機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第29話 変革へと繋がる終焉

月表面の防衛網を突破したザフト。

取り付くミネルバはダイダロス基地のレクイエム破壊を向かう。

だがロゴスの戦力は未だに健在だ。

基地からは複数のモビルスーツが発進し、更には巨大モビルアーマーのデストロイも投入して来る。

かつてシンを苦しめた機体。

それが1機どころか2機、3機、まだ出て来る。

歩くだけで地響きを鳴らす巨体が6機も現れた。

モニターで視認するタリアはシートの肘掛けを強く握り締め、鋭い視点を敵へ向ける。

 

「アーサー、これより本艦はダイダロス基地に攻め込みます。そのことを司令部にも通達して頂戴」

 

「えぇ~っ!? 無理ですよ、ミネルバだけであの防衛網を突破出来る訳が――」

 

「いいから!! 中継ポイントの制圧が予定より遅れてる。このままあれを撃たれたら部隊は全滅するかもしれない。補給が完了したモビルスーツから順次発進!!」

 

「はっはい!」

 

タリアの気迫に押されて言う通りにするアーサー。

ミネルバはダイダロス基地に向けてスピードを上げる。

待機室では補給に戻ったパイロット達がわずかな休息を得ていた。

けれどもそこに、戻って来ない人物が1人。

 

「ヒイロが居ない? どう言う事?」

 

「俺にだってわからない。機体の信号をキャッチして合流した時にはもうコクピットには居なかった」

 

「戦死したって言うの?」

 

「いいや、デスティニーのバッテリも推進剤もまだ充分に残ってた。アイツの技術があれば逃げる事くらいは出来る筈だ」

 

「そっか……ねぇ、レイは何か聞かされてないの?」

 

チューブに入った水を飲むレイは視線をルナマリアに向ける。

休憩もないまま連戦をし、流石のレイの表情にも疲れが見えた。

 

「俺は何も知らない。そもそもアイツは他人に言う性格ではない。生きてるのだとしたら、独自に行動してる筈だ」

 

「勝手な奴、言ってくれれば手伝うくらい……」

 

「俺達の本命はロード・ジブリールの抹殺だ。それの障害になると考えたのかもしれない」

 

元は5人だったパイロットも今や3人にまで減ってしまった。

脱走したアスラン、行方不明のヒイロ。

だが寂しさを感じてる暇などなく、メイリンの声が放送で響く。

 

『パイロットは搭乗機にて待機して下さい。繰り返します、パイロットは搭乗機にて待機して下さい。ミネルバはこれより、ダイダロス基地への攻撃を開始します』

 

「シン、ルナマリア、行くぞ。奴は必ず仕留めなくてはならん」

 

「あぁ、この戦争を終わらせる」

 

「えぇ、必ず」

 

「敵の戦略兵器が厄介だ。まずはアレを沈める必要がある。3人で戦略兵器を目指す。1人でも取り付けば、後は基地の制圧に掛かる。そうすれば味方も合流しやすくなる」

 

「わかった」

 

「なら、アタシはブラストで出る」

 

目的を共有した3人は互いに視線を交え、一呼吸した後にモビルスーツデッキへと向かった。

集中力を高める為、通路に出てから口を開けるモノは居ない。

各自、自分の機体へ搭乗し速やかに発進態勢に入る。

シンのデスティニーも脚部をカタパルトへ固定させ、開放されたハッチから出撃した。

 

「シン・アスカ。デスティニー、行きます!!」

 

ミネルバから出撃する3機のモビルスーツ。

行く手を阻むのは、複数用意されたデストロイ。

メインスラスターから青白い炎を噴射しながら接近する3人は、目の前に展開する敵部隊に舌を巻く。

 

「敵もなりふり構わずやって来るな」

 

「デストロイの攻撃力は確かに驚異的だ。だが、あんなモノを基地周辺で使えばどうなるか……シン、ルナマリア、デストロイを相手にする必要はない。兎も角、今は戦略兵器を沈めるんだ」

 

