機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

18 / 33
第18話 燃えるベルリン

ミネルバに着艦したコアスプレンダー。

けれどもコクピットから出たシンを待って居たのは武装した警備兵。

いくつもの銃口を向けられ、無抵抗の意思を示すべく両手を上げる。

 

「シン・アスカ、軍法違反の規定に乗っ取りキミを拘束する」

 

(ッ!! 当然か……)

 

覚悟の出来て居たシンは言い訳すらせず黙って頷いた。

近づく警備兵は手錠を持っており、何も言われずともシンは両手を手錠にはめられる。

肌から伝わる鉄の感触は冷たい。

けれどもステラを連合に返した事を後悔はして居なかった。

 

「艦長がお呼びだ。付いて来い」

 

「はい……」

 

武装した警備兵が前方と後方でシンが逃げれないように挟みながら、タリアが待つ艦長室に向かって歩き出すシン。

誰も居ない通路では足音が良く響く。

緊迫した空気を感じながらも恐れは抱かない。

艦長室の前にまで来たシンは警備兵と共に立ち止まる。

 

「少し待て」

 

前の警備兵がそう言うと壁のパネルを触り、中に居るタリアに音声を繋げた。

 

「シン・アスカを連行しました」

 

『宜しい。入室を許可します』

 

「了解です」

 

音声が途切れると目の前の扉が自動的に開放された。

警備兵に続いて中に入るシン、そこには鋭い視線を向けるタリアがデスクに座って居る。

敬礼を済ませた2人はシンが逃げないように扉のすぐ前で待機した。

何も言わず1歩前に出る。

 

「アナタのした事は重い軍機違反です。無断でのコアスプレンダーの使用、連合の捕虜を脱走させ、更には敵と接触を図った。これがどう言う事かわかっていて?」

 

「はい、覚悟は出来てます」

 

「状況はレイとヒイロから聞きました。戻って来た事だけは褒めてあげる。でなければ次にアナタを見た時には銃を向ける事になって居た。何故こんな事を?」

 

「俺は彼女を助けたかった。それだけです」

 

「それがどう言う事態を招くのかわからない訳ではないでしょう?」

 

「ですがあのままではステラは衰弱して死んでしまう。治療する術がない以上、コレしか方法はありませんでした」

 

シンの言葉にタリアは怒りをあらわにし、握りこぶしでデスクを叩き付けた。

鈍い音が室内に響き、束ねられて居た書類がヒラリと床に落ちる。

 

「彼女は連合の兵士であると同時にエクステンデッドなの!! アレだけの戦闘力を持ったパイロットがまた戦場に投入されれば、こちらにも大きな被害が及ぶ!! シン、アナタは自分だけでなく味方を危険に晒したのを自覚しなさい!! この事は評議に掛けます」

 

「軍人として考えれば艦長の言う事が正しいです。ですが自分は人として彼女を助けたかった。そのせいでどれだけのリスクが出るのかはわかってるつもりです。僕の……僕の弱さです」

 

「ッ!!」

 

鈍い音が響く。

下唇を噛み締めたタリアはまたデスクを叩き付けた。

激怒する彼女は声を張り上げながらシンに叫び、艦長室から出て行かせる。

 

「営倉入りを命じます!! 指示があるまで何があろうと出る事は許しません!! 連れて行け!!」

 

下された裁決。

シンは口を閉ざしたまま頭を垂れ、もう口を開く事はない。

歩を進めるシンはゆっくりと艦長室から出て行き、レイとヒイロも居る営倉に向かって歩き出した。

1人になるタリアだが、静かになった部屋の中ではまだ腸が煮えくり返る。

 

(人として……道徳的にはそうかもしれないけれど、それが出来ないなら軍に入るんじゃない!! こんな……こんなバカげた事を!!)

 

閉鎖された艦長室からはまた鈍い音が聞こえて来る。

警備兵に連れられて歩く事数分、営倉の牢屋前まで来たシン。

周囲を見渡すと、既にそこにはレイとヒイロの姿があった。

2人は視線を向けるだけで声を掛ける事はなく、黙ってシンは冷たく暗い牢屋の中に入れられる。

警備兵は牢屋の扉にロックし、中からは絶対に出られないようにした。

 

「軍規に乗っ取り、食事は1日に3回出す。何か聞く事はあるか?」

 

「いいえ、何も」

 

「良し、手を出せ」

 

