機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼 作:K-15
「オーブ軍は戦闘を止めて下さい」
また戦闘中に現れたフリーダム。
更には海中からアークエンジェルも登場し現場はまた混乱してしまう。
背中の青い翼を広げるフリーダムを見たアスランはコンソールパネルに指を伸ばしキラに通信を繋げた。
「キラ、何故また出て来た!! お前はただ戦場を混乱させるだけだ!!」
「アスラン……でも僕は……」
アスランは戦場に現れたフリーダムに怒りをあらわにした。
ビームライフルでフリーダムを狙い撃つが、キラは反射神経だけであっさり避けてしまう。
「アスラン!?」
「下がれ!! こんな事をしても何も変わらない!!」
ビームサーベルを引き抜くセイバーはフリーダムに詰め寄り袈裟斬り。
だが左腕のシールドで受け止められ閃光がほとばしる。
密着する2機。
そのすぐ後ろにはセイバーを追い掛けて来たカオスが居た。
「戦場で止まるなんて死にてぇのか!!」
「クッ!! アスラン、ゴメン。でも今だけは!!」
キラの視界がクリアになる。
反射神経、反応速度が飛躍的に上昇し目の前のセイバーを蹴り飛ばす。
「グアァッ!! キラ!?」
ビームサーベルを抜くフリーダムはカオスに詰め寄り一瞬の内に斬り抜ける。
右腕と両脚部を切断されたカオスは重力に引かれて落ちるしか出来ない。
「な!? 何だと!!」
海へ落下したカオスは水しぶきを上げ沈んで行く。
邪魔になる相手を排除したキラは再びアスランのセイバーと向かい合う。
「確かにキミに言う通りかもしれないけど……僕はオーブを撃たせたくない」
「だったらお前はミネルバは沈めと言うのか!! 今攻撃を仕掛けて来るのは地球軍とオーブだ!!」
「そうかもしれないけど、カガリはこんな事を望んでない!! 死んで行ったウズミ代表とオーブの理念を守る為に!! そうやってアスランはオーブを撃つのか? この犠牲は仕方のないモノだと言って、ウズミ代表やカガリが守ろうとしてる理念を切り捨てるのか?」
「ならお前がする事は戦場で戦う事ではない!!」
「だったらアスラン、僕はキミを撃つ!!」
互いにビームサーベルをマニピュレーターに握らせる。
密接する両者はビームサーベルを振り被り、激しい火花が飛び散り閃光が輝く。
左腕に装備する赤と白のシールドが弾き飛ばされ、アスランは久しぶりに戦うキラの戦闘能力に舌を巻く。
「なっ!?」
そしてセイバーが破壊されるのも一瞬の出来事。
サイドスカートからもう1本ビームサーベルを引き抜いたフリーダムは一閃するとセイバーの両脚部を斬る。
更に脇下から救い上げるようにして右腕を付け根から切断した。
片腕しか残されてないセイバーにダメ押しで蹴りを当て、アスランは何も出来ずに戦闘不能にされてしまう。
ボロボロにされたセイバーは他の機体と同様に海に落ちる。
///
ミネルバの甲板上ではレイの指示に従い、ルナマリアが敵艦にオルトロスの高出力ビームを当てて居た。
動きの遅い艦艇、更には海上戦ともなれば動く先も読みやすい。
目標を照準に収めトリガーを引く。
赤黒いビームは一直線に進み、艦艇のブリッジを正確に撃ち抜いた。
全体が炎に包まれ艦は沈んで行く。
「これで3隻目!! 次、このぉぉぉ!!」
ルナマリアはエネルギーの続く限りトリガーを引き続ける。
発射されたビームは艦艇目掛けて突き進んで行くが、それを敵軍のムラサメがシールドを構えて阻止しようとした。
だがアンチビームコーティングの施されてないシールドでは防ぎきる事が出来ず、機体はビームに貫かれると爆発する。
それでもビームのエネルギーはまだ残っており、ムラサメを破壊してそのまま艦艇にも直撃した。
「チッ、一撃で落とせない。もう1発!!」
捨て身のムラサメによりエネルギーの出力が落ちてしまい、艦艇に損傷を与えるだけに終わってしまう。
ルナマリアはオルトロスの銃口を向けるが、敵はガナーザクを落とそうと4機編隊を組んで迫って来た。
照準を艦艇ではなくムラサメに合わせるが、その先でヒイロのグフが接近戦を繰り広げる。
「ヒイロ!?」
「雑魚は俺達がやる。お前は敵艦に集中しろ」
