バイト戦士なんだが、バイトしてたら初恋の子に会った。   作:入江末吉

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プールに遊びにきたら、変態なことになった。

 

「久しぶりだなぁ、ここのプール!」

「うわぁ、大きい!!」

 

 長らく電車に揺られ、更衣室を抜けたそこは楽園だった。水着のお姉さんが、おっぱいの大きなお姉さんが、おっぱいいる! いや、いっぱいいる!!

 電車の中で元気が無いように見えた穂乃果ちゃんだったけど、快晴の下開放的な気分になったようで雪穂ちゃんと一緒に小型テントを設置する場所を先取りしに行った。

 

「すごい広いわね……!」

「近所じゃ、ここのプールが1番評判良いですからねぇ」

 

 そして、なんだこのモデル体系は。なんだこのスケベな水着は。水色と白のストライプ、しかも横縞……! ボトムが縞パンにしか見えねぇ……! 男共は見るな! 目の毒だぞぅ!! 保養とも言う。

 で、雪穂ちゃんは。身体の凹凸が穂乃果ちゃん以上にフラットな雪穂ちゃんは、白オンリーのビキニにグラデーションの鮮やかなパレオを身に付けていた、なんだろう年齢的にはおかしくないのにこの背伸び感。

 

「……ふっ」

「なんで笑ったの」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い、暴力反対いてててててて!!

 

「だっふぇえりしゃんのかんじぇんしょうりりゃし」

「何言ってるのかわからないなぁ、もう1回言って?」

「いでぇぇぇえええええ!? おいっ、もう一回言えと言いながら両頬抓るたぁどういうこった!!」

 

 ちくしょう、この妹酷い……貴様未来の義兄に対してなんたる不敬!! あ、今のなんかラップっぽい。未来の義兄に不敬、ヨ!

 

「行きましょう、絵里さん。こんな人知ーらない」

「待ちな、嬢ちゃん。設営するテントは、俺が持ってるんだぜぇ」

「ほら早くおいで」

「あ、俺は犬ですか」

 

 確かにそれならこんな人知らないな、っておい。俺の犬種ってなんだよ、柴犬か? ラブラドールか? チワワか!?

 ……っと、いけね。雪穂ちゃんに構ってばっかじゃダメだよな……今日は穂乃果ちゃんの機嫌を取り捲らないと、いくら彼氏だからとて呆れられてばっかりじゃフラれちまう。

 

「テントはここでいい?」

「お願いします♪」

 

 ほえーやっぱ絵里さんの妹だ、雪穂ちゃんより白くておまけに身体の凹凸はsuperbe(素晴らしい)、文句のつけようが無い。ちょっと小ぶりな胸が将来を期待させるね。

 そして、俺の将来のお嫁さんはというと、熱っぽい視線を向けると身体を隠す。その仕草がまたまた可愛らしい。でも残念、穂乃果ちゃんの水着は既に観察済み、脳内メモリにバックアップ込みで音速、HD画質で保存さ。

 

 生地の薄いベストに絵里さんみたいなストライプのビキニ、ボトムも同じ柄でスカートタイプのパレオを身に付けていた。いつもはしていないカチューシャ、さらに髪を結んでいるリボンはプール仕様のビーズバンド。

 控えめに言って女神、全力で言えば俺の全て。

 

「…………」

 

「……コメントは期待できないね」

 

 雪穂ちゃんの呟きすら外の世界の音だった。俺は今、隠されている穂乃果ちゃんの水着を余すところなく観察し、脳内メモリに焼き続けていくのだ。

 

「久しぶりねーその衣装、私もそっちでくれば良かったかな」

「絵里ちゃんは今のままでも十分可愛いよ、スタイル良いし」

 

 穂乃果ちゃんがそう言って自分の胸とお腹を見て、肩を落とす。あー、なんか急にフラットな体系の女の子が好きになってきた、あー、あー!

 ふっ、まぁいい。俺はテントの中に荷物を落ち着けると、バッグの中に持っていた日焼け止めクリームを見せびらかす。

 

「あ、日焼け止めとか塗るんだ。お兄さん意外とマメだね」

 

 これは諸君らに塗るものだよ、なんて言い辛い。だけど諦めるものか、桃源郷はすぐそこにあるんだ!!

