機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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投稿が遅くなってすみません。
今月から早めていきますので。


第12話 疑惑

艦艇でザフトを待ち構えてたネオは混乱する戦場を目にして顎に手を添えた。

ブリッジから見えるフリーダムの快進撃を止められるモノは居らず、ザフト、オーブ共にモビルスーツを次々に落とされて行く。

フリーダムの強さを良く知るネオはすぐに決断した。

 

「潮時かな。これ以上戦闘しても無駄だろ。被害が出ない内に撤退だ。先鋒さんもな」

 

ネオの指示に従い裏で待機してた連合軍はザフトと一戦交える事もなく撤退を始める。

オーブも同様に後退を初め、フリーダムとアークエンジェルも戦域から離脱して行く。

ネオは今回のフリーダムの登場を見て頭を悩ませる。

 

「厄介事が増えるねぇ。次も相手にするかもしれないとなると、アレを投入する事もあるかもな」

 

かくしてダーダネルス海峡での戦闘は終わった。

オーブ軍、地球連合軍は撤退し、交渉が通じないと見たフリーダムとアークエンジェルもこの場から姿を消す。

戦うべき相手が居なくなったザフトも損害が出たこの状況でこれ以上戦う事は意味をなさず、出撃させたモビルスーツ部隊を帰還させる。

 

「全部隊に通達、ミネルバは現空域から離脱します。モビルスーツ隊は帰還させて」

 

「了解です。全部隊に――」

 

通信士のメイリンはタリアの指示をインカム越しに復唱し部隊に通達させる。

艦長シートの隣に立つアーサーは声を震わせた。

 

「に、2年も前のモビルスーツがこんなに!?」

 

「あの機体にはニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されてる。普通に考えればアナタの言うように2年も前のモビルスーツかもしれない。でもフリーダムの性能なら現行の量産機が束になって戦っても敵わない。それが、ついさっきまで目の前に居た」

 

「あんなのを相手に勝てるのですか? 艦長?」

 

「次もまた私達の前に現れるような事があれば、また戦う事になるでしょうね。そうなった時、勝てなければ死ぬだけよ」

 

「そんな……」

 

アーサーは顔面蒼白になりながらスクリーンに映るフリーダムの姿をもう1度見た。

背中の青い翼を大きく広げ、フリーダムとアークエンジェルはミネルバの索敵圏外にまで行ってしまう。

撤退を始めるミネルバの甲板上に居るレイのザク。

損傷して海に落下したヒイロのグフを探す為、コンソールパネルに指を伸ばしレーダーを活用して機体の反応を探る。

 

「居た、9時の方角、距離は120。そう離れてないな。ヒイロ、聞こえるか? こちらレイ・ザ・バレル。応答願う」

 

通信を送るとすぐに反応が返って来る。

雑音混じりで声はほとんど聞こえないが、まだ生きてる事は確認出来た。

 

『こ――ヒ――き』

 

「すぐ救出に向かう」

 

端的に言うレイは操縦桿を握り締めザクで海の中に飛び込んだ。

太陽が昇る時間帯とは言え視界は暗くレーダーを使用しなければ数メートル先もハッキリとは視認出来ない。

右足でペダルを踏み込みメインスラスターから炎と共に大量の泡を発生させてザクは海中を進む。

赤いモノアイの先、海底に沈むのは周囲の色に紛れ込みながらもボロボロに破壊されたグフの姿。

 

「見つけた。コクピットに水漏れは起きてないな?」

 

『問題ない。ノーマルスーツの生命維持装置も作動してる』

 

「ならこんな所からはすぐに移動するぞ。機体を引き上げてミネルバに帰還する」

 

損傷したグフを抱えたザクはメインスラスターの出力を最大にして海底から浮上する。

ヒイロは邪魔になるフライトユニットをパージして機体重量を軽くし、2機は海上へ飛び出した。

装甲の隙間からは大量の海水が流れだす。

 

「こちらレイ・ザ・バレル。ヒイロのグフを確保した。すぐに帰還する」

 

『こちらミネルバ、了解です。良かった、みんな無事で』

 

通信からはメイリンの声が聞こえて来る。

飛行出来ないザクは長時間空中に留まる事は出来ず、速やかに帰還した。

 

///

 