鉄格子の隙間から手錠に繋がれた両手を出す。

途中で暴れたりしないよう手首をがっちりと掴み上げ、もう1人が手錠のロックを解除した。

自由になった手首を軽く撫でたシンは設置されて居るベッドに背を預ける。

明かりもない、真っ暗な天井を見上げて、ポツリと呟く。

 

「レイ……ヒイロも……ありがとう」

 

「彼女は無事に引き渡せたのか?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「ならそれで良い」

 

「でも……本当なら俺1人で良かったんだ。レイまでこんな事に付き合わなくても」

 

「違うぞ、シン。これは俺がやりたいと思ったからやっただけだ。お前は悪く無い。気にする必要もない」

 

「レイ……」

 

レイの言葉に安堵するシン。

だがすぐ近くの牢屋に幽閉されて居るヒイロはステラが連合に戻った事を危惧して居た。

 

「安心するのはまだ早い。あの女はミネルバに長く居すぎた。衰弱した体が回復しなければ処分される可能性がある」

 

「処分って!? 約束したんだ。ステラを助けてくれるって。ステラは戦いをするような子じゃない、そう約束した!!」

 

「信じるのは勝手だが、現実を直視する覚悟は持て。エクステンデッドを開発するには時間も金も掛かる。連合はお前のようにあの女を人間としては扱わないだろう。戦場で戦う事しか生きる術はなく、使えなくなれば捨てられる」

 

「まるで知ってるみたいに言うんだな」

 

「そうだな……」

 

「ステラは自分の意思でエクステンデッドになった訳じゃないんだ。俺みたいに望んで軍に入ったのとは違う。お前はあのまま死んだ方が良いって言うのか?」

 

「そうしたくないから助けたんだろ、お前は? 混沌とする時代の中で正しい道を進む事は難しい。なら最後は自分の意思を信じるしかない。シン、お前がそうしたいと思ったのならそれで良い。俺はこれ以上、何も言うつもりはない」

 

ヒイロの言葉をシンは素直に受け止めた。

死と隣合わせの日々、その中ではタリアが言った言葉もヒイロが言う言葉は正しくはある。

だがシンの感情も決して間違ってはない。

矛盾が蔓る戦場で戦う兵士が答えを導き出すのは難しかった。

 

(覚悟……マユやみんなが死んだ事も、トダカさんを殺してしまった事も、またステラと戦うかもしれない事も、全部受け止めて正しい道を進む。その為の力を俺は持ってる筈だ。俺はもう迷わない!! 突き進む!!)

 

赤い瞳は今まで以上に力強い。

営倉に入れられて数時間、ヒイロは片手に持てるサイズのプロジェクターを取り出し、壁に向かって光りを当て内容を閲覧して居た。

秘密裏にデータ化して持って来て居たのは取り返したガイアのマニュアル。

突然の光りにレイは視線を向けヒイロが囚われて居る営倉の中を覗く。

ヒイロはただ黙々とマニュアルを頭の中に入れて居た。

 

「ガイア? 乗るつもりか?」

 

「何かが起こった時の為に最善の事をしてるまでだ」

 

「そうか……そうだな。いつまでここに入れられるかはわからない。最悪の場合もあるかもしれない。だがその時に備えて、いつでも動けるようにはして置いた方が良いか」

 

黙々とデータを取り入れるヒイロ。

明かりもない営倉の中ではプロジェクターの光りだけが溢れ出すが、突如として来訪者が現れる。

咄嗟に握ってたプロジェクターを隠すヒイロ、シンとレイが向けた視線の先にはアスランが居た。

緊張感が走る中、アスランは何も言わずにシンの牢屋の前にまで来るとゆっくりと口を開ける。

 

「釈放だ」

 

「え……どうして?」

 

「釈放だと言ったろ。今から開ける」

 

ポケットの中からカードキーを取り出したアスランは鉄格子のロックを解除した。

不信に思いながらもベッドから立ち上がるシンは開放された牢屋の中から外に出る。

レイ、ヒイロも同様に釈放され、3人は重罪を犯したにも関わらず数時間で営倉から開放された。

アスランは3人から視線を浴びながらも自由にするとその理由を説明する。

 

「デュランダル議長が手を回してくれた。今までの功績を考慮し、今回の事は不問にするそうだ」

 

「議長が?」

 

「あぁ、何を考えてなのかは理解出来ないが。普通ならこんな事にはならない」

 

「癪に障る言い方ですね。もっと閉じ込めて置きたかったんですか?」

 

「そうじゃない。だが……」

 

「議長はアンタより俺の力を信用してるって事じゃないですか? そうじゃなかったらアンタに任せてる筈だ」

 