 

「私たちは更衣室で既に済ませてきたわ」

「絵里さんの塗りテクはすごかったなぁ~」

 

「ちくしょうこんなもの!!」

 

 力の限りボトルを鞄の中に叩きつける。桃源郷だと思ったらただの水溜りでした、解せぬ。

 

「さ、時間が勿体無いから早く泳ぎましょ!」

「そうだね、行こっ!」

 

 いや、あの……俺は、ここで待ってますから。濡れ濡れな美少女眺めて楽しんでますから。おいそこの雪穂ちゃんこっそり笑ってるんじゃないよ。

 俺だけが動かずにテントの下にいると、俺が動かないことに気づいたみんなが戻ってきた。

 

「もしかして、泳げないの?」

「泳げますー!! 馬鹿にすんなし! 俺だってな、ライフセー……」

 

 ついムキになって穂乃果ちゃんに突っかかってしまうも、寸でのところで立ち止まる。

 

「……ブしてもらったことがあります、泳げません」

「……プール、嫌だった?」

「そんなことはない!! 断じて! ここのプール一応足着くし!!」

 

 ……あぁもう何やってんだ、穂乃果ちゃんの笑顔が曇っちまっただろうが……どうしよう、どうしよう。

 困った俺に助け舟を出したのは、絵里さんだった。

 

「じゃあ、ウォータースライダーに行きましょ? あそこなら、滑り終わったあとのプールも膝くらいまでしかないはずだから、大丈夫じゃない?」

「た、たたたたた多分……」

 

 助け舟、なんと泥舟だった。ウォータースライダーが諸悪の根源と言えるわけもなく。満場一致の雰囲気の中、俺の足取りだけが確かに重かった。けど、穂乃果ちゃんが気にしてしまうかもしれない。

 なら俺は俺に出来る精一杯の虚勢を張るだけ。そうとも、俺は水が平気水が平気水が平気……ついでに高所恐怖症なんだ俺。

 

 金属製の階段を上っていくたび、グラついてる錯角に襲われる。思わずクラクラして穂乃果ちゃんと絵里さんの腕にしがみつく、マジで助けて死ぬ死んじゃう。

 そんな俺を見て、穂乃果ちゃんは笑ってた。こんなヘタレが彼氏でガッカリしないのか、当人だから余計不思議に思ってしまった。

 

 何とかてっぺんまで上ってきた、俺の膝だけでなく全体大爆笑だった。もうマジで、マジで勘弁してください。本当、3000円くらいまでなら出しますんで、マジで。

 チューブ型のかなり曲がりくねったスライダーの前で女の子の腕にしがみつきながら青い顔をしている男が1人おりまして、端から見ればそれはそれは情けない姿に見えるでしょう、俺も自分でそう思う。

 

「じゃあ穂乃果が1番ね、下で待っててあげる」

「あ、あああああああ、うん……」

 

 穂乃果ちゃんの腕が離れる、それだけで腰が引ける。負けるなおじいちゃん(19)、ファイトだよ。

 

「じゃあどうぞ~」

 

 係員の人に言われて穂乃果ちゃんがチューブの入り口に手を掛けて腰を下ろそうとした。俺も腰が引けてきた、高いし地獄の入り口目の前だし。

 

「今だよ!」

 

 と、雪穂ちゃん。なんのこっちゃ、俺は今忙しいんだ、ゴミみたいなプライドを拾い上げて必死に掲げてるんだ邪魔をするんじゃない。

 

「カップルなら一緒に滑ってもいいんだよ、ほら早く!」

 

 トンッ、と軽く背中を押された。軽く押されたはずなのに、俺はまるでトラックに轢かれたような衝撃に襲われた。

 え、ちょ―――

 

「待てぇえええええええええええええええ!!!」

「えっ? うわ、わわわ、きゃあっ!!」

 

 そのとき、俺がどんなに情けない姿でチューブに飛び込んだか自分で想像できてしまった。俺は穂乃果ちゃんと一緒に滑り出した、んだけど…………

 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!