両軍共に作戦は失敗に終わり、損傷したミネルバは修理の為にマルマラ海の港へ進路を取る。

シンのインパルスはフライヤーを取り替えればすぐに戦闘復帰が可能だが、ルナマリアのザクとヒイロのグフの修理には時間が掛かる。

港に到着したミネルバは急ピッチで修理が行われ、フリーダムに破壊されたタンホイザーを優先して取り掛かった。

特に損傷の激しいヒイロのグフは修理は間に合わないと判断され新しいモノが用意される。

艦と機体の修理が終わるまでパイロットは休む事しか出来ず、シンは各々の機体調整をモビルスーツデッキで見ながら突然乱入して来たフリーダムに毒を吐く。

 

「何なんだよアイツら!! アイツらが変な乱入なんかしてこなけりゃ、こんなことにはならなかった!!」

 

フリーダムが破壊したタンホイザーの被害に合い数名のクルーが戦死し、その遺体が艦から運び出されて行く。

ルナマリアも攻撃を受けており、何も出来なかった悔しさにうつ向く事しか出来ない。

アスランもシンに返す言葉がなく口を閉ざした。

怒りをあらわにするシンにレイだけは傍に立ち寄り肩に手を添える。

 

「今は何もする事は出来ない。次の戦いに備えてやれる事がある筈だ」

 

「次……アイツらはまた来るのか?」

 

「フリーダムは来る。必ず……」

 

「フリーダム……」

 

因縁の相手の名前を胸に刻むシン。

2人の様子を見ながらも、アスランは気配を消して歩を進める。

心の中では以前のフリーダムとアークエンジェルの事がグルグルと渦巻いて居た。

 

(キラとラクスは何を考えてこんな事を? 兎に角、1度会う必要がある)

 

向かった先はタリアの居る艦長室。

壁に設置されたパネルのボタンを押しブザーを鳴らす。

数秒待つとパネルのスピーカーからタリアの声が聞こえて来る。

 

『誰なの?』

 

「アスラン・ザラです。艦長、少しお話が」

 

『あまり余裕がある訳ではないのだけれど。少しなら聞きましょう。入って』

 

「ありがとうございます」

 

返事を返すと目の前の扉が自動で横にスライドした。

室内に足を踏み入れるアスランはデスクで書類を片手に座るタリアの元へ進む。

目と鼻の先にまで近づき、ようやくタリアはアスランに視線を向ける。

 

「どうしたの? 出来れば手短にね」

 

「はい。艦長、今回のアークエンジェルとフリーダムの介入の件は自分に任せて貰えませんか?」

 

「任せる?」

 

疑問を浮かべるタリアにアスランは息を呑んで緊張感を高める。

 

「艦長もご存知だと思いますが、自分は2年前の大戦でアークエンジェルと共に連合とザフト、父でもありプラント最高評議会議長のパトリック・ザラと戦いました。恐らくフリーダムのパイロットもアークエンジェルのクルーも当時と変わってないかと。もしもそうなら自分がよく知る人物です。だからこそ、今回の事が納得出来ません」

 

「アークエンジェルとフリーダムは、アナタ程ではないにしても少なからず知ってます。確かにアナタの言う通りではあるけれど……」

 

タリアは書類には目を通したまま思考する。

自身を見ようともしない態度にアスランは不審に思いながらも言葉を続けた。

 

「彼らの要求はオーブ軍の戦闘停止、及び撤退です。ですがこんな方法は間違ってます。そのせいで両軍にも要らぬ犠牲が出ました。この事で本国と司令部も何らかの対処を進めるでしょう。でも自分なら彼らと接触出来ると考えました。また今回のように介入して来る可能性がないとも言い切れません。そうなる前に真意を確かめ、このような事がないように説得します」

 

「今回の件の犠牲は大きい。出来る事なら金輪際こんな事が起きて欲しくないと私も思う。でも出来るの? アナタに?」

 

「はい。FAITHを与えられた者として責任を果たします」

 

疑いの眼差しを向けるタリアにアスランは力強く応えた。

緊迫した空気が場を支配する。

鋭い視線を向けるアスランにタリアは口から息を吐きだし、持って居た書類をデスクの上に置いた。

 

「FAITHの権限を使うのなら、私に止める事は出来ません。わかりました。アークエンジェルの件はアナタに任せます」

 

「ありがとうございます。では30分後に出港します」

 

敬礼したアスランは踵を返し艦長室から出て行く。

自動で扉が開閉し、1人になったのを確認してからタリアは右手をデスクのパネルに伸ばした。

 

「メイリン、ヒイロとルナマリアを私の部屋に呼んで」

 

///

 

準備を整えたアスランはカバンを片手に自身の機体であるセイバーの元に向かった。

モビルスーツデッキではまだ整備班が慌ただしく動いており、何人かがセイバーの調整を行って居る。

アスランは早足で近づくとその内の1人、ヴィーノに声を掛けた。

 

