バイト戦士なんだが、バイトしてたら初恋の子に会った。   作:入江末吉

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何気にこの間から目指していたお気に入り803を突破したので記念です。
記念といいつつやることはいつもと変わりません。

ただシリアルなだけです。


【お気に入り803突破記念】バイトしてたら……

 

「いらっしゃいませー」

 

 おかしい。

 

「いらっしゃいませぇ~」

 

 おかしい、おかしい。

 

「いらっしゃいませいーん」

 

 ……なんか、今日おかしい。おかしいというのは俺ではなく、お客さんの方だ。というのも、

 

「おねがいしましゅ!」

「テープ!」

「これ、おつりでますか……?」

 

 お子様しかこない!! 仮にも今日平日なんですけど!? なぜ平日のお昼にこんなにもお子様が来るんだ! 小学生よりちっちゃい子供ばっかりだ!! あぁ~可愛いなぁ、癒される。

 小さい子相手に接客するのは嫌いじゃない。だって可愛いし、大人みたいに汚い心を持っていないからね!! 出来ればお兄さん君たちには今のままでいてもらいたいよ……

 

「はーいテープですねー、ちょっと貸してね~……はぁいどうぞ~」

 

「ありがとう!」

「どういたしまして~。えっとね~、132円になります。持ってるかな?」

「持ってる!」

 

 そっかそっか、可愛いなぁ。男の子だけど背伸びしてまで俺に小銭を渡そうと必死になってる男の子。わざわざ駄菓子を買いに来てくれるなんてレジ部冥利に尽きる。

 少年は140円を背伸びして釣銭台に置いた。頑張った少年にお釣と商品を渡す。すると少年はまたしても俺にお礼を言って去っていった。俺も手を振って見送ると手を振り返してくれた、んあーいい子だなぁまたおいで。

 

「お願いっしゃーす」

 

 ……はぁ、空気呼んでよお兄さん。このレジは今お子様専用のレジなんですよ、お兄さんみたいないかにもモテそうなチャラ男はお呼びじゃねーんだよ、けっ!!

 なんてことは思わず、普通に好青年なので丁寧に接客する。女の扱い方を分かってそうな柔らかい笑みを浮かべているせいで、なんだかお尻が引き締まった。

 

「1,204円でーす」

「はい、2,000円と4円でお願いします」

 

 む、財布にちゃんと小銭があるとは……キャッシャーとしては嬉しい。釣りが変に多いと揃えるのが大変なんだ。このお兄さんの場合は、500円玉と100円3枚だからさらっと揃えられる。これが796円の釣りだとバッと枚数増えるからやってられないよねっていう。そういう意味ではこのお兄さんは、恐らくレジ経験者だ。ビジュアルが良いしこういう客商売やるにはもってこいだろうな、イケメン死ね! 家族に看取られて老衰で死ね!

 

「ありがとうございましたー」

「こちらこそ」

 

 くっそ去り際までイケメンかよ……俺もあんな風に高身長イケメンになりたいなぁ……無理か、所詮俺は160台の男か。身長195cmとか丸太のような足とかそこまではいらないんで、普通にあと10cmください。

 

「おねがいしまーす!」

「元気だねぇ~、はーいお預かりしまーす」

 

 お、特撮少年か。食玩を買い漁るとは少年、なかなかリッチだな。俺だって買おうと思わなければ手が出ない代物だぞ。

 さすがにテープにするには数が多かったから、袋に詰めてあげる。それをくるくると纏めて手渡す。

 

「これで、おねがいします!」

「はーい、ピッタリだね。はいこれレシート、気をつけてね。」

「バイバ~イ」

 

 手を振ってくれたので、振り返す。はぁ子供は可愛いなぁ、同じくらい穂乃果ちゃん可愛い。いや穂乃果ちゃんの方が可愛い。

 一緒に働くようになってわかったけど、やっぱり彼女は歳相応に大人だ。19歳だけど大人の魅力があって、それと同じくらい子供みたいな無邪気さも持ってる。昔の穂乃果ちゃんからは想像もつかない。もっともあの頃ろくに喋った記憶が無いけどな、まだことりっちの方が喋ってた気がする。思えば俺は彼女を通して穂乃果ちゃんとの繋がりを得ようとしたのかもな、そう考えると昔の俺はなかなかに姑息だ。

 

「子供相手に顔緩みすぎじゃない?」

「君は本当に唐突に現れるなぁ!」

 

