バイト戦士なんだが、バイトしてたら初恋の子に会った。   作:入江末吉

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またしてもタイトルオチ←


バイトのシフト変更したら初恋の子が迎えに来た。

「……そういうわけで、俺を昼間のシフトに変更させてください」

「構わないよ、最近業績上がってる君の頼みだしそもそも昼間もスタッフは少ないからね」

 

 主任に頭を下げる。とりあえず俺の穂むらでのバイト時間はお客の少ない夕方から閉店までになった。従って今のスーパーでのバイトはお昼から夕方までにしてもらう必要があって主任に頼んだんだ。

 結果は、思ったよりすんなり行った。てっきり渋られるかとは思っていた。

 

「まぁ、新しい仕事も頑張んな、私は応援してるよ」

 

 やはり女性にしてはサバサバしすぎな気がするレジ部の主任。これでも2児の母だって言うんだからすごい、旦那さんは恐らく尻に敷かれているな。

 尻に敷かれているといえば俺もだ、最近雪穂ちゃんの俺の扱い方が非常に雑。届かないところの掃除やらせるわ、俺が上手く掃除できてなければ俺を踏み台にして自分でやるわ……ちなみに高いところの埃が落ちてくるのですが、その辺に関して雪穂さん何かお考えがあるのでしょうか、お兄さん最近少し喉の調子がよろしくないのですが。

 

 でも一応、便りにはされてるらしいし嫌われているわけではないらしい。雪穂ちゃんなりのスキンシップなのかもしれない、そう思っておこう。

 個人的に、穂乃果ちゃんに踏み台にしてほしかった。というか穂乃果ちゃんの椅子になりたい。座り心地が悪くなってきたよーとか言われて姿勢を直したい、うん黙ります。

 

「それじゃあ、今日もよろしく」

 

 そういえばこれから仕事でした。緩く敬礼で返すと俺は1番レジに入った。もちろん1番前で客の入りが1番多い。というのも、前にも説明したかもしれないがカートや籠が置いてある入り口が11番レジ側でそこから青果コーナーへ、進むと鮮魚のコーナーへいけるという風にぐるっと店内を回ってくると必然的に1番レジが目の前にあるのだ。だから客の入りも多ければ……

 

「はい、お預かりしまーす」

 

 終着駅なだけあって、商品の数が尋常じゃないし種類も豊富。鮮魚コーナーを越えれば惣菜と冷凍食品の園だから、内容量が半端無い。主任が最近俺をこのレジに回すのは信頼からだとしても少しだけ嫌がらせを感じてしまう。

 

「お待たせしましたー」

 

 次々に押し寄せるお客さんを右から左へと千切っては投げ、千切っては投げる。たまにすげぇヘビーなお客さんが来るけどそういうお客さんは一本背負いからのジャーマンスープレックスで仕留める、仕留めるってなにさ。

 今日は別にパンの日でも卵特売日でもない。高坂姉妹のどっちかが来る可能性はゼロに近い。あー……意識したら仕事する気無くなってきちゃったなぁ、あぁ早く夕方にならないかなぁ。

 俺の思いも虚しく、1人のお客さんに掛ける時間が20秒程度。3人こなしてようやく1分レベルで仕事していると時間が経つのは遅い。

 

 しかもだ、昼間だから惣菜部にお弁当買いに来る人が多い。つまり本当に1周回った後に俺のレジに来る人が多い。これは辛いわ……おまけに箸つけるかどうか聞かなきゃだし。まぁこの時間の人たちは家で食べるってのは少ないからこっそりつけておいても文句は言われない。

 

「あっとうざいやしたー、すいません1番行ってきます」

 

 停止板置いて後ろのスタッフに声を掛ける。トイレの個室に入ると一息吐く。ちょっとマジで今日は時間経つのが遅い。

 本当は持ち込み禁止だが、緊急時とかのことも考えて使用しなければグレーゾーンということで持ち歩いてるスマホを取り出すと、通知用のランプが点いていた。ちょっとワクワクしながらスマホの電源を入れると、穂乃果ちゃんからだった。

 

 そう、そう!! 同じ仕事するということで、連絡先を手に入れたんですよ!! 穂乃果ちゃん含め高坂家の連絡先!! ちなみにこれを手に入れる手伝いをしてくれたのも雪穂ちゃん。彼女が教えておいた方がいいんじゃない、ってそれとなく誘導してくれたんだ。もうホント雪穂ちゃんには頭が上がらないからいくらでも踏み台にしてくれていいよ。

 

「えっと?」

 

『穂乃果ちゃん(女神):今日から一緒にお仕事、頑張ろうね!! お父さんの手伝いじゃないのは残念かもしれないけど、フロアも楽しいよ。』

 

 いやぁ、俺としては穂乃果ちゃんと一緒のフロアで万々歳なのよねぇ~!! これだけでテンション上がってくるのよねぇ~!! とりあえず頑張ります! って返信しておいた。そしたらスタンプが返ってきた、超可愛いな、穂乃果ちゃんが。スタンプはそこそこ、でも穂乃果ちゃん愛用のスタンプだろ? じゃあ可愛いんだよ。

 

「っしゃあ! 気合いれっぞ! ファイトだぞ!」

 

 頬をピシッと叩き頬を持ち上げ、120%オリジナル笑顔で個室を飛び出す。

 

「うん、頑張りな」

 

 清掃員のおばちゃぁああああああああん!! 聞かれてたのかよくっそ恥ずかしいんだけど!!