「おい、セイバーは損傷してない筈だ。何かあったのか?」

 

「あ……スイマセン。整備ミスで回路をショートさせちゃって。急いで修理するんで」

 

「急いでって……どれくらい掛かるんだ?」

 

「どんなに早くしても2時間は」

 

「2時間、そんなに待ってる時間はないぞ」

 

どうしようもない状況にヴィーノでは対処出来ず、アスランにも解決策は見つけられない。

悩んでる所に整備班の班長であるマッド・エイブスが様子を見て駆け付けて来た。

 

「どうした、隊長さん?」

 

「あ、いえ……セイバーが動かせるようになるまで2時間は掛かると言われて。それまで待ってる余裕もないもので」

 

「さっき艦長から聞いた。グゥルならすぐに使える。アレでどうだ?」

 

モビルスーツ支援空中機動飛翔体グゥル。

ザクのように空中で活動出来ないモビルスーツの土台に使用する事で飛行させる。

悩んでる暇はないと考えたアスランはその提案を受け入れた。

 

「わかった、それで頼む。すぐに出撃出来るか?」

 

「推進剤は満タンにしてありますので。オートで稼働させ続けても5日は持ちます」

 

「なら後は頼んだ」

 

アスランは用意されたグゥルに向かって歩を進める。

ヴィーノは遠ざかる背中に向かって敬礼し、見られてないのを確認するとマッドの元に立ち寄り小声で話し掛けた。

 

「良いんですか? セイバーどこも壊れてないんですけど?」

 

「艦長からの指示だ。モビルスーツは使わせるな、だとよ」

 

「やっぱこの前のアークエンジェルと関係があるんですか?」

 

「そんなの整備班が知るかよ。それよりもまだ仕事は残ってるんだ。さっさと終わらせろよ」

 

「わかってますよ」

 

2人の会話は聞かれる事もなく、アスランはグゥルのコクピットに乗り込んだ。

エンジンを起動させるとグゥルは単体でミネルバのカタパルトから出撃する。

 

「アスラン・ザラ、出るぞ」

 

雲1つない青空の中、太陽光を浴びながらグゥルは飛行する。

モビルスーツとは異なり広いコクピットの中でアスランはコンソールパネルを叩き自動操縦に切り替えると、シートの上に体重を預けこれからの事を考えた。

 

「あの時、俺はアークエンジェルとフリーダムに攻撃しなかったからな、艦長や本国に不審がられても無理はないか。まずはダーダネルス海峡に向かう」

 

加速するグゥルは以前戦闘したダーダネルス海峡に飛んだ。

そこから見える1番近い街。

アスランはグゥルを見つからないように海岸に隠し、持って来たカバンを片手に街へ上陸した。

昼時で街には人の姿が大勢見え、アスランは視線を避けるように人数の少ない場所へ歩く。

小型携帯端末を片手にパネルを触る。

通信を飛ばしソレを耳に当てると、繋がるのをただジッと待った。

10秒、20秒と経過しても通信は繋がらない。

けれども交信を止める事はなく、端末を握る指に力を込めてその時が来るのを待った。

 

『はい……』

 

「聞こえるな? アスランだ」

 

『アスラン!? アスラン・ザラ?』

 

聞こえて来るのは女の声。

そしてソレはアスランがよく知る人物。

 

「少し会って話がしたい。この近くに居るんだろ?」

 

『良いけれど……なら1時間後に会いましょ。場所は7番街』

 

「わかった。見つけたらまた連絡する」

 

手短に要件だけを伝えると端末の通信を切る。

伝えられた7番街にアスランは向かう。

サングラスを着用し、ひと目見ただけではすぐに彼だとはわからない。

そうしながらもなるべく人が多い所は避けるようにしながら、陽の光が当たらない路地を歩き目的地へ進む。

けれどもその背後から一定の距離を保ちながら尾行する影がある。

アスランは気が付く事もなく、時間に合わせて7番街に到着した。

ここは住宅密集地で人通りも中心部に比べれば少ない。

周囲を見渡し、住宅街の片隅にある喫茶店を見つけるとアスランはそこへ向かった。

木造建築で風情が感じられる店の前まで来ると、出入り口の扉を開け店内には鈴の音が響く。

中に客は3人しか居らず、その内の1人の女性はカウンター席でカップに入ったホットコーヒーを口にする。

アスランは彼女の隣の席に座ると小さな声で囁く。

 

「ミリアリア・ハウ、久しぶりだな」

 

「アナタもね、アスラン。2年ぶりになるのかな」

 

