機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第31話 運命の衝撃

ミネルバに帰艦したシンは、パイロットスーツも着たままに、モビルスーツデッキにワイヤーとアンカーで吊るされたデスティニーを見上げて居る。

武器は予備があるが、破壊された両足と頭部はどうにも出来ない。

シンの為に用意された最新鋭機。

消耗部品なら兎も角、ここまで大規模な修理は予定されておらず、アークエンジェルとフリーダムとの決戦を前に悠長にして居る時間もない。

何人かの整備兵が機体を動かないように固定した所で作業は止まってしまう。

 

「俺の機体……俺のデスティニー……」

 

呆然と呟くシン。

アスランに呆気なくやられてしまった自分が悔しかった。

でも機体がない今、シンにはなにもする事が出来ない。

シンがミネルバで待機している間も月での戦闘は続いて居る。

ザフト本体と合流したミネルバはアルザッヘル基地へ立てこもるアークエンジェルとの戦闘を開始した。

補給を済ました他のモビルスーツは戦線に復帰し、フリーダムとジャスティスを討ち取らんと出撃する。

だが、ロゴスとの戦いに消耗して居るザフトに、フリーダムとジャスティスを退ける程の充分な戦力はなかった。

それでもデュランダルの理想を実現する為に、ザフト兵は戦場へ趣き戦わなくてはならない。

レイとルナマリアも機体の補給が完了し戦線に復帰する。

 

「レイ・ザ・バレル。レジェンド発進する」

 

「ルナマリア・ホーク。コアスプレンダー、出るわよ」

 

コアスプレンダーは出撃するとフォースインパルスにドッキングし、レジェンドと共にアークエンジェルに攻め入る。

 

 

「奴らも戦力を整えたか。データに登録されてない機体もある。ルナマリア、他は無視しろ。狙いはフリーダムだけだ!!」

 

ルナマリアに指示を出し、一目散にフリーダムの居る戦闘領域までメインスラスターを吹かす。

加速するレジェンドはビームの雨を潜り抜け、正面にフリーダムを捉えるとドラグーンを全基射出した。

 

「この感覚……来る!!」

 

デスティニーとの戦闘でわずかばかりに損傷したフリーダムだが、レイの視界に映る白い機体はロールアウトしたばかりのように輝いて居た。

感覚で敵意を捉えるキラは、背部のドラグーンを全基射出し高機動形態に入る。

フリーダムの背中から光の翼が発生し、機体の機動性を飛躍的に上昇させた。

常人を超える反応速度で、キラはレジェンドのドラグーンのビームを掻い潜る。

援護しようとビームライフルの銃口を向けるルナマリアだが、そのスピードに圧倒されてしまう。

 

「早い!? デスティニーと同じなの?」

 

高機動形態になったフリーダムのスピードは今までと比べ一段と速くなって居る。

インパルスのビームを簡単に回避するフリーダム。

そして両手に握るビームライフルを連結し、インパルスに照準を定めトリガーを引いた。

 

「悪いけど」

 

ルナマリアは反応する事が出来ず、機体の右腕を破壊されてしまう。

激しく揺れるコクピットで歯を食いしばりながらも、コンソールパネルに手を伸ばした。

 

「っく!! メイリン、チェストフライヤー、フォースシルエット!!」

 

破壊された上半身を放棄し、フォースシルエットのメインスラスターを全開にしてフリーダムに放つ。

 

「同じ手で!!」

 

キラはこのやり方を以前にも見て居る。

パイロットが居ないチェストフライヤーに、躊躇なくカリドゥス砲を撃ち込んだ。

赤黒いビームは灰色の装甲を貫き、爆発の炎が上がる。

その間にも、インパルスは新たなチェストフライヤーとドッキングし、ビームライフルを右手に握った。

レイはルナマリアと合流し、2人掛かりでフリーダムを落としに行く。

 

「1人では無理だ、俺が奴を牽制する。ドラグーンで動かしながら、インパルスで攻撃を仕掛ける。俺は背後から奴を狙う。3段構えだ」

 

「了解!!」

 

「フリーダム、これ以上はやらせない!!」

 

レイとルナマリアはコンビネーションを取りフリーダムに戦いを挑む。

///

 

戦況はザフトに不利だった。

フリーダムの動きはミネルバ隊が押さえて居るが、それ以外の戦力は残るザフトの戦力で相手をしなければならない。

疲労する兵士、消耗する機体。

この状況で、ミーティアとドッキングしたジャスティスを相手にするのは非情に厳しい。

更には増産されたドムトルーパーと、オレンジ色のガイアに搭乗するバルトフェルドも現れ、数の上では圧倒してるザフト軍であるが、それ以外に勝算がなかった。

 

