機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼 作:K-15
この作品を読んでくださる皆様のお陰です。
ありがとうございました。
地球と宇宙。
変革が進みつつあるこの両者の間でアスラン・ザラは自らがやるべき事が何なのかを悩んで居た。
コーディネーターとして産まれプラントで育った彼は2年前の大戦でザフト軍に入隊する。
そして友人であるキラ・ヤマトと戦場で再会し、共に仲間を失った。
両者の戦いは泥沼化して行きプラントにも連合にも正義はないと考えたアスランはキラと行動を共にし長きに渡る戦争を終わらせる。
多くの犠牲を払いながらもようやく手にする事の出来た平和。
でもそれも長くは続かず今もまた地球と宇宙は緊張状態にある。
ミネルバがオーブ領海から連合軍部隊の攻撃を潜り抜けた翌日、彼は近場のビジネスホテルの一室で身の振り方を決断した。
(俺はプラントの人間だ。この戦い、連合の一方的な攻撃だ。出来る事なら血を流さず話し合いによる解決を目指したいが現状でソレは無理だ。だとすれば俺はザフトに戻るしかない。でも、今のオーブは大西洋連邦と同盟を結んだ。俺がザフトに戻ればオーブと戦う場面もいつかは必ず来る。俺は……)
自問自答して何分も経過したが答えが導き出される事はなかった。
悩みながらもアスランは立ち上がると部屋に備え付けられた電話の受話器を手に取る。
ボタンを押して繋げるのはオーブの専用回線。
数秒後、耳に当てた受話器から聞こえて来たのは彼女の声。
『もしもし、誰だ?』
「アスランだ。急に電話してスマナイ」
『アスランか!! いや、仕事も一段落したし大丈夫だぞ』
「そうか。なぁ、カガリ。キミはこれからのオーブをどうするつもりだ?」
『アスラン……』
気分が高揚してたカガリの声が途端に小さくなる。
アスランも彼女の複雑な事情を考慮して言葉を選びながら声を出す。
「今の情勢で大西洋連邦と同盟を結ぶと言う事はプラントと敵対すると言う事だ。今はまだプラントも自主防衛で精一杯だし、連合もザフトの抵抗で思うような結果にはならなかった筈だ。だからまだ大規模な戦闘にはなってないが、いずれはオーブも連合の戦力として担ぎ出される時が来る。その時、カガリはどんな判断をするつもりだ?」
『私は……オーブ連合首長国の代表だ。私がやるべき事はこの国と国民を守る事だ。ハッキリ言って私は議会に出席しても他の議員に舐められてる。こんな子どもの声なんてちゃんと聞いてくれない。でも……それでも私は代表なんだ!! だから私は逃げる訳にはいかない。それにここでオドオドしてるようでは他の氏族に代表を奪われる事にもなりかねない。父上が理想とした国、私が理想とするオーブにするには私が代表を務めるしかない。だから――』
「わかった。その言葉が聞けただけでも充分だ」
カガリも昔と比べて変わりつつあった。
父の死を看取り、世界が動く様を見た彼女はオーブの代表の座に就いたが政治に関してはまだまだ未熟としか言えない。
それでも辞めようと思えば辞められる代表を続けるのは父の意思を受け取ったから。
何よりも彼女がこの国を愛してるからに他ならない。
それを感じ取ったアスランも決意を固める。
「カガリ、俺はザフトに戻る。連合軍が一方的にプラントへ攻め入る以上、こちらも無抵抗にやられるつもりはない」
『アスラン……』
「立場上は敵対する事になってしまう。けれども俺はいつでもカガリの事を思ってる。だからカガリはカガリのやるべき事をやるんだ。俺は俺でやれる事をやる」
『わかった』
それだけ言うとカガリは電話を切った。
アスランも受話器を元の場所へ戻し、滞在してたこのビジネスホテルを後にする。
再びザフトに入隊する以上はいつまでもオーブに居る事は出来ない。