ダイダロス基地へ乗り込む為、3機はメインスラスターを全開にする。

当然デストロイは一斉にビーム砲撃を繰り出す。

1発直撃するだけで艦艇を沈められるだけの威力があるビーム

それを前にしながらも3人は機体を加速させるのを止めない。

デスティニーとレジェンドにはビームシールドが備わっており、デストロイのビームであろうとも防ぎきる事が出来る。

インパルスは2機を壁にしながら前へと進む。

 

「ビームスパイクで隙を作る」

 

レジェンドの背部プラットフォームに装備された2基の大型ドラグーン。

スラスター制御で進むドラグーンは銃口に鋭いビーム刃を発生させて、縦横無尽に飛んで来るビームの中を掻い潜る。

デストロイの懐に潜り込んだビームスパイクはスラスターで加速し、関節部である膝に突撃した。

右脚部に穴の開くデストロイ。

その巨大なボディーと重量は片足で支えられるモノではなく、地響きを鳴らしてデストロイは陥没する。

 

「もう少しでシェルターに!!」

 

///

 

ミネルバの医務室。

真っ白なシーツが敷かれたベッドで眠るステラは、激しい振動に目を覚ました。

 

「ぅん……シン?」

 

ベッドから体を起こす彼女だが、そこにシンの姿はない。

見えるのは椅子に座る軍医だけ。

 

「目が覚めたのかい?」

 

「だれ……?」

 

「キミの治療を担当してる主治医だよ。本当なら、こんな戦艦にキミを置いておくべきではないのだろうが」

 

「シン……シン……どこ?」

 

「彼なら出撃して居る。心配しなくても彼なら――」

 

再び激しく揺れるミネルバ。

軍医は机で体を支え、ステラもベッドにしがみつく。

数秒後には揺れは収まり、ステラはベッドから立ち上がった。

ふと視線を向けた先には設置されたモニターがあり、それにはかつて自分が乗って居たデストロイが映って居る。

 

(あの機体……私……私だけじゃない。スティング?)

 

かつての仲間、今は解体されたファントムペインのモビルスーツパイロット、スティング・オークレー。

彼もステラと同じくエクステンデッドであり、強引に体を調整してデストロイに乗せる事は可能だ。

その可能性が頭に浮かんだステラは居ても立っても居られず、薄い病衣のまま医務室から走り出す。

 

「うううゥゥゥ!!」

 

「ステラ!? ここから出てはダメだ!! ステラ!!」

 

軍医の声は届かず、ステラは扉を開けて出て行ってしまう。

戦闘中の艦内の通路にはクルーの1人も居らず、彼女を止められる人間は居ない。

寝たきりの体にも関わらずその動きは俊敏で、ロゴスにより強化された体は素早く彼女を走らせる。

 

(そと、宇宙に……待ってて、スティング)

 

通路を走り抜ける彼女が向かう先はモビルスーツデッキ。

ミネルバの細かな構造は把握出来てないが、今までの任務の経験から大まかな位置はわかる。

数分も全力疾走で走り続ければ、目的の場所は見付けられた。

パイロットスーツに着替える事もなくモビルスーツデッキに入り込むステラ。

中には当然整備兵も居るが、今1番重要なのは使える機体があるかどうか。

素早く視線を左右させ周囲を見渡すステラは、まだ出撃してない1機のモビルスーツを見付けた。

 

「あれ……」

 

「うん? あの娘は……」

 

整備兵の1人であるヨウランは目立つ彼女の姿を見付けた。

慌ただしいモビルスーツデッキで自分の仕事以外には見向きもしないモノが殆ど。

ヨウランはステラの元へ近づこうとするも、それより早くに彼女は機体のすぐ傍のリフトに乗ってしまう。

 

「お、オイ!! 何やってんだ!!」

 

「じゃましないで!! スティングが居るの!!」

 

「その機体はキミが乗れるようなモノじゃない!! 兎も角、戻って来るんだ!!」

 

ステラはヨウランの言葉にも耳を貸さない。

コクピットハッチまで上昇するリフト。

開放されたままのコクピットに乗り込む彼女はシートベルトを装備してハッチを閉じる。

両手で操縦桿を握り、エンジンを起動させた。

 

「マズイ!? 親方、ウイングゼロが!!」

 

