バイト戦士なんだが、バイトしてたら初恋の子に会った。 作:入江末吉
バイト戦士です、どうも……。
元気が無いように見えます? 少し滅入っています、というのも穂乃果ちゃんとの関係は出来るだけ家族には内緒にしてほしいと言われた。
穂乃果ちゃんに聞いたら彼女は、
「は、恥ずかしいよ……お母さんとか、絶対笑うし……っ」
違いない、なんというか娘のこの手の話題大好きそうだもんね。まぁ俺としてももっとお父さんやお母さんの好感度上げてからネタばらししたい、だって怖いんだもん。
あの筋骨隆々な身体から放たれたボディブローは俺を殺すのに十分すぎる威力のはずだ、生憎俺は下座れば許されるなんて思えないから、慎重にことを進めるよ。
「あ、休憩していいよ。お願いだから、ボロは出さないでね?」
「大丈夫、穂乃果ちゃんに気付かれないくらいには顔には出さないから!」
「うぅ……言わないでよ、それも恥ずかしいんだから」
顔を両手で覆って身体を揺らす穂乃果ちゃん。すごく可愛いんだけど、どうしよう抱き締めたい。
さすがにがっつき過ぎか、そう思って撫でる程度にしておいた。穂乃果ちゃんの頭に手が触れると、ピクンと肩が跳ねる。お客さんいなくてよかったー。
あれから2週間、こうして頭を撫でたり手を繋いだりはしょっちゅうするのだがその先は結構恥ずかしくて出来なかったりする。悪かったなヘタレで! がっついてると思われたくないんだよ!!
交際経験はゼロ、ついこの間まで彼女いない暦=年齢と一緒だった童貞にはなかなかハードルが高いんだよ。
「んー……」
「うん? どうしたの?」
「あぁ、いやなんでも」
こうして頭を撫でてるときの穂乃果ちゃん、まるで犬みたいで可愛いなぁ。尻尾や垂れた耳が見えるみたいだ、撫でるたびに尻尾が左右に行ったり来たりを繰り返しているビジョンが簡単に想像できてしまう。
穂乃果ちゃんに尻尾があったら、毛繕いしたい。それはもう毎日丁寧にブラッシングして、一緒にお風呂入って頭洗ってあげたり……いや待て、それはアウトだ。
いや、俺だって日本男子だ。好きな女の子と一緒にお風呂入りたいって思うことくらいあるよ!!
ただ、さすがに持て余しすぎた性欲が仇になって破局とか冗談じゃないので妄想でとどめてるんだよ、何度も言うけどヘタレで悪かったな!
「じゃあ、休憩してくるね」
「うん、行ってらっしゃい……♪」
見送られながら俺は店の奥の居間に腰を下ろして一息ついた。こうしてこの家の香りを感じると、途方も無い幸せに思わずニヤついてしまうなぁ。
と、その時エプロンをつけたお母さんがやってきた。俺が休憩中だと分かるとお茶を淹れてくれた。猫舌なのを知ってるからか、少し温めのお茶だった。
「はぁ、やっぱり和菓子屋のお茶、渋くて美味い……」
「あ、お団子食べる?」
「いただきます」
それにお茶菓子まで出る、和菓子屋のバイト最高~。みたらし団子に餡団子に草餅つき、おまけに同僚は彼女と来た。ここは仕事場じゃなくて俺の家か何かか。
「最近ね、あなたが来る日は穂乃果の機嫌が良いのよ。一緒に仕事する日の前日の晩御飯のときなんかあなたの話しかしないんだから」
「へ、へぇ~、そうなんですか。食卓を賑わせているようで光栄です」
穂乃果ちゃん、めっちゃ家族にオープンにしてるッッ!! これバレるの時間の問題なんじゃなかろうか。
「あの子のこと、よろしくね。1年間、人と殆ど付き合ってこなかったから距離感を忘れてるかもしれないけど」
「ちょうどいいですよ、穂乃果ちゃんのおっかなびっくり手を繋ごうと計ってる距離感、俺としては繋いでみたいですけどね」
嘘じゃないぞ、嘘じゃ。けど、まだ俺たちはそこまで踏み切ってないふりをしないと、穂乃果ちゃんの頼みだしね。
