バイト戦士なんだが、バイトしてたら初恋の子に会った。   作:入江末吉

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※今回オサレだったり汚いネットスラングまみれです、ご注意ください。


夏祭りデート編
バイトが休みだから、初恋の子に会いに行った。その1


 

「よし、かけるぞ……やっぱ無理だよぉ~、絶対無理~電話なんか出来ない~」

 

 翌朝、天気は快晴。だけど昨日の雨の影響か蒸し暑さがやばい、だというのに昨日あれだけ吹いていた風が吹いていない、ただ暑いという地獄。

 俺はさっきから、厳密に言えば3時間前くらいからスマートフォン握り締めて画面と格闘していた。

 

「まぁ落ち着け、こんなときはスレ立てだ。頼れる同士に力を借りよう」

 

 PCの前の椅子に腰を下ろすと、いつも使ってる掲示板サイトでスレッドを立てる。

 

 その名も―――!

 

【バイト戦士なんだが初恋の子に出会った】

 

 スレが経つと1レスとして、書き込みを入れておく。

 

 1:バイト戦士「デートに誘われたんだけど、どうしたらいい?」

 

 2:名無し「>>1 糞スレ乙」

 

「うるせぇバカ野郎! こっちはマジなんだよ!」

 

 と、つい画面の向こうの誰かに向かって声を荒らげるが、心優しい他の住人たちがいろいろと言ってくれる。

 

 3:名無し「とりあえずスレ主と相手のスペック教えろください」

 

 む、まぁ相手を知るのは戦いの基本。というわけで俺が知ってる限りの穂乃果ちゃんの情報(コアなのはさすがに省く)を乗っけてみる。

 

 4:バイト戦士:「俺19歳チビガリ。彼女19歳、背は俺よりちょっと小さいくらい。スタイルは普通。笑顔が可愛い。髪型はサイドアップ、降ろしているところは見たことない。妹がいる、ちなみに妹に俺の好意が気付かれている模様。超絶ハイスペックな幼馴染がいるけど最近はあんまりお話して無いらしい。」

 

 5:名無し「べた惚れwww」

 

 6:名無し「自分より相手の方が詳しい件について」

 

 7:名無し「むしろその幼馴染が気になる」

 

 いやいや、頼むから俺にアイディアをくれ。しかし、物好きな住人たちはさらに情報を要求してきた、この乞食共め……

 

 8:バイト戦士「小学生の頃、6年間一緒のクラスだったんだけど中学上がって高校終わるまで1度も会ってなくてこないだ偶然再会してからお熱」

 

 9:名無し「存じております」

 

 10:名無し「とりあえず>>1が今日隅田川の花火大会に行くところまで想像できた」

 

 お前雪穂ちゃんだろ、そう言いたくなるくらいの特定班の仕事の速さに思わず叫びそうになる。まぁ、確かにそういう感じ。その旨をスレッドに書き込み続けていく。

 要は、俺は彼女が好きなんだけどデートするのは性急すぎないか、焦りすぎたりしてキモがられないか、でも断ったら2度と機会が来ないんじゃないかとかそういう不安を文字にしていく。

 

 それだけでわかってくる、本当はどうしたいのか。ただ、俺は背中が押してほしいんだ。後一歩進む勇気、厳密にはスマホの通話ボタンを押す勇気。

 

 それから、ただ単純にレスが増えていって、俺が出す情報が無くても勝手にみんなで盛り上がっていく。

 

 ――スレ主頑張れ。

 

 ――末永く爆発しる。

 

 ――帰ってきたら報告して、どうぞ。

 

 不特定多数、匿名の人間からの応援っていうのはなんとも嬉しいもので、俺はいつの間にかスレを開きながらスマホを手に取っていた。

 震える手で番号を押していく、そのたびにスマホの振動が指から腕へと伝わり大きな波になる。11桁の数字を打ち込んだあと、俺は緑色の"通話"キーを親指で強く押し込む。

 

「ゴクリ……」

 

 わざとらしい効果音のあと、俺はスマートフォンを耳に当てる。プルルルル、という呼び出し音が重なるたびに心臓の導火線が短くなっていく。

 っ、呼び出し音が止んだ! 行け俺、ハートの全部でアタックだ!

