機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第14話 ステラとの約束

アスランの偵察から戻ったヒイロとルナマリア、ミネルバの中は物々しい雰囲気に包まれて居た。

報告の為に艦長室に向かったがタリアは居らず、ブリッジに出向くとタリアとアーサーがスクリーンに映された映像に顔を歪めて居る。

 

「ルナマリア、帰還しました。何かあったのですか?」

 

「えぇ、ミネルバ進行上の連合軍施設をシンとレイに調べて貰ったのだけど、内部の状況が見過ごせるモノではなくてね」

 

タリアの説明にルナマリアも表示されるスクリーンに目を向ける。

新たに装備を整えて向かった偵察部隊が送る映像。

そこに映るのは真っ暗な中で血に染まる人間の亡骸。

 

「っ!?」

 

目を見開いたルナマリアは思わず口を両手で塞ぐ。

彼女と同じくタリアに報告する為にブリッジにやって来たヒイロもスクリーンの映像を見ると、鋭い視線に切り替わり映る情報を頭の中で整理する。

巨大な円柱のカプセル、濁った液体と中に居る死体。

血で汚れた壁や床。

赤く染まった白衣を着た男、銃を握る子どものこめかみには風穴が開き乾いた血がこびり付いて居る。

 

「内乱か。この施設の人間は戦力として利用されて居たと考えた方が良いな」

 

「それだけなら良いのだけれど。現実は非情みたいね」

 

タリアの言葉に続いてスクリーンの映像が切り替わる。

既に電力供給はストップして居るが設置された機器のデータはまだ生きて居た。

保存されて居た莫大なデータを抽出しミネルバへと送られると、解析されたモノからスクリーンに映し出される。

それには10代の少年少女の顔写真と身体データが記載されて居た。

だが状況を理解出来ないアーサーは思わず声に出してしまう。

 

「このデータ……一体何なんです?」

 

「連合軍が秘密裏に進めてるエクステンデッド。アナタも噂くらいは聞いた事があるでしょ? 遺伝子操作さえしなければ何をしても良い。薬物投与、記憶操作、戦闘訓練、その為の実験台がコレ」

 

「コレって……」

 

「まさに連合の狂気そのモノ。人間を実験体に仕立て上げ、私達コーディネーターを倒す為にと強化する。

遺伝子操作がどうこう以前の問題。狂ってるとしか言いようがない」

 

アーサーは口を開けてスクリーンを呆然と眺める事しか出来ない。

その間にも送られて来る被験体のデータは100人を超えており、それだけの人間が犠牲になった事を示してる。

だが突如として警告音が響き渡った。

 

「艦長!! 敵影が施設に接近してます!!」

 

メイリンはタリアに振り向きながら大声で叫ぶ。

レーダーには高速で接近する機体の反応が映し出されており、表示される形式番号からその機体は奪われたガイアだと確認出来た。

瞬時に思考を切り替えるタリアは目付きを変え指示を出す。

 

「こちらの動きを察知された。データ解析が終わるまでは敵を近付けさせないで。パイロットは順次発進して。ルナマリア、お願い」

 

「了解です」

 

「コンディション・レッド発令、各員戦闘配置。アーサー、医務室のシンとレイは?」

 

「シンは大丈夫みたいですが、レイは……」

 

「ならシンの出撃を優先させて。インパルスの機動力が1番高いから」

 

「了解しました」

 

タリアの指示を受け敬礼したルナマリアはモビルスーツデッキに向かって走り出す。

アーサーもコンソールパネルに手を伸ばすとモビルスーツデッキにインパルスの出撃を優先するように指示を送った。

 

「ミネルバ上昇、敵機の迎撃に向かいます」

 

「艦長、アスラン隊長から通信が繋がってます」

 

「すぐに廻して」

 

言われてメイリンは回線を繋ぎ、スクリーンに今度はアスランの顔が映し出された。

アスランが乗るグゥルはミネルバの後方に迫って居る。

 

『艦長、ミネルバは出港してるようですが』

 

「緊急事態が発生しました。帰還後、すぐにモビルスーツで出撃して貰います」

 

『緊急事態!? 了解、速やかに帰還する。セイバーの準備頼みます』

 

「先陣はインパルスに出て貰います。ミネルバ、微速前進。他にも敵が居る可能性は充分にあります。周囲の索敵急いで」

 

