機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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インパルスは戦闘中に各シルエットに換装出来るけど、捨てたシルエットはどうなってるんだろう? アニメではその描写がないんだよね。


第3話 運命の歯車

バックパックの翼を広げたインパルスが大空を飛ぶ。

メインスラスターから青白い炎を噴射しながら加速するインパルスのコクピットの中で、シンは圧倒的な戦力差を前に顔を歪める。

レーダーに反応する連合軍のモビルスーツ、ウィンダムはミネルバの前方に25機も待ち構えて居た。

 

「無茶苦茶な数を用意しやがって。コイツ!!」

 

ビームライフルを構えスコープで敵機を照準に収める。

ウィンダムへ狙いを付けると高エネルギービームライフルのトリガーを引いた。

ビームは一直線に進むと編隊を組んだウィンダムの中央を突き抜けてくが、相手は回行動に移りビームは空の彼方へ消えて行く。

ソレを合図にしてウィンダム部隊は一斉に動いた。

無数の銃口がインパルスへ向けられビームの雨が降り注ぐ。

 

「くっ!! 数がどれだけ居たって!!」

 

操縦桿を握り、両足のペダルを踏み込み、新型機のインパルスを思い通りに操るシン。

左腕にマウントしたシールドを構えながら各部スラスターを駆使してビームを回避。

高い反射神経と卓越した技術で敵部隊の攻撃を受け流して行く。

それでも限界はあり、反応が僅かに遅れてしまった攻撃にはシールドを構えた。

対ビームコーティングが施されたインパルスのシールドはウィンダムから放たれたビームを完全に打ち消す。

 

「インパルスを舐めるなぁぁぁ!!」

 

シンも反撃に転じる。

素早く照準を定めトリガーを引く。

ビームはウィンダムの右脇腹へ突き刺さり機体は黒煙を上げながら力を失い海へ落下する。

コクピット近くへ直撃してしまったせいでパイロットに直接ダメージが通ったからだ。

更に続けてもう1射。

敵機も回避行動を取るが、動く先を予測してトリガーを2回引く。

 

『は、早い!!』

 

パイロットは反応が追い付かず機体の右脚部と頭部を撃ち抜かれまた海へ落下する。

反撃に備えシールドを前方に構える。

直撃、眩い閃光。

だがアンチビームコーティングがビームを通さない。

攻撃の隙を付きビームライフルを突き付けるインパルスはまたトリガーを引く。

ビームを発射する轟音が響き3機目のウィンダムのコクピットへ直撃させた。

 

「よし、これなら」

 

単機で瞬く間に敵を撃破するシン。

新型機のインパルスの操縦にも慣れて来た事もありそれは自信に繋がった。

 

『貰ったっ!!』

 

「遅い!!」

 

敵の1機が背後からビームサーベルを引き抜き接近戦を仕掛けて来る。

けれどもシンの反応も早かった。

振り返りシールドを掲げるとウィンダムが握りしめたビームサーベルを振り下ろす瞬間。

振り下ろしたビームサーベルはトリコロールカラーの装甲に触れる事はなくシールドに阻まれた。

銃口を胸部へ密着させトリガーを引くと、ビームのエネルギーで青い装甲が溶解し周辺が真っ赤に爛れる。

背部を貫通し風穴が開いた機体はもう動かない。

駄目押しに胴体を脚部で蹴り飛ばす。

 

「4機目、ぐっ!!」

 

だが攻撃を仕掛けて来るのはモビルスーツだけではない。

海上に展開する艦隊もミネルバとインパルスを撃墜せんと砲撃を仕掛けて来た。

VPS装甲を持つインパルスにはバッテリーが続く限り実弾兵器は効果をなさないが、直撃による衝撃はパイロットにまで伝わって来る。

シートベルトが体へ食い込みキツく締め上げるが、視線は目の前の戦闘画面から決して離さず操縦桿を両手で強く握った。

メインスラスターを吹かせて砲撃を回避すべく後方へ距離を離すが、目の前からは依然としてウィンダムの大部隊が迫る。

追い込まれるシン。

けれども後方から強力なビーム砲撃が敵陣に突っ込む。

赤黒いビームは陣形をかき乱し、ビームを照射したまま横へなぎ払う。

群がるウィンダムが波紋のように離れてくが、間に合わなかった2機が両脚部をビームに飲み込まれ制御を失った。

ビーム照射をした味方、レーダーを確認したシンの目に映ったのはルナマリアが搭乗する赤いガナー・ザクウォーリア。

 