 あんまり突然に大声出したから咽ちゃったじゃないか。そう言ってレジに入ってきたのは雪穂ちゃんだった。

 

「こんにちは、お久しぶりです!」

「エルメスたん……えりゅめすたん!」

 

 噛んだ、いてぇ……亜里沙ちゃんも一緒だった、2人とも音ノ木坂の夏服を着ていた、いてぇ……舌がね。

 

「2人とも学校は?」

「テストだから早帰りなんです、雪穂がうちに来ないかって誘ってくれたのでお昼ご飯を買いに来ました!」

「なるほどね」

 

 じゃあ2人でテスト勉強するわけだ。だが気をつけた方がいいぜ……仲の良い友達の家に勉強しに行くとな、集中力は40分保たねぇぜ、ちなみに俺は5分も持たなかった。

 そして籠の中身を見たら、面白いことに雪穂ちゃんはご飯タイプ、亜里沙ちゃんはパンが多めだった。すごいなぁ、見事に炭水化物の群れ。太らないかな、心配だぞ。でも胸の部分が太るならたくさん摂った方が……

 

「今、すっごい失礼なこと考えてなかった?」

「べっつにぃ~!? 雪ふぉちゃんスタイルいいから~!? 太らないか心配だっただけですぅ!!」

 

 しまった、胸のことを考えていたらからてっきりフォローしたつもりが別の地雷を踏んだぞ!! また噛んだし!

 

「大丈夫、胸もすぐ大きくなるよ」

 

 踏んだ地雷は蹴っ飛ばして遠方で爆発させるに限る!

 

「あの、上司の方って今いらっしゃいますか?」

「あー、サービスカウンターにいるんじゃないかな? なんか用事?」

「いえ、セクハラされたので」

「ごめぇぇぇぇええええええん!! 許して!! 出来れば穂乃果ちゃんにも言わないで!!」

 

 蹴っ飛ばしたはずの地雷がなぜか帰ってきて爆発しやがったので、地雷原で土下座。ほぉ~地雷を頭で踏む感覚、脳汁と汗が溢れますなぁ~もちろん脂汗だけど。

 

「ふふっ、お兄さんやっぱり面白いですね」

「ただのバカだよ」

「相変わらず酷いね!? 君相変わらず俺に対して辛辣だよね!?」

 

 まぁ、正直ちょっとバカを演じてる部分はあるかもしれない。だって穂乃果ちゃんがいるときはこうはなれないから。そういう意味では雪穂ちゃんとは結構キッチリ向き合えてるのかもしれない、向き合った結果があれではさすがに苦笑を禁じえないけどね!

 

「お兄さん今日もうち来るでしょ?」

「行く行くー!」

「了解、じゃあ待ってるからね~」

 

 会計を済ませた雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんを見送る。亜里沙ちゃんが今までの少年少女たちのように手を振ってくれたので振り返す。か、可愛い……! なんだ、あの萌え殺し専用兵器みたいな女の子は……あんな子が穂乃果ちゃん以外に存在したなんて……亜里沙ちゃんマジ天使、まじえんじぇー……

 

「んんっ、げほっ、ん~」

 

 なんか喉に引っかかるな、声を出しすぎたかな。雪穂ちゃん相手だとツッコミが必死になるからなぁ……

 

「おーい、上がっていいぞ~……と言いたいところだけど、上がったら作荷台の下のゴミ集めてもらっていいかな」

「了解でーす」

 

 主任がレジ上げ用の鍵を渡してくれたので釣り銭機から小銭を回収してドロアへ放り込んで事務所で管理してもらう。それが終わるとゴミ袋を持ってゴミを全部回収する。これがまた体力使うんだなぁ、ゴミ箱の数が多すぎるから。

 

「ゴミ、終わりましたー……んんっ」

「なんか声が変じゃないか? まぁいいや、お疲れ様。退勤書いて上がりで」

 

 出勤盤の俺の欄に"退"と記して時間を書く。うちの職場は15分ごとに管理するから、今上がると15分上がりになってしまう。だけどまぁ、余裕持って行きたいしわざわざ時間増やす必要は無いだろう。

 

「じゃお疲れ様です」

「あーいお疲れ様ー」

 

 主任に挨拶して休憩室へ向かう。適当に制服をロッカーに放り込むと着替えて職員出入り口から出て入館証を回収、自転車に跨って走り出す……という瞬間。

 

「ぶー、えっくしゅぉおおん!!」

 