「ふぅーん、そんなに好きなんだ穂乃果のこと」
「まぁ、初恋……ですからね」
初恋の味は甘酸っぱいとはよく言ったよね、確かにその通りだ。おかげで約2ヶ月口の中にすもも突っ込んでる気分だったぜ。
「μ'sのメンバーは知ってるのよね? 穂乃果以外に気になる子とかいなかったの?」
「実際に会ったことがないので……あぁ、無いこともないか。それでも俺はライブの映像もPVも穂乃果ちゃんしか見えてませんでした」
「はー……ゾッコンね、あの子が羨ましいわ。もっと愛してもらえるんだものね」
バレとるやないか。
「お父さんも知ってるわよ。隠そうとしても無駄、2人とも分かりやすいんだもの」
「ですよねー……あの、お母さんだけには知っておいてほしいんですけど……」
なに? と団子を頬張りながら俺の言葉を待つお母さん。息が詰まりそうだが、お母さんだけならまだ……
「いつか、穂乃果ちゃんと結婚させてほしいんです。今は確かにフリーターですけど、絶対にちゃんとした働き口を―――」
「いいわよ、幸せにしてあげてね」
「見つけて、頑張りますから……へ?」
相変わらず、お母さんは笑っている。ただ俺の耳がおかしくなったかと思ったら、お母さんはまたしてもニッコリと笑っていた。
「私としては、2人いる娘のうち心配な方が早めに身を固めてくれそうだから、安心しているのよ。あなたが相手っていうのも大きいわね」
「ふ、フリーターですよ? それに、情けないとか思わないんですか?」
「ぜんぜん? 穂乃果だって同じだし、あなたたちお似合いだし穂乃果が幸せそうなの、学生の時以来だから。私たちが障害になってその幸せを摘むのは嫌だもの、ね?」
そのとき、背中に強烈な覇気を感じた。そこにはお父さんが仁王立ち、表情はなんとも言えない顔をしている。俺は思わず、それこそ反射的に下座りそうになったが踏みとどまった。
お父さんは俺の肩に手を置くと、親指を立てて頷いた。その双眸から流れ落ちる滴は、親心と言うのだろう。
「穂乃果ちゃん?」
休憩が終わると俺は再び表に戻った。相変わらずお客さんはいなかった、さすがに平日の昼間ともなると暇なわけだ。
俺が声を掛けると穂乃果ちゃんは団子をつまみ食いしながら振り返った。なにしてんの……可愛いから許す、穂乃果ちゃんは絶対です。
「良いニュースと悪いニュースあるけど、どっちが先に聞きたい?」
「悪いニュースかな」
穂乃果ちゃんは団子を飲み込んで、ついでに生唾も飲み込んだ。そこまで緊迫されるとネタ晴らしのし甲斐がありますな。
「お母さんたちに俺たちの関係がバレた」
「うそぉ!? もうバレちゃったの~? 早すぎるよぉ~……」
いやまぁバラしたの穂乃果ちゃんみたいなものだけどね? 答えぶら下げて歩いてたみたいなものだけどね?
「それで、良いニュースってなに?」
「娘をよろしくってさ」
俺がVサインを見せると、穂乃果ちゃんはお店の中だというのにいきなり飛びついてきた。いやむしろお店のなかでよかったけど、野外とか難易度たけーよ。
あぁ穂乃果ちゃん良い匂いするんじゃあ~……スーハースーハー、クンカクンカ!! 穂乃果ちゃんの髪の毛はふわふわで、顔を埋めるとまるで軽い枕みたいに心地がよかった。
「よかったぁ……良かったよぉ……」
「泣くくらい嬉しい?」
「嬉しいよー! だって、お父さん頑固だし実は親馬鹿だし涙脆いし!」
あんまり言わないであげて、まだ裏にいるんだよ。居間できっと泣いてるよお父さん、もちろん悲しくて。
ぐりぐりと俺の肩に顔をこすり付ける穂乃果ちゃん。涙と鼻水で作務衣が汚れちゃった、しばらくは洗わないぞ!!
