが地上に激突したエネルギーは巨大な爆発を生み激しい振動と衝撃波がミネルバを襲う。

荒野の荒れた大地から砂埃が巻き上がり視界も悪くなる。

タリアは艦長シートにしがみつきながらも前を見た。

 

「くぅっ!! 第2射はすぐには来ない。アーサー、状況は?」

 

「艦に損害ナシ。敵の地上部隊が展開中です!!」

 

「トリスタンで援護攻撃。タンホイザーのチャージを急がせて」

 

「了解しました!!」

 

地上で戦うレイとルナマリアにも緊張が走る。

砂煙で視界が悪くなる中で連合軍はリニアガン・タンクとダガーLを迎撃に向かわせる。

 

「モビルスーツの数は8。なら、やりようはある」

 

レイはスラスター前部のミサイルポッドを展開させると迫る敵陣に目掛けて全弾発射した。

ミサイルの雨に対してダガーLは着弾する前に撃ち落とそうと頭部機関砲を連射し撃ち落とそうとするが、レイは構えたビームライフルのスコープで正確にコクピットに照準を合わせる。

飛来するミサイルか爆発し空が爆音に包まれ炎と化す。

けれどもその隙に1発のビームがダガーLを狙撃する。

正面と空からの同時攻撃。

ダガーLはミサイルを避ける為に後方へ下がるか、直撃する前に撃ち落とすかシールドで防ぐしかない。

だが後者の場合は正面からザクのビーム攻撃も待ち構えて居る。

対応出来なかったパイロットの機体にはミサイルの1発が直撃した。

 

『ぐあぁっ!! メインカメラが!?』

 

『慌てるな!! ミサイルはこの1回だけだ。編成を立て直しさえすれば――』

 

頭部を失ったダガーLはまたもレイのザクにコクピットを撃ち抜かれる。

力を失くした機体は何も出来ず荒野に倒れた。

ブレイズ・ザクのミサイルポッドに搭載されるミサイルの数は30発。

ミサイルを使い切ったのを読み取った指揮官はまずはこの場を耐えようと考えた。

だが次には高出力のビームが連合軍部隊を分断させて来る。

レイのザクの後方からガナー・ザクがオルトロスを両手に構えビームを照射した。

敵機を狙い撃ち分断するだけでなく、荒野の地面をビームが直撃する事で砂煙が舞い上がり視界は絶望的に悪くなる。

横に薙ぎ払われた照射ビームに指揮官のダガーLが飲み込まれた。

機体は爆散し黒煙が上がる。

 

「1機撃墜を確認。レイ、10秒後にミネルバから援護射撃」

 

「こちらでも確認した。一時後退、その後もう1度攻め込むぞ!!」

 

「了解!!」

 

味方の攻撃に当たらぬようにレイとルナマリアは一旦距離を離す。

視界の悪い状況で連合の地上部隊は手当たり次第に前方に向かってビームライフルのトリガーを引きながら後退して行く。

だがミネルバの砲撃距離はモビルスーツよりも長く、地上部隊は壊滅的に追い込まれてしまう。

 

「作戦開始から12分経過。敵モビルアーマーを2機確認。前と同じで陽電子リフレクターを搭載したタイプだ。こちらからでは手が出せない」

 

「隊長とヒイロの援護に回るしかないわね。時間通りに来なかったら恨むわよ、シン!!」

 

ザムザザーと同じく陽電子リフレクターを搭載したモビルアーマー、ゲルズゲーが2機発進した。

ストライクダガーの上半身と6本の脚、その姿はさながら半虫半人。

防御力は非常に高いがザムザザーとの違いは攻撃力にある。

両手に標準的なビームライフルと頭部機関砲、腹部にビーム砲を備えるが接近戦ではまったくと言っていい程戦えない。

ゲルズゲーの姿を確認したアスランとヒイロは前に出る。

 

「よし、目標のモビルアーマーを確認した。ヒイロ、今は無理に攻める必要はない。タイムリミットまで5分を切った。インパルス突入に合わせてこちらも好戦に出る」

 

「了解した。敵モビルアーマーを引き付ける」

 