 

「助けてェェェェェエエエエエ!!! うわぁあああああああああああああああああああ!!!」

「ちょ、そこは、ダメっ! こらぁ!」

 

 速い、回る、落ちる、死ぬ。

 しかし、ジェットコースターよりも速く出口が見えてきた。俺は生にしがみつくように穂乃果ちゃんの身体にしがみついた。そして、再び太陽の下へ飛び出し風呂より広い水の中に投げ出される。

 凄まじい水しぶきを立てて、俺はプールの中に飛び込んだ。悲鳴を上げてたせいで口鼻耳の中に容赦なく水が入り込んでくる。耳は余計だったか。

 

「げほっ……ごほっ……ずびっ、あとで雪穂ちゃん泣かす……っ」

 

 暖かい滴を頬で感じ取りながら、俺は顔中の水を払う。すると穂乃果ちゃんが近くでぺたりと座り込んでいた。

 

「ご、ごめん……」

「ううん、いいよ……でもちょっとあっち向いててもらえるかな……前、外れちゃって」

 

 その言葉が、俺の神経を過敏にさせる。今、なんて言った? 前が、外れた……だと?

 俺の頭の中には穂乃果ちゃんの水着姿が完全に焼きついている、しがみついてたから身体の柔らかさ、感触まで思い出せる。

 

 そして、穂乃果ちゃんのトップは前で紐を結ぶタイプのものだった。つ、つまり……

 

「これ、どうぞ」

 

 俺は着ていた白いパーカーを後ろ手で穂乃果ちゃんに渡した。正直すっげぇ見たいけど、俺に非があるわけだし俺たちにはまだそういうの早いっていうかとにかく我慢だ。

 ずぶ濡れのパーカーを穂乃果ちゃんが受け取ると、妙な肌寒さを感じた。けれど顔はとても熱かった。

 フロントの紐が解けたということは、その辺を弄ってしまったというわけで、途中穂乃果ちゃんが上げた嬌声とこの手に残っている感触。導きだされる答えは……

 

「…………ごくり」

 

 パーカー越しに透視できる、穂乃果ちゃんのそれなりに慎ましい胸を見て生唾を飲み込む。あの双丘のどちらかに触れてしまったわけだ……待てよ? 俺はどっちのおっぱいを触ったんだ?

 右か、左か……アホか、触っちまったことを悔いろぉぉぉぉぉぉ……

 

「ありがとう、おかげで助かっちゃった」

「他の男に見せるわけにはいかないから」

「えへへ、欲張りだ」

 

 穂乃果ちゃんが笑う。俺同様頭からずぶ濡れで、髪の先からポタポタと滴が垂れている。頬や顎の先から首へ伝い、鎖骨のわずかな窪みに溜まっていったり、そこから流れて再び双丘へと。そのなだらかなラインを下ってプールへと還る水滴、今めっちゃ水滴が羨ましい。たかが水に死ぬほど嫉妬している俺がいた。

 

「さ、テントに戻ろう? なんか穂乃果疲れちゃった」

 

 俺のせいだろうなぁ、穂乃果ちゃんすごい顔真っ赤だし……とにかく穂乃果ちゃんが立ち上がってプールを抜けようとしたので、俺もそれに続くことにした。

 ……のだが。

 

「うわわわわわわわわわわ!! お兄さんなんでまだそこにいるのぉぉぉぉぉ!!」

「へっ!? ちょ、待っ! へぶっ!!」

 

 座り込んでいた俺、飛び出してきた雪穂ちゃんが俺に向かってきた。雪穂ちゃんの爪先は俺の脇腹を捉え、直後鈍い痛みが腹に走る。

 

「うあ……これは痛い、し、死ぬ……」

 

 まずい、呼吸出来ないやつだこれ……あかん……

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「散々だった」

 

 思わぬラッキースケベはあったけどな。あの後、俺は担架で運ばれて医務室みたいなところに寝かされていた。呼吸困難と意識不明と水没のトリプルパンチで結構やばかったらしい。

 夏だから、医務室クーラーガンガンだったし。起き上がったら鳥肌とかいろんなところが立っていた。それと、穂乃果ちゃんが水着のままだったけど、ずっとついててくれた。

 雪穂ちゃんも傍にいようとしたらしいが、穂乃果ちゃんが怒鳴り散らしたみたい。俺のことで姉妹喧嘩とか、しないでほしいんだけどなぁ……

 