『何やってんのよ、シン!!』

 

「ルナか!?」

 

『キッチリ後ろから援護してあげるからちゃんと動きなさいよね』

 

『ミネルバの護衛は俺達に任せろ。シンはとにかくモビルスーツ部隊を切り崩すんだ』

 

『新型機使ってるんだから楽勝でしょ?』

 

通信で聞こえて来る仲間の声に背中を押される。

数の上ではまだ不利な状況が続くが、シンは力強いアシストに力をみなぎらせた。

 

「簡単に言ってくれるよな」

 

そう言いながらもシンは赤い瞳で鋭く敵を睨むとペダルを踏み込みインパルスを飛ばす。

 

///

 

 

連合軍の司令官は舌を巻いた。

新造艦とは言えたった1隻でこの大部隊と対等に渡り合う現状に冷たい汗が流れる。

司令官の男は艦長シートの上で戦況を見極めながらもインパルスがウィンダムを次々に撃破してく状況に焦りを感じた。

25機も居たウィンダムは既に10機あまりにまで数を減らして居る。

 

「なかなかやる艦だな。新造艦と新型モビルスーツの性能は伊達ではないか。ザムザザーはどうした?」

 

シートの隣に立つ副官に向かって声を上げる。

 

「はっ!! パイロットの搭乗は完了済みです。ただちに出撃させます」

「あのザフトの新型モビルスーツの相手をさせろ。鬱陶しい蚊トンボを落とせば敵艦を沈めるのも容易になる」

 

「了解です」

 

「もうモビルスーツを時代は終わりだ。これからはザムザザーのように大型で強力なモビルアーマーが必要なのだ」

モビルスーツを蚊トンボと罵った司令官は不敵に微笑んだ。

司令官からの指示を受けてザムザザーが甲板へ移動する。

複座式のザムザザーには連合のパイロットが3人搭乗しており機長、操縦手、砲手の3つを分担して操作する事でこの巨体を動かす。

コクピットのシートに体を収めた機長はブリッジへ通信を繋げると新型モビルアーマ、ザムザザーが起動した。

 

「進路クリア、発進準備OK。ザムザザー発進します」

昆虫のようなフォルムをした連合軍の新型モビルアーマー。

緑色の装甲に4本の脚。

鋭く光るツインアイ。

大出力ホバークラフターが大きく重い巨体を軽々と宙に浮かせ、激戦の続く前線へと飛びミネルバに向かって行く。

前線で戦うインパルスはバックパックからビームサーベルを引き抜き袈裟斬りしウィンダムの胴体を分断させた。

シールドを構えると同時に機能を停止した機体が爆発を起こし戦闘画面を炎で埋め尽くす。

飛び散った細かなパーツがシールドに当たるだけで機体にダメージはない。

 

「残り少しだ。モビルスーツさえ何とかすれば艦隊なんて」

 

勝利への道が見え始め肩の力を抜くシン。

だがレーダーには新たな敵影が反応する。

そしてソレはレーダーで確認するまでもなくシンの眼前に現れた。

 

「あれは……モビルアーマー!?」

 

その様子はすぐにミネルバも察知し新型のモビルアーマーの全貌がブリッジのスクリーンへ表示される。

タリアは昆虫のようなフォルムを見るとスゥっと目を細めた。

 

「光学映像出ます」

 

「データにはないモビルアーマー、向こうも本気ね。アレに取り付かれたらミネルバでも持つかどうか……メイリン、シンを新型機の迎撃へ向かわせて。レイとルナマリアは後方で援護。アーサー、タンホイザーのエネルギーチャージを初めて。いつでも撃てるように」

 

すばやく状況を判断したタリアはブリッジの各員へ指示を出す。

メイリンは淡々と作業をこなすが、敵の新たな戦力を前にしてアーサーは同様が隠せない。

 

「了解。各パイロット応答願います。ミネルバは――」

 

「は、はい!! りょっ、了解しましたぁ!! 照準、敵モビルアーマー」

 