ツインアイとサーチアイが眩しく輝く。

動き出したウイングゼロはそのままエレベーターへと歩いて行く。

 

「なんだろ? 変な……感覚」

 

エレベーターで上昇するウイングゼロ。

登り切った先でハッチは開放されて居た。

報告を受けたブリッジでは、タリアの判断によりウイングゼロを外に出すことを選択する。

 

「良いのですか、艦長?」

 

「良いも悪いもない、こうするしかないでしょ!! この重要な時に!!」

 

怒りをあらわにするタリアは肘掛けを思い切り叩き付けた。

 

「ですがこのままだと撃破されるかもしれませんよ!!」

 

「中で暴れられるよりはマシだと考えなさい!! トリスタンで敵モビルスーツ部隊を迎撃、タンホイザーのチャージを急がせて!!」

 

ステラはウイングゼロに乗って戦場へと飛び出した。

背部の大型バーニアが展開しウイングゼロはする。

だが、既存の機体を遥かに超える加速性能はパイロットを容赦なくGの負荷に掛けた。

シートベルトが少女の柔肌に食い込む。

 

「ぐぅぅぅっ!? 凄い……加速……」

 

加速する限りは絶え間なく続くGの負荷。

筋肉が、骨が軋む。

集中力が切れれば意識が飛びそうになるほど。

それでもステラはスピードを落とそうとはしない。

最大加速のまま、シン達が戦う前線へと足を踏み入れる。

 

「スティング……どこ?」

 

デストロイはまだ5機存在して居る。

その中でスティングが搭乗して居る機体を見つける事など普通では出来ない。

ステラはわずかな可能性を信じて、一心不乱に外部音声で呼び掛けた。

 

「スティング……スティングゥゥゥ!!」

 

戦場で彼女の呼び掛けを聞くモノなど居ない。

前方からはウィンダムの3機編成がウイングゼロの迎撃に当たった。

 

「敵、邪魔!!」

 

右肩からビームサーベルを引き抜くウイングゼロは、そのまま腕を振り下ろし袈裟斬り。

高出力のビームは眼前のウィンダムの装甲を容易に斬り裂いた。

機体は爆発し炎に包まれる。

それでもトリコロールの装甲にダメージはない。

ウイングゼロの戦闘力を目の当たりにし、ビームライフルの銃口を向ける2機のウィンダムは距離を離しながらトリガーを引く。

 

「このくらい!!」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射してビームを避ける。

そして逃げようとするウィンダムにステラは再び詰め寄り、ビームサーベルの切っ先をコクピットに突き立てた。

敵はシールドで防ごうとするが、アンチビームコーティングすら施されてないシールドでウイングゼロの攻撃を防ぐ事は出来ない。

シールドをバターのように一瞬で溶かし貫く切っ先は、パイロットの居るコクピットに突き刺さった。

 

「あと1機……」

 

ビームサーベルを引き抜くと、力を失くしたウィンダムは月の重力に引かれて落ちて行く。

左手に握るツインバスターライフルを残る1機に向けるステラ。

照準を合わせ、操縦桿を握る指に力を込める。

 

「っ!? なに……」

 

瞬間、視界がボヤける。

トリガーを引く事を躊躇してしまい、その間にビームの直撃がウイングゼロを襲う。

 

「ぐぅっ!! あんな奴に!!」

 

激しく揺れるコクピット。

ステラは歯を食いしばりながら、ツインバスターライフルを最大出力で発射した。

高出力のビームは一瞬の内にウィンダムを飲み込み、そしてネジ1本としてこの世に残さない。

だが、最大出力のビームはこの程度で止まる事はなく、突き進んだ先で月面に直撃した。

全てを包み込む巨大な炎、割れる大地。

 

「なに? 何なの、コレ? 私が……う゛ぅっ!?」

 

こみ上げる吐き気に思わず前屈みになってしまう。

震える体、焦点の定まらない視界。

システムが見せる幻影に彼女の精神が拒絶する。

 

「嫌ぁ……嫌、いや、イヤァァァ!! 助けて、ネオ!! ネオ!! 1人はイヤァァァ!!」

 