 

「もしもし!!」

『も、もしもし?』

「あの、今日の花火大会ですけど……俺で良かったら同行させてください!! 」

 

 言い切った、俺偉い! スマホ片手に掲示板になんとかオーケーの返事を出したと書き込む。

するとバイト戦士からバイト勇者にランクアップしてた、やったぜ。

 ……じゃなかった、電話の先の穂乃果ちゃんは……

 

『はぁ~、ビックリした。じゃあ来てくれるのね?』

「う、うん……行き、ます」

 

 や、やばい。ちょっとニヤニヤが止まらない。うふふ、デートだってよ。デート、穂乃果ちゃんとデートォ!!

 

 

 

『―――じゃあお姉ちゃんに伝えておきますから、5時にうち来れますか?』

 

 

 

 …………はい?

 

「もしもし、もしかして……穂乃果ちゃんじゃない?」

『はぁ……もしかしてお姉ちゃんだと思ってました? さすがに姉の電話番号勝手に教えたりしませんよ』

 

 雪穂ォォォォォォォォオオオオオオ!!! ……ちゃん!! それはあんまりだぁぁあああ!!! ハートブレイク! だがしかしよく出来た妹でお兄さん感心だよ!!

 

「まぁいいや、5時でしょ? 大丈夫だよ」

『はーい、じゃあまた後で。くれぐれもフライングしないように』

 

 わかってまーす、いいさいいさ残った時間で仮眠とってー作戦立ててー着ていく服決めてー、走れば間に合う!

 というわけでおやすみなさい! 掲示板のみんな、報告を待っててくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ハッ!? おい、今何時!?

 まだまだお日様は空高くにいるのを窓から確認、慌ててスマートフォンを手繰り寄せて起こす。そして、デジタルな時計は「16:37」と無慈悲に映し出していた。

 

「一大事!!」

 

 俺はとち狂ったように着替えを取り出すと全裸で部屋を飛び出し、シャワーを浴びてバスタオルで一拭きした状態にチノパンと清潔感だけは立派な地味シャツを身に付けて腕時計と財布とスマートフォンを引っ掴んで自転車に跨る。

 

「オンユアマー、ゲッセッツ?」

 

 いいから、走れ!! 休んでる場合じゃねえ!! 仮眠時間が多すぎて、見事に作戦もくそもないまま俺はひたすらペダルを漕いだ。赤信号で急停止すると後輪が浮き、ガシャンと凄まじい音がする。今日が無事に終わったら修理に出してやろう。

 腕時計の針はどんどん"12"に向かっていく。短い針は5に食い込んでいた、ギリギリのところで俺はまたしても信号に引っかかる。

 

「少しぐらい遅れるか……?」

 

 ダメだ、バイト戦士が遅刻なんか許されるか。バイトといえど仕事は仕事、そうとも雨が降ろうと勤務時間前には必ず着いていたんだから今だって間に合う!!

 ……数分後、辛うじて残り30秒付近で懐かしい和菓子屋が目に入った。コンクリートにタイヤ根を残しながら急停止、相変わらず後輪からすごい臭いがするけど今はそれどころじゃない。

 

「き、緊張するな……変なところないかな、かっこいいかな」

 

 かっこいいわけねー……まぁいい、変なところが無ければいい。俺は意を決して穂むらの引き戸を開けると、クーラーの風が出迎えてくれて火照った身体に安らぎを与えてくれる。あ~気持ちいいぃ~……じゃなくてぇー!

 

「いらっしゃいませー」

「こ、こ、こ、こんっにちは!」

 

 グダグダー! 挨拶の途中でどもるなぁ! するとカウンターの穂乃果ちゃんのお母さんはクスクスと笑っていた。うっはー、恥ずかしい……でもあの頃から、7年近い月日が経っているのに久しぶりに見渡した店内に変わった様子は無くて、落ち着くんだ。

 

「いらっしゃい、やっときた」

「じ、時間には間に合ってるよね?」

「まぁね、あと……もう少し準備に時間かかるからゆっくりしててよ」

 

 君、なんか昨日からやけにフレンドリーじゃない? だいぶタメ語だよね、まぁいいんだけどさ。いいんだけどさ? お兄さんの威厳が行方不明になっちゃうよ。

 

「もしかして、君が穂乃果の言ってたスーパーの店員さん?」

 

 穂乃果ちゃんどんな話し方してんの~……? すげぇ覚え方されてるじゃん……と思ったけど

ただのスーパーの店員か。ハハハ、泣ける!