「そうだな。大戦が終わって、キミは戦場カメラマンか。プラントでディアッカに会った。アイツとは上手くやってるのか?」

 

「あぁ、ソレはもう良いの」

 

「ソレ?」

 

ミリアリアの言い方に疑問を感じたが、カウンターの向こう側から初老のマスターが注文を聞いて来た。

無視する訳にもいかず、チラリとミリアリアが持つカップを見る。

 

「ご注文は?」

 

「俺も彼女と同じので」

 

「ホットになりますが?」

 

「それで良い」

 

「かしこまりました」

 

注文を聞いたマスターは棚に飾られた複数のビンからひとつを選ぶと、フタを開けコーヒー豆を取り出し専用の機械に投入させる。

粉砕され粉になる豆からは芳ばしい香りが漂う。

仕切りなおして、アスランはミリアリアに本題を伝えた。

 

「それよりもアークエンジェルとフリーダムだ。この前の介入は知ってるか?」

 

「えぇ、表向きには公表されてないけれど。あの時、私も遠くから見てたから」

 

「なら話が進めやすい。理由はわからないがキラ達はザフトとオーブの間に割り込んで来た。そのせいで現場は混乱した。要らぬ犠牲も出た。俺はキラ達が何を考えてあんな事をしたのか知りたい」

 

「私を呼び出したのはそう言う理由ね。アークエンジェルと接触したいって事でしょ?」

 

「そうだ。友人だからと言って見過ごせる事ではない」

 

「そう……。アスラン、アナタはまたザフトに戻ったのね」

 

ミリアリアはカップをテーブルに置くと視線を俯けながらそう言う。

かつては敵同士だったキラとアスラン、戦乱に巻き込まれながらも手を取り合う事で2年前の大戦を乗り越える事が出来た。

けれどもアスランはまたザフトに戻り、キラはフリーダムに乗り戦場に現れる。

 

「今と言う状況を考えれば、こうするのが最善の方法だと思ったからだ。俺だって戦いたかった訳ではない。でも連合軍は一方的にプラントに攻撃を仕掛けて来た。戦争を早く終わらせる為にも、俺に出来る事をしたまでだ」

 

「アナタの言い分はわかる。今回の連合軍の攻撃は確かに強引だった。火の粉を振り払う為に戦う。私達も2年前はそうだった。でも……またキラと戦うかもしれない。それでも良いの?」

 

「そうならないように、戦う以外の方法で決着を付ける為にキミを呼んだ」

 

サングラスを外し真剣な眼差しを向けるアスラン。

それに対してミリアリアは数秒だけ考えると、カウンターの上の乗せて居たカバンからメモ帳とペンを取り出した。

開けたページにボールペンでスラスラと文字を書いていく。

書き終わるとメモ帳を閉じ、ペンもカウンターの上に置いた。

 

「暗号回線は教えて貰ってるから繋いであげる。けれども条件がある」

 

「何だ?」

 

「ザフトとしてではなく、アスラン・ザラ個人として会いに行って。それが条件」

 

「わかった。約束する」

 

その言葉を聞き、ミリアリアは先程書いたメモ帳の用紙を手でちぎりアスランに手渡した。

 

「明日の15時、その場所で待ってて。絶対って確証はないけれど」

 

「これだけでも充分過ぎる。俺は手掛かりすら知らないからな」

 

「じゃあ、もしキラやラクスに会えたらよろしく言っておいて」

 

ミリアリアはカップに残って居る冷めたコーヒーを飲み干すとカウンターから立ち上がった。

ポケットから紙幣を取り出しカップのすぐ傍に置いて。

その瞬間からアスランの事は視界に入れず、赤の他人のように無視して店から出て行く。

アスランも横目でチラリと後ろ姿を見ただけでこれ以上は何も言わない。

 

「はい、お待たせ」

 

カウンターの向こう側からは初老のマスターがホットコーヒーを目の前のカウンターに置いた。

淹れたてのコーヒーの香りが漂う。

 

「あぁ、ありがとう」

 

カップを手に取り口に運ぶ。

苦味とほのかな酸味が口に広がり、焙煎した芳ばしい香りが鼻を通る。

 

「上手いな。あの人が喜びそうな味だ」

 

「上手いかい?」

 

「俺はそこまで味がわかる訳じゃないが、知り合いに好きな人が居てね。ブレンドだとか何とか、色々試行錯誤してたのを覚えてる。普段はインスタントでしか飲まないから、それに比べたら違うよ」

 

「ありがとうございます」

 

