機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第6話 衝突

レーダーからアビスの反応がロストする。

脱出装置は機能して居らず、それは機体が破壊された事を意味し同時にパイロットのアウルが戦死した事を意味した。

マスクで隠れたネオの表情は見えない。

 

「アウル……馬鹿野郎が!!」

 

操縦桿を固く握りしめるネオは前線から撤退する。

ネオの撤退命令を受けて連合軍の部隊は全機前線から離脱した。

海上にはミネルバと発進したモビルスーツしか居ない。

インド洋前線基地で待機してたステラは空を見上げると、目の前に見える青い機体に憎悪を抱く。

 

「アウルが居ない……アウルが……アウルが……うあああぁぁぁ!!」

 

感情的になるステラはペダルを踏み込みメインスラスターで機体を加速させ飛び出して行ってしまう。

その様子はインパルスに搭乗するシンにも見えた。

 

「レーダーに反応、アレはガイアか? よし!!」

 

シンは奪われたガイアを撃破しようと戦線近くの陸上に向かってインパルスを飛ばす。

モビルスーツ部隊の指揮を執るアスランは単独で先行するシンを通信で呼び止めた。

 

『シン、前に出過ぎだ。敵の陽動かもしれない』

 

「相手は1機ですよ。性能は互角、負ける筈ない」

 

『何か仕掛けてる可能性だってある。単独行動は危険だ』

 

(偉そうに。前大戦の英雄だかなんだか知らないけど、満足に戦えもしないヤツに言われて溜まるか)

 

シンはアスランの声を無視して迫るガイアに向かう。

地上は林に囲まれてるが障害物は少ない。

空を飛べないガイアにインパルスは上空からビームライフルの銃口を向ける。

 

「機体を奪われたままで居られるか。必ず落としてやる!!」

 

『お前らがぁぁぁ!!』

 

発射されたビームは地面へ直撃し大きな土煙を上げる。

ガイアはモビルアーマー形態へ変形し犬のようなフォルムに変わると、迫るビームの襲撃を振り払う。

変形したガイアの機動力と運動性能はモビルスーツよりも高い。

何発も発射されるビームはすべてガイアの後方に直撃し激しい轟音が響く。

 

「コイツ、早い!!」

 

『落とす!!』

 

瞬時にモビルスーツに変形したガイアはビームライフルの銃口をインパルスに向けた。

激高してるステラだが訓練された戦闘技術と集中力は凄まじく、正確な照準はインパルスを捉える。

有利な状況での戦闘に油断がなかっとは言い切れず、発射されたビームに反応するのが遅れてしまいバックパックの左翼を破壊した。

黒煙を上げるインパルスはバランスを崩し空中で上手く動けない。

 

「しまった!? こうなったら接近戦で!!」

 

飛べなくなったインパルスはビームサーベルを引き抜きガイアが待ち受ける陸上へ着陸する。

対するガイアもビームライフルを腰部へマウントさせ、サイドスカートからビームサーベルを引き抜く。

敵を目の前にしたステラは酷く興奮しており力任せに操縦桿を動かした。

 

『落とす……落とす!! うあああぁぁぁ!!』

 

「やってやる!!」

 

走るガイア、インパルスは胸部チェーンガンを連射して牽制した。

インパルスと同じVPS装甲のガイアに実弾兵器は通用しない。

それでも普通のパイロットなら自身が搭乗する機体に攻撃が直撃する事に動揺したりするモノだが、ステラの精神状態は目の前の敵を倒す事しか考えて居らずわずかな動揺もなかった。

弾丸は全て跳ね返され地面に落ちる。

ガイアは接近した所でビームサーベルを振りかぶった。

空気を焼き払いながら切っ先は青い胸部装甲を焦がす。

寸前で脚を引いたインパルス。

握るビームサーベルを相手のコクピットへ突き立てるが、腕を掴まれるとその動きを止められてしまう。

ガイアもまたビームサーベルをインパルスに突き立てる。

 

「コイツ、強い!!」

 

相手の力量に舌を巻くシン。

ビームコーティングされたシールドでガイアの攻撃をなんとか受け止める。

シールドはビームエネルギーを反発し激しい閃光となり両者を照らす。

 

『うぅ、あああぁぁぁ!!』

 