「シン、力だけが全てではない。確かにお前は強くなった。でも力だけでは何も解決しない。今回の事だってそうだ。彼女を連合に引き渡した所で根本的な解決には繋がってない」

 

「だったらステラはあのまま衰弱死させれば良かったのですか? 敵味方に分かれてるから容赦するなと?」

 

「それは……」

 

アスランにも思いがある。

2年前、カガリと初めて出会った時は敵と味方に分かれて居た。

レジスタンスとしてザフトと戦ってた彼女をアスランは殺す事はせず、後に志を同じくし連合とザフトと戦う事になる。

シンがステラを返した事が許される事でないのなら、あの時カガリを生かした事も政治的に見れば許される事ではない。

その事を思えばシンの言葉に強く言い返す事は出来なかった。

 

「俺に偉そうに言うのなら連合と、オーブと戦って下さいよ!! 敵として向かって来る相手を倒す。その為の俺達だ。それが出来なかったアンタの言葉なんて聞く気になれませんね!!」

 

「っ!?」

 

何も言い返せないアスラン、言い放ったシンは力強く歩き営倉を後にする。

 

///

 

損傷したミネルバの修復の為に停泊して3日。

戦闘もなく、修理の目処も立って来た艦内で通信士であるメイリンは休暇を申請した。

購入したが時間がなく見れなかったラクスの映像ディスクを流し、興奮した様子でモニターを見て居る。

 

『みんな~、今日は全力で楽しんで行ってね!!』

 

「ラクスさま~!! やっぱりいつ見ても素敵!!」

 

モニターの向こう側のラクスに向かって歓声を上げるメイリン。

甲高い声は部屋中に響き渡る。

けれども彼女の部屋は共同部屋であり、もう1人の住人は耐え切れず怒りをあらわにした。

 

「メイリン!! 見るのは良いけど静かにして!!」

 

「だって~」

 

「だってじゃない!! こんなんじゃ治るケガも治んないわよ!!」

 

姉であるルナマリアは頭に包帯を巻きながらも大声を荒げる。

それでもまだスピーカーから流れる大音量の音楽は空気を揺らして居る。

メイリンも言われても尚、握ったリモコンから音量を下げる気配は見せなかった。

 

「ようやく取れた休暇なんだから好きな事やらせてよ」

 

「だからって限度ってモンがあるでしょ!! せめてヘッドフォン付けるとか」

 

「部屋にあるヤツ安くて音質が悪いんだもん」

 

止める気のないメイリンの態度にルナマリアも我慢の限界だった。

怒りに震える体、けれどもケガをした今の状態では満足に動かす事も出来ない。

考えた彼女は徐ろにテーブルの上に置かれたガラス製のコップを手に取り、ラクスの映像が流れるモニターの前に仁王立ちした。

 

「あぁ、そう!! これじゃ埒が明かない。今すぐにコレを消さないならコイツでモニター叩き割る!!」

 

「う゛えぇ!? そんなに怒らなくてもお姉ちゃん。テレビも見れなくなっちゃうよ。冗談……だよ……ね?」

 

ルナマリアの怒る瞳からは凄みが見えた。

それを感じ取るメイリンは握り締めたリモコンでゆっくりとモニターの電源を切る。

流れてた映像も消え、部屋の中には静寂が漂う。

けれども冷めぬルナマリアの怒り、無言の圧力。

耐えかねたメイリンは渋々、ラクスの映像ディスクを持ち自室を後にした。

ミネルバの通路に出ると修理作業の甲高い音が耳に入って来る。

パッケージを抱いた彼女はどうすれば良いかと悩む。

 

「この感じだとヨウランやヴィーノは仕事だろうし、アスランさんにこんな事頼めない。シンとレイも営倉から出たばかりだし頼みにくいなぁ……そうだ!!」

 

考えが決まったメイリンは通路を走り出した。

向かう先はそう離れておらず、居住スペースのヒイロの部屋。

数分で部屋の前にまで辿り着いた彼女は壁のパネルに指を伸ばしベルを鳴らした。

 

(ヒイロなら前にも一緒に見たし大丈夫な筈!!)