額に汗を浮かべながらもアーサーは指示に従いミネルバの艦首中央へ格納された陽電子破壊砲タンホイザーの発射準備を進めるべくコントロールパネルを叩く。

タンホイザーはミネルバに搭載された兵器の中で1番の威力を誇り、直撃を受ければモビルスーツどころか戦艦でさえも跡形もなく破壊されてしまう。

あくまでもモビルアーマーに対しての最終手段としてタンホイザーの準備を進めさせる。

前線から1度引きミネルバの元へ戻るシンはコンソールパネルへ表示されるバッテリー残量を確認した。

今までの戦闘で機体を酷使した事もあり残りは30パーセント程しかない。

ビームライフルやビームサーベルを使用すればそれに伴い機体に搭載されたバッテリーを消費してしまうからだ。

 

「メイリン、バッテリーがまずい。デュートリオンビームを。それとシルエットを換装、ブラストシルエットを」

 

『了解です。機体座標確認、デュートリオンビーム発射』

 

インパルスはミネルバを真正面に構えると機体位置をその場で静止させる。

帰還せずとも充電出来るデュートリオンビームだが致命的な欠点があり、モビルスーツは一定時間動きを止めなければならない。

当然、敵から見れば恰好の的になる。

VPS装甲のインパルスの防御力は量産機と比べれば非常に高く実弾兵器は通用しないが、近代のモビルスーツにはビーム兵器が標準装備されるようになって来た。

それを考えると使用出来る場面は限られる。

でも今はシンの活躍によりウィンダムの数は減っており距離を詰められるまでの僅かな時間でもバッテリー充電は間に合う。

そして後方にはレイとルナマリアも居る。

 

『シン、5秒間だけ援護射撃する。その間に態勢を立て直すんだ』

 

『ブラストに換装したらモビルアーマーに一斉射撃。アイツを倒せば終わりよ』

 

「了解!!」

 

 

ミネルバに設置されたデュートリオンビーム送電装置がインパルスの頭部へレーザーを照射した。

コクピットのコンソールパネルに表示されるバッテリー残量は見る見るうちに上昇する。

 

「これでまだ戦える。でも、その前に!!」

 

振り返るインパルスはビームライフルを腰部へマウントさせると背中に背負ったフォースシルエットのスラスターを全開にし、ミネルバへ砲撃する水上艦の1隻へ狙いを定めた。

機体を前方へ加速させながらバレルロール、同時にバックパックを切り離す。

機体を動かす必要のなくなったバックパックは更に加速し、推進剤を積んだソレはさながらミサイルへ変わる。

 

「避けるんだぁ!! 避けろ!!」

 

「間に合いません!! 来ます!!」

 

水上艦の艦長はシートの上で必死に部下へ指示を出すが海上でコレを回避出来る程早く動ける筈もなく、加速するフォースシルエットは主砲を乗せた甲板へ直撃した。

甲板からは大爆発が起こり炎と黒煙が空に舞う。

艦は完全に制御不能になり、乗組員は救命胴衣を着用すると逃げる為に次々海へ飛び込んで行く。

水上艦の1隻を破壊したのを確認したシンは続けてミネルバから発射されたブラストシルエットに換装する為にスラスターを吹かす。

位置を合わせるとガイドビーコンを照射しシルエットと確実にドッキング出来るようにする。

そしてシルエットフライヤーから切り離されたブラストシルエットがインパルスの背部とドッキングした。

青色だったインパルスの胸部装甲が黒に変わり、背中に背負ったビームライフルよりも更に強力な2門のビーム砲、ケルベロスを両手に構えるとミネルバの前方へ位置を取った。

 

「行くぞ、ルナ。タイミングを合わせて同時攻撃、最大出力だ!!」

 

『了解、そっちに合わせるわ』

 

シンとルナは互いにビーム砲の照準をこちらへ迫るザムザザーに合わせる。

一撃で破壊する為に狙うのは機首。

 

「ターゲットロック。3……2……1……」

 

『発射!!』

 

ガナー・ザクウォーリアのオルトロスとブラストインパルスのケルベロスから高エネルギービームが同時に発射された。

3本の赤黒いビームは阻害される事なく、空気を焼き払いながら一直線にザムザザーへ突き進む。

 

『敵モビルスーツより砲撃を確認。陽電子リフレクター作動』

 

機長の報告を聞いて操舵手が機体の制御を行う。

海面に対して水平に飛行してたザムザザーは動きを静止すると、逆立ちするようにして機体上面をミネルバに向けた。

だがそうしてる間に寸前にまで迫る砲撃。

瞬間、眩い光りが両陣を照らす。

シンがそこで見たモノは、バリアーを展開して攻撃を完全に防ぎきったモビルアーマーの姿。

 

「完全に封じたのか!? 無傷かよ!!」

 