 

 

 

 気合入れて2時間、お弁当を求めてやってきた客を再び千切っては投げ、千切っては投げるを繰り返した。面倒くさい客がいなかったわけではないが、今の俺はエンジン全開無敵のすけ。ぶっちゃけ負ける気がしねぇ。今だったらたぶん異国語を話すお客さん来ても大丈夫そうな気分。実際来られると何言ってるか分からなかった、さすがのテンションも外人さんには勝てなかったよ。

 

「おーい、お昼休憩行っていいぞ~」

「あざ~っす」

 

 何気に初めての暗号"2番"使用、休憩室でみんなでテレビ見ながらお昼休憩だ。前回はお昼食べるまでが仕事だったからな……お昼ご飯は朝のうちに買っておいたパンです、近所のパン屋に寄って買ってきた。そこのパンはパンの日に卸すのでここにくるお客さんであのパン屋のファンだって人が結構来る。ちなみにパンをたくさん流すレジも1番レジだ、なんせパンコーナーは目の前だからな。

 

 みんながテレビに夢中になってる間に俺はスマホを見ていた。パンを頬張りながら穂乃果ちゃん、ではなく雪穂ちゃんと連絡を取っていた。

 

『そういえば雪穂ちゃんは割烹着とか着たことある?』

 

 穂乃果ちゃんの妹だし、雪穂ちゃんも可愛いし似合うと思う。ただ見たことが無いからなんとも言えない、というかこないだ再会して以来何かと彼女が着ている服は結構過激で男には毒だ。義兄になったあかつきには淑女へ構成させるぞ、絶対無理だけどな。

 しかし何分経っても連絡が返ってこない。ひょっとして俺嫌われてんのかな、だとしたらへこむ。よし、次はいろいろ言って褒めちぎってみるか。

 

『雪穂ちゃんスタイル良いし、何着ても似合うでしょ。だから割烹着も似合うかなーって』

 

 これでどうよ、と思ったが3分経っても返事が来ない。あるぇ~おかしいな、俺本気で嫌われてる? 最近俺の扱いが雑なのは仲良くなったからじゃなくてむしろ俺が嫌いになったから?

 と思った矢先だ、既読が付いた! 近いうちに返信来るぞ~!!

 

『義妹(予定):今授業中!!』

 

『サーセンwww』

 

 こいつは失敬、俺がお昼休みだから同じくお昼休みかと思ってたよ、学生は大変だな。しばらく返信は返ってこねーな。

 とまたまた思った直後に返信が来た。

 

『義妹(予定):そういうこと、お姉ちゃんに言わないの? なんか口説かれてる気がするんだけど……?』

 

『外堀を埋めようとしてるんだよ』

 

『義妹(予定):キモチワルイ』

 

 酷くね!? 俺チキンでヘタレなの知ってて言ってるよこの子!! パンが喉を通らなくなっちまったぞ……

 

『義妹(予定):でもちょっとは嬉しかったかな、スタイル良いって言われて悪い気はしないし』

 

『ツンデレ乙』

 

 何この落として上げる感じ、エレベーターだってもうちょっとはゆっくりよ。雪穂ちゃんはそれっきり既読をつけなかった、どうやら授業に集中するようだった。

 もしかして、授業中に通知音が2回もなったから慌てて返信くれたのかも。ちょっと悪いことしたかな、と言うとでも思ったかマナーモードにしておかない雪穂ちゃんが悪いふへへへ。

 

 とりあえずニヤニヤしながらパンをハムハムしてるとあっという間に休憩時間が終わってしまった。少し柔軟して伸ばすとエプロンを着け直してレジに戻る。

 どうせあと数時間もしないうちに上がりだし、客足も少なくなってきた。食後にペースダウンもあってか少し眠くなってきた。

 

 

 睡魔と闘いながら仕事をして、早数時間。室畑くんが俺のレジにやってきた。

 

「お待たせしました、交代っす」

「うぃーっす」

 

 お客さんを流し終えると、レジから俺のデータを抜く。室畑くんが自分の番号を入れてお客さんを流す。俺は室畑くんが入ったレジのゴミ箱を空にして箸やスプーンを補充する。

 すると、室畑くんが俺を呼び止めた。

 

「あー、そういえばサービスカウンターにお客さん来てますよ」

「え、俺に?」

「そうっす」

 

 お客さん……? 誰だろう。そう思いながらサービスカウンターへ向かった。

 

「やっほー」

 

 穂乃果ちゃぁぁぁぁぁあああああん!! ホノカチャン! ホノカチャン!! ハノケチェン!! なんで、なんでおるん!?