 ちょっと大きめのくしゃみが出る。おっと鼻水垂れちった、ティッシュティッシュ。やっぱ店の中冷房効き過ぎなんだよなぁ……すげぇ蒸し暑いなぁ。

 と、思っていたはずなのに今一瞬身体が震えるくらいの寒気を感じた。まるで、鮮魚用の冷凍庫に放り込まれたみたいな……暑いのに、寒い。倒錯した感覚が身体に走っていた。

 

 しかし特に気にしないまま、俺は穂むらへ向かった。穂乃果ちゃんは相変わらずこの時間は暇しているようで、俺も作務衣に着替えてカウンターに立つ。

 

「本当にお客さん来ないね」

「もう夜だからね」

 

 穂乃果ちゃんと2人でカウンターに入っていて、退屈だったので話を振ったらそんな返事が返ってきた。やっぱり閉店間際になるとお客さんは少なくなるんだなぁ。

 今日俺がやったことと言えば、スーパーのレジと変わらず穂乃果ちゃんが包装してくれた和菓子の箱を袋に詰めてお客さんに手渡し、会計を済ませること。幸い、この業務は慣れているので早くも自分のペースを掴めていた。

 

「そういえば、店の空調効いてないかな?」

「へ、どうして?」

 

 急に穂乃果ちゃんがそんなことを言い出した。俺は気になって尋ね返してみた。

 

「だって、君すごい顔が真っ赤だよ? 汗も掻いてるし」

 

 言われてみれば、首元から顔までじっとりと汗で濡れていた。タオルを持っていたから拭ったけれど、このジメジメは拭えなかった。

 

「もしかして、風邪? 気分悪くはない?」

 

 やめろー!! そんな上目遣いでこっち見ないでくれ!! 惚れる!! 惚れてしまう、全力でアイラブユー!!

 水晶のように透き通っている穂乃果ちゃんの揺れるブルーの瞳は、見ているだけで吸い込まれそうだった。というか吸い込まれていた。

 

 違う、吸い込まれてたんじゃなくて……ふらついていた。つい俺は前のめりに傾いてて、慌てて後ろに戻ると戻りすぎて尻餅をついていた。

 

「あれれ」

「やっぱり、具合悪いんでしょ?」

 

 そんなことない、と言おうとしたけど俺はここへ来る途中のことを思い出していた。やけに暑い空気と、蒸し暑さの中で感じた寒気。

 間違いなく風邪の前兆だ。

 

「今日は早く上がってもいいから、ゆっくりした方がいいよ!」

「……も、もしかして、心配してくれてる?」

「当たり前だよ!! ……そ、その、明日パンの日で、こっち(穂むら)の仕事は休みだから……会えないと寂しいかなぁって」

 

 ……ふわぁああああああああああああああ!!!

 

 言葉に、出来ねぇええええええええええええええええ!!! っと、うおっ酔った。でも穂乃果ちゃんが、会えないと寂しいって言ってくれるなんて……

 1月前に再会したときはこうなるとは思っていなかったなぁ。

 

 店に通ってもらえるようになって。

 

 俺のレジに頻繁に来てくれるようになって。

 

 夏祭り言ったりして、そこで手を繋いで。

 

 今はこうして、穂乃果ちゃんと並んで仕事をしてる。

 

「じゃあ、どうにか治すよ。俺も、その……穂乃果ちゃんが会いに来てくれないと調子狂うしさ?」

「う、うん……」

 

 お互いに真っ赤になってそっぽを向いた。けど、穂乃果ちゃんは割烹着の裾を、俺は作務衣の下をぐっと握り締めていた。

 俺は幸せを静かに噛み締めてたけど、穂乃果ちゃんはどうだったんだろう。

 

 それが、その日一番気になったことかもしれない。

 

 

 家に帰って俺はそのままベッドへ倒れ込むようにして眠りに付いた。日記は今日だけ手付かずだった。

 けど、更新する気も湧かないくらい気分は悪くなっていた。

 

 明日は穂乃果ちゃんが会いに来るんだから、治すつもりで寝るぞ……!!

 

 

 




なんか中途半端だなって思いましたね?
その通り、これ序章です。あとで前編後編と繋がります。

予告したとおりちょっとシリアルになるので、ご了承ください。

感想評価ありがとうございます、お気に入りしてくださった皆様にも感謝。

感想返事書けなくてごめんなさい、仕事増えちゃって更新が精一杯なんです←
時間が出来たらしっかり返信しますので、お待ちくださいませ><


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