ステラは右手に握る操縦桿を力の限り押し込みシールドを貫こうとするが、それよりも早くにインパルスの膝蹴りがガイアを襲う。

股関節部分を思い切り叩き付けられガイアは背面から地面に倒れた。

 

「これならどうだ? まだ動くか」

 

『左脚がうまく動かない。変形出来ない?』

 

装甲に覆われてない間接部には攻撃がダイレクトに伝わる。

ガイアの左脚はフレームが歪んでしまいモビルアーマー形態に変形出来なくなってしまう。

地上戦で脚部の反応が悪くなるのは致命的で状況は圧倒的に不利だ。

ステラは悔しさに血が滲むまで唇を噛み締め憎悪の眼差しを向けるが、そこにネオから通信が入って来る。

 

『ステラ、聞こえるか!! 撤退するんだ!!』

 

『ネオ……アウルが居ないの。帰って来ないの!!』

 

『とにかく今は逃げるんだ!! 俺とスティングはまだここに居る!!』

 

『でも……でも……』

 

『ステラはよくやったさ。お前まで居なくなったら俺はどうすれば良い? さぁ、戻るんだ』

 

『うん……わかった』

 

左脚部が上手く動かないガイアはメインスラスターを吹かすとその場からジャンプした。

 

「逃げるのか!? クッ!!」

 

シンは逃がすまいとビームサーベルを振り下ろしたがもう遅く切っ先は地面にぶつかるだけだ

ガイアはバッタの様に地面を蹴ると同時にメインスラスターを吹かして飛距離を伸ばしながら戦闘領域から離脱してしまう。

追い掛けてもバックパックが損傷したインパルスでは追いつく確証はなく、シンは小さくなって行く後ろ姿を見るしか出来ない。

 

「また逃げられたのか、クソッ!! ん、レーダーに反応? これは……」

 

インパルスのツインアイが見た先。

コクピットの戦闘画面に映るのは建造中の連合軍基地。

カーペンタリア基地とも距離が近く、このまま建造されてはザフトにとって脅威になる。

だがシンの目に焼き付く光景のせいでそんな事は考えられなかった。

基地内部では民間人までもが労働に加えられており、連合軍兵士にライフルの銃口を突き付けられながら作業を進めて居る。

けれどもインパルスが現れた事により作業どころではなく助かりたい一心で逃げ出すモノも大勢居た。

連合軍の兵士は逃げ出す民間人に向かって容赦なく銃弾を浴びせる。

怒号と悲鳴が交じり合い周囲は血に染まった。

為す術なく殺される民間人を見てシンは見過ごす事は出来ない。

 

「お前ら……やめろぉぉぉ!!」

 

基地へ足を踏み入れるインパルス。

防衛戦力は先程の戦闘で使い果たしておりインパルスに太刀打ち出来ない。

あるのは固定された対空機関砲か歩兵だけ。

ビーム兵器でなければVPS装甲は貫く事は出来ず状況は一方的だった。

 

「む、無理だ。撤退!! 撤退!!」

 

「現時間を持ってインド洋前線基地を放棄する。各員は自身の判断で行動しろ」

 

「ザフトのモビルスーツが来る!?」

 

チェーンガンで対空機関砲を破壊し歩兵も1撃で吹き飛ばす。

基地の至る所で爆発が起こり連合軍兵士は一目散に逃げ出した。

抵抗するだけの力はもう相手にないがそれでもシンは攻撃を止めない。

その現場に合流するアスランとヒイロ。

一方的に攻撃するインパルスの姿を見たアスランはシンに通信を繋げると声を上げた。

 

『シン、やめろ!! もうこの基地には戦闘能力はない』

 

「でもコイツラは民間人を虐殺したんですよ!!」

 

『それでも無抵抗な相手を攻撃しては連合軍と同じだ!!』

 

アスランは必死に呼び掛けるがインパルスが攻撃を止める事はない。

ジッと様子を見てたヒイロはペダルを踏み込みバーニアを吹かすと一気にインパルスに近づいた。

右手にはビームの発生してないテンペストビームソードが握られて居る。

基地に向かってチェーンガンを発射するインパルスに対してヒイロは無言のまま近寄ると、ビームを発生させずにテンペストビームソードで斬り掛かった。

突然の出来事にシンも反応が遅れてしまいインパルスは胴体に斬撃を受けると仰向けに倒れてしまう。

 