 

「えっと、小学生の時は穂乃果ちゃんと同じクラスで……こないだ偶然俺のレジに来てくれて、みたいな」

「聞いてる聞いてる、初めて会ったときは雪穂しか覚えてなかったんでしょ? ごめんなさいね、無神経で」

「いや、俺も忘れてたんでお相子で」

 

 そう言うとおかあさんはお腹を押さえて笑い始めた。そんなに面白いのかな、俺たちの関係。

っていうか、マジでどういう覚え方されてるんだ俺。もし雪穂ちゃんがあること無いこと吹き込んでたら俺この場で腹を切るよ。

 ……あぁ、無神経でってことは、知ってるんだなぁ……雪穂ちゃんあとでたこ焼き奢ってあげるね、くっそ熱いやつ。すまんさっき腹を切ると言ったな、あれは嘘だ。

 

「お待たせー」

 

 雪穂ちゃんが店の奥から出てきたので、無言の圧力を笑顔で放っていたんだけど……正直言葉を失った。開いた口が塞がらない、顎が外れた。

 

「お、お待たせー」

 

 ゆ、か、た。

 

 浴衣だぁぁぁぁぁあああ!! しかも、なんか雰囲気が違うと思ったら髪を結ってるんだ。いつもの側頭部じゃなくて後頭部で。なんていうのかな、お団子みたいな髪型。でも和菓子屋の娘がお団子って結構シャレてるかも、うん黙ります。

 

「じゃあ、行こ?」

 

 いつも持ち歩いているバッグじゃなく、小さなクラッチバッグを手に提げている穂乃果ちゃん。浴衣は着慣れないのか、やっぱり変なところがないか確かめていた。なんだかさっきまでの俺みたい。

 それじゃあ、いざ。鋼の心で再び引き戸に手を掛けて、振り返る。

 

「雪穂ちゃんはいかないの?」

 

 確か、昨日は雪穂ちゃんが一緒に行こうって誘ったんじゃ……そう思って尋ねてみると、またしても俺の顎が外れてしまう。

 

「そうだったんだけどー、学校の友達と行くことになってさー。お兄さんよりは友達が大事だから、今日はパス」

 

 辛辣!? いや、でもまぁ学生の間に友達と祭りに行くって大事なことだから、優先するのは間違ってないよ。ただし言い方がひどい、お兄さん泣きます。

 ……ってあれ、俺もしかして、もしかしなくても……穂乃果ちゃんと2人っきり? マジ、嘘、マジで?

 

「2人っきり……?」

「……うん」

 

 こくり、とこっちを見ないで答える穂乃果ちゃん。ふへへ、これは夢だ。俺はきっとまだ仮眠中なんだ。

 

 

 

「ふぅ…………そっかー2人っきりかー(よっしゃあああああああああああああああ!!!)」

 

 

 

 あかん、口元が緩むふふふ。いやぁ失敬失敬。だがよ、初恋の子に再開した挙句たった1ヶ月の何気無い付き合いからデートに誘われちゃったわけで? 顔が緩まないって方がありえないじゃない?

 行ってきます、穂乃果ちゃんがそう言って外に出る。俺も後を追いかけようと外に出ようとしたときだ。

 

 昨日の、強面の男性が店の奥から下駄の音を響かせてやってきた。

 お、お、お父さんッッ!! 相変わらず凄まじいプレッシャー、睨み合ってるだけで膝を屈しそうだ……!! でも負けない、あたし負けない! 男の子の意地を見せてやる!!

でも漢の生き様見せられたらさすがに負けます。

 

 しかし、穂乃果ちゃんのお父さんはスッと頭を下げた。な、なんばしよっとか!?

 

「お姉ちゃんをよろしくお願いします、だって」

 

「わかるの!?」

 

 恐るべし高坂一家、意思疎通は並の人間以上のようだ。いつか俺にも分かるときが来るのか。俺はついていけるだろうか、会話(きみ)のいないお茶の間のスピードに。

 とにかく、相手の両親公認のデートと履き違えて行ってこよう。外に穂乃果ちゃんを待たせてる。

 

 

 楽しみだな、花火。

 




すまんな、本格的なデートは明日なんだ。すまない。
それと某掲示板パートは超適当ですので、揚げ足取らないでね。お兄さんとの約束だ。

感想評価ぼんぼん、ありがとうございます。
なんかもう開き直ると、めちゃくちゃ嬉しいです!

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