機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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第10話 降臨

集められた枯れ木から火が上がる。

星明かりしか届かないこの場所では目の前で燃える火だけが唯一の光り。

コクピットから非常食を持って来たシンはその内の1つをステラに手渡す。

 

「ほら、持って来たから」

 

「ありがとう」

 

「今日はこれでやり過ごそう。日が出て明るくなったら他に食料がないか探して来るよ」

 

受け取ったステラはビニールを引き裂きブロック上の栄養食を小さな口でひと口食べる。

精神状態も落ち着き普通に食事を取るのを見たシンも心を安堵させ自分の分の栄養食にかぶり付いた。

空腹が完全に満たされる訳ではないが今夜を耐え忍ぶ分には充分。

チューブを手に掴み水を含むと口の中のブロックを喉の奥へ流し込む。

 

(こんな事になっちまったけどミネルバが捜索隊を出す筈だ。でもそれは連合も同じ。連合が先に来たらステラを助けられない。それどころか俺まで連れてかれるかもしれない。ここは信じて待つしかないか)

 

シンは砂浜に寝転ぶと眼前に広がる星空を見た。

何光年も先から届く星の光り。

無限に続く宇宙空間。

幼少期はオーブ、ザフトに入隊してからはプラントに住んでたシン。

夜空を、宇宙をこんなにもハッキリ見たのは初めての経験だった。

 

(そう言えば……夜空なんてちゃんと見た事なかったな)

 

「ほし……キレイ。アウルもあそこに居るのかな?」

 

「アウル? 知り合いか?」

 

「うん!! アウルは……アウルは……」

 

声が段々と小さくなる。

表情も暗くなるステラを見てシンは体を起こし立ち上がると彼女の隣に移動して手を握ってあげた。

 

「大丈夫?」

 

「大事な事なのに……忘れちゃった。なんで? なんでなの?」

 

「友達だったのか? それとも家族とか?」

 

「わかんない……わかんないよ!! うぅっ、あうるって誰なの?」

 

(やっぱり普通じゃない。戦わせる為に無理やり薬物投与やマインドコントロールまでしてるな。精神状態が幼いもそうだ。アウルってのが誰かはわからないけど、こんな忘れ方はおかしい)

 

最後には涙まで流す彼女にシンは何と言葉を掛けて良いのかわからず、只優しく抱きしめてやる事しか出来なかった。

悲しみを同じくするシンは心の中で決意を固める。

 

(今でも目の前でマユが死んだ光景が夢に出て来る。耐え切れなくていっその事忘れたかった時もあった。でも忘れる事でさえも苦しみになるのか。だったら俺は忘れない!! この悲しみも、苦痛も、全部抱えて

力にする!!)

 

シンの瞳は鋭く光り輝く星々を睨んだ。

その先では星の光りとは違う輝きが付いたり消えたりして居た。

 

「アレは……」

 

「流れ星さん?」

 

「違う、星の光りなんかじゃない。爆発、近くで戦闘してる」

 

立ち上がり爆発の先を見つめるシンはここからの距離がどの程度離れてるのかを目視で判断する。

戦闘の規模は小さいが発射されるビームライフルの閃光も一瞬ではあるが見える事からそこまで離れてない。

 

(戦ってるって事はミネルバが近くまで来てるのか? いや、断定は出来ない。どちらにしても連合軍だった場合が1番マズイ。どうする?)

 

考えるシンに対してステラは無垢な瞳を向けるだけ。

悠長にしてる時間もなく、シンはステラを砂浜から立ち上がらせると一緒にモビルスーツに向かって歩き出した。

 

「どうしたの?」

 

「ここも戦闘になるかもしれない。コクピットの中に居る方が安全だ」

 

「アナタも一緒に来るの?」

 

横たわる機体の元にまで来たシンは立ち止まるがステラの質問にすぐに応える事が出来ない。

こうする間にも爆撃音が耳に届くようになり戦闘が近づいてるのがわかる。

手を握り隣に立つ彼女は何も言わないまま見つめるしかしない。

 

「ゴメン、一緒には……行けない」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……上手く言ってあげられないけど今は無理なんだ。互いの場所に戻るしかない。でもウソを付いたりなんてしない。俺は絶対にキミを守るから」

 

「ほんとう?」

 

「本当だよ。絶対に守る。約束する」

 

言うとシンは彼女の両手を優しく握り締める。

未練が残りながらも温もりが残る手を離そうとした時、ステラは思い出して最後に口を開けた。

 