『冗談でしょ? アレが通じないならコッチは手出し出来ない』

 

モビルスーツの武器として見れた高い威力を持つ2機のビームを受けても全く無傷のザムザザー。

その様子を見て射撃戦では倒せないと見るルナマリア。

レイも敵が展開したバリアーの性能はハッキリと確認しており脅威と感じるが、すぐに次の手に打って出るべく2人へ通信を飛ばした。

 

『ルナマリア、まだバッテリーは残ってるな?』

 

『え……えぇ。まだ行けるわ』

 

『良し、残存する敵モビルスーツに砲撃。ミネルバに近づかせるな。シン、お前はもう1度フォースシルエットに換装。その間にタンホイザーを撃つ。それでダメなら空を飛べるインパルスで接近戦を仕掛けるしかない』

 

『了解!!』

 

「わかった。メイリン、フォースシルエット射出。ブラストの回収は任せた」

 

右足でペダルを踏み込み飛び上がるインパルス。

ミネルバの上方にまで来ると換装したばかりのブラストシルエットを切り離し甲板の上に放置した。

カタパルトから再び発射したフォースシルエットは大きく旋回し、ミネルバの後方から空中で静止するインパルスへドッキングする。

装甲の色がトリコロールカラーへ戻り、空中を自由に動けるフォースインパルスへ換装した。

それと同時にミネルバの機首に格納されたタンホイザーを敵の眼前に展開させる。

事前にエネルギーチャージは完了させており、モビルアーマーも真っ直ぐミネルバを目指して飛行してる為照準を合わせる必要もない。

ブリッジの艦長シートに座るタリアは即座に命令を飛ばした。

 

「タンホイザー、発射!!」

開放されたシェルターから顔を覗かせる巨大な銃口。

タンホイザーがザムザザーを飲み込まんと大出力ビームを轟かせた。

進路上に立ち塞がるモノは容赦なく全て焼き払いビームはザムザザーへ直撃する。

 

「やったの? 確認を急いで」

 

「映像入ります」

 

切り札であるタンホイザーを使用しミネルバにはこれ以上に強力な兵器はもうない。

タリアはメイリンに呼び掛け、そしてスクリーンに映し出される映像を前に険しい表情へ変わる。

 

「タンホイザーも効果なし……か」

 

「どどっ、どうするんですか!? タンホイザーも防ぐようなモビルアーマーなんて戦略級の戦闘力ですよ!! 連合がコレ程の機体を開発してたなんて……いや、それよりもデータも情報もない相手をどうやって――」

 

「黙りなさい!! そんな事を言われなくてもわかってる!!」

 

「はっ、はいィィィ!!」

 

動揺するアーサーへ檄を飛ばすタリア。

状況は一変して不利になるが、彼女はここで諦めて負ける気などさらさらない。

切り札は防がれてしまったが、この短い攻防の間でザムザザーに対抗する為の手段をいくつか考えて居た。

 

「良い事? 確かにザクとインパルスの攻撃も防がれてしまったし、タンホイザーも効果がなかった。でも幾つかわかった事があるわ。アーサー、何かわかる?」

 

「いえ……あのモビルアーマーがとてつもなく強力なバリアーも搭載してるとしか」

 

「アナタの言う通りあのバリアーは強力よ。ソレは見た人全てがわかる。でもね、防御してる間は動く事が出来ないの。つまり意図的にもう1度バリアーを使わせて後ろへ回り込めば……」

 

「そうか!! あんな姿勢を取る事を考えても全方位に展開されてるとは考えにくい。インパルスに接近させるチャンスを与えれば!!」

 

「そう。まだ勝機は充分にある。こんな所で死ぬつもりもないでしょ? 喚く暇があるなら突破する為の策を考えなさい。そうしなければ戦場で生き残る事は出来ない」

 

「了解しました」

 

意気揚々と返事を返すアーサーだったがタリアが今言った策も完璧ではない。

タリアは自分が今言った事に欠陥がある事に気が付いており、まだ険しい表情が収まる事はなかった。

 

(インパルスを接近させるチャンスをどう作るか? それにもしも接近を防がれてしまえばこちらの考えは見透かされてしまう。どう動くべきか……)

 

考えながらもタリアはこの作戦をレイに伝える。

 

///

 

「タンホイザーも効かないなんて……」

 