加速するグフはテンペストビームソードを振り上げる。
敵は反撃する事も出来ずに機体を両断され爆発に包まれた。
それを見たヒイロは左腕からスレイヤーウィップを伸ばしなぎ払う。
ビームライフルの銃口を向けるがトリガーを引くには間に合わず、ムラサメは右肘から先を溶断された。
『そんな!? ぐあああぁぁぁ!!』
切っ先が背部から突き出る。
コクピットを貫かれたムラサメは鉄の塊となって重力に引かれて行く。
次の目標に狙いを定めるヒイロだが、敵はビームサーベルを振り上げてすぐ傍まで来て居た。
『ザフトの蒼い鬼神は俺が落とす!! 貰った!!』
「クッ!!」
激しく飛び散る火花。
シールドを構えギリギリの所でダメージは通さない。
だが密着した状態では大振りのテンペストビームソードは使えず、ムラサメは頭部バルカンでグフを撃つ。
青い装甲に穴が空く。
機体がパイロットに異常を訴えるが、ヒイロは操縦桿を固く握り締めるだけ。
敵はそのままバルカンでコクピットを狙おうとするが、一筋のビームが左脚部を撃ち抜いた。
『しま--』
爆発により姿勢が崩れてしまう。
隙が出来た敵にヒイロはテンペストビームソードで横一閃。
機体は胴体から半分に別れて落ちて行く。
視線を向けた先には左腕を失ったレイのザクが見え、ビームライフルで残りの1機も撃破して居た。
「敵の数が減って居るとは言え油断するな。戦況を持ち直す事さえ出来れば、タンホイザーで突破口が開ける」
「あぁ、だがその前に敵の編成を崩す必要がある。確認出来ただけで12機、来るぞ」
ミネルバの眼前には連合軍からの増援が来て居た。
ストライカーパックを背負ったウィンダム部隊が一斉にミネルバに襲い掛かる。
ブリッジのタリアは口が乾く程に檄を飛ばす。
「対空砲火、トリスタンで迎撃!! インパルスとセイバーは?」
「セイバー、フリーダムにより戦闘不能。今作業班に回収されました」
「シンはどうしてるの? すぐ迎撃に向かわせて!!」
「了解」
新造艦のミネルバだが至る所で火災が発生しており黒い煙が上がって居る。
かろうじて原型を保ってる状態で余裕など全く無い。
残弾もエネルギーも気にする暇はなく、今は1機1隻でも多く敵を倒すしか生き延びる方法はなかった。
フォースインパルスに搭乗するシンは命令を受け、メインスラスターを全開にして12機のウインダム部隊へ突入する。
「コイツら、やれるなんて思うなぁぁぁ!!」
ビームライフルでウィンダムの胸部を撃ち抜く。
敵機は一斉にインパルスに向き直り、握るビームライフルの銃口を向けて砲撃を浴びせる。
だがシンはアンチビームコーティングが施されたシールドを構え、横に振り払うと迫るビームを反射して相手に返した。
反射されたビームは右腕に直撃し爆発すると、ウィンダムの右腕は破壊されてしまい撤退を余儀なくされる。
背を向ける相手に今度はシンが銃口を向け、躊躇なくトリガーを引く。
「まだ居るのかよ!!」
迎撃に当たるシンだが数には敵わず、無情にも突破されてしまう。
加速を掛けるウィンダムはミネルバに取り付こうとするが、ヒイロのグフが立ち塞がる。
先頭のウィンダムに詰め寄りテンペストビームソードを突き刺す。
『ザフトの蒼い鬼神もここまでだ!! 例え命に変えても!!』
「クッ!! 死ぬ気か!!」
負傷しながらも敵パイロットは操縦桿を握り締め、ウィンダムはテンペストビームソードを突き刺された状態でグフに組み付いた。
身動きが取れなくなるグフ。
ルナマリアは助けようとオルトロスを向けるが、威力の高すぎるビームでは味方ごと破壊してしまう。
「ヒイロ、逃げて!! このままじゃ--」
次の瞬間、耐え切れなくなったウィンダムは爆発を起こし、その炎にヒイロのグフも巻き込まれた。
愕然とするルナマリア。
けれども敵の猛攻は止まらない。
「ルナマリア!! グフの反応はまだある、次が来るぞ!!」
「レイ……」
「撃ち続けるんだ!! このままでは!!」
また1機、インパルスを突破したウィンダムが次はガナーザクを狙う。
発射されたビームは甲板に直撃し激しい振動がルナマリアを襲った。
「くぅぅっ!! 死んでたまるもんですか!!」
トリガーを引く、発射される高出力ビーム。