「じゃあ、来週の誕生日……うちでパーティやろう? ね、いいでしょ?」
上目遣いで俺を見る穂乃果ちゃん。どうやら、俺のハタチの誕生日を祝ってくれるらしい。しかも家族全員で、俺も嬉しくなって首を縦に振っていた。
「やったぁ! 楽しみだね!」
「俺の誕生日なんだけどなぁ……あはは」
思わず苦笑する。穂乃果ちゃん、あの日から2週間になるけどどんどん大胆になってきている。俺に対する気持ちを隠すことをしなくなったっていうのかな。
俺ももっと穂乃果ちゃんに気持ちを表していきたい。好きを全部上げるには、身体で好きを伝えるしかない。
穂乃果ちゃんの背中にそっと手をおいて、ぐっと引き寄せてみた。恥ずかしすぎて心臓の音がバクバクなってて、それが聞こえるんじゃないかって思ってさらに恥ずかしくなってきた。
そのとき、俺の背中にも暖かい手が触れた。そして、同じようにキュッと俺の身体を引き寄せてきた。もっと俺の背が高かったら、きっともっと様になっていたのかもしれない。同じくらいの背だから、穂乃果ちゃんの首の右側に顔が触れる。産毛が俺の肌をくすぐる、他人の毛が身体を撫でるその感触は不思議なもので、すごく気持ちが良かった。
この柔らかい肌に、歯を立ててみたい。穂乃果ちゃんがどんな声を出すのか、そういう嗜虐心が見え隠れする。
ただし、穂乃果ちゃんはそういうハードなのはお好みじゃないと思うので俺も我慢する。穂乃果ちゃんがしてほしいことだけ、俺はするよ。
決して、だから俺がしてほしいことを穂乃果ちゃんがしてねとか言えない。そんな屑野郎になってたまるか!! 正直言うとなってしまいたいです、はい。
「昼間っから、おー暑い暑い」
「ッ!?」
「ゆ、ゆゆ雪穂っ!!」
ガラガラ、と開いた穂むらの玄関。そこから入ってきたのは、夏期講習の帰りか制服を身につけた雪穂ちゃんがいた。いや、雪穂ちゃんだけじゃなかった。
「こんにちはー!」
「あ、エルメスたん」
亜里沙ちゃんも一緒だった。まぁ、すごい仲良しらしいし大学も同じなのかな?
「これなら、私が穂むらを継ぐ必要は無いね。心置きなく受験勉強に集中できる~」
「雪穂ったら……ごめんなさい、お邪魔します」
わざとらしく横目でこっちを見ている雪穂ちゃん、彼女に続いてホクホク顔で店の奥へ消えていく亜里沙ちゃん。
穂乃果ちゃんの方を見ると、真っ赤なりんごみたいな顔をして困ったように照れ笑いを浮かべていた。
あ、可愛い。
「みーんなに、バレちゃったね」
「時間の問題だったと思うよ俺も」
「うん、私も」
俺たちは1度冷えた頭でカウンターに立って、お客さんが来るのを待ち続けた。
その間も、手は離さなかった。手汗を心配する暇も無く、穂乃果ちゃんの熱を感じ続けた。
熱かった、真夏の灼熱の太陽に匹敵するほど穂乃果ちゃんは熱かった。
俺も同じくらい、穂乃果ちゃんにお熱になっていた。彼女のことを思うと、いても経ってもいられなかった。
「今すぐ、もう1度抱き締めたい」
「口に出さなくても……恥ずかしいから」
すいまソーリー。
まぁ、というわけでだ。俺と穂乃果ちゃんは、こうして仲良く毎日を生きてる。
すまない、穂乃果ちゃんは俺のものだ。
あー、お熱いですねー←
砂糖増し増しだよ、むしろ糖分が結晶になってサーって口から流れ出るよ。
まぁ、まだキスもしてませんけどね。
バイト戦士「なんで童貞に人気が無いんだ」
「攻めたことのない兵士が、攻め込まれたことのない城より人気取れるとでも?」
バイト戦士「察した」
それはそうと、この小説R-15もつけてないんですよね。
過激な描写はそこそこ抑えないといけませんね。
今回もありがとうございました。
それと活動報告を更新しました。
よろしければ目を通していってくださいな。
【http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=81958&uid=46128】