マスターは笑みを向けながら、ミリアリアが飲んで居たカップと置いた紙幣を手に取った。

 

「マスター、1つ聞きたいんだが」

 

「わたくしにわかる事でしたら。こんな老人に言える事などしれてますがね」

 

「連合とプラントはまた戦争を始めた。戦争なんて誰もが嫌だと思う筈なのに。アナタはこの戦いをどう感じますか?」

 

マスターはステンレスのシンクでカップを洗いながら、アスランが今聞いて来た事を自分なりの考えで答え始める。

 

「産まれた場所、育った地域。それぞれによって人の考え片は変わって来ます。わたくしは産まれも育ちも幼い頃からこの土地でしたから、宇宙のプラントで生きてる人とは価値観が違うでしょう」

 

「まぁ、わかる話です」

 

「2年前の大戦。ナチュラルとコーディネーターの対立が火種となり地球全土と宇宙を巻き込む大きな戦争になった。どちらが正しい、どちらが間違ってる、そんな事はわかりません。ですが、価値観の違いと言うモノは時としてこのような、戦争にまで発展するのだと言う事は有史から続いて来た人間の歴史でもあります。ナチュラルの価値観、コーディネーターの価値観、それぞれがわかりあう事が出来るのかもわかりません。2年前の大戦でも、地球連合を倒せば世界は良くなる、ザフトを滅ぼせば平和は訪れる。そのような両者が話し合いで理解し合うのは容易ではありません」

 

目の前で語り掛けるマスターの言葉が胸に響く。

新型モビルスーツを強奪する為にヘリオポリスに潜入した時に友人であるキラと出会ってしまった。

その時のアスランはプラントのザフト兵としての立場でしか物事を考えて居ない。

相手の考えを理解する余裕などなく、それは連合軍に入隊したキラも同じだった。

そして互いにモビルスーツに乗り、本気で殺意を孕んで殺しあう。

相手を殺せば平和が訪れる。

この両者の間で和平が成立する日が果たして来るのか。

 

「では今のプラントと地球連合はどうすれば? このままではまた悲劇が繰り返されてしまう」

 

「小さな喫茶店のマスターが政治を語るのは恐れ多いです。ですが、あえて言うとすれば宗教と言うモノは人々の懇願なのです。願いを少しでも見える形に変化させたのが宗教でもある」

 

「願い……」

 

「左様、ナチュラルとコーディネーターの願いもまた、違うのかも知れません」

 

(俺が思う願い、カガリが思う願い、キラが思う願い。それぞれ違うのか……)

 

壁に立て掛けられた古い時計の針だけがゆっくりと時を刻んでいく。

 

///

 

喫茶店の外で2人は車の中で息を潜めて状況が動くのを待った。

指向性マイクを向けて店内の音を広い会話を聞き出そうとしてるのはヒイロだ。

ヘッドフォンを装着し、僅かな音も聞き逃さないように意識を集中する。

 

『ア――の言い分はわか――今回の連合軍の攻撃は――強引だった』

 

遮蔽物がある中で音声は正確には拾い切れず雑音が交じる。

ヒイロは聞き取れる少ない情報から内容を読み取りロジックを組み立てて居た。

その隣のシートで彼女、ルナマリアは事が終わるのを待って居た。

 

「店から女の人が出て来たけど普通の客?」

 

「いいや、アスランと何らかの関わりがある」

 

「だったら二手に別れて尾行する?」

 

「アスランは明日、目標と接触する。このまま後を付けて居れば良い。リスクは減らす」

 

「了解。にしても追跡任務だなんて。アスラン、アタシ達を裏切ってるの?」

 

「それを確かめるのが俺達の任務だ」

 

タリアに呼び出された2人はアスランの追跡を命じられた。

かつてはアークエンジェルの一員でありフリーダムと共に戦った仲間であるアスラン。

以前の戦闘介入でザフト軍本部は軍に復帰したアスランに目を付けた。

その命令を受けてアスランの動向を探らせる為にタリアは2人を向かわせ今ここに居る。

 

「行くぞ。ここにはもう用はない」

 

「明日の出方を待つだけか」

 

「機密情報を漏らす場合も想定される。その時はお前に任せる」

 

「出来るなら味方を撃つなんてしたくないんだけど」

 

言いながらルナマリアはチラリと後部座席を見た。

シートの上には黒く細長いアタッシュケースが寝かせてあり、中には長距離射撃が出来るスナイパーライフルが収まってる。

ヒイロは指向性マイクとヘッドフォンを外してこれも後部座席に置くと、尾行してる事がバレないように車を走らせた。




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