「名前、教えて?」

 

「名前?」

 

「私はステラ。ステラ・ルーシェ」

 

「俺は……シン・アスカ。ステラ、また一緒に星を見よう」

 

「うん、わかった!! シンの事も覚えたよ。また一緒に星見よ」

 

「あぁ、約束だ」

 

「やくそく」

 

約束を交わした2人は互いの居場所に戻るしかない。

確定した情報がない状況下で一緒に居るのはリスクが高く離れるしかなかった。

インパルスのコクピットに入るシンは最後の予備電力を使い機体を何とか動かす。

予備電力の使用時間は10分程度しかない。

通信装置に電力を供給させ通信が傍受出来ないかどうかを試して見る。

 

「頼むぞ。ザフトのモビルスーツが居るなら繋がって来れ」

 

運に任せてシンはコンソールパネルを叩く。

雑音ばかりがスピーカーから聞こえて来るばかりで声の類は一切聞こえない。

それでも少ない電力を使ってこうするしかなかった。

ハッチの向こうに光る爆発に気を付けながらもただひたすらに繋がるのを待つ。

 

「頼む、繋がれ。頼むから」

 

10秒経過するもまだ雑音しか傍受しない。

焦りも感じ始め額に汗が滲む。

たった数秒でも時間が長く感じてしまい不安な状況は消えない。

ようやく20秒と時間が過ぎる中でようやく声が聞こえ目を見開いた。

 

『――える――ネルバの――』

 

「ミネルバ!? 捜索隊が来てくれた!!」

 

『聞こえ――シン、聞こ――こちらはミネルバのアスラン・ザラだ。シン、聞こえるなら応答してくれ』

 

「隊長が来てくれたのか?」

 

声もちゃんと聞こえ確証が持てたシンはまたコンソールパネルに手を伸ばした。

 

「こちらはインパルス。隊長、聞こえますか?」

 

『シン、無事だな? こっちは連合のモビルスーツと交戦中だ。お前を回収次第、すぐにこの場から離脱する』

 

(やっぱり相手は連合軍か。こっちと同じでステラを回収しに来たのか。だとしたらやっぱり一緒には行けない……クッ!!)

 

苦虫を噛み潰しながらもシンは操縦桿を握り締めた。

脚部はガイアの攻撃により切断されてしまって立ち上がる事は出来ず、チェストフライヤーとレッグフライヤーを分離させコアスプレンダーだけにする。

主翼を広げメインスラスターの出力を上げるシンは上空に見える閃光に目掛けて機体を飛ばす。

 

「エネルギーは少ないけど合流するくらいなら出来る」

 

飛び立つコアスプレンダーの中でシンは後ろに振り返った。

そこには分離したインパルスのパーツとステラの乗るガイアが立ち上がる姿が見えた。

ガイアのビームライフルは海を漂流してる間に流されてしまっており、サイドスカートからビームサーベルを引き抜くと捨てられたパーツに向かって斬り掛かる。

ビームは容易く装甲を貫きインパルスの残骸は爆発を起こしガイアを飲み込む。

VPS装甲はこのくらいの爆発では傷すら通さず、頭部のツインアイは空を飛ぶコアスプレンダーを見つめた。

 

「シン……名前、覚えた」

 

「ステラ……」

 

シンはペダルを踏み込みコアスプレンダーを加速させる。

いつまでも彼女の事を思って居たかったが目の前には敵も迫っており悠長に出来ない。

 

「セイバーはどこだ? 連合軍のモビルスーツも近くに居るんだろ」

 

『コアスプレンダーの座標位置はこちらで掴んだ。連合のウィンダムとカオスが出てる。交戦は避けろ』

 

「そうは言っても場所がわかんないんじゃ」

 

『ヒイロも一緒に来てる。70秒後には合流するから離脱しろ』

 

「ヒイロも?」

 

『そうだ、俺は敵機を誘導する。離脱してミネルバと合流する事を優先しろ。わかったな?』

 

「了解。こんな状態で戦う気なんてありませんよ」

 

言われた通りにシンはコアスプレンダーの速度を一定に保ちそのまま真っ直ぐに進み続ける。

そして見えて来るのは青い装甲と威圧感の覚える機体のフォルム。

時間通りにヒイロが乗るグフはコアスプレンダーに合流した。

 

『目標視認。任務完了、直ちに帰還する』

 