 

根拠もなく扉の前で本人が出るのを待つメイリン。

数秒経過すると内側からロックされたドアが解除され中からヒイロが現れた。

 

「何をして居る?」

 

「ヒイロ、お願い!! 部屋に入れて!!」

 

言いながらも足を1歩前に出し既に室内へ足を踏み入れて居る。

触れる程に近づく彼女にヒイロはにべもなく呟いた。

 

「好きにしろ」

 

「ありがとう、ヒイロ!! あの~、それで1つお願いが~。出来ればモニター使わして欲しいんだけど……」

 

部屋に入れてくれた事に感謝するメイリンだが、それだけでは目的は達成出来ない。

申し訳なさそうに言う彼女の言葉尻は消えるように小さい。

更なる要求にもヒイロはいつもの態度のまま、鋭い視線を向けて静かに応えた。

 

「勝手にしろ」

 

「ありがとう!! じゃあ借りるね!!」

 

許可を受けたメイリンは顔を輝かさせると部屋主よりも早くに奥へと進んで行く。

ヒイロも少し遅れて後ろから続いた。

室内は割り当てられた時のまま何も変わった所はなく、私物と呼べるようなモノは殆ど目につかない。

だが今のメイリンにはそんな事は関係なく、備え付けられたモニターの前にまで来ると素早くパッケージを開けディスクを挿入した。

 

「ねぇ、ヒイロも一緒にみ……って、何してるの?」

 

興奮した様子のメイリンが振り向くと、ヒイロはイスに座り作業を進めて居た。

気になった彼女は傍に近寄り、手に何を持ってるのかを覗く。

 

「テディベア? もしかしてヒイロが作ったの!?」

 

似合わない組み合わせに素っ頓狂な声を上げるメイリン。

ヒイロは裁縫道具を片手にジッと熊の出来栄えを見て居ると、そっとテディベアをメイリンに差し出した。

「欲しければ持って行け。それは失敗した」

「失敗って……こんなに上手に出来てるじゃない。良いの、貰って?」

「良いと言ったろ」

ヒイロの作った人形は店で売ってるモノのように精密に作られて居た。

片手で持てる程の小さなサイズ。

生地のホツレなどもなく、製品として売り出しても問題ない程に

失敗作の理由を語らない為にメイリンにはソレがわからないが、受け取ったテディベアを喜んで腕に抱える。

そんな彼女の様子を見る事もなく、新しくもう1体目を作ろうと生地に手を掛ける。

が、ヒイロの腕は強制的にメイリンに引っ張られてしまう。

 

「じゃあ一緒にラクスさまのコンサートを見よ!! 今度のも凄いの!! コレは--」

 

ヒイロの意思とは関係なく、メイリンが持って来たラクスのコンサート映像を3時間以上も見せられる事になる。

普通なら文句の1つでも溢れるだろうが、ヒイロは淡々と流される映像を眺めて居た。

 

///

 

満足したメイリンはパッケージを手に持ち、部屋のドアの前に立って居る。

もう片手には受け取ったテディベアを持ちながら。

 

「今日はありがとうヒイロ。テディベア、大事にするね」

 

「そうか……」

 

「また来るから、その時はよろしくね!!」

 

そう言って笑顔でルナマリアの待つ自分の部屋に帰って行った。

ヒイロは暫く通路で彼女の背中を睨み付けたが、何も言わずに部屋の中へ戻る。

艦内ではライトが点灯され、強化ガラスの向こうに見える景色は真っ暗で何も見えない。

歩いて戻った自室の中では、姉のルナマリアが帰りを待って居た。

 

「遅い、どこに行ってたの?」

「ヒイロの部屋でラクス様のコンサートの続きを見させて貰ってたの。お姉ちゃんが見せてくれないから」

嫌味を込めて言うメイリンだが、ルナマリアはその異変に気づく。

「どうしたの、その人形?」

「ヒイロに貰ったの。なんか失敗しちゃったんだって」

「こんな上手に作ってて失敗、ね~」

テディベアを見てそう呟くルナマリアはある結論を見い出す。

「普通こんなのを失敗した、なんて言ってあげたりしないわよ」

「それってつまり?」

「さぁ~、自分で考えなさい。」

 

///

 

1週間も使用して何とか艦の修復を終わらせたミネルバに新たな命令が下る。

ドイツの首都、ベルリンに連合軍の巨大モビルアーマーが出現し無差別に街を攻撃し甚大な被害が出て居た。

首都を防衛する為にモビルスーツを出撃させるが、ザムザザーと同じ陽電子リフレクターに防がれダメージは通らない。

モビルアーマーの大火力の前に通常のモビルスーツでは歯が立たず、これを倒す為ミーティングルームで作戦会議が開かれた。

 

「見ての様にこのモビルアーマーは陽電子リフレクターを装備しており通常のビーム兵器は効果がない。そこでヒイロのグフでこれをかく乱、その間にシンのインパルスで接近戦を仕掛ける」

