機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第28話 シンが見る未来

月表面に展開するロゴスの防衛部隊。

ミネルバはこの防衛網に穴を開けるのが仕事だ。

開放されたハッチからは、発進準備の完了したモビルスーツが順次発進する。

 

「レイ・ザ・バレル。レジェンド、発進する」

 

カタパルトから発進するレジェンドはメインスラスターを吹かし加速する。

バッテリー電力の供給によりヴァリアブルフェイズシフト装甲を機能させ、ツインアイが輝く。

隣のハッチからはルナマリアのコアスプレンダーが発進し、各フライヤーとドッキングする事でフォースインパルスへと変形した。

カタパルトで発進態勢に入るデスティニー。

アームが自動的にマニピュレーターへビームライフルと実体シールドを運びそれを装備する。

ハッチの先に見えるのは、目前に迫る巨大な月。

 

『進路クリア、デスティニー発進どうぞ』

 

「了解した。デスティニー、出撃する」

 

『えっ!? どうしてヒイロ――』

 

モニターの向こう側では通信士のメイリンが驚きの声を上げるが、ヒイロは言うべき事だけを言うとコンソールパネルに指を伸ばし通信を切ってしまう。

両手で操縦桿を握り、ペダルを踏み込むヒイロはデスティニーで出撃する

反対側のハッチからはウイングゼロに搭乗したシン。

メイリンは急いで通信を繋げ、モニターにはヘルメットを装備したシンが映る。

 

『どうしてシンがそっちに居るの!? デスティニーは?』

 

「俺が聞きたいぐらいだよ。兎も角、今は時間がないんだ。敵部隊も展開してる。この機体で出る!!」

 

『それはそうだけど……。わかった、気を付けて』

 

「シン・アスカ、ウイングゼロで行きます!!」

 

カタパルトから発進するウイングゼロ。

初めての機体に操縦性を確かめながら動かすシンは、先行する3機と合流する。

合流した先でも、ヒイロ以外は戸惑うばかりだ。

 

「どうしてデスティニーにヒイロが乗ってるの!? シンもどうして?」

 

「そんなの俺だってわからねぇよ。ヒイロに直接聞いてくれ」

 

「俺もあまり人の事は言えないが、少し勝手が過ぎるぞ。ヒイロ、シンをウイングゼロに乗せる事に意味はあるのか?」

 

モニター越しに冷静に言及するレイに、ヒイロは応える。

 

「意味を見いだせるかどうかはアイツ次第だ。俺は俺でやる事がある。その為にはデスティニーが動きやすいと判断したまでだ」

 

「やる事?」

 

「あぁ、別ルートからアークエンジェルも月へ向かって居る。奴らの動向を探る」

 

ヒイロの言葉を飲んだレイはまぶたを閉じ、ゆっくり口を開けた。

 

「わかった」

 

「ちょっとレイ!? 本当に大丈夫なの?」

 

「ここで議論した所で無駄な事だ、既に作戦は開始して居る。ルナマリアも今は自分の役目を真っ当するんだ。行くぞ!!」

 

「っ!? 了解!!」

 

前面に展開する敵モビルスーツ部隊。

レジェンドはドラグーンを展開させ、インパルスはビームライフルで敵機を狙い撃つ。

ヒイロが乗るデスティニーは翼を広げメインスラスターを全開にした。

近づく4機のウィンダム。

ビームライフルの砲撃がデスティニーに迫るも、高い運動性能と左腕の実体シールドがこれを防ぐ。

銃口を向けるヒイロはまず、中央に数発トリガーを引いた。

発射されたビームを避ける為に一時的ではあるが4機の編成が崩れる。

一気に距離を詰めるデスティニー。

バラバラに別れた1機に照準を合わせ、更にもう1発。

ビームはウィンダムが握るビームライフルを破壊して右肘から先を持って行く。

態勢が崩れた瞬間、コクピットに光が差し込む。

敵パイロットは髪の毛1本すらこの世に残さず、灼熱のビームに飲み込まれた。

 

「敵機の破壊を確認。次のターゲットに移る」

 