陽電子砲を発射されてしまえば避けるしかない。

それくらいに強力な兵器が初めて見る新型モビルアーマーの性能を前にあっさりと防がれてしまい驚愕するシンだがそんな暇はなかった。

戦況が変わったのを気に敵軍はミネルバを撃墜せんと攻めに転じる。

 

「くっ!? どうすれば良いんだ!!」

 

『焦るなシン。冷静になれなければここを突破する事は出来ない』

 

通信から聞こえて来るのは白いザクファントムに乗るレイの声。

シンとは対称的にレイは何でもないとばかりにいつもどおり淡々と指示を出す。

 

『作戦はさっき言った通りだ。お前が先行して敵のモビルアーマーを叩くんだ』

 

「でもアイツのバリアーは――」

 

『それはミネルバが抑える。今から30秒後にモビルアーマーの正面に向かってミネルバが砲撃する。シンはその間に相手の背後に回り込み接近戦を仕掛けるんだ。ルナマリアはシンが回り込むまで敵機を近づかせないように援護。俺はミネルバの護衛に廻る』

 

「わかった。そう言う事なら」

 

『シン、頼んだわよ』

 

それぞれに役割を分担するとすぐに行動へ映る。

ザムザザーの左右に展開するウィンダムの残存部隊。

シンは左舷に向かってメインスラスターを全開にしてインパルスを飛ばす。

ビームライフルを構え待ち構える敵部隊に向かってトリガーを引き、同時に相手からもビーム射撃の反撃が迫る。

シールドで防ぎながらも防衛網を潜り抜けるべく前へと突き進む。

 

「邪魔だぁぁぁ!!」

 

スラスターで機体を制御しながらビームを回避して行き、ビームライフルを腰部へマウントさせると右手でバックパックからビームサーベルを引き抜く。

目前まで接近し左腕のシールドを振り払った。

ビームライフルを構えようとしたウィンダムの銃口を弾き返し、コクピットにビームサーベルの切っ先を突き立てる。

その瞬間、中に搭乗してたパイロットは絶命し機体も機能停止した。

また1機撃破するが頭上からは待ち構えたウィンダムがビームライフルを構えてる。

けれどもトリガーが引かれるよりも早くにルナマリアのガナー・ザクから援護射撃が飛んで来た。

オルトロスから発射されたビームは大勢居るウィンダムの1機を捉えビームライフルごと右腕を持って行く。

 

『シン、急いで!!』

 

「ルナ、助かった!! イッケェェェッ!!」

 

インパルスはメインスラスターから青白い炎を噴射し加速を掛ける。

残存戦力は無視して防衛網を突破するのを合図にミネルバは火力をザムザザーへ集中させた。

タリアが懸念した接近する為のチャンスをシンは意図も容易く掴み取る。

狙い通りにザムザザーは陽電子リフレクターを展開させ、ミネルバからの集中攻撃を受け止めた。

ウィンダムの追撃を振り切って回り込むインパルスはビームサーベルをバックパックへ戻し、腰部へマウントさせたビームライフルを手に取る。

そして銃口をガラ空きの腹部へと向けた。

 

「いくらバリアーが強力でも展開出来なきゃコッチのモンだ!!」

 

今まさにビームライフルのトリガーを引こうとした瞬間。

通信でメイリンの慌てた声が響いた。

 

『新たな敵反応アリ!! 海中から、インパルスの真下です!!』

 

///

 

ヒイロはウイングゼロのコクピットの中に居た。

誰にも見つからないように機体は海底深くに隠してあり普通なら早々見つかる事はない。

短い期間ではあるがオーブに滞在した事でこれからどう生きて行くのかを垣間見る事が出来た。

機体に搭載されてるゼロシステムがヒイロに未来を見せる事はなく、彼は1人考え行動する事を決意する。

深海で音も光りも届かぬ空間で思い浮かべるのは完全平和主義を掲げたサンクキングダムの女王。

 

(平和を求めるオーブの考えはサンクキングダムと似て居る。けれども現代表であるカガリ・ユラ・アスハとリリーナとでは決定的に違う部分もある。平和を求めるのは良いが、それと戦わないのは違う。武器を持たずとも人間は理不尽と戦わなくてはならない。そうしなければ何も変わる事はない。それを考えればユウナ・ロマ・セイランの取った行動は今の所正しいと言える。だがオーブは戦乱の時代に巻き込まれるだろう。逃げる事は出来ない)

 

