機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第23話 動き出す運命 

アークエンジェルはベルリンでの戦闘の後、海底へと身を隠して居た。

戦闘の最中に鹵獲した機体、紫のウィンダムのパイロットであるネオ・ロアノークは医務室で目を覚ます。

 

「っ!? ったく、どこだここは? 見た事のない場所だな」

 

周囲を見渡す彼は自分の腕に点滴のチューブが繋がってるのを目にした。

医務室には自分しか居らず、心拍数を計測する機械だけが無機質の電子音を鳴らす。

そこでようやく思い出した。

自分がどこに居て、何をして居たのかを。

 

「そうか……あの時、フリーダムに負けた俺はアークエンジェルに。デストロイはどうなったんだ? ステラは……」

 

途中で意識を失ったネオには、ベルリンでの戦闘の結末がどうなったのかを知らない。

インパルスのパイロットであるシンがどう動いたのか、ステラがどうなったのか。

けれども考えてもわかる筈もなく、長時間寝たきりであったが為に空腹が悲鳴を上げる。

 

「取り敢えずメシだな。ここまでご丁寧にしてくれてるんだから、目を覚ました途端に尋問とかはしないだろ。食い物くらい寄こしてくれんだろ」

 

ネオはベッドに用意されたスイッチを手に取りボタンを押し込んだ。

数分もすると、呼び出しコールを聞き付けて誰から医務室の扉を開放した。

ベッドに寝たままの状態で顔だけを向けた先に居たのは1人の少年と、ウェーブの掛かった長髪の女性。

女性は目を覚ました彼の顔を見た途端、瞳から涙をこぼした。

 

「ムウ……生きて……」

 

「ムウ……だと?」

 

感情が溢れだした彼女はネオの胸に抱き付き顔をうずめた。

けれどもネオは状況を把握する事が出来ず、彼女に何をしてあげる事も出来ないままもう1人の少年に視線を向ける。

 

「ご婦人に抱かれるのは嬉しいけどね、そう涙を流されても困るんだが。オイ、そこのボウズ。悪いが何とかしてくれ」

 

「ムウさん、覚えてないんですか?」

 

「覚えてないって何を? それにな、ムウって何だよ?」

 

「何って、アナタの名前じゃないですか!? ムウ・ラ・フラガ、2年前に僕達と一緒に戦った」

 

「知らねぇよ、そんな奴。俺はネオ・ロアノーク。ムウ・ラ・フラガだなんて名前は聞いた事もないね」

 

「そんな……」

 

昔の記憶がない事にキラは愕然とする。

それどころか自分が何者なのかさえ覚えて居ない。

全くの別人と、目の前のムウ・ラ・フラガは言う。

 

「ずっとこうしてるのも悪くはないが、女が泣いてるのを見るのは好きじゃない」

 

「ムウ……」

 

「あ~、取り敢えず落ち着いた方が良い。こんな事をしてても何にもならないしな。それに俺、腹減ってるんだよ。贅沢言わないから食えるモノがあると嬉しいんだが?」

 

ネオの言葉にマリューは返事を返さず、何も言わず口元を手で隠しながら医務室から出て行ってしまう。

瞳から涙は流れたままだ。

残るキラは彼女の背中を見送ると、ネオの顔に向き直る。

久しぶりに見る彼の顔、鼻元には一筋の傷跡。

 

「アナタが寝てる間に少し調べさせて貰いました。アナタの血、DNAは、この艦のメディカルデータと完全に一致してます。今は何かが原因で記憶を失くして思い出せないかもしれないけれど、アナタは間違いなくムウさんです。僕達が知ってるムウさんで間違いないんです」

 

「そうは言われてもね、思い出す以前に記憶にないんだが?」

 

「それでも、アナタはムウ・ラ・フラガだ!!」

 

声を荒げるキラだがネオはそれを感じ取ってはくれない。

いつまでも同じ事は言われていい加減にネオは嫌気がさしていた。

 

「はいはい、わかりましたよ。わかったからメシ、持って来てくれないのか?」

 

「わかりました。少し待ってて下さい」

 

言われてキラも医務室を後にする。

残された部屋で1人ベッドの上で考えるのは、シンとした約束とステラの事。

 

///

 