目指すのはオーブを出たミネルバが向かうカーペンタリア基地。
///
連合軍との戦闘で負傷したミネルバは大規模なハンガーが設備されてるカーペンタリア基地に入港して整備を受けて居た。
弾薬や燃料の補充、損傷箇所の修理、食料や医療品など様々である。
地上に置けるザフトの重要な軍事基地でもあるカーペンタリアの守りは固く連合軍が攻め入る可能性も現状では限りなく低い。
ミネルバのクルーは修理と補給が終わる短い時間ではあるがつかの間の休息を得る。
それから数日、ミネルバにはパイロットの増員が言い渡され『FAITH』としてアスラン・ザラが合流した。
新型のモビルスーツ、セイバーも導入されミネルバの戦力は増大する。
けれどもその影で秘密裏に動く男の姿。
ヒイロは居住区の一室に潜入していた。
真っ暗な部屋の中では気絶して居るザフト軍の兵士が1人横たわる。
部屋に備え付けられたパソコンの画面を見つめながら淡々とキーボードを叩く。
「認識番号11092、登録者名マーティニー・ニック。データ改ざん」
ヒイロはコンピューターにクラッキングすると気絶させて床に寝かせた男、マーティニーと言う名の人物のデータを改ざんして行く。
淡く光るディスプレイの光りを顔に受けながら、尚もキーボードを叩く音は聞こえる。
次々に書き換えられて行くデータ。
新たに書き加えられる項目は全て偽造されたモノ。
「登録者名、ヒイロ・ユイ。出身地、L28。本日付でカーペンタリア基地に滞在するミネルバのモビルスーツパイロットとして所属する。後は使えるモビルスーツを探すだけだ」
ヒイロは新たにブラウザを開け、この基地に配備されてるモビルスーツを閲覧した。
ジン、ゲイツR、ザクウォーリア。
次々に表示されるモビルスーツのスペックを見る中で、ヒイロは青いモビルスーツに目を付けた。
「気に入った」
エンターキーを押してデータ改ざんを終わらせプリンターが用紙を飲み込み印刷を初めたのを確認してヒイロは次の作業に取り掛かる。
暗い部屋の中を見渡しクローゼットを見つけると一直線にそこへ向かう。
扉を開けた中にはザフト軍が使用する緑色の制服がシワ1つなくハンガーに掛けられていた。
ヒイロは無言で制服を手に取り着替え始める。
そしてさっき作ったデータから印刷された偽造書類とカードを右手に持ち、用の失くなった部屋から出て行った。
向かう先は大型ハンガーで修理を受けてるミネルバ。
ザフトとは一切関係のない部外者のヒイロだが、制服を着て堂々と歩いてれば誰も侵入者だとすぐには疑わない。
邪魔される事なくスムーズに目的地へ辿り着いたヒイロはミネルバの居住ブロックに繋がる扉へ偽造したカードを通す。
ロックが掛かり人の出入りが制限されてた扉が数秒後には何事もなく自動的に横へスライドし、ヒイロはミネルバの中へ意図も容易く足を踏み入れた。
向かうのは艦長であるタリアが居るであろう艦長室。
(タリア・グラディス、第2世代コーディネーター。そしてこの新造艦ミネルバの艦長に選ばれた女。書類を通して正式に配属されたのだとこの女に認められれば疑われる余地は無くなる)
頭の中で次に何をするのかを組み立ててくヒイロ。
鋭い視線のまま通路を歩き艦長室へ向かい歩く中で角を曲がると、向かいから迫るミネルバクルーと体が接触してしまう。
寸前の所で体をずらしたが間に合わずに肩と肩が軽く当たった。
目の前に居るのは赤い髪の毛をツインテールにした少女、通信士のメイリン・ホークだった。
「失敬……」
「いえ、こっちも気が付かなくて……あれ? アナタはこの基地の人ですか? ミネルバで見た事ないような……」
「本日付けでこの艦の配属となったヒイロ・ユイです」
「へ~、新しく来るのアスランさんだけじゃなかったんだ。私はメイリン・ホーク、この艦の通信士です。アナタもモビルスーツのパイロットなの?」