「ヒイロ、セイバーは?」

 

『敵機と交戦中だ。だが相手の数も少ない。離脱するくらいなら楽に出来る』

 

「そうか」

 

『推進剤はまだあるな。インパルスのフライヤーは捨てて来たか』

 

「情報は漏れないように破壊した」

 

『ならここに居る理由はない。ミネルバに戻る』

 

グフはマニピュレーターでコアスプレンダーを掴むと迅速にミネルバに向かって飛んで行く。

一息付くシンはシートの背もたれに体を預けるとまた後ろに振り返る。

ステラと一緒に居た島はもう見る事が出来ない。

 

///

 

セイバーと交戦するネオはガイアまで目前まで迫ってるにも関わらず近づく事も出来ない事にストレスを募らせる。

ビームライフルの銃口を夜でも目立つセイバーの赤い装甲に向けるが瞬時に回避行動を取られてしまうせいで互いに致命傷は与えられない。

 

「チィッ!! 時間稼ぎか。押すも引くも出来ない。スティング、先行してステラと機体を回収しに行け。もしかすればザフトの新型も頂けるかもな」

 

「了解。その間は赤いヤツを押さえとけよ」

 

言うとメインスラスターを吹かし単独でガイアの居る島へ向かうカオス。

だがアスランは追い掛けようとはせずヒイロからの通信に耳を傾けた。

 

『目標視認、任務完了。直ちに帰還する』

 

「シンを回収したな。ならこれ以上の戦闘は無意味だ」

 

セイバーはモビルアーマー形態に変形すると目の前に居るウィンダムを無視して現空域から離脱して行く。

ウィンダムではその加速に到底追い付く事など出来ず、夜の闇に残る青白い光りを眺めるしか出来ない。

 

「撤退? って事は……スティング、ステラは無事か?」

 

「あぁ、見つけた。外から見る限りは機体に損傷はない」

 

「そうか。ザフトの新型には逃げられたがガイアを奪われなかっただけマシと考えるか。俺も今から合流する」

 

ウィンダムもカオスとガイアが居る島に向かってメインスラスターを吹かす。

島にはインパルスの爆発した炎が目印になってくれてたお陰ですぐに見つける事が出来た。

スラスターを制御しゆっくりと砂浜に着地させるとモニターにガイアの姿を収めた。

スティングの報告通り機体に損傷したような異常はなく、それを確認したネオは胸を撫で下ろす。

 

「ステラ、無事だな?」

 

「ネオ……うん、何ともないよ」

 

「良し、ならこんな所にいつまでも居る理由はない。引き上げるぞ。スティング、左側を頼む」

 

飛べないガイアに2機は両側から腕を伸ばし機体を支えると島から飛び立つ。

動きにくい状態ではあるが3機の推進力を合わせれば飛ぶ事は簡単に出来る。

コクピットの中でネオはステラが単独で飛び出して行った経緯に付いて考えて居た。

 

(スティングの言う事が正しいならステラの記憶の奥にはまだアウルが残ってる。マインドコントロールと薬物投与で人間を完全に操れるとは俺も考えんが……ステラにはまた辛い思いをさせる事になるな)

 

ネオの考える事などわかる筈もないステラはモニターに映る星空を見つめて居た。

 

///

 

ミネルバに帰還したシンには厳しい処罰が待ってる。

アスランの命令を無視した単独行動。

無事に終わったとは言え最新鋭機であるインパルスの機密情報が敵軍に渡るかもしれなかった事。

捜索部隊を派遣する事によりミネルバさえもが危険に晒される状況。

けれどもシンは艦長であるタリアに呼び出される事もなくアスランと一緒に自室に居た。

 

「普通なら独房入りでしょ? どうしてですか?」

 

「自覚はあるようだな。そうだ、普通なら独房入りだ。でも俺がFAITHの権限を使って今回の事は不問にした」

 

「わかりません。どうして?」

 

「お前を止める事が出来なかった俺にも否はある。でも勘違いするなよ。今回の行動はとても許される事じゃない。だが次の作戦開始まで時間は少ない。今は少しでも体を休めてくれ」

 

「その……ありがとうございます」

 

この件に関してシンは一切反論する事など出来ず素直に感謝の言葉を述べた。

けれども言われた通り責任は重々感じて居る。

プラントの為に戦う兵士としての責任は取らなくてはならない。

 

「次の戦闘にはオーブが居るんでしょ。隊長は戦えるんですか?」

 