照準を変えるヒイロ。

ビームライフルを腰部にマウントさせ、左肩からフラッシュエッジを掴む。

ペダルを踏み込み加速するデスティニーは次のウィンダムへ接近し、短いビームサーベルを発生させると腕を振り下ろす。

シールドを構えるウィンダムだが、ビームの刃に腕ごと斬り落とされた。

ヒイロはトリガーを引く。

頭部バルカンから吐き出される弾丸は機体の胸部へと集中し、パイロットは数秒後に炎へ包まれた。

 

「残り2機。70秒で方を付ける」

 

瞬時に機体を動かす。

接近戦の強いデスティニーに残る2機はビームライフルで攻撃しながら中距離を維持する。

アンチビームコーティングの施された実体シールドでコレを防ぐ。

そして背部の翼を広げ光の翼を展開するデスティニー、残像を生み出しながらビームの中をすり抜けて行く。

ヴォワチュールリュミエールによる残像は機体の速度も然る事ながら、残像による撹乱で敵パイロットを翻弄する。

接近するヒイロはまず左のウィンダムをターゲットに設定し、握るフラッシュエッジで振り払った。

切断するビームライフル。

ウィンダムのパイロットは直ぐ様武器を投げ捨て、サイドスカートからビームサーベルを引き抜いた。

残ったエネルギーが爆発し視界を遮る。

ウィンダムはそのまま加速し爆発の煙のに突っ込み、握るビームサーベルをデスティニーに突き立てた。

 

「甘いな」

 

遮られた視界の先から半身を反らす。

ビームサーベルの切っ先は空を斬り、伸ばされた右腕をデスティニーは左マニピュレーターで掴む。

炸裂するビーム。

パルマフィオキーナがウィンダムの腕を吹き飛ばす。

 

「あと1機」

 

デスティニーの背後に迫る敵機。

ヒイロはレーダーで感知するも相手の方が動きが早い。

向けられる銃口から放たれるビームは背部に突き進む。

展開した光の翼がより一層強く輝く。

ビームはデスティニーに直撃する事はなく、寸前で屈折し装甲にダメージはない。

眼前のウィンダムが残った左腕のシールドで振り払う。

AMBACで姿勢を低くし頭上を通り過ぎる。

再び左のマニピュレーターを突き付け閃光がほとばしった。

放たれる閃光はコクピットを吹き飛ばす。

振り返り戦闘画面に映る敵機。

ビームライフルで牽制しながら後退するウィンダムに腕を大きく振り払いフラッシュエッジを投げる。

弧を描きながら飛ぶビームブーメラン。

損傷を阻止すべく、ウィンダムはライフルの銃口をフラッシュエッジに向け、兎に角トリガーを引き続ける。

何発もビームが発射された末に、フラッシュエッジは敵機の装甲に当たる事なく破壊されてしまう。

けれどもその時には光の翼を展開したデスティニーがウィンダムを通り過ぎて居た。

後を追い振り返ろうとするも、先に撃たれたビームが右脚部、そして頭部を撃ち抜く。

 

「敵部隊の壊滅を確認。来たか……」

 

レーダーに映る新たな反応。

別ルートから進んで居たアークエンジェルとエターナルから出撃するモビルスーツ。

ストライクフリーダムとインフィニットジャスティス。

そして護衛として派遣された2機のドムトルーパー。

ヒイロだけでなく、ウイングゼロに乗るシンにもレーダーで確認出来た。

 

「あいつら、性懲りもなくまた来るのか!!」

 

先行しようとするシン。

だがレイのレジェンドが肩にマニピュレーターを接触させる。

 

「止めろ、シン。今はロゴスの防衛部隊を叩く方が先だ」

 

「でも!!」

 

「奴らもこの部隊を前に突入して来る程自惚れては居ない。今動いてもフリーダムは倒せない。それどころかロゴスに挟み撃ちに合うぞ」

 

「クッ!!」

 

「今は目の前の敵と任務に集中するんだ」

 

言うとレジェンドはメインスラスターを吹かし戦線に復帰する。

シンも同様にウイングゼロで敵部隊の殲滅に掛かった。

右足でペダルを踏み込み、両翼の大型バーニアを展開し加速する。

等速運動を無視するかのような急激な加速。

コクピットに伝わるGはダイレクトにパイロットの負荷となる。

 

「グゥゥッ!!」

 

歯を食いしばり、強烈な負荷に耐えるシン。

滝のように流れる景色。

食いしばる歯茎からはいつの間にか血が滲んで居る。

 

(なんて加速だ!! こんな機体にアイツは乗ってたのか!?)