コクピットの中で涙を流しながら叫ぶステラ。

両手で頭を抱え、戦うのも忘れて体を振り回し暴れ回る。

次第に体を保持する為のシートベルトが肌を削り血が滲む。

それでもコクピットに居る限り、システムから逃れる事は出来ない。

割れるような頭痛が彼女を苦しめる。

 

「来るなァァァッ!! 私に触るな!! もう嫌、痛いのはイヤァァァ!! ネオ、助けて……助けてよぉ」

 

忌まわしい過去、恨むべき過去は、自身ですら手の届かぬ心の奥底に封印されて、今のステラは存在する。

それが今、システムにより無慈悲にこじ開けられた。

到底耐え切れるモノではなく意識を手放してしまいそうになるが、パイロットを勝利へ導く事だけを目的としたゼロシステムはそれを許さない。

命ある限りパイロットは最後まで戦わせる。

けれども精神が耐え切れない反動は体に現れた。

早くなる鼓動、血の流れ。

鼻からは血が溢れだし、眼球も赤く滲む。

 

(痛いのも……苦しいのも……助けて、ネオ……たすけ……て……)

 

耐え切れなくなった精神は遂に、生命維持を停止しようとした。

ゆっくりとまぶたを閉じた先に見えるのは、素顔も知らない仮面の男の姿。

 

(大丈夫、キミを守る)

 

(ほんとうに?)

 

(本当さ、約束する)

 

(ありが……とう……シン……シン? 私はこの人の事を知ってる。覚えてる。約束……約束した!! また、一緒に星を見るって。だから……)

 

閉じられたまぶたが再び開かれる。

視界には血と涙の粒が所々に浮かんでるが、彼女は気にもせず操縦桿に手を伸ばす。

覚醒した意識はステラに力を与える。

 

「こんな所で……死ねない!! シンとの約束は守る!!」

 

大型バーニアを展開させるステラは機体を加速させ前へと進む。

 

///

 

ダイダロス基地へ取り付いた3機は各自の判断に任せて3方向に別れる。

ルナマリアのブラストインパルスも向けられる砲撃を掻い潜りながら、作戦目標であるレクイエムを目指す。

侵攻を阻止すべく駆け付ける敵モビルスーツ部隊。

 

「ウジャウジャと。時間もないのにエネルギーも節約しないといけない、コッチの身にもなりなさいよ!!」

 

バックパックに装備されたケルベロスと一体になる4連装ミサイルランチャー。

そして肩部にある2門のレールガンを前面に展開し残弾を気にせず一斉射撃。

実弾兵器の使用ではエネルギーの消耗はない。

ミサイルの直撃により爆発の炎が視界一杯に広がる。

眼前の敵部隊を薙ぎ払い、2人よりも先にレクイエムに取り付く事に成功した。

目前と迫まるレクイエムのシェルター、だが基地地下から新たにもう1機のデストロイがルナマリアの前に立ち塞がる。

 

「うそ!? 寄りにもよって!!」

 

両腕を前方に突き出すデストロイはインパルスに集中してビームを一斉射撃する。

無数のビームを前に全てを避ける事など出来ず、シールドを構えて機体を守るが、そのせいで前に進む事が出来ない。

 

「こんな所で、止まれないの!!」

 

陽電子リフレクターにビームは効果がない事はルナマリアも知って居る。

ブラストのケルベロスを使用してもデストロイを退ける事は出来ないし、接近しようにも圧倒的な火力でインパスルを寄せ付けない。

それでもルナマリアはビームジャベリンを引き抜き、メインスラスターを全開にして強引に突っ込む。

 

「こんのぉぉぉォォ!!」

 

絶え間なく発射されるビームを防ぎきるが、シールドはすぐに限界が来た。

砕け散るアンチビームコーティング性のシールド。

 

「しまった!? クッ!!」

 

防ぐ手段の失くなったインパルスに、デストロイは更に追い打ちを掛ける。

発射される大口径のビームは機体の左脚部を飲み込む。

辛うじて大破は免れたが、インパルスの動きは止まってしまう。

 

「絶体絶命ね。ゴメン、メイリン……」

目の前にそびえ立つデストロイへの恐怖でルナマリアは動く事が出来ない。

瞳に涙を浮かべ、体がすくんでしまう。

次の瞬間にはインパルスを確実に破壊するビームが発射される。

 