「戦うしかない。今の俺はザフトに所属する兵士だ」

 

「俺も同じです。この立場が変わらない限り次のオーブとの戦闘は避けられない。でも俺、今日の事で思ったんです。こんな事を繰り返してても戦争の根源には近づけない」

 

「根源? 議長が言ってたロゴス、戦争商人とも言ってたな。俺も議長ほど詳しくはないが、確かに今回の連合軍の開戦の持って行き方は強引だった。言うように裏でロゴスと呼ばれる組織が関与してるのかもしれない」

 

「ロゴスを表に引きずり出さないと戦争が長引くだけです」

 

「だがどうやって? 今のシンにも、俺にも、そんな事が出来るだけの力はない」

 

言われてシンは表情を暗くする。

言葉で言うのは簡単だがそれを実現させるのはシンには不可能な事だ。

名前だけで姿形の見えない相手を倒す事など出来はしない。

 

「でも可能性はある」

 

「可能性? 何なんです?」

 

「連合は強引にプラントと開戦して攻撃を仕掛けて来たが幸いにも最初の核攻撃は防いだ。ユニウス・セブンも偶発的ではあるが地球への落下は阻止された。戦力的に見ればザフトに分がある。その事もあって連合は攻めにくい状況が続いてるし、プラント側が優位に立つ事が出来れば各国同盟が失くなるかもしれない。わざわざ負ける戦争なんてどこだってやりたくない」

 

「でもそれだといつまで掛かるのか……」

 

「そうだな、1日2日でどうこうなる訳がない。仮に今言った通りに進んだとしてもどれだけの時間が掛かるのかは俺にだってわからない」

 

徐ろにアスランはシンの瞳を見ながら心を覗くように言う。

 

「シン、何かあったのか?」

 

「何かって、俺なりに考えてるだけです」

 

「先の事を考えるのは良い事だ。だがさっきも言ったが俺達にも出来る事と出来ない事はある。こんな戦争は早く終わって欲しい。勿論俺だってそう思いながら戦ってるさ。でも今の話を聞いてるとそれだけではないように思えた。やる方法があるなら明日にでも戦争を終わらせる。そう言う風に見れた」

 

「それは……」

 

シンには応える事が出来ない。

連合軍のパイロットと接触した事が露呈すれば立場は更に悪くなってしまう。

それは今回の件を不問にしてくれたアスランを裏切る事にも繋がる。

味方が居なくなった状況でステラを助ける事は絶望的に無理だ。

故に心の中に閉まっておくしかない。

 

「まぁ良い。話はこれで終わりだ。戦闘に備えて体はキッチリ整えておくんだぞ」

 

アスランは返事を聞かぬまま扉を開放させて部屋から出て行ってしまう。

残されたシンは静寂する部屋の中で悩み続ける事しか出来ない。

 

///

 

ヨーロッパとアジアとの境界をなすダーダネルス海峡。

ミネルバは作戦領域へと侵入しレーダーで敵戦力の分析に入る。

今回の戦闘では味方の艦艇も配備されており、今までのように背水の陣で戦わねばならぬ程の危機的状況ではない。

それでも最新鋭の艦艇でもありモビルスーツを搭載したミネルバは作戦の要でもあり失敗する訳にはいかなかった。

眼前にはオーブのタケミガズチ級の艦艇とモビルスーツ部隊が待ち構えて居る。

タリアは瞬時に状況を見極め各員に指示を飛ばす。

 

「メイリン、コンディションレッド発令。セイバー、インパルス、グフは直ちに出撃。レイとルナマリアは甲板でミネルバの護衛」

 

「了解です」

 

「イゾルテ、トリスタンで敵艦艇に砲撃。アーサー、タンホイザーの発射準備」

 

「えぇ!? もう使うのですか?」

 

「大打撃を与えて相手の態勢を崩す。まだどこかで連合軍の部隊が待ち構えてるのよ。相手の思い通りにさせてたらこっちが不利になる」

 

「了解しました!! タンホイザー、エネルギーチャージ開始」

 

ミネルバは開幕早々に大きく打って出る。

出撃準備の整ったモビルスーツ隊もカタパルトから順次発進して行く。

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます」

 

「アスラン・ザラ、セイバー発進する」

 