 

戦線を突き抜けるウイングゼロ。

なんとかペダルと操縦桿を戻すシンは機体の速度を減速させ、右肩からビームサーベルを引き抜く。

迫る敵部隊に接近戦で挑む。

ビームライフルで牽制して来るウィンダムに狙いを付け、シンは再び機体を加速させた。

 

「この機体のパワーなら行ける!!」

 

加速しながらも、高い運動性能で発射されるビームを回避する。

一瞬の内にウィンダムの懐に入り、握ったビームサーベルで袈裟斬り。

敵機の白い装甲は熱した包丁でバターを切るかのように簡単に破壊された。

貯蔵されたバッテリーのエネルギーが爆発するよりも早く、シンは次の敵に狙いを定める。

 

「もっとだ、もっと来い!! 俺が全部叩き斬ってやる!!」

 

四方から発射されるビームを物ともせず、シンは敵陣の中に突入する。

ウイングゼロの機動力を前に量産機では逃げる事も出来ず、接近されビームサーベルを振るわれれば防ぐ事も出来ない。

ビームサーベルで横一閃。

シールドを構えるウィンダムを何もないかのように分断する。

振り返ると同時にビームサーベルを振り下ろす。

ウィンダムが左右に別れ、次の瞬間にはウイングゼロを炎で包む。

至近距離からの爆発であるにも関わらず、白い装甲にはキズひとつ付いてない。

 

「7時の方向、敵の巡洋艦か!!」

 

モビルスーツの攻撃に混じって、艦艇から強力な主砲がウイングゼロに向けられる。

ビームが届くよりも前に主翼大型バーニアを展開し回避行動に移るシン。

艦艇の援護を受けながら更にモビルスーツが送り込まれて来た。

操縦桿のトリガーを引き、両肩に内蔵されたマシンキャノンを展開するも弾は既に使い切っており、カタカタと音をならして回転するだけ。

 

「弾切れなのかよ。だったら!!」

 

装甲に格納されるマシンキャノン。

シールドのマウントされたツインバスターライフルを向けるシンは、敵の艦艇に狙いを定める。

エネルギー出力は抑え気味にしてトリガーを引く。

発射されるビームはそれでも高出力で、艦艇の機首に突き刺さると内部から爆発し一撃で破壊してしまう。

 

「凄い……この機体ならどんな奴にだって勝てる!! アイツラにだって!!」

 

頭の中に思い浮かべるのは家族を殺した仇であるフリーダムと、自分達を裏切ったアスランの姿。

同時に発動するゼロシステムはシンに倒すべき敵を見せる。

 

「ロゴスを倒す!! そうすればあの2人も倒せる!!」

 

先行するウイングゼロは更に敵機を撃破して行く。

突き出す右手のビームサーベルはウィンダムのコクピットを貫く。

怒りを闘志に変えて戦うシンに、ゼロシステムは更なる力を与える。

 

「落ちろぉぉぉ!!」

 

袈裟斬りするウイングゼロはまた1機、敵機を破壊した。

大量のビームと弾丸、爆発が入り混じる中で、シンは敵の防衛網を崩す為にレーダーに反応する敵機を次々と撃墜する。

パイロットの脳へダイレクトに伝わるビジョン。

それは一種の幻覚を生み出す。

次にシンが見た敵は、ここに居る筈がないフリーダムの姿。

 

「フリーダム!? どうしてこんな所に!!」

 

ペダルを踏み込み加速。

握るビームサーベルで袈裟斬りするも相手の動きは早い。

切っ先は空を斬り、フリーダムが展開したドラグーンが背部を撃つ。

ビームは装甲に直撃し、激しい爆発が機体とパイロットを襲う。

 

「ぐぅっ!! まだ終わってない!!」

 