「バルトフェルド隊長、ミーティアで先制攻撃します。ガイアとドムはその後に続いて下さい」

 

「了解だ、頼んだぞ」

 

意識を集中するアスラン。

コクピットの球体型立体表示パネルが展開し、ミーティアとジャスティスの全武装が正面に展開するザフト軍を狙う。

次々と敵機がロックされ、構えると同時に全弾発射された。

無数に交差する弾道。

発射されたビームとミサイルの狙いは正確で、出撃した機体の四脚を撃ち抜き戦闘能力を削いだ。

 

「これなら、もう戦わなくても良い筈だ」

 

「良くやった、アスラン。全軍、メサイアに攻め込むぞ!!」

 

待機して居たバルトフェルドとドムトルーパー部隊も動き始める。

損傷した機体では立ち向かう事など出来ず、背を向けて後退して行く機体が多く居た。

それでも立ち向かう機体も居るが、性能で勝る相手に勝つ事は容易ではない。

更にはミーティアとジャスティスの攻撃力も加わり、ザフトの戦線は後退する一方。

メサイアの司令部で状況を見るデュランダルは、シートから立ち上がり声を上げた。

 

「ミネルバをメサイアに呼び戻せ。このままでは無駄に戦力を消耗してしまう。その間に1度、体勢を立て直すんだ」

 

戦況を見かねたデュランダルが命令を下し、全部隊に指示が回される。

アークエンジェルとフリーダムの相手をするミネルバにも指示はすぐに伝わり、メイリンは指令文をタリアに報告した。

 

「艦長、メサイアから入電です。前線部隊が苦戦、エターナルの侵攻を阻止せよ」

 

「こちらも手一杯だと言うのに。わかりました、ミネルバは現領域を離脱します。モビルスーツをを帰艦させて」

 

ミネルバも消耗して居る為これ以上の戦闘は厳しいが、命令に従わない訳にもいかない。

撤退信号を出し、出撃したレジェンドとインパルスを呼び戻す。

モビルスーツデッキでは、動きのなかったデスティニーの修理作業がようやく動き出した。

整備兵総出で壊れた機体の修復に当たる。

その様子を見守るシンは、同僚であるヴィーノを捕まえた。

 

「直るのか? 俺のデスティニー?」

 

「あぁ、ちょっと違うけどな。まぁ期待して待ってろ。そんなに時間は掛からない」

「おい、何をやってる!!」

 

「悪い、呼ばれてるから。じゃぁな~」

 

シンと話しをて居るとマッドに怒鳴られたヴィーノは走って行ってしまう。

 

///

 

撤退するレジェンドとインパルス、そしてミネルバ。

それを見るキラも状況が変わったのを理解した。

 

「引いて行く。アスランが上手くやったのか?」

 

『キラ君、ザフトの前線が後退してる。エターナルと合流してミーティアで追い込みを掛けて』

 

「わかりました。先行します」

 

通信でマリューに告げたキラはペダルを踏み込み、エターナルと合流すべく機体を加速させた。

一方で、エターナルは機動要塞メサイアに着々と侵攻して居る。

ブリッジで指揮を取るラクスは、未だに何をするでもなく状況を見て居るだけのヒイロを気に掛けた。

 

「ヒイロさん。アナタは動かないのですか?」

 

「俺はこの戦いの成り行きを見るだけだ」

 

「この戦いが終われば、世界は確実に変革への1歩を踏み出します。アナタはそれで宜しいので?」

 

「俺には関係ない。どんな世界だろうと、自分を信じて戦うだけだ」

 

「その考え……やはりアナタはお強い方ですね」

 

2人の会話を遮るように、エターナルに通信が繋がる。

送信者は、もうすぐそこまで近づいて来たフリーダムに搭乗するキラ。

レーダーにも機体の反応が映る。

 

『こちらキラ・ヤマトからエターナルへ』

 

「キラ、ザフトのミネルバは?」

 

『まだ動きは止められてない。でも、なんとかする。ミーティアの準備を』

 

「わかりました。ミーティア、リフトオフ」

 

エターナル機首のガントリーに固定されたミーティアが開放され、接近するフリーダムは素早く正面に回りこみドッキングした。

後方から迫るミネルバの迎撃に当たるべく、大型バーニアに火を入れる。

巨大な質量を持つミーティアが徐々に加速するが、そこに前線で戦ってる筈のアスランが合流し通信が入った。

 

