バイト戦士なんだが、バイトしてたら初恋の子に会った。 作:入江末吉
今回、何度も死にながら書き上げたのでボドボドですがどうぞ見てやってくださいませ。
「ぐずっ……ひっく、うぅーん」
「酔い潰れるまで飲むとはな……」
どうも、バイト戦士です。今日めでたく生まれて20回目の誕生日を迎えました。それでさっきまで穂乃果ちゃんの家で誕生日パーティをやってたんだけどさ?
穂乃果ちゃんが他にも俺が知ってるだけの面子を集めてくれて、だちゃんと絢瀬姉妹が参加してくれた。ことりっちにも声は掛けたらしいが今日はどうしても都合が合わなかったらしい、ちょっと残念。
それで最初の1時間はみんなでワイワイ楽しく飲んだり食べたりだったんだけど、絵里さんが貰ってきたというお酒を開け始めて大人勢と絵里さんがだんだんダウンしていった。今、高坂家は雪穂ちゃんとだちゃんが片付けてくれている。で、俺は時間も時間なのでエルメスたんと泥酔した絵里さんを穂乃果ちゃんと一緒に送っていくことにした。
「近所だってのは知ってるけど、家は知らないから亜里沙ちゃんがいて助かったよ」
「いえ、お姉ちゃんが迷惑かけてごめんなさい。せっかくお兄さんの誕生日だったのに」
「いいって、こんなかっこいい腕時計プレゼントしてくれたしね、亜里沙ちゃんもありがとう」
絢瀬姉妹の誕生日プレゼントは姉が腕時計、妹がくれたのは穂乃果ちゃんのとセットになるティーカップだった。今日は穂乃果ちゃんの家に置いてきた、しかしやけに高そうなティーカップだったが、あんな高価そうなの受け取ってよかったんだろうか。
「大丈夫? 変わろうか?」
「あぁ、いや……暴れるからさ」
「穂乃果ぁ……うわぁぁぁん穂乃果がお嫁さんになっちゃう! エリチカ認めなーい! 反対!」
「痛い痛い頭叩かないで」
絵里さん泣き上戸らしくて、さっきからずっと鼻水を啜る音としゃっくりの音が耳元に聞こえてきて年上の、あのグラマーなお姉さんには見えなかった。
加えて、なんか酔っ払って幼児退行してる。自分をエリチカって呼んでるし、駄々こねるし。実はここまで連れてくるのに眠るのを待ったくらいだ、だって帰りましょうって言ったら穂乃果と一緒にいるって言って聞かないからだ。ロシアの人って強いお酒ばっかり飲んでるからお酒強いと思ったけど、そうでもないんだな。
「お姉ちゃん、お兄さんに迷惑掛けたらダメ!」
「うぅん……ありしゃの声がする……」
どっちがお姉さんかわからんなこれ。絢瀬姉妹の意外な一面を見て、俺も穂乃果ちゃんも顔が綻ぶ。そっか、もしかしたら穂乃果ちゃんお酒飲めるようになってから昔の友達に会うの初めてだっけ。
ほんのひと月前にハタチになった穂乃果ちゃん。
俺よりちょっぴり大人で出会った頃よりほんの少し髪が伸びた穂乃果ちゃん。
今では俺の恋人、一応未来のお嫁さんの予定の穂乃果ちゃん。予定とか言ってめっちゃダメージ受けてるのは内緒。
「しっかし、この歳になってハッピーバースデイを家族以外に祝ってもらうことがあるとはね」
「これからは、毎年やろうよ。毎年、みんなを集めて夜まで騒いで……」
夢を語るように声のトーンが高くなる穂乃果ちゃん。けど、今日ことりっちの都合が合わなかったことを思い出したらしい。いつも誰かが来れるわけじゃない。
でも、夢なら追いかけることくらいはできる。
「いいね、次は雪穂ちゃんの誕生日とかさ。俺、こう見えて元パティシエの経験あるからホールケーキも作れるんだよね、今日は祝ってもらう側だったしお父さんが作ってくれたし」
そう、これも約1年様々なバイトを経験してきたおかげだ。パティシエ、パン屋、ラーメン屋、ファミレスでホールと厨房を少し、その他いろいろだ。プールの監視員だけはやったことないけどな!!