タリアの声を背にしてブリッジを出たルナマリアはモビルスーツデッキに走る。

けれどもその時にはもう、彼女の視界のどこにもヒイロの姿は見えなかった。

医務室に居たシンは人体に異常がないか精密検査を受けてる最中だったが、敵の存在を確認していつまでも悠長にしてる暇はない。

医師は聴診器を背中に当てて居たが、シンはそれを振り払って椅子から立ち上がる。

 

「警報、敵が近くに居るのか?」

 

「出撃か? なら検査は後回しだ。今の所異常は見られない。体で痛い部分もないだろ?」

 

「大丈夫です。レイの事を頼みます」

 

「あぁ、死ぬなよ」

 

赤の制服を着たシンは医務室から出て行く。

残ったのは白衣を着た軍医と白いシーツが敷かれたベッドの上で眠るレイ。

施設に入った時の症状は今は収まり、目を閉じて静かに眠ってる。

まどろみの中に沈むレイには艦内に響き渡る甲高い警報が聞こえない。

モビルスーツデッキに向かうシンとルナマリアだが、1番初めに到着したのは2人ではなくヒイロだった。

インパルスの出撃準備を進めて居たヨウランは誰よりも早く来たヒイロに驚く。

 

「ヒイロ? 早過ぎないか?」

 

「敵の妨害は充分に予測出来た。グフで出る」

 

「でも艦長からはインパルスを先に出せって言われてんだけど」

 

「気にするな、俺は気にしない」

 

「お、おい!!」

 

言うとヒイロはパイロットスーツも着ずに緑の制服のままでグフのコクピットに入り込んだ。

慣れた手付きでコンソールパネルを触るとハッチを閉じ、バッテリー電力を機体に供給させる。

戦闘モニターにはモビルスーツデッキの壁が映し出され、起動したグフはゆっくりとエレベーターに歩いて行く。

ヨウランが近くに居るにも関わらず動くグフの左足。

数センチ先で動く鉄の塊に、ヨウランは堪らず後ろに飛び退いた。

 

「うわぁっ!! アイツ本気かよ?」

 

『早くしろ』

 

「わかったよ!! 後で艦長に何言われても知らねぇからな!!」

 

外部音声でヒイロはヨウランを急かし、出撃の準備を進める。

グフがエレベーターの位置にまで来ると同時に上昇が始まり、数秒後には開放されたカタパルトから外の景色が見えた。

操縦桿を握りスロットルペダルに足を掛けるヒイロはグフのフライトユニットを展開させる。

けれどもその合間にメイリンから通信が割り込んで来た。

 

『ヒイロ!? 出撃はインパルスが--』

 

「先に出る。俺から行く方が早い。出撃後の護衛はルナマリアにでもやらせろ」

 

『え、でも--』

 

ヒイロは一方的に通信を切るとカタパルトから発進する。

高速で射出されるグフ、背部に接続された電源ケーブルを切り離すど同時にペダルを踏み込みメインスラスターを全開にした。

陽も沈んだ夜の空を青いグフは飛ぶ。

 

「敵機の反応確認。狙いはあの施設か。速やかに撃破する」

 

レーダーに反応する奪われたガイア。

ヒイロは一直線に機体を敵の方向に向けさせ最短距離で接近する。

画面に映るのはモビルアーマー形態に変形し4脚で地面を蹴り高速で進むガイアの姿。

シールドからテンペストビームソードを引き抜き、左腕の4連ビームガンで先制攻撃を仕掛けた。

発射されたビームは上空からガイアを襲う。

 

「上から!? クッ!!」

 

ガイアに搭乗するステラの反応も早い。

スラスターの出力を上げてビームの弾を回避し、右へ左へトリッキーにジャンプする事で軌道を読ませないように動く。

初めて戦うタイプの機体だがヒイロは臆する事なく接近を試みる。

 

「セカンドシリーズの機体データは把握した。確実に仕留めてみせる」

 

「邪魔だァァァッ!!」

 

ガイアは背面の姿勢制御ウイングから青白い炎を噴射して加速、前面のグリフォンビームブレイドを展開してグフに突撃する。

対するヒイロも引く事はせず、テンペストビームソードをマニピュレーターで握り締めガイアと交差した。

上空で交わる瞬間、グフは前傾姿勢になる事でグリフォンビームブレイドをくぐり抜る。

テンペストビームソードはガイアの左ウイングを半分に切断した。

 

「くっ!? コーディネーターめ!!」

 