ヒイロのグフの唯一の射撃武器である4連装ビームガンでゲルズゲーを撃つ。

だが展開された陽電子リフレクターにビームは全て無効化されてしまう。

 

『ザフトのモビルスーツが4機。1機は攻撃を続けて来ます』

 

『リフレクターは展開したまま先に空の敵を叩く。地上戦力は後でどうとでもなる。ローエングリンのエネルギーチャージが終われば艦艇も潰す』

 

2機のゲルズゲーは両手に構えるビームライフルの銃口をグフに向けトリガーを引く。

ヒイロは発射されるビームに回避行動を取りながらも距離は一定を保ちつつ4連装ビームガンの攻撃も止めない。

セイバーも同様にビームライフルを向け無駄とわかりつつもビームを発射した。

当然セイバーとグフの攻撃は一切通らない。

 

「わかってはいるが無駄だとわかってる事をするのは辛いモノがあるな」

 

「バッテリー残量はまだ充分にある。的を狙う訓練くらいにはなる」

 

「そうかもな。後はシンに任せるしかない!! 被弾はするなよ」

 

「余裕で出来る」

 

2人は当初の作戦通りモビルアーマーを基地から引き離すべく無理に戦わない。

シンが坑道跡を抜けてローエングリン砲に奇襲を掛けるまでの時間は残り僅か。

 

///

 

シンはデータが示すルートに従いひたすら進んだ。

コアスプレンダーのボディーを岩に擦り付ける事はあっても正面衝突して動けなくなる事はない。

ライトも役に立たず一切の光りが届かぬ道無き道を進み続け17分。

目の前には何も見えない黒一色だがデータ状は出口に差し掛かった。

 

「ここが出口なのか? それなら!!」」

 

コアスプレンダーの両翼に装備されてるミサイルを照準も付けずに全弾発射した。

闇だった空間に爆発が起こり岸壁が崩れ去る。

太陽の光りが差し込み長かった坑道跡の出口がようやく見れた。

 

「行っけぇぇぇ!!」

 

コアスプレンダーは外に出た。

同時に引き連れてきた各フライヤーとドッキングしモビルスーツに合体する。

灰色の装甲が鮮やかなトリコロールに変わったインパルスがローエングリン砲のすぐ真裏に現れた。

 

「ローエングリンは?」

『敵反応? すぐ後ろだと!?』

 

『データに該当アリ。ザフトの新型か!!』

 

周囲を見渡すシンは最終目標であるローエングリン砲を探すが防衛部隊もインパルスに目を付ける。

4機のストライクダガーがローエングリン砲を死守しようと壁を作るがそのお陰で位置がすぐにわかった。

ペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射する。

接近と同時にビームライフルのトリガーを引きストライクダガーに照準を合わせた。

自身に発射されるビームはシールドで防ぎながらトリガーを引く。

ビームはストライクダガーが構えるシールドを吹き飛ばし、その隙を付いてコクピットを撃ち抜く。

だが奇襲に気が付いた連合軍は直ぐ様ローエングリン砲を地下シェルターに格納しようとする。

エネルギー供給ケーブルを切り離しエレベーターでローエングリン砲が地下で移動してしまう。

 

「くっ!! 時間がない!! こうなったら!!」

 

ビームライフルを腰部へマウントさせるとメインスラスターを全開にして被弾も覚悟で突っ込んだ。

飛来するビームの1発がバックパックの右翼が撃ち抜ぬきバランスが崩れる。

 

「そのまま突っ込めぇぇぇ!!」

 

加速するインパルスはビームの中をくぐり抜けストライクダガーに組み付いた。

激しい衝撃がコクピットにまで伝わる。

ストライクダガーを連れたまま地下に移動しようとするローエングリン砲にぶち当たる。

バックパックからビームサーベルを引き抜きインパルスは切っ先をコクピットに突き刺す。

 

「離脱する」

 

インパルスは再びビームライフルを握りローエングリン砲から飛ぶ。

ビームサーベルを突き刺されたストライクダガーは誘爆する。

爆発に巻き込まれ目標であるローエングリン砲は陥落し、同時に地下に作られた基地にも被害が及ぶ。

内部から次々に爆発が起こり地形も変わる。

バランスが不安定ながらも飛ぶインパルスはミネルバに合流すべくメインスラスターを吹かす。

 