それは迫るウィンダムの左腕を持ってくが、同時にそこまでだった。
人差し指で何度もトリガーを引くルナマリアだが、銃口からビームは発射されない。
コンソールパネルはエネルギー残量が0になった事を表示して居た。
「エネルギー切れ!? だったら!!」
オルトロスを捨てシールド裏からビームトマホークを引き抜くガナーザク。
大きく振り被ると投擲し、ウィンダムの頭部にビームトマホークが突き刺さった。
だがそれだけでは敵の動きは止まらず、慣性に乗ってミネルバにぶつかって来る。
大きな爆発と振動が襲い掛かりルナマリアのザクも巻き込まれた。
「キャァァァ!!」
甲板上で倒れ込む赤いザク。
破壊は免れたがコクピット内部にまでダメージが通っており、破損した部品がパイロットスーツを貫通して体の至る所を傷付けた。
危機的状況の中、ミネルバを助けるかのように海中から天使が現れる。
ブリッジではタリアが神妙な面持ちで見つめて居た。
「アークエンジェル……アーサー、タンホイザー発射準備」
「えぇ!? ここで使うのですか?」
「幸か不幸か敵も怯んでる。ココしかチャンスはない、前面の敵部隊をなぎ払う!!」
「り、了解しました!!」
ミネルバの機首が開放されタンホイザーが展開される。
再び介入して来たフリーダムとアークエンジェルの存在に敵軍も動揺しており、発射に時間の掛かるタンホイザーだがその時間が確保出来た。
前面に展開する連合とオーブの艦隊とモビルスーツ部隊。
「タンホイザー、エネルギー充填率80パーセント」
「それだけあれば充分行ける!! 撃ちなさい!!」
「タンホイザー発射!!」
充填率は完璧ではないが発射される巨大なエネルギーはそれらを容赦なく飲み込み、立ち塞がるモノ全てを破壊した。
レーダーに映る敵艦隊とモビルスーツの数は一瞬の内に消え、ようやく1つの突破口が顔を覗かせる。
滅茶苦茶になる戦況の中でシンは損傷したミネルバ、ザクのコクピットから回収されるルナマリアの姿を見た。
「ミネルバが……ルナ……」
矛盾して居るフリーダムとアークエンジェルの行動。
負傷した仲間。
そして死にたくないと言う強い生存本能。
感情が爆発したシンは雄叫びを上げた。
「こんな所で……こんな所で死ねるかぁぁぁ!!」
頭の中がクリアになる。
相手の動きがまるでスローモーションのように見え、反応速度が飛躍的に上昇した。
鋭く睨み付ける赤い瞳はオーブの艦艇、タケミガヅチを捉える。
「メイリン、ソードシルエット!! 敵の頭を潰す!!」
「了解、ソードシルエット射出します」
カタパルトからすぐに発射されたソードシルエット。
シンはレーダーで位置を確認するとフォースシルエットをパージし、ガイドビーコンでソードシルエットを誘導させ背部とドッキングさせた。
トリコロールカラーだった装甲は赤色に変わり、2本のエクスカリバーを連結させマニピュレーターへ握らせる。
タンホイザーが開けた突破口を塞がんと集まるオーブ艦隊目掛け、シンはペダルを踏み込み機体を加速させた。
「邪魔をするなァァァ!!」
眼前に立ち塞がる連合のウィンダム。
ビームライフルを向けインパルスを狙うが、発射されたビームはシールドに防がれ、巨大なエクスカリバーが振り下ろされる。
機体は一撃で斜めに分断されパイロット諸共機体は爆発した。
接近するインパルスにオーブ艦隊は砲撃を浴びせるが、ヴァリアブルフェイズシフト装甲にダメージは通らない。
無数の砲撃が浴びせられる中でシンは一切怯む事もなく、護衛艦の甲板に着地するとエクスカリバーでブリッジを振り払う。
対艦刀とも呼ばれるエクスカリバーはブリッジを難なく切断し、完全に破壊すべく足元の甲板にも突き立てた。
取り付かれた艦艇に避ける方法はなく内部から爆発が発生し崩壊が始まる。
次の艦に狙いを定めインパルスは飛ぶ。
「墜ちろぉぉぉォォォ!!」
大きく振り上げたエクスカリバーを勢い良く叩き付ける。
護衛艦は真っ二つに切断され巨大な爆発がインパルスを包んだ。
シンの怒りと悲しみを象徴するかのように、赤い装甲のソードインパルスの猛攻は止まらない。
本命であるタケミガヅチを睨むシン。
だがそれを阻止せんと1機のムラサメが駆け付けて来た。
「これ以上やらせる訳にはいかんのだ!!」