戦闘を終えたミネルバは修理と補給の為に、ザフトのジブラルタル基地へと入港する。

地球へと降下してから、目的地であるここまでようやく辿り着く事が出来た。

現在、ジブラルタル基地は先のデュランダルの放送もあり、ロゴス打倒の為に戦闘準備を進めて居る。

基地では作業員が慌ただしく動いており、物資や生産されたモビルスーツが次々と艦艇に積み込まれて居た。

あの放送の後、公開されたロゴスのメンバーは各地のレジスタンスや武器を手に取る民衆により次々に捕らえられる、もしくは有無を言わさず殺されて居る。

中でも逃げ出したモノはロード・ジブリールを筆頭にアイスランド島にあるヘブンズベースに逃げ込んだ。

そしてザフト、民衆の手から逃れる為に脱出する準備を進めて居る。

ジブラルタル基地はこのヘブンズベースのすぐ近くに建造されており、彼らを逃さんと大規模な戦闘準備が行われて居た。

シン、レイ、ルナマリアは基地へ上陸出来るようになるまで休憩室に待機し、ミネルバが入港するのを待つ。

シンはここに居ないアスランとヒイロの事が気になった。

 

「ヒイロは営倉入りで、アスランは医務室か。レイとルナは見てたんだろ? 何があったんだ?」

 

「データ採取をして居た。ヒイロが持って来た機体のな。その時に乗って居たのがアスランだ」

 

「だから、それがどうしてあんな事になるんだ?」

 

「上手く口では説明出来ない。けれどもはっきりとしてるのは、普通の人間にはあの機体を乗りこなす事は出来ない」

 

「何か、レイにしてはややこしい言い方だな。あの機体、そんなにピーキーなのか?」

 

「そう言う意味ではない」

 

「ならどう言う意味なんだよ? ルナも見てたんだろ? 教えてくれよ」

 

必要以上に話そうとしないレイの言葉をシンは理解出来ない。

すぐ傍に居る彼女にも質問を投げ掛けるが、ウイングゼロに搭乗した事のある人間はヒイロとアスラン、そしてレイだけだ。

 

「私にだってわかんないわよ。いつの間にかあんな事になって。あの機体、ウイングゼロって言うんだって」

 

「ウイングゼロ……」

 

「艦長からの命令で指示があるまでは誰もあの機体に近づくなって。アスランが目を覚まして、事情を聞いてからでないと。流石にあのビーム砲を所構わず撃たれたらたまったもんじゃないわ」

 

「そうなのか。なら本人に聞くしかないな」

 

「やめといた方が良いわよ。もうすぐ大きな作戦が始まるし、みんなピリピリしてる。変な事してるってバレたら艦長が酷いわよ」

 

ルナマリアの忠告で踏み止まるシン。

けれどもやはり、あの機体はモビルスーツのパイロットとしてどうしても気になる。

そうこうしてる内に、ミネルバはジブラルタル基地へと入港した。

 

『ミネルバ、着艦を確認。作業員は速やかに所定の作業に入って下さい。ミネルバはこれより修理、補給作業に入ります』

 

艦内放送が全域に流される。

ミネルバで動かせる機体はインパルスしかなく、他の機体は損傷により大規模な修理をしなければ動かす事は出来ない。

そのインパルスも機体構造のお陰で何かをする必要はなく、3人はその場に留まった。

 

「ジブラルタル入って、次はどうすんのかな? 動ける機体はインパルスしかないし、作戦までにレイやルナの機体を間に合わせてくれるのか?」

 

「さぁな、だが先日の議長の言葉に沿った形での作戦が展開されるだろう。今の俺達に出来るのは、その時に備えて万全の態勢を整える事だ。その為に最善の事をする」

 

「そんな先の事考えるなんて、シンらしくないわよ」

 

「良いだろ!! 俺だって考える事くらいあるんだ!!」

 

「議長はベルリンの惨劇を見てロゴスを撃つと決心なさったのだろう。あの悲惨な状況を見られて」

 

レイの言う通り、ベルリンでのデストロイの被害は甚大だ。

日に日に死者は増え、未だに復旧の目途も立たない。

勧告もなしに行われた無差別攻撃に親や兄弟を亡くした人がたくさん居る。

2年前の大戦で家族を亡くしたシンには、その気持ちが良くわかった。

流される血と涙、悲鳴と叫びは残されたモノの心の中に深く刻まれる事だろう。

 

「議長が言うロゴスを撃てば、この戦争は終わる。もうこんな悲劇は繰り返しちゃいけないんだ。これ以上、ステラのような人を増やさない為にも、俺はロゴスを撃つ。最後まで戦い抜く。それが、この戦争を終わらせる唯一の方法だから」

 

確固たる決意を言うシン。

その鋭く赤い瞳に、ルナマリアはいつの間にか自分より成長した事に驚く。

 

(いつまでも子どもみたいに思ってたけど、少しは成長したのかな)

 

『シン・アスカ、アスラン・ザラ。両名は速やかに3番格納庫に来られたし。繰り返す。シン・アスカ、アスラン・ザラ。両名は――』

 