「ルナマリア、だめぇぇぇ!!」

 

「え……」

 

デストロイから発射されたビームの先に、インパルスの姿はない。

動けないルナマリアを助けたのは、どこからか駆け付けたウイングゼロ。

だが、その機体に乗って居るのはヒイロではない。

 

「その声……ステラなの!?」

 

「大丈夫、生きてる?」

 

「え……えぇ。でも、どうしてこんな所に?」

 

「スティングを助ける。だから、ルナマリアもこんな所で諦めないで。シンが悲しむ」

 

「そうしたいけど機体が……」

 

インパルスは脚部が破壊されたのと同時にメインスラスターにも障害が起こった。

本来の出力が出ないせいで逃げる事も出来ない。

 

「なら、私が何とかする。離れないで」

 

右マニピュレーターでインパルスの腕を掴むとウイングゼロは加速した。

ツインバスターライフルを構えて一気に接近するステラ。

2機居るにも関わらず物ともしない加速性能。

ビームの雨を掻い潜り懐に入り込むステラはツインバスターライフルの銃口を突き付けた。

 

「これなら!!」

 

けれどもステラはトリガーを引かない。

動きの止まったウイングゼロにデストロイは当然ビームを放つが、寸前の所でスラスターを吹かし回避する。

 

「なに? どうしたの、ステラ?」

 

「スティング……アレに乗ってるのはスティングだ!!」

 

「どうしてわかるの?」

 

「この機体のお陰」

 

「ウイングゼロの……」

 

「スティング、ステラだよ!! 返事して、スティング!!」

 

ステラは攻撃を仕掛けて来るデストロイに懸命に呼び掛けた。

声は届いて居るが、目の前の敵が攻撃を止める事はない。

 

「こんなの無謀過ぎる。ステラ!!」

 

「やってみないとわからない!! シンは私を助けて来れた。だったら、私にだって出来る!! スティング、攻撃を止めて!! 私の声を聞いて、スティング!!」

 

何度目かの呼び掛け。

ずっと続いて居たビームの雨がピタリと止んだ。

デストロイは力を失くしたかのように頭を垂れる。

 

「うそ!? 止まったの?」

 

「やっぱり、アレに乗ってるのはスティングなんだ!! スティング、聞こえる? ステラだよ!!」

 

喜びに満面の笑みを浮かべ、再び呼び掛けるステラ。

その声にデストロイのパイロットであるスティング・オークレーは応えた。

 

「ス……テラ……」

 

「スティング!! 良かった、無事で。待ってて、すぐに助けるから」

 

「無事じゃ……ねぇよ。へへ、酷い顔してるぞ。お前」

 

モニターに映る彼女の顔は溢れでた鼻血により、肌どころか病衣、果ては髪の毛までも汚れて居た。

それよりも、今のステラはファントムペインに所属して居た頃と比べて明確に違う部分がある。

明確な自分の意思。

ステラの瞳には強い意思が戻って居る。

体は成長して居るのに幼子のようだった彼女の姿はもうない。

インパルスを引き連れてデストロイに接近するウイングゼロ。

もう少しでコクピット部に着こうとした所で、レクイエムが発射されるシェルターが開放された。

 

「シェルター、またアレが撃たれる!? ステラ、止めて!! アレが撃たれたら」

 

「わかった!!」

 

インパルスを手放すウイングゼロは背部大型バーニアを展開してレクイエム直上に移動しようとした。

しかし、突如としてバーニアの出力が低下してしまい、目前の所で機体は動かなくなってしまう。

握る操縦桿を激しく上下に動かすが、どれだけやってもバーニアに反応はない。

 

「どうなってるの、推進剤が切れた!? なんで整備してないの!!」

 

「ビーム砲は? それだけの威力があれば撃ち抜けるでしょ」

 

「それはダメ。微調整のやり方がわからない。このまま撃ったら月ごと破壊しちゃう」

 

「そんな!? 兎に角、そこから離脱して。そんなに近い所だとエネルギーの余波で機体が危ない」

 