「はい。自分はこれで……」
メイリンに敬礼したヒイロは彼女を避けるとまた艦長室を目指す。
「あっ、あの~」
背中を向けるヒイロに話し掛けるが振り返る事はなかった。
初めての出会いであるにも関わらず無愛想な態度を貫くヒイロにメイリンは思わず小言を漏らす。
「変な人。話しにくいなぁ」
一方でミネルバのモビルスーツデッキではヒイロの偽造書類に従いカーペンタリア基地からモビルスーツが1機運ばれて来た。
デッキに運び込まれたモビルスーツに整備兵のヴィーノは驚く。
「おい、何だよこのモビルスーツ!? 一体誰が乗るんだ? ってかこんなの聞いてねぇぞ!!」
「本当だな~」
一人叫ぶヴィーノに対して同僚であるヨウランはそっけなく答える。
ヒイロのモビルスーツはアスランが搭乗するセイバーのすぐ隣へ固定された。
///
艦長室へ来たヒイロは直立不動でデスクの前に立つ。
目の前にはミネルバ艦長であるタリアが書類を片手に睨むようにしてヒイロの事を見る。
パイロットが増える事は戦力増強に繋がるが、立て続けに行われる移動にタリアはデュランダルの考えが読めず疑いを向けて居た。
(私をFAITHにして、アスラン・ザラを送り込んで来た。更にここへ来てもう1人。あの人は何を考えてるの?)
考えてもタリアにデュランダルの考えを読み取る事は出来ず、手に持った書類に目を通し終えるとヒイロの方に向き直った。
もっとも、ヒイロが来た事にデュランダルは一切関わっていない。
「わかりました、本日から貴方は本艦のクルーとして一緒に戦って貰います。ヒイロ・ユイ、期待していますよ」
「ありがとうございます」
タリアに敬礼するヒイロ、偽造されたと言う以外は完璧に作った書類にタリアが気づく事は出来なかった。
こうしてヒイロはミネルバに潜入する事に成功する。
再び戦場に戻る為に。
こうして偽造書類による手続きが終わったヒイロはモビルスーツデッキへ行き格納された自分の機体を見上げる。
背部へ装着されたフライトユニット、大型のビーム発生デバイス。
両腕には高周波パルスを発生させるスレイヤーウィップを格納し、頭部の角と肩のトゲは相手に威圧感を与える。
それはザフトが開発したグフ・イグナイテッド。
搭載された武装は依然にヒイロが乗ったガンダムエピオンと良く似てる。
細かな調整をする為にコクピットへ乗ろうとリフトを操作しようとした時、背後から男の声が聞こえて来た。
「お前も機体の調整に来たのか?」
振り返った先に居たのは赤い制服にFAITHのバッジを付けたアスラン・ザラとルナマリア・ホークが一緒に居た。
アスランはヒイロの顔を見ると微かな疑問が浮かぶ。
「見ない顔だな。所属は何処だ?」
「今日付けでミネルバに配属されたヒイロ・ユイです」
「悪いがIDカードを見せてくれ。そうしてくれれば納得出来る」
疑いの眼差しを向けるアスランにヒイロは眉1つ動かさない。
逆に関係のないルナマリアの方が驚いてる程だ。
「アスランさん、もしかしてスパイか何かと疑ってるんですか?」
「いや、そこまでハッキリした理由はないんだ。でも何か信用出来ない」
「こんな堂々としたスパイなんて居ないと思いますけど? それに身長はアタシよりも低いし」
「確かにそうだが……」
「それにカーペンタリアは軍事基地だけでなく公館としても使用されてるんです。セキュリティーは他と比べても厳重にされてますって」
ルナマリアはスパイが簡単に基地内部に潜り込める訳がないと過信してるが、アスランはやはりまだヒイロの事を信用は出来なかった。
幾多の戦場を潜り抜けて来た兵士としての勘はヒイロを疑う。
アスランの追求に対してヒイロは何も言わずにポケットからIDカードを取り出すと素直に差し出した。
「少し確認するぞ」
そう言うとアスランはIDカードを受け取り表記された情報に目を通した。