コアスプレンダーは主翼を広げ青空の下を飛ぶ。

続いて発射されるチェストフライヤーとレッグフライヤーにガイドビーコンを合わせると直ぐ様モビルスーツ形態にドッキングした。

最後にフォースシルエットを背部に背負いバッテリー電力を全身に供給させ灰色だった装甲が鮮やかなトリコロールに変わる。

ツインアイに光りが灯り腰部からビームライフルを掴むとメインスラスターから炎を噴射させた。

アスランのセイバーも灰色だった装甲が赤に変わり、メインスラスターを吹かせてインパルスに合流する。

ヒイロのグフは最後にカタパルトから出撃した。

 

「出撃する」

 

フルフェイスヘルメットのインカムへ端的に言うとフライトユニットを背負ったグフはカタパルトから発射される。

各モビルスーツが大空に飛び立ち、アスランはコンソールパネルに指を伸ばす。

 

「まずはタンホイザーのエネルギーチャージまでの時間を稼ぐ。ミネルバの射線上に敵を誘導するんだ」

 

『了解』

 

『了解した』

 

3機のモビルスーツは目の前に広がる20機を超えるモビルスーツ部隊に向かって突っ込む。

インパルスに搭乗するシンは複雑な心情が絡み合い迷いを捨て切れないで居た。

祖国であるオーブとの戦闘。

ステラがまた敵として出て来た時。

でも戦場での迷いは死に繋がる事を知ってるシンは雄叫びを上げ一時的にでも感情を振り払うしかなかった。

 

「うあああぁぁぁっ!!」

ビームライフルの銃口を向けトリガーを引く。

オーブが開発した可変モビルスーツ、ムラサメは数でインパルスを包囲しようとするが発射されたビームに直撃しあっさりと1機目が破壊されてしまう。

フォースシルエットの加速能力は高く、並のナチュラルが乗った量産機では捉える事も難しい。

回避行動を取り縦横無尽に飛び回りながらも正確な射撃でムラサメのコクピットを射抜く。

 

「クソッ!! 出て来なければやられなかったのに!!」

 

インパルスはシールドを構えると飛んで来るビームに向けって振り払う。

アンチビームコーティングによりビームは反射されまた別のムラサメの頭部に直撃した。

矛盾を孕みながらも今のシンには戦う事しか出来ない。

一方のアスランはオーブ軍に対してなかなか攻撃出来ないで居た。

そうしてる間にもセイバーは包囲されてしまい1機のムラサメがビームサーベルを握り攻撃を仕掛けて来る。

 

「くっ!?」

 

操縦桿を握るアスランだがトリガーが引けない。

振り被られた斬撃を寸前の所で避け、ビームライフルの銃口を至近距離から右足に向ける。

 

「俺の……敵……」

 

躊躇しながらもトリガーは引かれビームは発射される。

ムラサメの右脚部は破壊され、バランスを崩して海へと落下して行く。

ヒイロのグフは右手にテンペストビームソードを構え強引にでも敵機に接近する。

シールドでビームは防ぎきり、メインスラスターを最大出力にして接近戦にもつれ込む。

右腕を振り上げて袈裟斬り。

ムラサメは上半身と下半身を分断され爆発する。

瞬時に目標を切り替え機体を加速。

爆発に巻き込まれないようにするのと同時にまた攻撃へ移る。

機体の見た目も相まってオーブのパイロットは恐怖を覚えた。

 

『まるでオーガみたいじゃないか』

 

『く、来る!?』

 

「邪魔だ!!」

 

戦意喪失したパイロットに勝ち目はない。

逃げる事も間に合わず、突き立てられたテンペストビームソードは胴体に突き刺さる。

戦闘不能になるのを確認したヒイロをムラサメを海に捨て、左手首からエグナーウィップを伸ばした。

高周波パルスを発生させ横になぎ払う。

ムラサメの頭部が首元から弾き飛ばされパイロットは視界が見えなくなる。

 

『うあああぁぁぁっ!!』

 

デタラメにビームライフルの銃口を引きビームを発射するがムラサメの前にはもうグフの姿はない。

右腕の4連装ビームガンで背部を撃つ。

ムラサメはメインスラスターが機能しなくなり黒煙を上げながら落下する。

 

「敵機破壊を確認。次の行動に移る」

 

レイとルナマリアはミネルバの甲板上に乗り近づく敵を迎え撃った。

ザクは空を飛べないため海上での戦闘はミネルバの甲板に上って居る。

いつも数で押して来る連合軍のやり方にルナマリアはイラついて居た。

 