「アスラン?」

 

「ミネルバは俺がやる。キラはザフト本体を」

 

「でも……」

 

「気にするな。これは俺自身が決着を付けなくちゃならないんだ。行くぞ!!」

 

そう言うと、アスランはミネルバへ、キラはメサイアのあるザフト本体へ向かう。

ミーティアで加速するアスランは正面にミネルバを捉え、そのカタパルトからは2機のモビルスーツが出撃して来た。

 

「あの機体は……ルナマリアとレイか!!」

 

ザフトに所属して居た過去を清算すべく、アスランの戦いが始まろうとして居た。

 

///

 

「戦闘が始まってるか? ヴィーノ、まだ終らないのか?」

 

急ピッチで進んで居るデスティニーの修理も大詰めの所まで差し掛かって居た。

破壊された頭部も両足も復元し、残す所はあとわずか。

それでも本来の規格とは違う部品を多用して居るせいで、どのような不具合が出るかわからない。

 

「今終わった!! でも急場しのぎで作っただけだからな。無茶はするなよ!!」

 

「わかった!!」

 

修理が完了した機体のコクピットに入り込むシン。

シートベルトを装着し、コンソールパネルを叩きハッチを閉鎖させる。

両手で操縦桿を握り、カタパルトへ脚部を固定させた。

モニターには通信士のメイリンが映る。

 

『進路クリアー、発進どうぞ』

 

開放されるミネルバのハッチ。

発進体勢に入るシンの新たな機体。

外に見える景色には無数の光が飛び交って居た。

 

「シン・アスカ、行きます!!」

 

ミネルバの前方では、ルナマリアのインパルスがビームライフルをジャスティスに目掛けてトリガーを引く。

ミーティアとドッキングして居るジャスティスは、それでも卓越した操縦技術で攻撃を避け続ける。

 

「アスラン!! ねぇ、どうして!!」

 

「止めるんだルナマリア!! キミだっていつか議長に」

 

説得を試みるアスランだが、意見が食い違う両者が歩み寄る事はない。

そんな2人の間に入るようにレジェンドが割り込んで来る。

 

「ルナマリア、ヤツの戯言に付き合うな!!」

 

「レイか!!」

「裏切り者が!!」

 

「くっ!」

「ルナマリア、援護しろ!!」

 

レジェンドのドラグーンを射出しインパルスからジャスティスを遠ざける。

銃口から発射される無数のビームを前に全てを回避する事は出来ず、ビームシールドを展開し攻撃を受け切った。

レジェンドはドラグーンとビームライフルを使い再びジャスティスに攻める。

だが心に区切りを付ける事の出来ていないルナマリアのインパルスの動きが戸惑っており、満足に援護が出来ないで居た。

レジェンドと攻防を繰り広げながらもその事に気付いたアスランは、数を減らす為にインパルスに狙いを集中する。

ビームシールドでドラグーンから発射されるビームを弾き返す。

そして素早くウエポンアームを握り、ミーティアの左アームから巨大なビームソードを発生させた。

ルナマリアは回避行動に移るが、振り下ろされるビームソードはインパルスの左腕を切断する。

 

「くっ!! シールドが!?」

 

「アスラン、これ以上はやらせん!!」

 

尚も攻めるレジェンドだが、ミーティアに装備された対艦ミサイルが無数に発射される。

ビームシールドを展開しこれを防ぐが、足止めを食らってしまう。

その隙を見逃さず、アスランはレジェンドを無視してインパルスを落とそうと、再びビームソードを展開した。

 

「これで終わりだ、ルナマリア」

 

「くっ!? まだ!!」

 

ビームライフルを向けるが、大型バーニアにより機動力と運動性能はミーティアを見た目以上に機敏に動かす。

発射されるビームの光は宇宙の闇に消え、ジャスティスはルナマリアの眼前に現れる。

圧倒的な性能差、技量の違いに冷たい汗を流すルナマリア。

大きく振り上げられたビームソードを前に動く事も出来ない。

 

(ここまでなの? こんな所で……)

 

「ルナァァァ!!」

 

振り下ろされたビームソードがインパルスに装甲に触れる事はなかった。

ミーティアの左アームは途中で切断され、デブリとして宙を漂う。

ルナマリアを助け、アスランの攻撃を止めたのは、この場に現れた新たな機体。

白い装甲、背面から広がる青い翼。

その両手には巨大な対艦刀、エクスカリバーを握って居る。

 