瞬時にモビルスーツ形態に変形、着地と同時にビームライフルを引き抜きグフに照準を合わせトリガーを引く。

発射されたビームは正確で一直線にグフに向かうが、ヒイロはそれを予期しており振り向きざまにシールドを構えてこれを防ぐ。

だが攻撃はこの程度では終わらない。

2発3発と次々に迫り来る強力なビーム。

ヒイロは回避行動は取らずにシールドで防ぎきり、メインスラスターを吹かし更にガイアに詰め寄った。

 

「一気に方を付ける」

 

「早い!? でも!!」

 

サイドスカートに左手を伸ばすガイアはビームサーベルを引き抜き目の前に迫るグフを振り払った。

眩い閃光が両者を照らす。

激しく飛び散る火花はグフのシールドから発生しており、ガイアに握るビームサーベルは構えたシールドにより防がれて居た。

密着した状態でステラは操縦桿のトリガーを引き頭部バルカンを連射する。

量産機のグフにフェイズシフト装甲は採用されておらず、連続して発射される弾は青い装甲に穴を開けて行く。

ボロボロに破壊される頭部、特徴的な角がへし折れ煙が上がるが、ヒイロは構わずにメインスラスターを全開にした。

強引にパワー勝負に持ち込み、姿勢を崩させようとする。

 

「コイツ、機体が!?」

 

ステラは両足を使って匠にガイアを操縦するが地面には脚部がめり込み、片翼しかないせいでスラスターのパワーバランスも良くない。

2機はもつれ込んだまま地面に倒れ大きな衝撃が生まれる。

ステラは舌を噛まないよう歯を食いしばり衝撃に耐えた。

シートベルトが制服の上から肌に食い込み脳が痛みを訴えるが、目の前の戦闘画面にはまだモノアイを光らせるグフが居る。

痛みなどは無視して、ただ眼前の敵を倒す事だけに集中した。

 

「負けるもんか!! コーディネーターなんかに!! 私は……わたしはァァァ!!」

 

「敵は確実に倒す。今のお前は俺の敵だ!!」

 

メインスラスターを噴射したままのグフはそのままガイアを地面に押し付けながら引きずって行く。

ヴァリアブルフェイズシフト装甲はダメージを通さないが、激しい衝撃が持続的にコクピットを襲う。

殺意をむき出しにして敵を睨むステラ。

右脚部を動かすとグフを蹴り上げ強引に引き剥がした。

姿勢を立て直すガイアはビームライフルを向ける。

けれどもグフの動きも早く、右腕から伸ばすスレイヤーウィップがビームライフルに絡み付く。

 

「遅い!!」

 

「しまった!! ぐっ!!」

 

素早い反応でビームライフルを手放すステラ。

次の瞬間には高周波パルスが流し込まれビームライフルは爆散した。

かろうじてマニピュレーターにもダメージが通ってないガイア、そのまま右手にもビームサーベルを握り二刀流で接近する。

 

「うあああぁぁぁ!!」

 

右手に握るビームサーベルを振り上げるガイア。

ヒイロはまた避ける事もなくシールドで防ぐが、度重なる攻撃に耐久力は下がっておりビームが接触すると激しい火花と閃光が飛ぶ。

高エネルギーのビームはシールドを赤く焼け爛れさせ、ジワジワと半分に切断した。

だがヒイロは付け入る隙を与えず脚を踏み出しテンペストビームソードを突き出す。

 

「っ!! 今までの敵と違う」

 

「チッ、武器が重すぎるんだ!!」

 

寸前の所で姿勢を横に反らし回避するステラ。

一方のヒイロは未だに使い慣れないテンペストビームソードに不満を漏らす。

突き出された右腕に、ガイアはすかさずビームサーベルを振り下ろした。

テンペストビームソードが握られた右腕は肘から先を切断されて地面に落ちる。

それを見てステラは操縦桿を動かしグフから距離を離す。

モビルアーマー形態に変形し縦横無尽に動き回るガイア。

片腕を失っても冷静に状況を判断するヒイロは、地面に落ちるテンペストビームソードを左手に握る。

 

「来るか……」

 

「バランスは悪いけどスラスターはまだ使える。行ける!!」

 

地面を蹴り上げ加速を掛けるガイアは再びグフに向かって一直線に突き進む。

シールドも使えなくなったヒイロは真正面からソレを迎え撃つ。

その行為には一切の緊張も焦りも見受けられない。

 

「はあああァァァッ!!」

 