「完全に推進剤が失くなってAMBACしか出来ない。間に合わないよ!!」

 

ウイングゼロはジタバタと足掻くだけで前にも後ろにも進む事が出来ない。

ルナマリアのインパルスも自由に動く事が出来ず、レクイエム発射は刻一刻と迫る。

ここで動いたのはスティングのデストロイ。

 

「ちょっとアンタ、どうする気!?」

 

「ステラの奴も助けて、レクイエムの発射も阻止する。それだけだ」

 

「モビルアーマーみたいな巨体で間に合うって言うの?」

 

「間に合わせる!!」

 

地響きを鳴らしながら歩行するデストロイはレクイエム発射口へと向かう。

ボディーと同じく巨大な腕を伸ばしながら、宇宙を漂うステラに呼び掛けた。

 

「掴む事くらいなら出来るな?」

 

「うん、それぐらいなら」

 

巨大なマニピュレーターにしがみつき一命を取り留めるステラだが、スティングは進む方向を変えなかった。

 

「スティング、なにを!?」

 

「お前はこのままインパルスの母艦に回収されろ。俺はコイツを止める」

 

「あんなの……無理だよ!! いくらデストロイでも耐え切れない!!」

 

「黙って見てろ!!」

 

ウイングゼロを掴んだ腕は本体から切り離されて、スラスター制御でインパルスの元へと向かって行く。

その間にパイロットの乗るデストロイはレクイエム発射口に飛び込んだ。

 

「スティング!! 待って、スティング!!」

 

(グゥッ!? 意識が……)

 

ステラの声を聞いて一時的に解けたマインドコントロールが元に戻ろうとスティングを苦しめる。

最後の意識を振り絞りコンソールパネルに指を伸ばし、全武装をオートで発射させた。

月の引力に引かれ落ちて行く先はレクイエムの砲身内部。

 

(また1人にさせちまう。悪ぃ、ステラ……)

 

スティングが最後に見た景色は、視界一杯に広がる眩い光。

 

///

 

ダイダロス基地の司令部では、突如反乱を起こした1機のデストロイに慌てふためく。

エネルギーチャージが完了し、発射スイッチも押してしまった今、もうレクイエムを止める事はジブリールでも出来ない。

 

「どう言う事だ!! 何故、駒である筈の奴らが邪魔をする!!」

 

「ジブリール様、このままでは!? 急いで脱出を!!」

 

「間に合うモノか!! このままデストロイごと薙ぎ払うしかない!! それが出来なければ――」

 

基地全体が大きく揺れる。

エネルギーチャージの完了したレクイエムが同時に発射された。

膨大なエネルギーは巨大なデストロイをも簡単に飲み込むが、放たれる攻撃に内部部品が破壊されてしまう。

動力パイプも分断され、行き場を失ったエネルギーは基地そのモノを破壊して行く。

分厚い鉄板で作られた通路も潰され、爆発の炎が舞い上がる。

激しい振動がいつまでも続き、基地全体が地下に雪崩れ込んで行く。

司令部も例外ではなく、逃げる事の出来ないジブリールは深い闇の中へ飲み込まれた。

 

「デュランダル!! 私は、貴様をォォォ――」

 

至る所から上がる炎の手。

司令部とレクイエムの陥落、ロゴスの防衛部隊も戦線を維持出来ず、撤退するモノも現れる。

ロード・ジブリールがこの世から消えた事で、ロゴスの最後のメンバーも居なくなった。

ザフトと地球連合軍、ロゴスとの戦いも集結を迎える事となる。

けれどもこの戦争で流れた血は多く、ステラの悲しみは戦場を駆け巡った。

 

「スティング……スティング……スティング、スティングスティング……うぅっ、あ゛あ゛ああァァァ!!」




両主人公の出番が少なくてすみません。
次回からエターナルでのヒイロの動きを書きたいと思います。
あと、富野監督がファンネルを使わなくなった理由がわかる気がしました。
あの武器は強いですが、戦闘シーンを演出しようと思うと途端につまらなくなる感じがします。
だからレジェンドの描写はかなり駆け足気味です。
ストーリーも残りわずか、アークエンジェル戦を残すのみ。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

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