主翼大型バーニアを展開し更に加速。

再び接近し、右腕を勢い良く振り落とす。

だがフリーダムは左腕のビームシールドでコレを防ぎ、両腰のクスィフィアスが至近距離で展開する。

 

「なっ!?」

 

反応するが既に遅い。

高速で発射される弾丸は再びウイングゼロに直撃し、激しい振動がパイロットに掛かる。

それでもまだ機体は動くし、シンの闘志も衰えては居ない。

 

「今のがビームだったらやられて居た……クソッ!! 舐めやがってぇぇぇ!!」

 

シンは果敢に攻め立てるが、ビームサーベルの切っ先がフリーダムに触れる事はない。

袈裟斬り、振り払い、更に袈裟斬り。

そのどれもが空を斬り、隙を晒してしまう。

フリーダムは武器を構えずとも胸部カリドゥス砲を正面に発射する。

高出力の赤黒いビーム。

左腕のシールドで防ぐシンだが、全く反撃に移る事が出来ない。

 

「何が違う、何が足りない!! これだけの性能を持った機体でも、アイツに勝てないのか?」

 

力の差に嘆くシン。

ウイングゼロの性能を頼りにしてもフリーダムに一太刀浴びせる事も出来ない。

カリドゥス砲を受け切り視界を開けた瞬間、眼前には全ての武装を構えるフリーダム。

 

(間に合わない、死ぬ!?)

 

息を呑み目を見開く。

何本ものビームが一斉に発射され、避ける事も防ぐ事も出来ずに無数のビームの直撃を受けてしまう。

 

「うあああぁぁぁっ!!」

 

ビームの直撃を受けて流されるウイングゼロ。

コクピットでは、肩で息をしながらもなんとか操縦桿を握る手に力を入れるシン。

バイザーを閉じたヘルメットの中では粒状になった汗が幾つも浮いて居る。

 

「はぁ、はぁ、どうなってる? 俺は生きてるのか?」

 

ヘルメットに手を伸ばしバイザーを開け浮いた汗を出す。

混乱しながらも戦闘画面とレーダーを確認すると、フリーダムの姿はもうどこにもなかった。

だが、まだもう1人因縁の相手は居る。

右手にビームライフルを握る赤い機体、ジャスティスが目の前に現れた。

 

「アスラン!!」

 

「もうこんな戦いは止めるんだ、シン!!」

 

「うるさい!! アンタが裏切るから!!」

 

ジャスティスはシールドのワイヤーアンカーを射出しウイングゼロの動きを制限しようとするが、高い機動力と運動性能を駆使してシンは避けながらジャスティスに接近する。

 

「もうこんな……復讐に囚われた戦い方は止めろ!! そんな事をしても、何も戻りはしない!!」

 

「うるさい!! アンタなんかに何がわかる!! 裏切り者のくせに!!」

 

振り下ろされるビームサーベル。

ビームシールドで攻撃を防ぐジャスティスは、右手のライフルの銃口を密着させトリガーを引く。

発射されるビームで爆発が起こり、機体は激しく揺れる。

 

「まだだ、この機体ならまだ戦える!! アイツに勝てるだけの力がある!!」

 

ツインバスターライフルの銃口を向けるシン。

トリガーを引こうと指に力を入れた瞬間、死んだ筈の妹の姿がジャスティスと重なる。

 

「そんな!? どうしてマユが……」

 

「お前が求めて居たモノはなんだ? フリーダムを倒す事か? その為の力か?」

 

「俺は……俺は……グゥゥッ!!」

 

再び機体が激しく揺れる。

呼吸が荒くなり、視界もぼやけ意識が薄れる中で、シンは目の前の敵を見た。

視界に映るのはフリーダムとジャスティスの2機。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ!! 俺が倒すべき敵……俺が求めるモノ……アイツラを倒す力!! それさえあれば!!」

 

ツインバスターライフルの出力を全開にして、銃口を眼前の敵に突き付ける。

力強く引かれたトリガー。

高出力ビームが全てを飲み込まんと発射された。

けれどもそれを遮るのは、味方である筈のルナマリアのインパルス。

 

「ルナ!? なんで、やめろォォォッ!!」

 