「シン……なの?」

 

「あぁ、なんとか間に合った。下がっててくれ。コイツは俺が倒す!!」

 

損傷するミーティアの前に現れた機体。

アスランはその姿を見てパイロットがシンなのだと確信する。

 

「デスティニー、いや、インパルスか? どちらにしても乗って居るのはシンだな」

 

「そうだ!! 今度こそ決着を付ける!! このデスティニーインパルスで!!」

 

戦場に再び舞い戻ったシン。

新たに蘇った機体はデスティニーの力を受け持つインパルス。

レイはシンの乗ったデスティニーインパルスを見ると、ドラグーンを収納しマニピュレーターを肩に触れさせる。

 

「シン、ここは任せる。俺はフリーダムを追う」

 

「1人で行けるのか?」

 

「当然だ。お前はジャスティスを」

 

「わかった」

 

そう言うレイはアスランとの戦いをシンに任せてフリーダムの元に向かい加速する。

損傷するインパルスの前に出てルナマリアを守るシンは、エクスカリバーの切っ先をアスランに向けた。

 

「アスラン、俺はアンタを許しはしない!!」

 

「シン、俺はウイングゼロで未来を見た。議長が言うデスティニープランが実行されれば、世界は議長にゆだねられる事になる。俺は……議長のデスティニープランを実行させる訳にはいかない!!」

 

「だとしたら、やっぱりアンタは間違ってる!!」

 

「聞け、シン!! デスティニープランによって人類は遺伝子で振り分けられる。そして人間を制御し、未来を決める。たしかに人間を制御出来れば戦いは起こらないだろう。でもそれは――」

 

突然発射されるビーム。

口を閉じ、ビームシールドを構えるジャスティスは、難なくコレを受け止める。

攻撃して来たのは、目の前に居るシンのデスティニーインパルス。

 

「さっきも言った筈だ。アンタのやり方は間違ってる!! ウイングゼロに乗って未来を見ただって? だとしたらアンタは、そんなつまらない事の為に俺達を裏切ったのか? 機械に戦う理由を求めるだなんて、そんな事は間違ってる!!」

 

「シン!!」

 

「アンタが言ってる事が正しいと言うのなら、俺に勝ってみせろっ!!」

 

両手に握るエクスカリバーを連結させ、デスティニーインパルスは光の翼を広げた。

 

///

 

ロゴスとの戦いで消耗した戦力でメサイアに迫り来るアークエンジェルとエターナルを押さえるザフト。

だが、当初に危惧した通り、量産機ではアークエンジェルの最新鋭のモビルスーツを食い止める事が出来ず、戦力は次々と減るばかりだ。

 

「エターナルとフリーダムはまだ沈められんのか!!」

 

「部隊の損傷率、50パーセント切りました」

 

「消耗した戦力ではアークエンジェルを止められんか」

 

メサイアの司令部でデュランダルは現実を目の当たりにしてモニターを睨み付けるしか出来ない。。

そんな彼の隣に1人の少女が恐る恐る近づき声を掛けた。

 

「デュランダル議長……」

 

「ラクスか? ここも危険になるかもしれない。いつでも逃げられるようにしておくんだ」

 

「そうかもしれません。でも、議長は? ここで死ぬなんて事ありませんよね?」

 

言い終えると司令部が激しく揺れた。

咄嗟にシートの背もたれへ手を伸ばし体を支えるラクス。

数秒にも及ぶ激しい揺れが収まると、通信兵が損害状況を声高く報告した。

 

「フリーダムです!! 陽電子リフレクターが破壊されました!!」

 

「押し返す事も出来ず、防御もままならんか。仕方ない、非戦闘員は脱出の準備をしてくれ」

 

その言葉を聞きメサイアの司令部に居るクルーが振り返り驚きの表情を浮かべる。

デュランダルの表情は笑って居た。

 

「ラクス、キミも良くやってくれた。早くここから脱出するんだ」

 

「ですが……」

 

「ここもあまり長くは保たない。私もすぐに追い付く」

 

「でしたら議長、最後に1つだけよろしいですか?」

 

彼女の瞳は強さに満ちあふれて居る。

偽りのラクス・クラインとしてではなく、ミーア・キャンベルとしてデュランダルに申し出る。

 

「聞こう。言ってみてくれ」

 

「今のこの戦闘を世界に流してはくれませんか?」

 

「わかった」

 