 

「上がりの時間は覚えてたから、迎えに来たよっ!」

 

 はーやべぇ、幸せで脳みそトロけて鼻から流れ出そう。耳からは噴き出しそう。口からは吐き出しそう。

 惚けて返事が遅れていると、いかにも暇しているという感じの主任に目をつけられた。

 

「彼女?」

「ちげーます、彼女無く友達です。今日から始める和菓子屋の看板娘です」

「高坂穂乃果です、卵とパンの日お世話になってます」

 

 そりゃあ毎週買いに来てるしね、売り上げ的にも主任が頭下げてもバチは当たらないんじゃないですかね。

 

「いつもご来店ありがとうございます」

 

 さすがレジ部主任、公私の使い分けが二重人格レベルだ……というか普段がおっさんすぎるんだよなぁ、この人。見た目は出来る女なのに、中身はトゲットゲのおっさんっていうね。女の子ウォッチング大好きだからこの人。

 

「なにしてんの早く退勤してきなさい、待たせるんじゃないよ」

「只今!」

 

 こええよ、主任こええよ。なんで今の一瞬でスケバンになってんだよこええよ。まぁ、俺も穂乃果ちゃんを待たせる気は早々無い、抜き取ったレジのデータを事務所に届けて退勤を記録。さっさと着替えて再びサービスカウンターに戻った。

 

「遅いよ幸せ者」

「これでも1分経ってないんですけどね、っていうか幸せ者ってなんですか」

「そりゃあもちろん――」

 

 そこまで主任がドヤ顔で語ると穂乃果ちゃんが真っ赤な顔して人語じゃない何かを口にした。たぶん何か言いたかったんだろうけど咄嗟過ぎて舌が回らなかったんだろうな。

 とにかく、そんな真っ赤な顔で見つめられると俺も発情しかねないので精神統一する。そうだKOOLになれ俺、KOOLに……あ、これダメなやつや。

 

「もう行こ! お邪魔しました!」

「あ、ちょちょちょっと! 俺こっちじゃなくて関係者出口から出ないとだから!」

 

 穂乃果ちゃんは聞く耳持たずそのまま俺を引っ張っていく。俺の手を掴む手がすごい熱を放ってた、風邪じゃないのかってくらい熱くてちょっと心配だな。

 しかしそのままじゃマジで退勤したことにならないので、俺は外から関係者出口に向かい入館証を回収して警備員さんに挨拶してから穂乃果ちゃんのところへ戻った。

 

「主任と何を話してたの?」

「へっ!? いや、特になんでもないよ!! 本当になんでもないから!!」

「お、おう……うん」

 

 なんでもない割にすごい慌て様で逆に気になりすぎてやばいのですが……まぁ深い詮索して嫌われるのも避けたい、なんてったってバイト初日だからな!

 

「そう言えばさ、さっき雪穂ちゃんとスマホで話をしたんだけど穂乃果ちゃんたちって割烹着似合いそうだよね」

「あ、一応穂乃果と雪穂は割烹着がユニフォームなんだ。月1で大正浪漫デーとかあって、そのときは女給さんの格好したりもするよ」

 

 ま、マジか……あの露出が少ないのに男のハートを掴んで離さないあの女給さんの服を穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんが……やべえ興奮してきた!!

 

「お、お母さんももしかして女給さんの格好するの?」

「……なんでお母さん?」

 

 その時、なぜだか穂乃果ちゃんが目に見えて不機嫌になった。なぜってそりゃあの服は大人が着ても意味があるからだよ、お母さんがブーツ履くんならよろこんで踏み台になります。なんかもうドMって言葉じゃ俺は表現できない気がする、雪穂ちゃんにキモチワルイって言われても否定できないぞ。

 

「もしかして、人妻好き?」

「いや、それはない。ただ目の保養的にはお母さんの女給さんは嬉しいかなぁって」

「ふーん……穂乃果じゃダメなの?」

 

 最高っす、これ以上無いくらいなんですがむしろ。っていうか、もしかして穂乃果ちゃん妬いてる?

 ……なんて、そんなわけないか。けど、いつか俺が他の女の子に夢中になってたら真っ赤になって怒るような穂乃果ちゃんになってくれるかな……

 

 

 そんなことを思いながら、俺は穂むらへと向かった。穂むらに着くまで、穂乃果ちゃんに引っ張られた手は少しだけ赤くなっていた。

 割と力強いんだな、穂乃果ちゃん。

 

 




・KOOL

クールになりきれない男の図。ミニスカナースに唆されても負けない男の図でもある。

・ハノケチェン

(・8・)

・大正浪漫デー

バイトダイアリーを執筆している中で私が生み出した妄想全開の日。
女給さん云々言いましたがスクフェスカフェメイド編みたいな格好してると思っていただければ。それ女給じゃねえ! っていう突っ込みは無しで。


穂むらでのバイトなかなか書けないのでちょっと地元の和菓子屋で体験短期バイトしてきます←

感想評価いつもありがとうございます、一日一話では無くなってますが出来るだけ短い間隔で挙げて行きたいと思います。


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