「何かしら? 急に呼び出し、しかも格納庫だなんて」

 

「取り敢えず行くしかないだろ。でもアスランは……」

 

「シン、俺も行こう。誰かはわからないが事情を説明する必要はある。1人で行くよりは良い筈だ」

 

「そうだな。3番格納庫か……レイ、行こう」

 

言うと2人はミネルバの休憩室から出て行く。

残されたルナマリアは設置された自販機のボタンを押し、紙コップにコーヒーが注がれるのを待った。

 

///

 

エレカに乗り放送で言われた3番格納庫にまで来たシンとレイ。

モビルスーツの搬入作業に忙しい事もあり、周囲からは甲高い機械音がひっきりなしに響く。

そこでは銃を装備した護衛兵が2人待機しており、シンがすぐ傍にエレカを止める。

 

「ここだよな?」

 

「間違ってはない。降りるぞ」

 

運転席から見上げる格納庫はモビルスーツが何機も入れる程に巨大で無骨だ。

エンジンを止めドアを開けて降りる2人は待機する護衛兵の所にまで歩く。

 

「シン・アスカだな。アスラン・ザラはどうした?」

 

「彼は現在、戦闘により負傷して動ける状態ではありません。代わりに私が来ました」

 

「名前は?」

 

「レイ・ザ・バレルです」

 

「わかった。少し待て」

 

言うと護衛兵は通信機を手に取りどこかに繋げ後ろを向いてしまう。

声を聞き取り会話内容を盗み聞きする事は出来ず、2人は背を向ける護衛兵の通信が終わるのを待った。

 

「わかりました。レイ・ザ・バレル、許可が降りた。シン・アスカと共に内部に入る事を許可する」

 

「ありがとうございます。それで、中には誰が?」

 

「行けばわかる。くれぐれも失礼のないように」

 

護衛兵は道を開け、シンとレイは言われた通りに格納庫内部へと歩いて行く。

運搬作業の行われてる他の格納庫とは違い、この3番格納庫は驚く程に静かだ。

薄暗い通路を進む2人、扉を抜け進んだ先に居たのはプラント最高評議会議長のギルバード・デュランダル。

シンはデュランダルを目にすると驚くと共に敬礼を取る。

 

「お久しぶりです議長。先日のメッセージ、感動しました」

 

「ありがとう、私もキミの活躍は聞いているよ。良く頑張ってくれた」

 

「ありがとうございます」

 

シンは喜んで返事を返す。

隣に立つレイは敬礼を解くと、この場にアスランが居ない事を説明する。

 

「お久しぶりです、議長」

 

「レイ、キミも良くやってくれて居る。ミネルバには随分無理をさせてしまった」

 

「いえ、命令を遂行するのが我々の仕事です。アスランの件なのですが」

 

「あぁ、彼にも来るように伝えたのだがね。負傷したと聞いたが大丈夫なのかい?」

 

「はい、今の所は。後で詳しく報告させて頂きます」

 

「頼む。さて、もう知っている事だと思うが、私は全世界にロゴスの存在を露呈させた。これにより出口の見えなかったこの戦争も、ようやく終わらせる事が出来る」

 

「自分は議長の言葉を信じます。一刻も早く、この戦争を終わらせましょう」

 

「期待してるよ、シン・アスカ君。さて、まだ話したい事はいろいろあるが、まずは見てくれたまえ」

 

デュランダルが視線を向ける先には2機のモビルスーツが立って居た。

薄暗い格納庫では詳しい全貌を見る事は出来ないが、数秒後にはライトが照らされる。

用意されて居たのは、見た事のない新型モビルスーツ。

2人はそれを見て息を呑んだ。

 

「ZGMF-X42Sデスティニー、ZGMF-X666Sレジェンドだ。激化する戦闘に合わせて開発された新型モビルスーツ。先日のベルリンの件と良い、連合はモビルアーマーの開発に力を入れて居る。モビルアーマーはコストは掛かるが、単機で戦況を変えられるだけの戦闘力がある。デスティニーはそれに対抗すべく作られた機体だ。この機体はシン・アスカ君、キミに乗って貰う」

 

「自分にですか? ですがインパルスは?」

 

「インパルスはレイかルナマリア君に乗って貰う。デスティニーはキミの今までの戦闘データを組み込んで調整されて居る。キミの為の、新しい機体だ。使ってくれるね?」

 

「俺の……新しい機体……」

 

デスティニーを見上げるシンは喜びの表情を浮かべる。

一方のレイはレジェンドと呼ばれる機体に因縁めいたモノを感じ取った。

 