 

ミーティングルームではアーサーが作戦の概要を説明して居た。

シンのインパルスとヒイロのグフしか満足に動けるモビルスーツはない為、ミーティングルームには2人しか居ない。

戦う覚悟を決めたシンはいつもより熱心にミーティングに取り組んでおり、入手した敵モビルアーマーの戦闘データと映像を頭の中に取り込む。

 

「取り返したガイアは?」

 

「ガイアは空中で活動出来ない。これだけ広範囲に攻撃出来る機体だ。地上部はボロボロだろう。行動も制限される場面が出て来る。そうなれば圧倒的不利になる。故に今回は空中でも活動出来るインパルスとグフのみで作戦を行う」

 

納得したシンは頷きまた視線を映像に向ける。

一方ヒイロはモビルアーマーがビームを弾く映像を見ると椅子から立ち上がり、何も言わずにミーティングルームを出ようとした。

当然、アーサーは無断で出て行こうとするヒイロを高圧的に呼び止める。

 

「ヒイロ、どこへ行くつもりだ? まだミーティングは途中だ」

 

「ゼロが必要になった」

 

「はぁ? ゼロ?」

意味不明な単語に困惑して居るとヒイロはアーサーを無視して出て行ってしまう。

「おっ、おい!? まったく、またかよ~。艦長に怒られるのは俺なんだぞ」

アーサーは涙目になりながら地面にしゃがみ込み頭を抱えた。

1人ミーティングルームを後にしてヒイロはモビルスーツデッキに向かって真っ直ぐに進む。

デッキではまだ修理途中のザクとセイバーが横たわっており、その中でグフとは違う目的の機体を探す。

回収したガイア。

損傷箇所は少なかった為機体は万全の状態で整備されており、ヒイロはハッチを開放させコクピットに乗り込んだ。

流れるようにスムーズな動きでコンソールパネルを叩き、OSを起動させバッテリー電力を供給させる。

 

「システムオールグリーン。機体に問題なし」

 

ツインアイに光りが灯りヴァリアブルフェイズシフト装甲が灰色から黒に変わる。

突然の出来事に整備班は動揺を隠せない。

特にヨウランは何度目かわからない命令違反に呆れるしかなかった。

 

「今度は何だぁ? 何でガイアに乗ってんだよ!! まだ使用許可は出てないんだぞ!!」

 

「離れてろ、邪魔になる。グゥルも借りるぞ」

 

「ウソだろ、うぉっ!?」

 

近くに人が居るにも関わらず動き始めるガイアに、ヨウランは逃げる様に立ち去った。

エレベーターで上昇し、カタパルトに脚部を固定させる。

だが目の前のハッチはまだ開放されておらず、ブリッジから通信が飛んで来た。

コンソールパネルを叩くヒイロ。

戦闘画面には艦長であるタリアが映し出された。

 

『どう言うつもりヒイロ。無断でモビルスーツを使えばどうなるか充分にわかってるでしょ?』

「あのモビルアーマーを倒すにはグフでは無理だ。代わりの機体を取って来る」

 

『許可出来ません。本艦はこれより作戦行動に入ります。これ以上私の指示を無視するのならザフトを抜けて貰います』

「このまま戦ってもミネルバは勝てない」

 

『それはアナタの考える事ではない』

「シンは死ぬぞ」

無機質な目でヒイロはタリアに訴え掛ける。

互いに譲る気はないが、時間を考えればいつまでも硬直状態を続けてる訳にも行かず、先に根負けをしたのはタリアだった。

 

『わかりました。ただし作戦時間までには戻って来る事』

 

『艦長、良いんですか!?』

 

『仕方がない。本艦はこれよりベルリンのモビルアーマー破壊作戦に出ます。シンはいつでも出られるように準備をさせて』

 

途中、アーサーが割り込んで来るがヒイロは気にせず機体の発進態勢に入る。

 

「了解した」

 

静かに呟くとコンソールパネルを叩き通信を切断した。

開放されるハッチにヒイロは両手で操縦桿を握り締める。

右足でペダルを踏み込みメインスラスターを全開にして、ガイアはカタパルトから射出された。

ヒイロが操縦するガイアはそのままメインスラスターの出力を全開にして空中に留まると、続いて自動操縦でグゥルが射出される。

ガイアのすぐ傍にまで来たグゥル、ヒイロはその上に機体を着地させ一気に加速させた。

向かう先は隠したウイングゼロの元。




ウイングゼロの登場はまだもうちょっとだけ待って下さい。
ご意見、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。