印刷された顔、登録番号、名前、年齢、身長と体重、出身地、士官学校をいつ卒業したのか。
その全てが通常のIDカードと同じく正確に記載されており、何処を見てもこれ以上は疑う材料がなかった。
アスランはカードを返すとヒイロはソレを受け取りまたポケットの中に戻す。
「疑って悪かった。登録番号11092、ヒイロ・ユイ。俺も数日前にミネルバへ配属されたばかりで勝手がわからない事もあるが、これからは俺が部隊の指揮を執る。よろしく頼む」
「アタシはルナマリア。ルナマリア・ホーク、モビルスーツパイロットなんでしょ? よろしくね」
彼らの言葉にヒイロはこれ以上耳を貸さず、既に機体の足元へ降りて来たリフトを見るとその上に乗ってしまう。
ボタンを押してコクピットのある胸部まで上昇するリフト。
アスランとルナマリアの2人はリフトの稼動音を耳にしながらヒイロの姿を見上げるしか出来ない。
「何よアイツ。感じ悪いわね」
「コミュニケーションが苦手なのかもな。俺も人の事は言えないが」
「アスランさんはそんな風には見えませんよ」
「フォローのつもりかい? 自覚はしてるんだが中々上手くはいかない」
「大丈夫ですよ。シンもレイもちょっと癖はありますけどすぐに打ち解けますよ。あ!! 勿論、アタシもですよ。あのヒイロって子はわかりませんけど」
アスランはもう1度だけリフトを見上げた。
目線の先にはヒイロの姿は見当たらず、ハッチを開放してコクピットのシートの上に座って居る。
「それよりアスランさん、新しい機体見せて貰っても良いですか?」
「あぁ、それは構わないが俺はあの機体の調整がまだ完璧ではないんだ。あまりキミに構ってはやれないぞ?」
「大丈夫です。邪魔はしませんから」
そう言って2人もグフ・イグナイテッドの隣に立つセイバーの元へ歩いた。
ヒイロはコクピットの中でマニュアルを片手に機体の操縦方法を頭の中へインプットさせる作業に没頭する。
モビルスーツと言う概念は同じだが、設計も性能も全てが元居た世界とは異なるコズミック・イラではヒイロと言えどもモビルスーツの操縦を完璧にはこなせない。
操縦桿を握り、ペダルを踏み込み感触を確かめ体にも覚え込ませる。
「動力源はバッテリーか。それ以外の操縦系統はそこまで変わらない。時間は掛からずに済むが戦い方を変える必要があるな」
ヒイロの作業は暫く続いた。
///
ブリッジのシートに座るタリアはクルーが持ち場に付くのを確認する。
副官のアーサーも彼女の隣へ直立不動で立ち、ミネルバの修理と補給が終えた事を報告する。
「艦長。ミネルバ、何時でも出港可能です」
「結構。これよりミネルバはジブラルタル基地へ向かう。その後はスエズ攻略を行う駐留軍と合流し、これの支援をします」
「スエズ攻略ですか? しかしプラントはあくまでも自衛権の行使で領土拡大等の目的はない筈では?」
「スエズは連合軍の支配下に置かれて窮屈な状態が続いてたわ。そしてプラントとの開戦が宣言されてその風当たりは更に強まった。同時に独立の声も大きくなり今や連合と敵対してるわ。確かに地球圏の領土を奪うつもりはプラントにはないし、評議会もそのつもりはない筈よ。独立に伴う連合への反発に便乗して地球に置ける重要拠点を潰したいのでしょう。あそこはザフトのジブラルタルとも近いしね」
「ですが我々が行く必要があるのですか?」
「正式に通達が来てるのよ。命令違反で厳罰を受けたいなら無視すれば良いわ」
「それはぁ……」
アーサーは煮え切らない返事を返す。
エンジンに火が灯るミネルバは作戦指示に従いカーペンタリア基地を出港し連合軍のスエズ基地攻略へ向かう。
護衛として大型水上艦艇ニーラゴンゴを共にして大海原を進む。
何事も無く目的地に到着すると考えても1週間は掛かってしまう。
2隻は海上を進みながらザフトのジブラルタル基地へ進む。