お父さんが作ってくれた、というのは穂乃果ちゃんのお父さんが和と洋の融合を披露してくれたんだ。まさかケーキのスポンジが抹茶で、生クリームと餡子のミックスだなんて俺も思ってなかった、こっそり聞いてみたところ昔和菓子に飽きたと穂乃果ちゃんが騒いだときにケーキを作ったことがあってそのとき穂乃果ちゃんに好評だったから今回も作ってみたらしい、ありがとうございます美味しゅうございました。
「あーあ、穂乃果の誕生日がもうちょっと遅かったらなぁ……」
「ん、どうして?」
「だって、あなたがひと月遅いから……穂乃果はね、どんなことをするにも一緒にいたいんだ」
ごちそうさまです、今日の穂乃果ちゃんもある程度お酒入ってるからか、大胆さが言葉の端々に浮いている。見れば亜里沙ちゃんも微笑んでいた。
「わたしもー、わたしもいっしょー……」
「絵里ちゃんも早く素敵な男の人見つけてね、そしたらWデートしよ」
穂乃果ちゃんがそう言って絵里さんの髪を梳く。本当に年上なのか、疑いたくなった。この分では1人で合コンには参加できないな、速攻でお持ち帰りされちゃうよ。
そうやってみんなで絵里さんの寝機嫌を取りながら歩くこと数分、絢瀬の標識がある家へと辿り着いた。
「ありがとうございました、ここまで来たらあとは亜里沙がどうにかしますから」
「ベッドまで連れて行かなくても大丈夫?」
「えへへ、恋人がいる人にお姉ちゃんをベッドに連れていってもらうわけにはいかないですから」
エルメスたんはそう言って天使の笑みを見せた。そうして絵里さんの腕を肩越しに掴むと足を引き摺りながら玄関へ行き最後に振り返るとぺこりと頭を下げた。
「今日は本当にありがとう!」
「また遊びに来てね~!」
「必ず行きま~す、それじゃあお2人ともおやすみなさい!」
俺たちは2人で手を振って家の中へ入っていくエルメスたんを見送った。本当いい子だなぁ、思ったよりしっかりしてたし。
絢瀬邸の玄関の灯りが消えると、俺たちは街灯と月明かりに照らされた。
「それじゃあ、帰ろうか?」
「うん、ちょっと歩こうよ」
穂乃果ちゃんがそう言って、俺たちはどちらともなく指を絡めて歩き始めた。来た道を帰るだけなのに、景色が様変わりしていた。
夜の街は、心が躍る。たとえば、ここで電柱の陰で俺が穂乃果ちゃんを抱き締めたとしても誰にも気付かれない。外という開放的な空間で愛欲に溺れたとしても、誰もいない。
……やめとこ、そういうの俺らしくない。ここは童貞らしくしなくっちゃ、らしくっていうか童貞なんですけどね泣きたい。
「ん、母さんから電話だ。ちょっとごめんね」
スマートフォンを取り出して耳に宛がう。
『あ、もしもし。今夜家開けるわね、誕生日プレゼントはリビングのテーブルの上にあるから』
「また変なアンティークじゃないだろうなー?」
『結構新しいものだと思うけど、そんじゃまよろしく!』
相変わらず暴風雨みたいな女だ。スマホをしまうと穂乃果ちゃんと手を繋ぎ直す。
「お母さん、なんだって?」
「家開けるって、たぶん父さんも一緒だと思う。そして誕生日プレゼントの中身も言わずに切りおった」
はー寂しい、誕生日の夜に子供1人にすんなよな。一応俺には姉が1人いるっちゃいるけど、成人して独立してから数年間会ってないしあの姉ちゃんは弟のハタチの誕生日だからってわざわざ帰ってくるわけがない。