「叩き落とす」

 

グリフォンビームブレイドを展開するガイアの頭部目掛けテンペストビームソードを突き立てた。

だが切っ先を空を切る。

飛び跳ねたガイアはグフを踏み台にして更に上へ飛び上がりモビルスーツ形態に変形した。

姿勢を崩すグフは背面から倒れてしまう。

 

「貰った!!」

 

「詰めが甘いな」

 

ビームサーベルを逆手に握り降下するガイア、その右脚部にはスレイヤーウィップが絡み付いて居た。

左腕を動かすと空中に居るガイアは何も出来ずに地面に引きずり降ろされる。

 

「そんな……グゥッ!!」

 

「終わりだ」

 

「っ!! まだ--」

 

地面への衝突に耐えるステラの両手にはまだしっかりと操縦桿が握られてる。

機体を立上せようとするが既に遅く、目の前にはテンペストビームソードを振り上げるグフが居た。

シールドを構えるが肘の関節ごと切断されてしまう。

 

「ぐあああァァァっ!!」

 

その切っ先はコクピットハッチにまで到達し大きな切れ込みを作る。

次々にショートする回路、飛び散る火花がステラを襲った。

咄嗟に両腕を交差して顔を守るが、砕け散った画面の破片が左腕に突き刺さり鮮血が流れ出る。

あまりの衝撃に意識を失う。

だがコクピットに穴が開いただけで機体もパイロットもまだ生きて居た。

トドメを刺すべく詰め寄るグフ、だがそれと同時にインパルスとセイバーが遅れて現場に到着する。

様子を見たアスランはコンソールパネルに指を伸ばす。

 

「遅れてスマナイ。ガイアは仕留めたのか?」

 

「まだパイロットは生きてる。確実にトドメを刺す必要がある」

 

「機体は爆発させるな。まだ施設の調査が残ってる」

 

「了解した。機体はそのまま、パイロットには死んで貰う」

 

輝くモノアイは横たわるガイアを睨み付ける。

セイバーと同じく合流したシンも同様に、動かないガイアのコクピットの中を覗き込む。

瞬間、緊張が走ると共に鳥肌が立つ。

 

「ガイア!? って事は」

 

メインカメラをズームさせ穴の開いたハッチの中を良く凝視する。

目を見開いた先に居るのは以前戦闘した時と同じパイロット、腕から血を流すステラ・ルーシェの姿がそこにはあった。

ペダルを全力で踏み込み機体を加速させたシンは、セイバーを追い抜きフルフェイスのマイクに向かって大声で叫ぶ。

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

攻撃態勢に入ったグフの動きが一瞬止まる。

すぐ近くに着地したインパルスはガイアをかばうようにして立ち塞がった。

 

「待てヒイロ、殺すな!!」

 

「ソイツは連合軍のパイロットだ。俺達の障害になる」

 

「わかってる、でも!!」

 

「邪魔をするな。さもなくば死ぬ事になる」

 

「ステラは戦いをするような人じゃない!!」

 

「そうか……」

 

立ち塞がるシンに対してヒイロは敵意を向ける。

ガイアとの戦闘で機体はボロボロにも関わらず、片手に握るテンペストビームソードのみでインパルスに戦いを挑もうとした。

一方のシンもソレを感じ取り、バックパックからビームサーベルを引き抜いた。

 

(コイツ、本気だ……)

 

戦闘が終わったにも関わらず再び緊迫した空気が場を支配する。

一触即発の事態。

だが2人が刃を交える事はなく、アスランのセイバーがインパルスの隣へ着地すると握って居たビームライフルの銃口をグフに向けた。

 

「ヒイロ、前にも言った筈だ。味方を攻撃するな。でないと俺もお前を撃つ事になる。シンもだ。このパイロットは捕虜としてミネルバに連れて行く。それで良いな?」

 

「わかりました……」

 

「了解した。帰還する」

 

テンペストビームソードへのエネルギー供給を切ったヒイロは一言だけ言うと、メインスラスターを吹かし地面からグフの脚を離す。

シンもビームサーベルをバックパックに戻し、横たわるガイアをインパルスで抱え上げる。

 

///

 