ビームに飲み込まれるインパルス。

装甲は一瞬の内にエネルギーの濁流の前に消え去り、ネジ1本として残さずシンの視界から居なくなる。

呆然とするシンは頭を左右に振り目の前の光景を否定した。

 

「そんな……ウソだ!! ジャスティスを……アスランを倒しても、こんな事じゃ……」

 

「勝つと言う事はこう言う事だよ」

 

ゼロシステムが見せる新たなるビジョン。

それは平和な世界を作るを宣言した男、ギルバード・デュランダル。

 

「議長……」

 

「誰がの屍を踏み付ける事で勝ちを得る。時には味方でさえも。そこまでしなければ勝ち取る事は出来ないのだよ。キミはその踏み付けた屍で何をする?」

 

「屍、ルナが!? 嫌だ……嫌だァァァ!!」

 

「ならば何も出来ないまま死ぬが良い。因縁の相手によってね」

 

見ると2丁のビームライフルを連結させたフリーダムがシンを狙って居た。

息を呑み恐怖する。

頭が混乱に体も動かない。

だがビームが撃たれる事はなく、レイのレジェンドがフリーダムへと組み付いて居た。

 

「撃つんだ、シン!! 俺ごとフリーダムを!!」

 

「何で、どうして!! 俺はこんな事をしてまで倒したい訳じゃない!! 僕には撃てない!!」

 

「そうだ、それで良い」

 

「レイ……」

 

目の前から消えるビジョン。

システムの幻覚状態から逃れたシンが見た光景は、敵のウィンダムのコクピットへビームサーベルを突き立てて居た。

 

「今までのは何だったんだ? 俺は何をして居た……」

 

ビームサーベルを引き抜くと、動かなくなった機体が流れて行く。

周囲に漂うのは破壊されたモビルスーツの幾つもの残骸。

現実と幻覚との堺が曖昧な状態ではあるが、前に出過ぎて居るシンは後方部隊に合流する為に操縦桿を動かす。

 

///

 

アークエンジェル、エターナルから発進する2機のモビルスーツ。

フリーダムとジャスティスはミーティアとドッキングすると、先行して敵部隊を叩きに行く。

既にザフトとロゴスの戦いが始まって居る中で、優先すべきはロゴスにレクイエムを使わせない事。

 

「行こう、アスラン。もうこんな事は終わらせないと」

 

「あぁ、ロゴスの暗躍もここで終わらせる。その次はザフトの在り方だ。ラクスが集めた情報、そして俺がウイングゼロで見た未来。デュランダル議長の計画はなんとしても阻止する」

 

「うん。僕達はその為に来たんだ」

 

ミーティアの大型バーニアを点火させ進むフリーダムとジャスティス。

けれどもそこに近づくモビルスーツの反応が1機。

レーダーが捕らえ、戦闘画面に表示される形式番号から、接近して来るのはデスティニーだとわかる。

 

「デスティニー、シンか。まだ俺やキラに執着して居るな」

 

「あまり時間を掛けると攻め込むタイミングな失くなる。強い相手だけど、一気に決めよう」

 

進路変更を視野に入れるキラだが、エターナルから更に2機のモビルスーツが発進した。

加速する2機はドムトルーパー。

ヒルダ機は先行するフリーダムの肩にマニピュレーターを触れさせる。

 

「キラ様、ここは任せて下さい。お2人はダイダロスを」

 

「ですが、あの機体は……」

 

「撃破は無理でも時間稼ぎくらいは出来ます。急いで下さい」

 

「わかりました。気を付けて」

 

ヒルダとマーズにデスティニーを任せ、フリーダムとジャスティスは前線へと向かう。

アークエンジェルとエターナルの防衛を任された2人は、迫るデスティニーをモノアイに収める。

 

「行くよマーズ!! これからの戦いは、全てラクス様の為に捧げる!!」

 

「了解。仕掛けるぞ」

 

メインスラスターを噴射する2機。

青白い炎の線を描きながら、ドムとデスティニーが交わる。

ビームバズーカを構え、ヒルダは先制攻撃を仕掛けた。

 

「ぶっ飛びな、赤羽!!」

 