シートから立ち上がるデュランダルは歩を進め、通信士の所にまで来るとパネルを操作して各プラントと地球圏に、今行われて居る戦闘映像を流す。

ミーアはそれを確認し、再びデュランダルの隣まで行くとマイクを手に取った。

ザフトとアークエンジェル隊が戦闘を行う様子は、リアルタイムで全世界に配信される。

テレビやラジオなどの通信機器、街の巨大スクリーンにも映し出され、人々はその光景に目を奪われた。

そこに映るのはジャスティスと戦うデスティニーインパルスの姿。

エクスカリバーを振り上げるデスティニーインパルスは、ジャスティスの猛攻を潜り抜けてミーティアにその切っ先を突き立てた。

 

「どう言う事だ? ロゴスは滅んだのに、どうしてまだ戦ってるんだ?」

 

「戦争はもう終わったんじゃないの?」

 

「ザフトはどうしてまだ戦うんだ? デスティニープランがあれば、もう戦争なんて……」

 

『この放送をご覧になっている皆さん。私達はロゴスが居なくなっても尚、戦闘をしています』

 

映像と同時に聞こえて来るのはラクスの声。

民衆は増々、目の前の映像と声に引き込まれる。

 

『ロゴスとの戦闘により多くの死者が出ました。しかし、今行われている戦いに勝利しても、ザフトにもプラントにも見返りはありません』

 

「ラクス・クライン……」

 

「どう言う事なの……」

 

『ですがこの戦いは必然です。これが集結しない限り、世界に平和は訪れません。見えますか、この悲惨な戦いが。見えますか、この戦いの向こうにある平和が。そして、世界が平和になろうと、戦う意思は無くさないで下さい。平和は自分達で掴み取るものです。例え同じ過ちを繰り返そうとも、その意思さえあれば、再び世界に平和は訪れるはずです。ですから、わたくしの言葉を聞いて居る皆様は、最後まで諦めず戦って下さい。武器を手に取る事だけが戦いではない筈です。それが、この戦争により失くなった人々が真に願った未来だと、わたくしは信じます』

 

演説がが終わるとミーアは握ったマイクをコンソールパネルの上に置いた。

そして、周囲からは割れんばかりの拍手が鳴り響く。

司令室に居るクルー全員が立ち上がり、今の演説をしたミーアの為に拍手をして居た。

デュランダルも手を叩きながら、ミーアに優しく声を掛ける。

 

「すばらしい演説だったよ」

 

「いえ、本物のラクス様ならこうすると思っただけです。議長、今までありがとうございました。私はもう1度、ミーア・キャンベルとして生きようと思います」

 

「そうか、無理に引き止めはしない。今までご苦労だった」

 

2人はそれ以上は何も言わず、ミーアは司令部のクルーと共にメサイアから脱出する。

この日を最後にミーアは表舞台から姿を消した。

デュランダルはただ1人、崩壊が進むメサイアに残り続けた。

///

エターナルのブリッジに居るだけだったヒイロがいよいよ動き出す。

ダゴスタの居る所にまで進むと威圧するように鋭い目付きで睨む。

 

「おい、ここのモビルスーツを貸せ」

 

今は補給中のヒルダのドムが1機あるだけ。

それでも、素性の分からないヒイロにモビルスーツを渡す訳にはいかない。

 

「お前のような奴に? 無理に決まって居る!!」

 

「そうか……」

 

交渉する訳でもなく、ヒイロは素直に引くとブリッジから出て行こうとする。

ラクスの隣を通り過ぎる時、彼女はシートから立ち上がり手を伸ばし、ヒイロの肩に手を触れた。

 

「ヒイロさん、何処へ行くつもりですか?」

 

「この艦に置いてくれた事の感謝はする。俺なりのやり方でな」

 

手を振り払うヒイロはそう言い残しブリッジを後にする。

その時、誰にも気付かれない所でタイマーが作動した。

ラクスの部屋に置かれたテディベアから無機質な機械音が響く。

通路を進み、モビルスーツデッキへ向かう。

エターナルに搭載された機体はヒルダのドムを覗いて全て出撃して居た。

緑色のザフトのパイロットスーツを着ているヒイロの姿は、他のクルーから見れば良く目立つ。

補給の為に帰艦して居たドムの前に近づこうとすると、当然誰かに呼び止められた。

 

「オイ、そこのお前!!」

 

歩みを止め振り返った先に居るのは、このドムのパイロットであるヒルダの姿。

銃を引き抜くとヒイロの額にその銃口を突き付けた。

 

「あの時の侵入者だな。どうしてココに居る?」

 

「ラクス・クラインに許可は貰った」

 