モビルスーツ隊がミネルバに戻ると、連れて来られた連合軍の兵の事で話題になって居た。

ヒイロのグフとの戦闘で切断されたガイアの左腕も回収されて、今はモビルスーツデッキで再び使えるように修理が行われて居る。

パイロットであるステラはケガをして居たが命に別状はなく、すぐに医務室へと運ばれた。

軍医によりケガの治療を受け、血で汚れた肌を拭き取られた彼女のベッドの上で静かに眠って居る。

シンはステラが眠るベッドのすぐ傍で彼女の手を暖かく握って居た。

 

「ステラ、もう大丈夫だから。先生、ステラの様態はどうなんですか?」

 

「ケガは問題ない。安静にしてればすぐに治るだろう。治療と一緒に彼女の体を軽く検査させて貰った。シン、キミは彼女の体の事を知ってるのかい?」

 

「はい、推測でしかありませんが。たぶん……ステラはエクステンデッドです」

 

「そうか……薬物投与などの反応が確認出来た。詳しくはこれから調べるが、通常の捕虜としての扱いは出来ないかもしれない」

 

「そんな!? ステラは無理やり戦わされてただけなんですよ?」

 

「そうかもしれない。だが彼女は普通じゃない。暴れ回ってこちらにも被害が及ぶ可能性だってある。それにザフトにはエクステンデッドを治療出来る技術はない。薬物の副作用が出てもどうにも出来ない。最悪の場合、死ぬ事もありえる」

 

「っ!?」

 

突き付けられた現実にシンは愕然とした。

目の前で眠る彼女は穏やかな寝顔をシンに向けるだけ。

そんな彼女とようやく再開出来たにも関わらず、助ける事が出来ない。

 

「ステラ……」

 

呟く言葉は彼女に届かない。

医務室の扉が開かれ、軍医から報告を受けたタリアが室内に入って来た。

タリアは横目でシンとステラの表情を一瞬見て軍医と話す。

 

「報告は聞きました。彼女の様態は?」

 

「今は寝てます。ケガも軽傷です」

 

「結構。治療が終わったのなら拘束具を着用させて」

 

「わかりました」

 

話を進める2人の間に割り込む事も出来ず、シンはステラの手を握る事しか出来ない。

だが突如としてヒイロが医務室に入って来る。

 

「ここに居たか」

 

「ヒイロ? アナタには別の--」

 

タリアの声を無視してベッドまで行くヒイロは懐から銃を取り出しステラに突き出した。

銃には弾が装填されており、セーフティーも解除されてトリガーに指を掛ける。

いきなりの事に全員が驚くが、シンは瞬時に立ち上がりステラを守った。

 

「何をする気だ?」

 

「決まって居る。そいつを殺す」

「ステラは敵なんかじゃない。ただ操られて居ただけだ!!」

「関係ない。そいつは邪魔になる」

「ステラは俺がなんとかする!! みんなの邪魔になんてならない!!」

一歩も引かないヒイロとシン。

ヒイロは今すぐにでもトリガーを引くつもりで居るし、シンもヒイロが動きを見せたらステラを守る為に捻じ伏せる気で居た。

互いの鋭い視線が交差する。

 

「待ってヒイロ。いくらなんでもこの場で殺す事は許可しません。銃を下ろしなさい。シンも、この捕虜の事は上層部の判断を待ちます」

 

タリアの一言でなんとかこの場は治まる。

ヒイロも手に持った銃を懐に戻すと、シンに背を向けて歩いて行ってしまう。

それでもまだ、室内には緊迫した空気が漂って居た。

シンに睨まれながらもヒイロは医務室の扉を開け、同時に振り返ってシンに言う。

「やるからには最後までやれ」

「あ……あぁ!! 約束するよ。ステラは俺が守る!!」

 

それを聞くとヒイロは出て行った。

何も起こらなかったとは言え、タリアは今回の事で更に頭を悩ませる。

自室に戻りながらヒイロは先ほどの連合軍のパイロットに付いて考えて居た。

 

(エクステンデッド、あの施設のデータは見た。戦う事しか知らない人間、俺と同じ存在。俺も戦う事でしか生きてはいけない。他の生き方も出来ない。だがリリーナの存在が俺を変えた。シンが居るなら俺のようにあの女も……)

 

自身と似た境遇のステラを思うヒイロは、かつての自分を増やさない為にもシンに期待する。

「リリーナ……」

ひっそりと呟いた声は誰にも聞こえない。




鉄血に登場するクーデリアがリリーナに似てると言う人も居ますが、Wに登場するキャラは狂人ばかり。
リリーナも例外ではありません。
似てる部分はありますがリリーナの方がインパクトが強いですね。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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