「戦闘レベル、ターゲット確認。排除開始」

 

太い銃口から放たれる高出力ビーム。

バレルロールを駆使して簡単に回避するヒイロもビームライフルを向けてトリガーを引く。

地上での動きが早いドムだが、宇宙に出てもそれは健在だ。

既存の量産機とは一線を越す性能。

難なく回避するヒルダは更にビームバズーカを撃つ。

 

「相手が新型だろうと関係ないね!! こっちだってロールアウトしたばかりの新型機だ!!」

 

「この動き……パイロットはあの時と同じか」

 

「沈みな!!」

 

次々に撃たれるビームを避けながら、時にはシールドで防ぎながらヒイロもビームライフルを撃つ。

互いに中距離戦を繰り返しながらもマーズのドムが右脇から攻める。

 

「これなら!!」

 

強化型ビームサーベルを振り落とすドム。

瞬時に反応するヒイロは振り向き左腕の実体シールドを構えるが、度重なる攻撃により消耗しており半分に分断されてしまう。

斬られたシールドが漂う中で、使えないシールドを腕からパージしてすぐにマニピュレーターを右肩に伸ばした。

フラッシュエッジを掴むデスティニーは素早く横一閃。

両者を照らす閃光。

展開するビームの刃はビームシールドに防がれる。

 

「舐めてんじゃねぇぞ!!」

 

「マーズ、そのまま押さえな!!」

 

スクリーミングニンバスを起動させ機体前面に赤い粒子を展開するヒルダ機。

強力なバリアを張りながら、接近しつつビームバズーカを撃つ。

ペダルを踏み込むヒイロはマーズ機から距離を離し回避行動に移る。

だが態勢を立て直す時間を与える2人ではない。

 

「逃がすものか!! ジェットストリームアタックで仕留めるよ!!」

 

「OKだ。スクリーミングニンバスを展開させる」

 

バリアを展開する2機のドム。

ヒイロはフラッシュエッジを戻し、背部のウェポンラックから大型ビームランチャーを展開させ、ヒルダ機に強力なビームを発射した。

一直線に突き進む赤黒いビーム。

それでもスクリーミングニンバスはその全てを受け切った。

 

「そんな攻撃に!!」

 

ビームバズーカで迎撃するヒルダにヒイロは素早く大型ビームランチャーを背部へ戻す。

再びフラッシュエッジを掴むと同時に、背中の赤い翼を大きく広げた。

目前に迫るビーム。

だが次の瞬間、デスティニーはそこに居ない。

 

「なっ!? 残像だって言うのかい!!」

 

光の翼を展開して動くデスティニーの動きに翻弄されるヒルダ。

それはマーズも同様で、ビームサーベルを振り下ろした先にあったのはミラージュコロイドが生み出す残像。

 

「早い!?」

 

「敵を挟み込み攻め落とす。戦略としては間違ってない。だが相手の力量を見誤ったな。何より機体の性能を過信し過ぎたのがお前のミスだ」

 

マーズ機の背後に回り込むデスティニーは頭部バルカンでドムの頭部をズタズタに引き裂く。

そしてフラッシュエッジでバックパックを斬り付け爆発が起こる。

姿勢を崩すマーズ機は宇宙の闇へ流されて行く。

 

「お前、よくもやってくれたね!!」

 

「甘い!!」

 

ビームバズーカを投げ捨てるヒルダはビームサーベルを引き抜くが、既に目の前にデスティニーの姿はない。

スクリーミングニンバスを展開するドムに回り込むヒイロはフラッシュエッジで右腕を斬り落とした。

 

「こんな……こんな事が!?」

 

「目標は達成した。次の任務に移る」

 

戦闘能力を失ったヒルダ機を置いてヒイロは流されて行ったマーズ機の後を追う。

残されたヒルダは悲痛の叫びを上げるが、その声は宇宙に消える。

 

「マーズ……マァァァズゥゥゥッ!!」

 

///

 

ミネルバのブリッジでタリアは戦況を分析する。

激しく揺れる艦艇の中、シートに座りながら通信士のメイリンに指示を出す。

 