「ねぇ、じゃあ2次会しない? あなたのお家で」
「え……あぁ、いいね。今からコンビニに何か買いに行こうか」
「スーパーは……今の時間じゃお惣菜しか置いてないか、あはは……」
穂乃果ちゃんが困ったように笑う、確かにわざわざ遠いスーパー行く必要もない。なによりそろそろ閉店時間で、主任や遅番の人に迷惑かけちゃうしな。
「よーし、じゃあ出発ー!」
穂乃果ちゃんも少し楽しげに声を上げて歩きだした。俺も引っ張られる形で歩く。
夜の街は悪くない。こうして、静かな夜道を歩いても赤い顔を悟られずに済むから。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「コンビニでお酒を買うのがこんなに怖いなら俺金輪際酒は飲みに行ったときだけでいいや」
「あはは、まぁそうかもね」
年齢認証でヒヤヒヤしまくって寿命四半世紀縮んだわ、長寿すぎるだろ仙人か。
「さておき、何か作るよ……って言ってもパンは無理ね、今から作ったら日にち変わっちゃうし」
「うーん、お腹は空いてないかな。それよりも飲みなおそう?」
そう言われて俺はグラスを持ってテーブルに着いた。コンビニで売ってる安いワインだけど、お酒ルーキーの俺には力量を測るのにちょうどいい、と思うメイビー。
穂乃果ちゃんのグラスの4分の1くらい注いで、自分のもそれくらい。テレビでよく見るようにグラスの上部で香りを楽しむ。
子供の俺にさようならだ。
「「かんぱーい」」
ひと口呷るだけで結構突き抜けるものがあるな。穂乃果ちゃんもようやく、という風に飲み込んだあと息をついた。
「実は、穂乃果も二十歳になってからお酒飲むの、今日が初めてなんだ」
「あ、そうなんだ。どうして?」
「鈍いなぁ、初めてのお酒はあなたと一緒が良かったから。たったひと月だったし、そこまで飲みたいって思ってたわけじゃなかったから」
穂乃果ちゃんは少し上気させた顔でそう言って微笑んだ。グラスを口につける動きが、やけに扇情的に見えた。
でも、こくこくと喉を上下させてワインを流し込んだ後は、いつもの穂乃果ちゃんみたいにプハァーと息を吐いていた。それがおかしくって、つい笑ってしまう。
「ぜんぜん飲んでないね? お酒、もしかして苦手なのかな?」
「あぁいや、穂乃果ちゃん眺めてるのが、楽しかったから」
「あー酷いんだ、穂乃果そんな面白い子じゃないよ」
そんなことないって、俺は続く言葉を塞ぐようにグラスに口をつけた。けど、口をつける回数を増やすごとに顔が熱くなってきた。意識はまだハッキリしているけど、そろそろ限界に近いかもしれない。
「酒、そこまで強いわけじゃなさそうだ」
「やっぱり、そういう顔してるよ~」
「どんな顔さ」
「私が、世界で一番大好きな顔」
穂乃果ちゃんが高潮した顔でそう言う。泥酔していたら、危なかったかもしれない。今ですら、若干とろんとした酩酊感を感じているのに。
すると穂乃果ちゃんは、グラスにワインを注ぎ足しては少しずつ飲み干していった。1つのボトルがそろそろ空になるほど、お互いで減らしていった頃穂乃果ちゃんが立ち上がった。もしかして、気持ち悪くなっちゃったかな?