けれどもその裏で連合軍は奇襲を掛けるべく息を潜めていた。
連合軍部隊の指揮を執るネオ・ロアノークは黒いマスクを被ったままレーダーに映るミネルバを確認すると笑みを浮かべる。
「ふっ、せっかく修理したばっかりなのに残念だったね。こっちも作戦だから落とさなくちゃね。モビルスーツの発進準備は?」
「全機、準備完了済みです。ですがザフトから強奪したガイアは海上戦が出来ません」
「それはわかってる。ミネルバが予定ポイントを通過するまで残り1時間を切ってる。戦力を増やした事も充分考えられる。そうなるとこちらの今の戦力では心もとない。インド洋前線基地に回線を繋いでくれ」
「了解しました」
部下に命令を出すネオは戦闘が開始されるまでもう少しだと言うのに笑みを浮かべたままだ。
命令を出された部下は言われた通りにインド洋前線基地へ開戦を繋げ通信装置をネオに渡す。
「繋がりました。リゼル・ノイザー指揮官です」
「OK!! ちょっと貸してくれ」
通信機を持ったネオは向こうの指揮官に向かって淡々と援護の要求をする。
「あ~、こちらは地球連合軍第81独立機動群ファントムペインのネオ・ロアノーク大佐だ。そっちに配備されてるモビルスーツをこっちに廻してくれないか?」
『馬鹿を言うな!! 基地に防衛はどうなる? それにここはザフトのジブラルタル基地攻略の為に急ピッチで開発が進められてるんだぞ。何かあれば作戦が大きく狂う』
「だがザフトの艦はすぐそこまで来てるんだぞ? ここで撃退出来なきゃ結果的にはやられるぞ」
『その為にお前達が来たのではないのか!!』
「この前の戦闘データは送っただろ? 生半可な戦力じゃ返り討ちに会うだけだ。さっきも言ったが俺達が負けたらザフトはおたくらの基地にも攻め込んで来るぞ」
『ぐっ!! 都合の良い事を言う!! 合流させるのに20分は掛かる。それで良いな?』
「ご協力感謝します」
回線が切断されネオは通信機を部下に渡す。
ミネルバを落とす為の包囲網は着々と進んでいた。
後は相手が網に掛かるのを待つだけ。
「これで少しは楽になると思いたいね。因縁浅からぬ相手だし、確実に決めたい所だ。敵さんから奪ったカオスとアビスも使う。俺のウィンダムも準備を進めとけよ」
軽口を叩くネオの表情はマスクに覆われて誰も見る事は出来ない。
///
海上を進むミネルバの前に展開した敵部隊が待ち構える。
レーダーに映るモビルスーツの数は30機。
けれどもそれらを発進させた母艦は見当たらないし、付近にもこれだけのモビルスーツを格納出来るだけの基地は見当たらない。
ブリッジの艦長シートに座るタリアと隣に立つアーサーは突如現れた敵がどこからやって来たのかを考える。
「変ね、連合のモビルスーツ部隊はどこから来たの?」
「ミラージュコロイドを使用して隠れてたとか?」
「アーサー、初歩的な事だけどミラージュコロイドは水中では使えないわ。海しかないこの場所でミラージュコロイドを使わなくても隠れる手段が相手にはある」
「でもどうやって?」
「その事を考えるのは後回しよ。現に敵は目の前に迫ってる。あの紫のウィンダム……アーモリーワンで新型のGを奪い取った奴らよ。情けないけれど奪われてから時間も経過してしまった。情報は完全に連合に渡ったと考えると、残る使い道は実戦に投入する」
「ザフトが開発したGと戦闘になるのですか!?」
「可能性は充分にあるわ。メイリン、コンディションレッド発令。モビルスーツパイロットは出撃準備に入って。指示を出すまでは待機」
動揺してばかりのアーサーだがタリアは状況を見極めて淡々と指示を飛ばす。
メイリンもマイクを口元へ近づけると艦内放送で各員へ指示を出した。
『コンディションレッド発令。モビルスーツパイロットは発進準備を。その後は伝令あるまでコクピットで待機せよ。居住ブロック隔離、シェルター作動』