「モビルスーツ隊を1度帰艦させて。補給が終わった後、再び攻め込みます。月の防衛網を破るまで後少し。各員気を引き締めて」

 

「こちらミネルバ。モビルスーツ隊はただちに帰艦して下さい」

 

出撃した4機に飛ばされる通信。

それを受けてインパルスとレジェンドは指示に従いミネルバへと戻る。

けれどもその中にデスティニーの姿はなかった。

ビームサーベルでウィンダムを斬り落としたシンは、ミネルバに帰艦すると同時にデスティニーの行方も探す。

 

「帰還命令が出てるってのに、アイツは何やってんだ? デスティニーは俺の機体なんだぞ」

 

レーダーと目視で機体を探すシン。

暫く時間が経過した後、戦闘領域から少し離れた場所にデスティニーの反応が見つかった。

ペダルを踏むシンは急いで機体の回収に向かう。

 

(この機体に乗ってわかった。俺はこの機体のパワーに引かれたけれど、戦う力を機械に求めたらダメだ。俺は自分の力で勝ち取る。そして倒すんだ、あの2機を!!)

 

戦闘画面に映るデスティニーの姿が少しずつ大きくなる。

機体の動きは完全に止まっており、ヴァリアブルフェイズシフト装甲もダウンして灰色の装甲になって居た。

 

「どうした? ヒイロ、応答しろ。ヒイロ!!」

 

コンソールパネルに指を伸ばし通信で呼び掛けるシン。

だが機体に目立った損傷箇所は見当たらないにも関わらず、デスティニーから返事は返って来ない。

機体を回収する為に急いで接触するが、動かないデスティニーのコクピットハッチは何故か開放されて居る。

カメラでコクピット内部をズームして確認するも、搭乗して居る筈のヒイロの姿はなかった。

 

「ヒイロ……」

 

ウイングゼロはパイロットが居なくなったデスティニーを抱えてミネルバに帰艦する。

ロゴスの防衛網は確実に崩壊しつつあった。

ザフト軍の猛攻、そしてミーティアとドッキングしたフリーダムとジャスティスの活躍により、ダイダロス基地への侵入経路が見えて来る。

キラとアスランはその段階まで来るとアークエンジェルとエターナルへ帰艦した。

核エンジンを搭載して居ても推進剤や実弾兵器は消耗する為、必ず補給の為に戻らなくてはならない。

モビルスーツを帰艦させたエターナルのブリッジでは、艦長であるラクスとバルトフェルドが戦況を見定めて居た。

 

「戦況はザフト側に傾いたようですね。ですが、わたくし達の目指すモノはその先にあります。ナチュラルとコーディネータ、この戦いの輪廻を断ち切らねば」

 

「あの戦略兵器の第2射は阻止しないとな。中継ポイントが復活する前にダイダロスのジブリールを叩く」

 

「バルトフェルド隊長」

 

「ダゴスタ君、何かあったか?」

 

「前方から不審なモビルスーツが流れてきます。どうしますか、迎撃しますか?」

 

「うん? ちょっと待て、アレは……」

 

ダゴスタの報告でモニターを凝視するバルトフェルド。

そこには居なくなったマーズのドムが居た。

 

「機体が損傷しているな。緊急着艦の用意、医療班も待機させてくれ」

 

ダゴスタに指示を出しドムを収容する為の準備に入る。

損傷するマーズ機は、辛うじて生きて居るバーニアを吹きながらゆっくりエターナルに向かって来た。

頭部は破壊され、メインスラスターも正常に機能しない。

右腕も失くなっており、コクピットハッチもズタズタにされて居る。

そこまで見て、バルトフェルドは異変に気付く。

 

「いや違う!! ダゴスタ、ハッチを閉じろ!!」

 

ボロボロのハッチから僅かに覗く隙間。

そこから見えるパイロットスーツはマーズのモノではない。

それに気付き急いでハッチを閉じようとするが、目前にまで迫るドムはエターナル内部に滑り込んで来た。

ボロボロの機体を壁に擦り付け、火花を上げながらカタパルトを進む。

壁に激突するとドムは動かなくなり機体から火の手が上がる。

「モビルスーツの消火作業に回れ!! 他のクルーは侵入者を逃がすな!! ダゴスタはラクスを頼む、ブリッジは狙われやすい。俺は賊を追う」

 