「あのね、あのね」
「うん」
穂乃果ちゃんは俺の隣までやってくると、後ろから俺の身体を包み込んだ。そして、耳元で艶っぽい吐息を洩らす穂乃果ちゃん。
「今日は、帰る気が無いの。泊めて、くれるかな」
「え、えぇ……?」
思えば、穂乃果ちゃんの手にはまったく力が篭ってなかった。耳元の産毛をくすぐる吐息だけは、妙に大人びていた。
「お酒飲んだせいか、眠くなっちゃったな……今日はもう、寝ちゃおっかな」
言うが早い、穂乃果ちゃんはすぐにすぅすぅという寝息を立て始めた。それもまた、耳や首筋をくすぐり思わずそわそわしてしまう。
リビングで寝せるわけにはいかないし、客間とかうちには無いから。姉ちゃんの部屋はしばらく掃除してないから埃だらけ、必然的に俺の部屋しか無くなる。
穂乃果ちゃんを部屋に入れるのは、あの時以来か。あの時は、俺が風邪を引いてたんだっけな。それで、穂乃果ちゃんが元スクールアイドル、それも日本一だって知って自分の程度じゃ穂乃果ちゃんに釣り合わないって勝手に思い込んで、雪穂ちゃんに喝を入れてもらったっけか。
「それが今では、恋人だ。よくわかんないな、人生」
起こさないように、おんぶして階段を上って自分の部屋の扉を開ける。ベッドへ穂乃果ちゃんを寝せて布団をかけようとしたら布団を蹴っ飛ばされた、いらないのね。
とりあえず、下のグラスを洗わないと。それに僅かに残ったワインもどうにか片付けないとな。
下の階へ降りると、ボトルの中身は殆ど残っていなかった。だからとてラッパ飲みすると危ないからチビチビと飲み干す。使ったグラスを洗って棚に戻す。
汗をかいたし、シャワーでも浴びようかと思ったが着替えを持ってなかった。風呂上りの姿のまま穂乃果ちゃんの寝てる部屋に戻るわけにもいかないし、このまま寝てしまおう。
だがリビングで寝ていると怒られるし、やはり俺も自分の部屋で寝るしかないんだよな。仕方ない、リビングのソファからクッションだけ枕代わりに借りていこう。
部屋に戻ると、電気を消す。そしてベッドの隣に横になるとクッションを頭の下に敷く。窓から、月明かりが部屋の中を照らしていた。手を翳せば、それだけで影が出来るほど強い光を放っていた。今夜は満月か、それに近い月か。
近くで、穂乃果ちゃんが寝ている。そう思うと、ドキドキした。そして、そのときようやく気付いた。
聞こえていた寝息が、聞こえなかったのだ。呼吸している音はしているけど、寝ているときほど規則的ではなかった。
もしかして、寝たフリ? そう思ったときだった。
「ねぇ……しないの?」
「へぇあっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。今なんと仰った? し、しないの!? な、何を!? ナニをか、そうか……って、えぇっ!?
「いや! その! 俺たち、まだ付き合ってひと月も経ってないし、付き合うのだって性急だったから、今度は時間をかけてって俺何言ってるんだろうあはは、あははは!」
誤魔化し笑いを浮かべて、穂乃果ちゃんの様子を窺った。穂乃果ちゃんは、壁の方を向いたまま喋っていた。
「そっか、ごめんね。おやすみなさい」
「お、お、おやすみ……」
心臓が止まるかと――――
「――――甲斐性無し、ヘタレ」
心臓が、止まるかと思った。声は震えていた。俺は身体を起こしてベッドに上がると、穂乃果ちゃんの肩に触れた。
「穂乃果、ちゃん……」
「もう……穂乃果を、焦らさないで……っ」
振り返った穂乃果ちゃんの瞳が、月明かりを受けてきらきらと輝いていた。その瞼が閉じられたということは、ススメのサインなんだ。
俺は、同じように目を閉じて穂乃果ちゃんに顔を近づけ、その瑞々しく艶のある唇に、自分の少しかさついた唇を押し当てた。
初めての感触だった。キスってこんなもんだったのか、穂乃果ちゃんからはさっきのワインの香りがしていた。そっと唇を離すと、穂乃果ちゃんは潤んだ瞳を俺へと向けていた。どうやら途中から目を開いていたのは俺だけだったらしい。
ワインの芳香が穂乃果ちゃんの吐息に混じって俺の肌へとかかる。息を吐けば顔にかかるほど近くで、穂乃果ちゃんと数秒見つめ合っていた。
「もっと……」
「うん……」