「議長、もう1つの機体。レジェンドのパイロットは?」

 

「レジェンドにはアスランに乗って貰う。ここに呼んだのは最後の微調整をして欲しかったからだ。デスティニーは出来るが、レジェンドは彼の回復を待つしかない。この新しい機体、デスティニーとレジェンドが新しい時代を切り開く」

 

「議長にはそれが出来る。私達はその為に戦います」

 

「戦いを終わらせる為に戦うと言うのも矛盾した話だがね。しかしこの戦争が終われば、私は人々が幸福に過ごす事の出来る世界を作って行く。シン・アスカ君、デスティニーをキミに託す」

 

デュランダルの綺麗な言葉にシンは心を奪われる。

 

「レイ、行こうか」

 

「はい、議長」

 

役目を終えたデュランダルはレイと共にこの場から立ち去ってしまう。

 

///

 

格納庫から移動したレイは、デュランダルの為に用意された部屋まで来た。

デュランダルはソファーの上に腰を降ろし、レイも向かいに座る。

レイは口を開けると、アスランが来なかった理由を話し始めた。

 

「ギル、アスランは危険です」

 

「穏やかな話ではないな。どう言う事だ?」

 

「あの男は2年前の大戦でアークエンジェルと共に行動してました。その時の感情をまだ引きずって居ます」

 

「そうか、期待して居たのだがね。やはりダメかな?」

 

「彼のアークエンジェルとフリーダムに対する思いは強いです。このままでは裏切る事も」

 

「裏切り……そうなってしまうか。パイロットとしての技術がどれだけあろうと、彼もまた1人の兵士でしかない。戦いが終わった後の世界を作るのは政治家だ。余計な事を考え過ぎるのは良くない。そのせいで、折角の力を充分に使えない。フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトと言ったか?」

 

「はい、奴が居なければこうはならなかったかもしれません」

 

「彼との出会いが不幸と言う事か。今更その運命は変えられない」

 

アスランの今までの経緯はデュランダルに筒抜けだった。

2年前から今に至るまで全て。

ミネルバに乗船してからも、フリーダムを意識するあまり戦果を上げられなかった事も。

けれどもそれさえなければアスランはパイロットとして最上位の存在だ。

そんな彼が再びザフトを裏切り敵に付けば、こちらの損害は計り知れない。

 

「アスランの事は私に任せて貰えますか? こちらの不利益になるような事はさせません」

 

「頼む。私はこれからの事で忙しい。後で艦長にも伝えるが、ミネルバには宇宙へ行って貰う」

 

「宇宙……ヘブンズベースの攻略は?」

 

「他の部隊に任せる。ミネルバはもしも逃げられた時の為に宇宙へ先回りして貰う。だがそれも、修理と補給を終わらせた後だ。もしも逃げられ、その上間に合わなかったら、また別の指示を与える。レイ、アスランの事は頼んだ。罪状はある、拘束も許可する。裏切りだけはあってはならん」

 

「了解しました」

 

立ち上がるレイはデュランダルに敬礼する。

向かう先は、アスランが眠るミネルバの医務室。

 

///

 

ゆっくり開けたまぶたから光りが差し込む。

目を覚ましたアスランは自身の身に何が起こったのかを思い出す。

 

(そうだ、俺は……あの機体に搭載されたシステムなのか? どちらにしても、ここにはもう居られない。アークエンジェルと合流する。それしか)

 

白いベッドから起き上がるアスランは急いでカーテンを開けた。

出た先には酸素マスクを付けて眠るステラと軍医の姿。

音に気が付いた軍医は振り返り、彼の様態を確かめようとする。

 

「あぁ、目が覚めたのか。気分はどうだい?」

 

「もう大丈夫です。急ぐので失礼します」

 

「急ぐって、艦長から――」

 

軍医の話も聞かずにアスランはこの場から立ち去ろうとする。

扉を開け通路に出た先で待って居るのは、鋭い視線を向けるレイの姿。

 

「アスラン、気が付いたのですね。今回の件、覚えて居ますか?」

 

「ルナマリア、彼女には悪い事をした。それに関係のないクルーにも。俺がしてしまった事は自覚して居る」

 

「ならばどうするべきか、わかる筈ですね?」

 

「レイ、キミもあの機体で見たのか?」

 

探るように、アスランは静かに問い掛ける。

これ以上の言葉は必要なく、レイもその意味を理解して居た。

 

「見ましたよ。アナタは――」

 

「やはりお前は――」

 

レイは素早く手を腰にホルスターに伸ばし銃を抜くと銃口をアスランに向けた。

アスランも殺気を感じ取り素早く走り抜ける。

 