「了解です。さぁ、ラクス様」

 

「えぇ、お願いします」

 

ダゴスタはラクスを連れて、バルトフェルドは懐から拳銃を抜き侵入者を捕らえる為にブリッジから走る。

 

「チッ!! やってくれるな」

 

ラクスは護衛を付けて自室に向かう。

けたたましく鳴り響く警報音。

その中でも彼女はいつもの様に余裕を持って居た。

 

「ラクス様はお部屋にてお待ち下さい。ここは自分が何としても」

 

「お心遣い、ありがとうございます。ですが私は大丈夫です。ご自分の仕事に戻って下さい」

 

「しかし!!」

 

「バルトフェルドさんにはわたくしから言って置きます。心配はご無用ですわ」

 

悩むダゴスタだが、ラクスに直接言われたのでは拒否出来ない。

心残りはあるが、彼女の指示に従う事にする。

 

「わかりました。ですが何があっても部屋の扉は開けないで下さい。侵入者は必ず自分達が捕まえます」

 

「頼もしい限りです」

 

言うとラクスはダゴスタに背を向けて部屋に入ってしまう。

閉じられる扉、それそ確認してからダゴスタも侵入者の追跡に出た。

けれどもその様子を影で覗く人物が1人。

 

「警護が引いたか。作戦を遂行する」

 

それを見たヒイロは銃を構えてラクスの部屋に足音を消して走った。

周囲を警戒しつつ、壁のパネルを操作してロックを解除する。

自動開閉を機能させず、右手に銃を握ったまま残る左手で重たい扉をゆっくり音を立てずに開けた。

中へ足を踏み入れるヒイロ。

息を殺しながら進む先に彼女は居た。

ラクスは警戒心の欠片もなく、背を向けてソファーに座っている。

こちらに振り向く素振りもない。

ヒイロは握る銃をラクスの後頭部に突き付ける。

 

「動くな」

 

聞こえて来たのはヒイロの声ではない。

鋭く視線を向けた先には、黒く光る銃口が見える。

 

「アスラン・ザラか」

 

「銃を下ろすんだ。キミを撃ちたくはない」

 

こめかみに突き付けられる銃口にヒイロは構えを解き握る銃を床に落とす。

重たい鉄の音が鳴る。

それを聞いて、ラクスはソファーから立ち上がりヒイロに振り向いた。

 

「お久しぶりです、ヒイロ・ユイ。オーブの海岸で出会って以来ですね」

 

「ラクス・クライン」

 

「はい、そうでございます」

 

「何故こんな無意味な事をする? ロゴスはもう保たない。地球連合の組織の枠組みもいずれ失くなる。お前のして居る事は無意味だ」

 

ホールドアップされて居るにも関わらず威圧的に話すヒイロ。

それでもラクスは笑みを浮かべて話を続けた。

 

「えぇ、わたくしもわかっています。ですがデュランダル議長のデスティニープランをこのまま見過ごすわけには参りません」

 

「デスティニープラン?」

 

「アレは人の自由を奪う物です。たとえ今の世界から戦争が失くなろうとも、人々の未来を奪うなどと言う行為を許す訳にはいきません。ですから、わたくしは今ここに居ます」

 

「だがお前達が戦う事で戦争での犠牲は増えていく」

 

「とても悲しい事です」

 

「わかった……」

 

そう言うとヒイロは静かに目を閉じた。

アスランは持って居る手錠をヒイロの手首に掛けようとするが、ラクスがそれを静止する。

 

「待ってくださいアスラン。彼を自由にしてあげてはくれませんか?」

 

「ラクス!? でもヒイロはキミを殺しに来たんだぞ?」

 

「彼は心の優しい方です。お願いします」

 

そう言われてアスランは手錠を外した。

ラクスの計らいで、ヒイロは捕まる事もなくエターナルに居る事になる。




エターナルに侵入したヒイロ。
戦いはこれからどうなるのか? ウイングゼロはどうなるのか?
次回をお待ち下さい。

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