「そんな事は聞いてない!! どうして――」

 

艦内部から爆発音が響く。

思わず意識を反らしてしまうヒルダ。

その瞬間に銃を奪い取り、固いブリップ部分でこめかみを殴り付けた。

 

「ぐぁぁっ!!」

 

「悪く思うな。殺しはしない」

 

「クッ!! 待て!!」

 

肌の痛みと脳へのダメージで視界は一時的にぼやけ、ヒルダはすぐに動けない。

機体足元に設置されたリフトにまで来るヒイロはパネルを操作し、コクピット部分にまで上昇しハッチを開放させる。

 

「行けるな」

 

素早くドムのコクピットに乗り込んだヒイロはハッチを閉鎖し、コンソールパネルを叩くとOSを起動させる。

整備は既に完了しており、バッテリーも推進剤も満タンだ。

操縦桿を両手に握り、艦内部でドムは強引に動き始める。

 

「何だ!?」

 

「誰が操縦してるんだ? ヒルダ隊長ではないのか?」

 

「ブリッジに連絡だ!! 出撃してるバルトフェルド隊長にも」

 

カタパルトにまで移動したドムは、閉鎖されたままの外部ハッチに、装備したビームバズーカの銃口を向ける。

躊躇なくトリガーは引かれ、発射されたビームはハッチを簡単に破壊した。

ペダルを踏み込み、メインスラスターから青白い炎を噴射して、ドムはエターナルから発進する。

 

「ミネルバは後方か。メサイアが落ちる……」

 

エターナルから離れて行くドム。

内部から爆発の起こったエターナルの状況を確認すべく、ガイアに搭乗するバルトフェルドが戦線から戻って来た。

外から艦の様子を見るが、そこまでダメージはない。

 

「こちらバルトフェルド。ダゴスタ、何があった?」

 

『内部から爆発が。恐らくアイツです』

 

「爆発の場所は特定出来たか?」

 

『はい、ラクス様の個室です。クソ!! いつの間に仕掛けたんだ』

 

(アイツ、何が借りは返すだ。恩を仇で返しやがって!!)

 

苦虫を噛み潰した表情をするバルトフェルドは、すぐに逃げ出したドムを追い掛けようとするが、既に追い付ける距離ではなかった。

爆発と捕虜の逃走により混乱するエターナルだが、逃げ出したヒイロから通信が飛んで来る。

ブリッジのモニターに、コクピットに座るヒイロの顔が映し出された。

 

「ヒイロさん、やはりアナタだったのですね」

 

「ラクス・クライン。例え戦争が無くなろうとも、人は戦う事を止めない。偽物のラクス・クラインがさっき言った通りだ」

 

「アイツ!! 何が借りは返すだ!!」

 

モニターに映るヒイロの顔を見て、ダゴスタはさらに激怒する。

そんな状況でもラクスは冷静に、モニター越しにヒイロに語り掛けた。

 

「アナタはこれからどうしていくのですか?」

 

「世界が変わろうと、俺は自分の意思で戦い続ける」

 

「ヒイロさん、私には何が正しいのかは分かりません。ですが私達はまだ引く訳には参りません」

 

「了解した」

 

その言葉を最後に通信は途切れ、エターナルから脱出したヒイロは激戦の真っ只中をバーニアを全開にして駆け抜ける。

そんな中でもコンソールパネルに手を伸ばすと、次はミネルバに通信を繋げた。

戦闘画面に映るのは、通信士であるメイリン。

 

「ミネルバ、こちらヒイロ・ユイ」

 

『ヒイロ!? 良かった、無事で……』

 

通信が繋がるとメイリンが驚いた様子で出た。

生死が不明のヒイロが生きて居た事で目に涙を浮かべるメイリンだが、ヒイロはそんな事は意に介さない。

 

「ゼロが必要になった。これより帰艦する」

 

『ちょっと待って。艦長に代わります』

 

映像が停止し、数秒後にタリアへ切り替わった。

 

『ヒイロ、無事で良かったわ。現在、フリーダムがメサイアに取り付いてます。本艦はそれの迎撃に当たります。帰艦したらすぐに出撃して」

 

「了解した。通信終了」

 

コンソールパネルに指を伸ばす。

ミネルバに帰艦したヒイロはウイングゼロに搭乗して出撃する。




恒例のMSV機体の登場です。
デスティニーインパルスで再び戦いを挑むシンはアスランに勝てるのか?
ご意見、ご感想お待ちしております。


これが終わったらロボットモノではない奴を書きたい。

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