まぶたを閉じ両腕を組みながら、ヒイロはコクピットのシートに座り自分の考えをまとめて居た。

自問自答しても誰も応えてくれる筈もなく、ゼロシステムも今は何の未来も見せない。

(この戦争は連合軍からの一方的な宣戦布告から始まった。ザフトは表向きは自衛権の行使として攻め込んで来る連合軍を叩くだろうが、それだけで終わるような戦いではない事はわかってる筈。いずれは戦線を拡大させて攻め入る時が来る。それによる民間人の犠牲者も必ず出る。俺は……宇宙の平和の為に戦って来た。なら、俺が取るべき行動は……)

 

ゆっくりとまぶたを開け鋭い視線で前を見る。

両手は操縦桿を握り締め、停止させて居た機体をエンジンを起動させた。

海中でくぐもったエンジン音が響き、機体各部へエネルギーを充填させる。

コクピットのモニターやコンソールパネルにも光りが灯り、ウイングゼロはアブクを上げながら海底で立ち上がった。

頭部のツインアイと胸部サーチアイが緑色に眩しく光る。

ペダルを踏み込む。

背中にあるウイングカバーが展開し大型バーニアが火を吹いた。

ウイングゼロの脚部はゆっくりと海底から離れると、バーニアから大量を気泡を生みながら海上へ向かって浮上する。

加速するウイングゼロは大きな水しぶきを上げて海上に飛び出た。

ずぶ濡れの機体の目の前にはシンが乗ったインパルスが居る。

 

///

 

「コイツは……あの時の!?」

 

シンの目の前に現れた新たな機影。

それはユニウスセブン落下阻止作戦の時に見た機体と同じだった。

思わず目を見開き動きを止めてしまう。

相手は何をする訳でもなく振り返ると右肩へ手を伸ばす。

肩部が展開され格納されたビームサーベルのグリップを掴むと引き抜きざまにザムザザーへ斬り掛かった。

データにない機体が突然現れた事に連合軍のパイロットにも動揺が走る。

 

『ザフトの新型か!?』

 

『姿勢制御!! リフレクターを敵機に向ける。敵艦にウィンダムを向かわせろ!!』

 

陽電子リフレクターを展開したザムザザーが振り返る。

大型クローを超振動させ装甲を分断させるべくウイングゼロへ向けた。

 

「マズイ!!」

 

シンは巻き添えに会う訳にも行かず後方へ下がるが、ウイングゼロはそのまま引き抜いたビームサーベルで袈裟斬りする。

大型クローがトリコロールカラーの装甲に届く前に、高出力のビームサーベルがザムザザーの右腕を溶断してしまう。

 

『コイツ!! ザムザザーがぁぁぁ!?』

 

続けざまに本体へ切っ先を突き立てた。

ビームサーベルは容易にザムザザーの分厚い装甲を溶かし、3人のパイロットが搭乗するコクピットを灼熱に変える。

パイロットは髪の毛1本すら残さずこの世から居なくなった。

操縦者を失ったモビルアーマーは重力に引かれて落下して行き、ウイングゼロが飛び出て来た海の中へ姿を消す。

シンは苦戦させられたモビルアーマーを一瞬の内に倒してしまうその戦闘力に舌を巻いた。

 

「結局、お前は何なんだ? 俺達の味方なのか?」

 

通信で呼び掛けるが相手から返事は返って来ない。

そして背部のウイングを展開させて戦闘機形態に変形すると、またどこかへと飛んで行ってしまう。

シンは呆然と小さくなって行く姿を見守るしか出来ない。

理解が追い付かないのはミネルバでも同じだった。

ルナマリアはいつでも撃てるように照準を向けてたが一瞬の内に射程外にまで移動してしまう。

 

『アイツ、どう言うつもりで?』

 

『今はまだ何も言えない。それよりもまだ戦闘が終わった訳ではない。敵の陣形に大穴が開いた。ここを突破するなら今しかない』

 

『そうね。考えるのは後』

 

ブリッジのタリアも疑問は尽きなかったが、今はこの状況を何とかする方が先決だ。

ザムザザーが破壊された事で敵の陣形は大きく乱れ統率力も下がって居る。

 

「推力上昇、このまま敵陣を突破します。オーブ近海を離れ次第ミネルバ浮上。敵の追撃を振り切ります。メイリン、シンをミネルバの防衛に当たらせて」

 

タリアの指示にメイリンは頷きシンへ通信を繋げる。

ようやく訪れたシンの故郷、オーブは再び動乱に巻き込まれてしまう。




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