「やられるかよ!!」
海上からジャンプするインパルス。
左手でバックパックからフラッシュエッジを引き抜き、接近するムラサメに備える。
相手はビームサーベルでインパルスに袈裟斬りするが、反応速度の上がったシンは簡単にこれを横に回避すると握ったフラッシュエッジからビーム刃を発生させ切り払った。
ビームサーベルを握る右腕を切断し右脚で胴体を蹴る。
「ぐあああぁぁぁ!!」
パイロットは為す術なくタケミガヅチのブリッジ前の甲板に落とされてしまう。
損傷したムラサメのすぐ傍に着地するインパルス。
敵は頭部バルカンで懸命に攻撃するが全く通用しない。
「ば、化物め!! クルーは脱出してくれ!!」
排出される薬莢、弾き返される弾が甲板に散らばる。
インパルスは握ったフラッシュエッジをバックパックに戻すと、仰向けに倒れる敵機の胴体目掛けエクスカリバーを突き立てた。
「これで……終わりだ!!」
「トダカ一佐、脱出を!! はや--」
白い装甲に深々と突き刺さるエクスカリバーの切っ先。
それはタケミガヅチの内部にまで到達してるが、シンの動きはピタリと止まってしまう。
「今……何て聞こえた? トダカ……トダカ一佐だって?」
愕然とするシンは震える指でコンソールパネルを叩き、カメラをズームさせてブリッジ内部を覗き込む。
そこに居たのは艦長として戦場に立つオーブ軍のトダカだった。
シンは急いで外部音声に切り替えると考えるのも後回しにして彼に呼びかける。
「トダカさん!! トダカさんなんでしょ!! どうしてこんな所に!!」
『この声は……2年前の……シン・アスカ君か!?』
「はい、僕です!! 2年前にアナタに保護して貰ったシン・アスカです!!」
『まさかな。プラントに移住した後、ザフトに入隊してたとは。流石に想像出来なかったよ』
「どうしてこんな事をしてるのですか!! アナタ程の人ならこんな事しなくても……」
『それは違う。私はオーブと市民を守る軍人だ。命令には従わなくてはならん』
「そうかもしれないけど、今のオーブは……」
『シン君、どのような形であれオーブは連合軍と同盟を結んだ。これは1つの時代が終わった事を示してる。国の為に戦って来た私達だが、オーブの考えが変わってしまった事は残念だ。けれどもそれが戦争でもあり社会なんだ。受け入れるしかない。後は私達軍人の心の中の問題だ。自分の心は自分でしか戦えない。自分の心の中で戦い、そして厳しく結論を導き出さなければならない。例えソレが……2年前の大戦が意味のないモノになるとしてもだ』
「トダカさん……」
『認めなくてはならない。オーブの理念はこの時代に必要なくなったのだ。だからシン君、時代を受け入れるんだ。強く--』
エクスカリバーに突き刺されたムラサメが遂に爆発してしまう。
タケミガヅチは多大な損傷を受け、ブリッジにも炎の手が回る。
崩壊が始まる艦艇の上でシンは必死になってトダカに呼び掛けた。
「この艦はもうダメだ。トダカさん、脱出を!!」
『もう間に合わん』
「そんな……そんな事って……」
爆発の範囲が更に広がる。
海水も内部へ大量に流れ込みこれ以上持ち堪える事は出来ない。
瞳からは涙が止めどなく溢れ出す。
炎に飲み込まれるインパルス、だがそれを救出するべく海中から右腕を失ったグフが飛び出して来た。
「ヒイロ……」
「脱出経路は確保した。ミネルバに帰還する」
「待ってくれ!! このままじゃトダカさんが……トダカさんが死んでしまう!!」
「そうだ、お前が殺した」
「そんな事ない、今ならまだ間に合う筈だ!! 俺の事なんかどうだって良い。トダカさんを!!」
「そんな甘い考えで戦って来たのか。無駄だったな、この男の死も」
「ッ!!」
ヒイロの言葉に息を呑むシン。
グフに連れられてミネルバに帰還する最中、沈み行くタケミガヅチを見守るしか出来なかった。
「うあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁァァァ!!」
非情な現実にシンは悲しみの悲鳴を上げる。
トダカの生き様には賛否両論ありますが、自分はどちらかと言うと否定派ですね。
故に今回はこのようにさせていただきました。
ご意見、ご感想お待ちしております。