今度は、穂乃果ちゃんからだった。穂乃果ちゃんの唇が俺の上唇を噛むように強く挟み込む。俺も返すように下唇を突く。
離れると、穂乃果ちゃんも俺も息が上がっていた。鼻での呼吸をつい忘れていて、キスの合間に激しい呼吸をする。
「もっと……っ」
「わかった……」
穂乃果ちゃんの言葉が理性を削っていき、歯止めが利かなくなる。少々乱暴なくらい、穂乃果ちゃんの唇に自分のそれを押し付ける。ろくに呼吸していなかったせいで、心臓が酸素を求めて動きを早くする。
と、その時だ。穂乃果ちゃんの唇から別の生き物みたいに動く舌が俺の唇を貫いて口内に侵入してくる。それだけならまだしも、俺の口の中を動き回って、いろんなところを弄ってくる。歯の先、根元、俺の舌の先を。
「んっ……ふぅ、っ……はぁ、はぁ……んっ」
「はぁ……あぁ、んんっ……穂乃果、ちゃん……」
2人の顔が離れて、お互いの目に相手が映る。穂乃果ちゃんの目には、獣が映っていた。もう、抑えきれない。ずっと、ずっとこうしたかった。
もっと、もっとキスしたい。
「もっとして、ずっと長く……その次はもっと、長く……」
「うん……するよ、するから……っ」
俺は穂乃果ちゃんの頬を手で包み込む。火傷しそうなくらいの熱を穂乃果ちゃんの頬は放っていた。目尻の涙を親指で拭いながら、穂乃果ちゃんに覆いかぶさるようにしながらキスをする。
全体重を膝と肘に掛ける。穂乃果ちゃんに圧し掛かるような真似はしない。それでも、唇と唇は強い磁石のようにくっついて離れない。そして、お互いの舌が唇の境界線を飛び出して触れ合う。唾液が混ざる音が耳に残る。激しく頭を揺さぶるその音が絶え間無く部屋の中へ響く。
「もっと、もっともっともっと……! 我慢できないの、止まらないの。心臓が止まりそうで、でも嬉しくて……」
続く言葉を遮るように唇で蓋をする。穂乃果ちゃんが呼吸したそうに足を動かしても、俺は離さない。穂乃果ちゃんの眉が寄ったって離さない。
「ぷは……っ! すごい、死んじゃうかと、思った……っ、はぁ……はぁ……んっ」
「はは……っ、俺もちょっと、やばいかも……もうしていい?」
「いいよ、息継ぎくらいは、させてくれると嬉しいな……はぁ、んっ」
その要求が呑めるかは、微妙なところかもしれない。穂乃果ちゃんの汗でじっとりとした前髪を右手で梳くと、穂乃果ちゃんが少し息苦しそうにしながらも心地よさ気に目を細めた。
辛くなったら、口を離した。穂乃果ちゃんの口から唾液の糸が伸びて、月明かりがそれを照らしあげる。穂乃果ちゃんの扇情的な表情も相まって、いろんなところに血が集中していく。
「…………好きです」
「…・・・穂乃果は、大好きだよ」
「じゃあ、愛してる……」
「穂乃果も……愛してます」
若い、若すぎる。でも、止められない。この衝動を解き放って、楽になってしまいたい。そして、穂乃果ちゃんもそれを望んでいるはずだから。あくまで推測、独り善がりだと思う。でも、穂乃果ちゃんの目が望んでいたから。
俺は何度もキスをした。
口だけじゃない。
指に、
腕に、
二の腕に、
肩に、
鎖骨に、
首に、
耳に、
髪に、
背中に、
腰に、
脚に、
爪先に、
穂乃果ちゃんの身体に俺を刻み込むように、何度も何度も、吸い付いて痕をつけるような激しいキスをする。
俺の全てを穂乃果ちゃんに差し出す。穂乃果ちゃんも俺に差し出してくれる、投げ出してくれる。俺はそれを受け取って、離さないように抱き締める。
「穂乃果、ちゃん……あっ、んあぁ……っ! っ、ふぅ……ん、はぁっ……!」
「大好き、大好き……今日は離さないで。どこにも行かないで、抱き締めたまま……」
「行かないよ、ずっと……ずっといっしょにいる」
「うん……っ、ありがとう……」
最後のキスは、穂乃果ちゃんだけの味がした。口がワインの味を感じなくなっていた。穂乃果ちゃんの精一杯が嬉しくて、俺も応えたくて、俺たちは互いに抱き締めながら眠った。
晩夏の夜の、ほんの少しの肌寒さも2人で寄り添っていればぜんぜん寒くは無かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……ぁ」