「いつもいつもごちゃごちゃと!!」

ガナーザクはオルトロスを撃つが距離が開きすぎて居た。

ムラサメは左右に展開しビームは空に消えた

「なんで当たんないのよ!?」

「落ち着け、冷静に対処しないと勝てるものも勝てなくなる。」

尚も敵の攻撃は激しさを増す中でレイは牽制のミサイルをばら撒き敵を艦には近づけさせないようにする。

 

「敵の戦闘能力は低い、2人でもやれるはずだ」

「そうね!! シンの鼻っ柱を折るぐらい撃破しまくっちゃうんだから」

レイが撃ったミサイルに気を取られるムラサメに照準を合わせもう1度トリガーを引く。

高出力のオルトロスのビームは直撃すると機体を爆発の炎に包む。

「良し、その調子だ」

 

そう言うとレイもムラサメを照準に入れビームを撃つ。

直撃は出来なくとも手数は増えれば敵もミネルバに近づきにくい。

最初の時間稼ぎは充分に出来た。

ブリッジでタリアは声を上げる。

 

「アーサー、エネルギーは?」

 

「80パーセントまでチャージ完了。いつでも発射出来ます」

 

「宜しい、タンホイザーを使用します。目標敵空母」

数で不利なザフトは形勢を逆転するためミネルバのタンホイザーを使う。

アーサーは言われたようにオーブのタ空母に照準を合わせ発射ボタンに指を添える。

タンホイザーを覆っている装甲がスライドし砲門が外に露出した。

 

///

 

オーブ軍のタケミガズチ級。

ブリッジには当然オーブ軍の兵士が居るが、その中には代表であるカガリとユウナが一緒に居た。

 

「わざわざここに来る意味があるのか、ユウナ?」

 

「勿論さ。同盟を結んだ太平洋連合の為に戦うオーブ軍。その現実をちゃんと自分の目で見て欲しかった」

 

「納得は出来てないが理解はしてる」

 

「それだよ、カガリには納得して貰わないといけない。オーブの理念を壊してはならない、キミはそう言った。でもどうだい? 相手はそんな事一切気にせず攻撃して来る。言葉でどれだけ訴えても無理なんだよ」

 

「そんな事はない!! 例え可能性が僅かでも、ちゃんと会談の機会を用意すれば打ち解ける事だって――」

 

理想を語るカガリだったがユウナはその甘さを遮る。

 

「出来ないよ、そんな事。カガリ、キミは優しい子だ。でもそれを全てに当てはめてはいけない。特に政治にはね。話し合い、打ち解け合う。個人と個人ならそれも出来るけど国と国ではそうはいかない。どちらにも譲れないモノがある。カガリが話し合おうと呼び掛けても相手は耳を傾けもしない。それが外交だ。ならばどうするか? 自らの意見は押し通すしかない」

 

「だからって戦う必要は――」

 

「ある。まぁ、こんな大規模な戦争は大げさだけどね。勘違いして欲しくないけど僕は戦争がしたい訳じゃないんだ。戦争が良い事だなんて思ってない。でも国を導き国民の安全を守るのはそんな簡単な事じゃない事は理解して欲しい」

 

カガリは言い返す事が出来ない。

うつ向き爪が皮膚に食い込む程に手を握り締める

けれども既にカガリ達は戦場に足を踏み入れており、目の前では戦闘が始まって居た。

2年前とは立場が違う。

力のなさを痛感しながらも自国の兵士が戦う姿はハッキリと見なくてはならない。

 

「敵艦艇が動きました!!」

 

通信兵が叫ぶ。

モニターに映るのはザフトのミネルバがタンホイザーをオーブ軍に向けてる所だった。

それを見たカガリは目を見開く。

 

「ユウナ……だったら私は今までの考えを捨てないとダメなのか?」

 

「その覚悟があるのなら……」

 

ミネルバの動きが止まる事はない。

タンホイザーの巨大な銃口から今まさに発射されようとして居た。

閃光。

一筋のビームが飛来する。

タンホイザーは寸前の所で活動を停止してしまう。

 

「どこから!? 索敵を急いで!!」

 

タリアが急いで索敵班に指示を出す。

数秒後にはモニターに映像が映し出され、そこには青い羽を持つ機体が居た。

それは2年前の大戦でも居た伝説的な機体。

 

「あれは……」

 

シンはその瞳に映る機体の姿を決して忘れない。

心の奥底からは怒りの炎が湧き上がる。




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