「ぐっ!? 何をするんだ、お前!!」

 

「作戦に支障を来たす存在は邪魔なだけだ」

 

「邪魔だと? 俺はここに囚われてる人を助けただけだ!!」

 

自らの言い分を叫ぶシン。

それを聞いたヒイロは倒れたインパルスのコクピットにビームソードを突き付ける。

張り詰めた空気が漂いシンは額に汗を滲ませた。

互いに引くつもりのない両者の間にアスランは強引に割って入る。

『ヒイロ、何をしてるんだ!!』

 

アスランは通信越しに叫ぶがヒイロは顔色ひとつ変えていない。

コンソールパネルに指を伸ばすとアスランに返事を返した。

 

「お前がモタモタしてるからだ。言ってもわからないのならこうした方が早い」

『だが……』

 

「言いたい事は後にしろ。ミネルバから帰還命令が送られた。早くここから撤退するのが先だ」

 

隊長であるアスランを威圧するような態度で言葉を発するヒイロ。

アスランは言い返す事が出来ず緊迫した状況が続いてしまう。

味方に攻撃され、言い分を跳ね返されたシンは苛立ち更に声を上げた。

 

「俺は間違った事はしてない!!」

 

「そうか……」

 

グフが握る右手のソードがらビームが発生する。

切っ先がコクピット部分に触れるか触れないかの位置でこのまま突き刺されたらパイロットは即死。

逃げる事も防ぐ事も出来ない。

ビームはジリジリと空気を焼く。

 

「っ!! 本気なのかよ!?」

 

『ヒイロ、止めるんだ!!』

 

叫ぶアスランはビームライフルの銃口をグフに向ける。

ヒイロはチラリと横目で見るだけでテンペストビームソードを収める気配はない。

 

『これ以上するならお前を撃つ。武器を収めてミネルバに帰還しろ』

 

「了解した。作戦終了、ミネルバに帰艦する」

 

言うとインパルスからビームソードを引き、メインスラスターから青白い炎を噴射するグフは飛び上がりミネルバに向かって飛んだ。

アスランのセイバーもビームライフルを引き、シンはコクピットの中で飛んで行くグフを赤い瞳で睨み付ける。

 

///

 

何とか激戦を潜り抜けたモビルスーツはミネルバのモビルスーツデッキに戻る。

グフも帰還すると同時に整備が始まり消耗したバッテリー電力や推進剤の補充が行われた。

ヘルメットを脱ぎハッチを開放させるヒイロは何もなかったかのようにデッキの上に降りる。

パイロットの仕事は終わったがミネルバの他のクルーはまだ慌ただしく動いており余裕がある状態ではない。

ヒイロはそんな事は気にせず自室に戻ろうと歩き出すがそこに激怒するシンが走って来た。

事情を知らない整備兵のヴィーノは彼の姿を見つけると戦果を祝おうと呼び掛ける。

 

「おっ!! シン、今回も凄かった――」

 

今のシンにはヴィーノの声は耳に入らず、すぐ先に居るヒイロの事しか見えてない。

ヴィーノに肩をぶつけ言葉を塞ぎながらも手が届く距離まで来ると、シンはヒイロの胸ぐらを掴み上げ怒りを爆発させる。

 

「オイ!! 味方に攻撃するなんてどういう事だ!!」

「あの場ではアレが最善の方法だと判断したまでだ」

 

「ふざけるな!! そんなの理由になるか!!」

 

シンの怒号はモビルスーツデッキ全体に響き渡る程大きく、他のクルーも2人の争いに気が付き始め視線が集まる。

眉1つ動かさないヒイロは冷静にシンの言い分を覆すだけた。

 

「基地破壊は作戦行動に含まれていない。お前のやったことは無意味だ」

 

「違う!! あそこには民間人が囚われてたんだ。俺はそれを助けたかっただけだ!!」

 

「ザフトと連合は緊張状態にある。必要以上の戦火拡大は相手に付け入られる口実を与える」

 

「だったら虐殺されるのを黙って見てれば良かったのか!!」

 

「そうだ」

 

「お前っ!!」

 