目が覚めたら、私は自分の部屋にはいませんでした。昨夜のことを思い出す。2人でお酒を飲んで、それから……
「~~~~っ!」
うわわわっ! お、思い出したらすごい恥ずかしくなってきた~!! なにやってるんだろ……穂乃果は悪い子です……
だんだん全部思い出してきて、ここが彼の部屋だってことを思い出した。そこに彼の姿はありませんでした。だけど、開けっ放しのドアからなんだかいい匂いがしてきました。
「とりあえず、パンツ穿かなくっちゃ……じゃなくて! 服着なくちゃ!」
少し汗の臭いと、彼の匂いが染み付いた服を着て彼の部屋の姿鏡を見て髪の毛を整えます、でも髪を留めるリボンだけが見つからなくて仕方ないのでそのまま下へ降りることにします。
穂乃果の家と違って、和風な雰囲気が微塵も無いお家。穂乃果の家にもフローリングの床はあるけど、ここまで洋風な雰囲気じゃない。足に直に伝わる床の冷たさが気持ちよかった。
リビングの戸を開けると、彼はキッチンに立っていた。
「あ、おはよう!」
「おはよう、それ朝ご飯?」
彼は頷きながらフライパンに向かっていて、そこには卵が2つ投入されたばっかりだった。
「テレビでも見ながら待っててよ、すぐ出来ちゃうからさ」
「すごいなぁ、料理も出来ちゃうんだ……?」
「そんなことないって。これもバイト経験からだよ、ファミレスのバイトって結構料理の経験値も溜まるんだ」
言ってるうちに出来上がったらしい目玉焼きを彼は、そうホールのウェイターのように持ってきた。仕事中に目にする黒いエプロンがまたそれっぽさを出してて、思わず笑っちゃった。
「お待たせしました、半熟っぽい目玉焼きでございます。熱いのでお気をつけくださいませ」
「わ、それっぽい!」
「だからバイトしてたんだって」
そう言って笑うあなたは、朝の日差しみたいだった。ふと、彼が私の後ろに立って髪に手を差し込んだ。
「さすがに髪の毛を弄るバイトはやったことないんだけども……出来た、うん可愛い」
彼はいつものように、穂乃果の髪の毛を頭の横で結ってくれた。視界の端にチラチラッと映るリボンは、見たことの無い色だった。
「これ、俺からのプレゼント。貰いっぱなしじゃあれだし、穂乃果ちゃん誕生日過ぎてるでしょ? ちょっと遅くなったけどねー」
「……ありがとう、大事にするね」
大事にするよりは使ってほしいかな、って笑う君。振り返って、目を合わせるとどちらかが笑い出す。おかしくて、嬉しくて、笑いながら涙が出ちゃって。
「あ、それと1つメニュー追加」
「なに?」
「おはようのキスはいらない?」
「いる、いっぱいして」
昨日のことがあったからか、いつに無く積極的になった彼の唇を、同じ場所で受ける。触れ合うだけの優しいキスだったけど、顔中が緩んじゃうくらい幸せが満ちてきた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そうやって笑いながら、朝ご飯の時間はやってくる。今日からまたバイトが始まるなぁ。
君と一緒なら、どんな仕事だって頑張れる。
そんな気がするんだ。
お疲れ様でした、最寄のコンビニでチョコレートでも買ってきたらどうでしょうか。
いやまぁ、ちょっとカリカリしてましてね。Twitterの方では醜く愚痴ったりしてすみませんね本当。でも評価いただけるのは嬉しいです、調整平均下がるのが哀しいだけです←
でもこーんな甘いことしかやってないような小説をお気に入りに入れてくださる方が1500人を超えて、UAも100000を突破。
この物語を衝動的に書き上げた2ヶ月前の俺に教えてやりたいくらいですよ。
皆様本当にありがとうございます。
バイトダイアリーこれにて一件落着、おしまい!!
……なわけないんだよなぁ。普通に続きます。
やっぱ仕事風景あってのバイトダイアリー。ここからは仕事を交えつつ、イチャイチャしていこうと思います。
ですが、活動報告で言った通り新作を水面下で進めておりますので投稿速度は今まで以上に下がると思います。それでも見てぇ! という皆様、ありがとうございます。
いろいろ抱えながらですが、確実に頑張っていきたいと思います。
どうかこれからもよろしくお願いいたします!!
感想評価バンバン待ってますヨ←