「メイリン、ソードシルエット射出!!」

 

『了解。座標位置確認、ソードシルエット射出します』

 

///

 

アスランはインパルスがローエングリン砲を破壊してミネルバに向かって来るのを確認する。

作戦が成功した事で残りは目の前のモビルアーマーを倒すだけ。

 

「ヒイロ、作戦は成功だ。モビルアーマーを落とす」

 

「了解、敵機を撃破する」

 

テンペストビームソードを握るグフは一気にザムザザーに接近する。

ビームはシールドで防ぎメインスラスターを全開。

接近されれば陽電子リフレクターを使ってもどうする事も出来ず、テンペストビームソードで横一閃するとビームライフルを分断させる。

すかさずセイバーが間に割って入り胸部にビームサーベルを突き刺した。

装甲が高熱で赤く発光しザムザザーの上半身に風穴が開く。

 

「さすがだな、ヒイロ。俺には真似出来そうにない」

 

「慣れれば誰にでも出来る」

 

「俺からしたらお前の動きは強引過ぎる。被弾が怖くないのか?」

 

「死ななければ戦える。それを見極めてるだけだ」

 

動かなくなったザムザザーは地上へ落下しクモのような6本脚があらぬ方向にへし曲がった状態で横たわる。

もう1機のゲルズゲーに向かってヒイロはテンペストビームソード1本でまたも先行した。

目の前で一瞬にして味方が倒された所を見て搭乗するパイロットは驚愕する。

 

『近づかれたら陽電子リフレクターは使えない!! 何としても撃ち落とせ!!』

 

『き、来ます!!』

 

両手のビームライフルで接近するグフを狙うがモビルスーツとモビルアーマーでは運動性能が違い過ぎる。

ビームはグフが通り過ぎた後ろに流れて行き簡単に懐にまで接近した。

前足を薙ぎ払い、振り下ろした剣は右肩を切断する。

そのまま上半身へ切っ先を突き立てようとするが腹部ビーム砲がグフの左足を撃つ。

足首から先が失くなってしまい姿勢制御のバランスも崩れる。

 

「くっ!!」

 

「ヒイロ!! 敵は逃げるつもりか?」

 

攻撃が止まった僅かな間にゲルズゲーは戦場からの離脱を試みた。

セイバーは逃がすまいとビームサーベルを握り接近しようとする。

 

『今の内に離脱しろ!! この基地はもうダメだ』

 

頭部機関砲とビームライフルで牽制しセイバーとグフが近づきにくい状況を作る。

アスランでも回避行動を取りながらやシールドで防ぎながら敵に近づくのは難しい。

陽電子リフレクターを展開した相手に射撃は通用せず、距離を離して行く敵影にただ見る事しか出来なかった。

 

『よし、ここまで来れば――』

 

「インパルスの攻撃が届く!!」

 

ゲルズゲーの背後から換装したソードインパルスが迫る。

連結させたエクスカリバーを大きく振り下ろしゲルズゲーを一振りで真っ二つに分断した。

半分にされた機体もまた動く事は不可能になり地上に向かって落下する。

2機のモビルアーマーを最後にガルナハン基地に置ける連合軍の戦力はほぼ壊滅した。

 

「へへっ、隊長にばかり良い思いはさせませんよ。俺はあのクソ狭い坑道をやっと抜けて来たんですからね」

 

「シンになら出来ると思ったから任せた。作戦は成功したろ?」

 

「本当は自分がやりたくなかっただけなんじゃないですか?」

 

「だったらヒイロに任せた方が良かったかな?」

 

「冗談ですよ。インパルスのパイロットは俺ですからね」

 

「わかってる。モビルスーツ隊聞こえるな。作戦終了、全機ミネルバに帰還しろ」

 

ガルナハン基地を突破した事でミネルバは最短距離でジブラルタルに向かう事が出来る。

また1つ、連合軍の地球圏の戦力範囲は狭くなった。




次の話でミーア・キャンベルが登場します。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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