 現在、すっかり夕方になって帰りの電車の中だった。雪穂ちゃんは穂乃果ちゃんと喧嘩したせいで結構傷心気味らしい、絵里さんとエルメスたんが気を利かせて3人で遊んでいたらしく今は座席に座って絵里さんを真ん中にして、2人とも絵里さんに寄りかかって寝ている。そして寄りかかられている絵里さんも寝ている。

 

 俺はというと、その座席の端のドア付近に立たされ穂乃果ちゃんに抱きつかれている。かれこれ数駅ずっとこれで過ごしていて、周りの視線が痛い。幸せの代償といえば聞こえはいいけど、穂乃果ちゃんがすすり泣いてるので余計に、俺がなんかしたと思われてるらしいです。

 

「あのぉ、そろそろ……」

「やだ……帰るまで離さないから」

 

 穂乃果ちゃん、結構強情です。ぎゅってされてるので、結構苦しい。けど穂乃果ちゃん暖かくて電車の中の冷房と合わさって程よい温度で、しかも穂乃果ちゃんからは良い匂いしてるし。

 

「死んじゃうかと思った」

「俺も死ぬかと思った」

 

 結構脇腹に突き刺さる感じしたからね、よく骨折れなかったなと思う。けど、今穂乃果ちゃんが俺の肋骨付近締め上げてきて、それで骨が折れそうだった痛い痛い痛い。

 

「もう、プール行かない……やだ……」

 

 俺も出来ればしばらくはプールごめんだな、でも……

 

「俺も。でもあえて来年、また行こう? そのときまで、泳げるようになっておくからさ。そしたら、今度は一緒に遊ぼう」

「やだったらぁ……」

 

 穂乃果ちゃんが俺のTシャツにいやいやするように頭を擦りつける。凄い可愛い、正直理性が蒸発しそうなんですけど穂乃果ちゃんが言うまで我慢するって決めたので背中を撫でて安心させる。

 というかここ公共の場だからね? 抱き合ってること自体割とやばいからね?

 

「ねぇ……」

 

 そのとき、穂乃果ちゃんがようやく顔を上げた。目は真っ赤だし、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってるし、髪の毛なんかリボンに換え忘れてるのかまだビーズバンドだし、結構ひどかった。

 でも、その涙が俺に関係してるって思うと少しだけ嬉しかった。死に損なった甲斐があるってもんだ。

 

「今日、あんなことしてなんだけど……明日、来てくれる?」

「もちろん。主賓でしょ、俺?」

 

 コクリと頷く穂乃果ちゃん。そう、明日は俺の誕生日……高坂家の人間が、みんなで俺を祝ってくれる。楽しみで、しょうがない。

 俺が行くって答えると、穂乃果ちゃんは泣き笑いを浮かべた。ハンカチで涙だけ拭ってあげると、綺麗な笑顔がすぐそこにあった。

 

 ニッコリ、少しだけ困ったように笑って頬を朱に染める穂乃果ちゃんの、光を跳ね返す艶のある唇が、すごく美味しそうな色をしていた。

 耳鳴りがするほど、しっかりと網膜に焼きついた唇が閉じる。穂乃果ちゃんがもう一度俺の胸に頭を預けた。

 

 もう、誰に見られても恥ずかしいとは思わなかった。今だけなら、自信を持って穂乃果ちゃんは自分のものだと思えた。

 そろそろ、ブレーキが壊れるくらいに、歯止めが利かなくなるくらいに、意識するようになってきた。

 

 俺はどうしようもないくらい穂乃果ちゃんが大好きだ。

 

「大好きだからね」

 

 穂乃果ちゃんも、同じらしい。

 

 もう少しこうしていたいから、電車さんもう少しゆっくり走ってください。

 

 あと少しだけ、穂乃果ちゃんと抱き合っていたい。

 

 




絵里ちゃんとイチャイチャさせるつもりだったんだけど、それよりも穂乃果ちゃんとイチャイチャしてしまった、やれやれだ。

そろそろ本気出さねば読者に飽きられてしまうのではとビクビクしております。

感想評価こっそりお待ちしています、おら返信してみろというくらいの数お待ちしております←

ありがとうございました。

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