怒りが頂点に来たシンは拳を握り力を込めた。

周囲では時間と共に人ごみが増える中、セイバーのコクピットから降りてきたアスランはシンが振り上げた拳を掴み声を上げる。

 

「いい加減にしないか!! 」

 

「アス……ラン……」

 

「シン、なぜ指示に従わなかった? 俺の声は届いた筈だ」

「同じ事を言わせないで下さい。俺はあの基地の民間人を助けたかっただけだ。まさかアンタまで見捨てろ、なんて事言わないですよね?」

 

煽るように言い返すシン、モビルスーツデッキに鈍い音が響く。

左頬は殴られた痕で少し赤くなる。

 

「自分勝手な考えでモビルスーツに乗るな!! アレだけの兵器なら連合軍がやった事と同じ事だって出来るんだ。力と責任を託された事を自覚しろ!! ヒイロもだ!! どんな状況でも味方を攻撃するような事はするな!!」

 

納得がいかないシンはアスランを睨み付けるがヒイロは顔色ひとつ変えない。

「了解した」

 

一言そう言うとヒイロは背を向けて自室に向かい歩き出した。

残されたシンもいつまでもこうしてる訳にも行かず悪態を付きながらもモビルスーツデッキから去る。

 

「わかりましたよ、命令には従います。では失礼します」

ようやく静かになった所で集まったクルー達も各自の仕事に戻って行く。

アスランはシンを殴る事でしか従わせる事が出来なかった自身の力不足に苦悩する。

その様子を遠目で眺めてたルナマリアは聞かれないように小さく呟いた。

 

「こんなんでやって行けんのかしら?」

///

 

潮風が流れるペルシャ湾。

ミネルバは命令であるジブラルタル基地支援に向かう為、中継ポイントでもあるマハムール基地へ入港する。

補給に備え各自がモビルスーツでその準備をして居るが、ヒイロだけはモビルスーツを二の次にして整備兵のヨウランの所に来て居た。

以前の戦闘で感じたグフ・イグナイテッド使い勝手を改善して貰う為に相談を持ち掛ける。

 

「話がある。このモビルスーツに別の武器を持たせる事は出来るか?」

 

「グフは凡庸性の高い機体だからな。ある程度は応用が効くぞ。どんなのを使いたい? 火力を上げたいならフライトユニットにビームガトリング砲とかザクのミサイルランチャーを搭載出来る」

 

「これ以上機体が重くなると動かしにくい」

 

「そうか、ならどうする?」

 

「テンペストビームソード、あれでは攻撃した時に機体の重心がぶれる。出来ればビームサーベルの方が使いやすい」

「ビームサーベルか……ソイツは中々難しいぞ」

「インパルスのフォースシルエットのビームサーベルが余っているはずだ。アレで良い」

 

「それは無理だ、ジェネレーターの出力が違うからグフでは使えない。それにインパルスはセカンドシリーズ、最新鋭機体だ。たかがビームサーベル1本って思うかもしれないが、俺の独断でそんなことは出来ないよ」

 

「そうか、邪魔したな」

 

要望が通らず諦めたヒイロは用のないモビルスーツデッキから出て行く。

ヨウランは背を向けるヒイロの姿を少しだけ眺めると思い出したように自分の仕事へ戻った。

次の作戦の為にセイバー、インパルス、ザクを完璧に仕上げる必要がある。

 

(それにしてもビームサーベルがそんなに良いのか? 俺ならビームライフルとか射撃武器を充実させるけどな。まぁ、戦場で戦うパイロットの気持ちまではわからないか)

 

コアスプレンダーのコクピットシートに座るシンも今までの戦闘データをまとめてコンピューターに読み込ませて居た。

情報を蓄積させる事で次のモビルスーツ開発にも繋がるしシンが使いやすくなるように機体にも癖が付く。

データが読み込まれるのを待つだけなのでシートの上でジッと待つだけだったが、そこに同僚のルナマリアが来ると足場を登りコクピットを覗き込む。

 

「よっと!! 何してんの?」

 

「ルナか。別に、データを更新してるだけだよ」

 

「ふ~ん、こうなってるんだ。ソレよりも隊長とヒイロ、あれから話はしたの?」

 