「俺の敵だ!!」

 

銃声が響く。

アスランは発射される弾丸を避け、銃を構えるレイに組み付いた。

2人分の体重が背中に掛かり背後から倒れるレイ。

衝撃が体に伝わり、握ってた銃を手放してしまう。

レイよりも早くに態勢を立て直すアスランは、逃げる為に通路を走る。

 

「ぐっ!! 逃がすモノか!!」

 

 

投げ出された銃を拾い再び銃口を向けるが、アスランの姿は通路の角へと消える。

追い掛けるレイ。

だが角を曲がった先には幾つかの扉があるだけで誰の姿もない。

 

「中に隠れたか。だが武器もない状態では袋のネズミだ」

 

壁に設置されたコンソールを叩き1つ目の扉を開放させる。

中に光りはなく、ベッドが1つ用意されてるだけ。

レイは銃口をベッドに向けトリガーを引くと、マズルフラッシュが部屋を照らす。

弾丸により穴が開くがそれだけだ。

室内に入り込み逃げ込んでないか探すレイだが、人が隠れてる様子はない。

 

「ここには居ない。次だ」

 

部屋から出るレイはすぐ隣の部屋のコンソールパネルに指を伸ばす。

アスランは逃げ込んだ部屋の中で次の行動を模索して居た。

中は殺風景で、配給されたばかりのように何もない部屋。

唯一あるのは部屋の隅に置かれたカバンだけ。

中を確かめると、そこにあったのは何丁かの銃とマガジンだった。

 

「誰の部屋なんだココは? でもこれで対抗出来る」

 

銃を右手に持ち、左手にはカバンを持つアスランは警戒しながらも扉を開放させる。

出ると同時に銃を構え、視線の先には同じ様に武器を構えるレイの姿。

生死の境目に立たされ、躊躇なく引かれるトリガー。

レイが放つ弾丸は髪の毛をかすめる。

もう1つの弾丸は一直線にレイの元に向かい、握ってた銃に直撃した。

衝撃に銃は弾け飛び指を挫く。

 

「ぐっ!? アイツめ!!」

 

(あのシステムを見たのなら、レイにとって俺は敵だ。そして俺にとっても)

 

アスランはミネルバから、ジブラルタル基地から脱出する為に走る。

レイは一旦追跡を諦め、壁に設置された通信機で司令本部に繋げた。

 

「脱走だ、裏切り者が脱走した!! シェルターを閉鎖、モビルスーツデッキには行かせるな!!」

 

叫ぶレイ、数秒後には艦内全域に警告音が響き渡る。

走るアスランはゼロシステムで次に起こる事を既に見ており、モビルスーツデッキには向かわずミネルバから降りた。

今なら大量にモビルスーツは用意されており、隙さえ付ければ簡単に奪う事が出来る。

外は闇に包まれており、激しい雷光と雨が降り注ぐ。

 

(すぐに追手が来る。モビルスーツを奪うなら水陸両用、空からだと逃げられない。ゾノを探すんだ)

 

システムで未来を見た恩恵は大きい。

この状況になれば自分に味方するモノなど居らず、目に映る人間全てが敵だ。

それでもアスランは的確に逃走ルートを見定め、脱出に使うゾノを見つける。

ワイヤーに足を掛け、開放されたハッチにまで上昇するとコクピットに乗り込む。

流れるようにコンソールパネルを叩きOSを起動させバッテリー電力を供給。

ピンクに光るモノアイがギョロリと動き、周囲の状況を視界に入れる。

 

「まだ防衛部隊は展開してないな。今なら逃げられる」

 

ハンガーを解除し動き出すゾノ。

丸みを帯び緑の装甲をした機体は海に向かって歩き出す。

モビルスーツはまだ展開されてないが、それでも武器を携帯した兵が異常に気付きライフルの向けて来た。

 

「こちらB-19区画。脱走者を発見した。ゾノを強奪、海から逃げるつもりだ。至急、応援を要請する」

 

「撃ち方用意!! 撃てぇ!!」

 

無数に飛び交う弾丸。

けれどもモビルスーツの前には豆玉も等しい。

居場所を知られた以上、長居は無用。

操縦桿を両手に握り機体を操作するアスランだが、レーダーに新たな反応が映し出される。

 

「追手が来たにしては早過ぎる。何だ、データにない機体」

 

現れたのは血の涙を流し、赤い翼を持つ機体。




シンに与えられて新型機デスティニー、どのような活躍を見せるのか?
アニメとは少し違う展開、アスランの動向は如何に?
ご意見、ご感想お待ちしております。

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