放送を聞いたクルーはいつでも戦闘に入れるように一斉に持ち場へ走る。
自室で暇をつぶしてたシンもメイリンの放送を耳にするとモビルスーツデッキに向かって全力で走った。
走る通路の先には同じ様にモビルスーツデッキに走るルナマリアの姿が見える。
「ルナ!!」
「シン、また海上戦になるわね」
「奇襲なのか?」
「わかんない。とにかく急がないと」
制服のままの2人はロッカーのある部屋まで来ると別れてパイロットスーツに着替えた。
パイロットスーツには生命維持装置が備わってるのと吸収しきれずコクピットにまで伝わるGや衝撃を吸収する役割がある。
2人はそれぞれ赤を基調としたパイロットスーツに着替えた後、フルフェイスのヘルメットを片手にブリーフィングルームへ走った。
到着した先では既にアスラン、レイ、ヒイロがパイロットスーツを着用して待って居る。
2人の姿を見るとアスランはキツメの声で呼び掛けた。
「シン、ルナマリア遅いぞ!!」
隣に立つルナマリアを見るシンは聞こえないように小声で言う。
「俺達ってそんなに遅れたか?」
「まぁ、あの3人と比べたら遅かったけど……」
全員が揃ったのを確認したアスランは端的に現状を皆に伝える。
「今回の作戦より俺がモビルスーツ部隊の指揮を執る。馴れない部分はあるだろうが各員指示には従ってくれ」
「えっ……」
驚いて思わず声を上げてしまうシン。
アスランは鋭い視線を向け言い聞かせるようにして言葉を続ける。
納得の出来ない所はあるがシンは渋々了承した。
「シン、わかったな? 俺の指示には従って貰うぞ」
「了解……」
「今回の戦闘は海上戦だ。敵は連合軍のウィンダムが30機。中にはアーモリーワン襲撃の時に居た紫のウィンダムも確認出来た。恐らくヤツが隊長機だと思われる。強奪されたGが投入される事も充分に考えられる。そこでシンはコアスプレンダーで出撃後、速やかにフォースインパルスにドッキング。俺のセイバーとヒイロのグフ・イグナイテッドで前衛を務める。レイとルナマリアはミネルバの甲板で防衛。作戦概要は以上だ。細かな変更は随時俺が指示を出す。各員、持ち場に付いてくれ」
アスランはフルフェイスのヘルメットを被るとブリーフィングルームを後にし、モビルスーツデッキのセイバーの元へ走る。
他の4人も同様で、シンもコアスプレンダーに乗り込むと操縦桿を握りハッチが開放されるのを待つ。
『進路クリアー。コアスプレンダー、発進どうぞ』
「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!!」
メインスラスターから青白い炎を噴射してコアスプレンダーはミネルバから発進する。
カタパルトへ脚部を固定させたアスランのセイバーも、ハッチの外に広がる海と空を視界に入れながら右足でペダルを踏み込んだ。
『進路クリアー。アスランさん、戦果を期待してます』
「了解、アスラン・ザラ。セイバー、発進する」
カタパルトから高速で射出されるセイバー。
ハッチから飛び出すと同時に背中の両翼を広げVPS装甲を展開させる。
灰色だった装甲にバッテリー電力が供給され鮮やかな赤色へと変化した。
ヒイロのグフ・イグナイテッドも続いて脚部をカタパルトに固定させる。
再び戻って来た戦場。
ヒイロは操縦桿を握り締め真っ直ぐに戦闘画面に映る景色を見た。
(何処へ行っても同じか。戦う事しか俺には出来ない……)
『進路クリアー。グフ・イグナイテッド、発進どうぞ』
「了解した。出撃する」
ペダルを踏み込んだヒイロのグフ・イグナイテッドもカタパルトから高速で射出される。
フライトユニットを展開し空中を自在に飛ぶ。
ヒイロは再び、戦場へ舞い戻った。
ヒイロの本格的な戦闘は次回になります。
今週中には投稿出来ると思うので。
ご意見、ご感想お待ちしております。