「いや……してない」

その返事を聞いてルナマリアは呆れてため息を吐いた。

 

「あのねぇ、子どもじゃないんだから。いつまでもその調子だとこっちまで気まずくなるんだから」

 

「わかってるよ」

 

「わかってないから今みたいになってるんでしょ? また作戦も始まるんだからこのままだと困るんだけど」

 

ルナマリアの言う事に言い返す事が出来ないシンは目線を反らして口を閉ざすしか出来ない。

 

「隊長は自室に居るってメイリンから聞いたから、ちゃんと会って話した方が良いわよ。データ更新くらいアタシがやるから」

 

「あぁ、行けば良いんだろ。行けば!!」

 

立ち上がるシンはコアスプレンダーのコクピットから飛び降りると、言われたようにアスランに会う為に居住ブロックに向かって歩く。

1人になったルナマリアは空になったシートに座り作業が終わるのを待った。

 

「まったく世話が焼けるんだから。って、データ更新終わってるじゃない」

 

居住ブロックにまで来たシンはアスランの部屋を目指して通路を歩く。

ミネルバの整備作業に忙しくて居住ブロックには殆ど誰も居ない。

シンは自分しか居ない通路を歩き続けてると曲がり角から赤い制服に身を包んだ人物が現れた。

 

「隊長……」

 

「シンか、どうした? もしかして前の事をまだ引きずってるのか?」

 

「っ!?」

 

考えてた事をすぐに見抜かれてしまった事でシンの表情に動揺が走る。

アスランもその事に気が付いており、前置きはナシにして本題に入った。

 

「俺の事が気に入らないか? オーブ現代表の護衛をしてた筈が今はザフトでFAITHにも選ばれて」

 

「関係ありません。これからはちゃんと命令には従いますよ」

 

「突っ掛かる言い方しかしないな、キミは」

 

「だってそうでしょ? いきなり全部を受け入れるなんて俺には出来ません。アナタのやろうとしてる事が俺にはわかりません」

 

「だからインド洋の時も俺の指示は聞かなかったのか? 俺の事が気に食わないから」

 

「それは……」

 

シンはまた言葉に詰まる。

アスランの事が気に入らないと態度で示す事は出来ても真正面から言葉に出来る程無神経ではない。

次に出す言葉が思い浮かばぬまま、アスランが話を続けて来た。

 

「キミの家族は前の戦争で亡くなったと聞いた。だからザフトに入ったのか?」

 

「そうです。力があれば誰かを助ける事が出来る。もう無力で何も出来ないのは嫌なんです」

 

シンが語るのは全てではない。

オーブで家族を失ったシンは戦火を広げたアスハを恨んだし、その時に目にした青い翼を持つモビルスーツの事は今でも鮮明に思い出せる。

家族の敵を取る為、シンがザフトに入隊した1番の理由はソレだ。

 

「前にも言ったが力には責任が伴う。モビルスーツが1機あれば何千人と人を殺す事だって出来るんだ」

 

「わかってますよ」

 

「ザフトは正式には軍ではないが、命令に従って戦うと言う点で見れば同じだ。もう暫くしたらまたミネルバも出港する。敵戦力と戦う事にもなる。さっき言った事は忘れるなよ」

 

「はい。でも1つだけ聞かせて下さい。俺がした事は本当に間違いだったんですか?」

 

「命令違反、規則として見たらキミの行動は間違ってた。事は政治にも関与してる。軽率な行動と言わざるを得ない。けれどもキミは言った、誰かを助けたいと。助ける為にやったと。その感情は絶対に忘れてはダメだ」

 

「は、はい!!」

 

「そうだ。インパルスの正規パイロットとして俺はキミの技術を認めてる。次の作戦でも頼むぞ」

 

そう言うとアスランはどこかに向かって歩いて行ってしまう。

複雑な心境だったシンの心は少しだけ晴れやかになる。

けれどもアスランにはまだ心配事が残ってた。

 

(後はヒイロを何とか出来れば良いんだがソレも難しそうだな。早く話を付ける必要はあるが、まずは次の作戦が先だ。連合のスエズ基地、ローエングリン砲をどう攻略する……)

 

険しい表情になりながらも進むアスラン。

スエズ基地攻略作戦までの時間はあまり残されてない。




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