復讐者の仲間のような感じの人   作:345

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念と暴君

身体が重い、そしてめちゃくちゃダルい、そんな俺は今ベッドで寝かされている。

 

念の早期修得は実現した、想像通りだし想定内の事だったが、やっぱり俺にはクラピカ程の才能がなかった。

テルミによる強制的に念を送り込んでもらい、精孔を無理矢理開くという方法で念を目覚めさせる。

とりあえずは成功した、とりあえずはね。

 

だが俺はクラピカより念を安定させるのを手間取り、纏を使いオーラを安定させた頃には体から溢れるオーラが出過ぎた。

軽い興奮状態に陥り、集中する事が出来ずオーラが溢れっ放しになった。

全部とは言わないが、出まくったビックリするぐらい、クラピカは安定してる状態なのに俺を見てビックリしてた。

その様子をユリアンが必死に笑いを堪えようと口を押さえているのを見て、コイツは俺が死んだら爆笑するような人間何だと確信してしまった。

テルミ曰わく、ギリギリだったらしい、もう少し遅く纏の状態が間に合わなかったら、体のどこかに障害を負っていたとか。危なかった。

 

オーラのほとんどを出し切ったせいで、全身疲労でまともに動かない体がもどかしい。

 

「オラッ、無能、エサ持って来てやったぞ、ありがたく思え」

 

黙ってたら完璧な美少女なのに、喋ったら最悪で実は男のユリアンが、トレイに昼食を乗せて持って来てくれた。

コイツの性格上テルミに持って行け、と言われない限りこんな親切な事はしないだろう。

少しの付き合いだが、コイツの性格は嫌でも理解させられた。

テルミを先生と呼び、テルミだけを慕い、それ以外の人間をゴミだと思ってやがる。

 

「おーありがとう」

 

素直に礼を言うがユリアンはそれを聞いて更に顔をしかめる。

 

「ありがとうございます、だろ? あの程度で倒れやがって雑魚が」

 

本当の事出しコイツに反論や言い返したりしたら圧倒的な暴力で痛め付けられるのは知っているから何も言い返さない。

 

「ここに置いとくからな、後は自分で食え、先生はそこまで俺に言ってねーから知ら

 ねーぞ」

 

ユリアンは俺とクラピカの部屋に備えてある、小さめのテーブルにトレイを乗せた。

クソっ、ワザとやってやがる、俺はまともに体動かないんだよ、飯を食う事すら困難なのだ、スプーン持つのですらプルプル腕が震える。

そんな俺の気持ちをわかっているのか、ユリアンはニヤニヤして俺を見ている。

グッーと俺の腹の虫がないた、悔しいがユリアンの作る飯は美味い、作った料理のいい匂いが部屋の中を満たし、鼻孔をくすぐり早く飯食わせろ、と体が命令する。

 

「何だ、その物欲しそうな目は?」

 

ユリアンはしょうがねーな、と呟きトレイを手に持ち。

それを床に置いた。

 

「オラッ、サービスだ、床に這いつくばって犬のように食え」

 

性格悪すぎだろ、どれだけ性格歪んでいるのだ。

 

「ん? なんだその目は?」

 

ユリアンは俺のベッドの傍まで近付いてきて俺を見下ろす。

 

「な、何だよ」

「フンッ!」

「グェッ!」

 

ユリアンはいきなり俺の顔を踏んで来やがった、足で頭をグリグリされてる。

確かに屈辱だが、それ以前におかしい事がある。見えているのだ。

スカートを履いているのは許す、あー許すとも、女装が趣味なのも許す。だって人の趣味も様々だ、そんな事で一々人に偏見を持ったりしない。そう外見だけならいい。

しかし、なぜコイツは女物の下着を履いているのだ、俺の視界から丸見えだ。

嬉しく何てない、誰が男の下着何か見て喜ぶんだ、むしろ吐きそう。

 

「お、オイ、やめろ馬鹿」

「ハハッ、情けねえな、何だ俺のパンツ見て興奮してんのか?」

「するかボケ、さっさと足をどけろ」

 

芋虫より動かない体を懸命に動かすが、ユリアンの奴はその反応がおかしいのか、踏む力を強くする。

助けてクラピカ、もう俺を助けてくれるのは君しかいない、早く来てくれ。

 

「き、貴様! その小汚い足をアルベルからどけろ!」

 

俺の祈りが届いたようだ、さすが俺の唯一の友だ、めっちゃキレてるけど。

待ってたよ、この腐れ変態野郎を何とかしてくれ。

その声にユリアンは反応して、足を一切どかさずに顔だけ動かし、クラピカを見た。

 

「は? どける? ほら見てみろよ、コイツの顔むしろ喜んでるぞ」

「喜んでるわっっ、グベッ!」

 

この野郎、足を口に置くんじゃない、く、苦しい。

 

「ほ、本当なの!?」

 

信じてんじゃない、何テンパってるんだよ。

本当な訳ないだろ、さっさとこの馬鹿どかせてくれ。

もうヤバい、息が苦しい。狙ってやってるのかユリアンは鼻を足でちょいちょい塞いでくる。

 

「まったくとんでもない変態だな、俺のパンツ見て顔真っ赤にして興奮してんぞ」

「なっ!? ア、アルベル!」

 

信じられない、といった顔でクラピカが俺を見てくる。

苦しいから顔赤くなってるんだろうが、変な事言うんじゃない、クラピカが誤解したらどうする。

 

「男に興奮するなんて、面白い友達だな」

「そうなのか!?」

 

テンパってるのはわかるが、クラピカは何を言い出そうとしてんだ。

必死で動かない顔を横に振る努力をする、俺の必死さに気付いてくれ。

クラピカと目が合う。

俺の言いたい事に気づいたのか、何時もの冷静な顔に戻ってくれた。

 

「ユリアンやめろ! アルベルは嫌がってるだろ! それに貴様の汚い下着なんか

 見てアルベルが喜ぶと思ってるのか!」

「き、汚いだと! 訂正しろクソが! 殺すぞ!」

「ーーッグハッ!」

 

俺はユリアンに蹴飛ばされ、ベッドの上から吹き飛ばされる。

ベッドから落ち床を転がり部屋の壁まで行き止まる。

コイツなんて事しやがる。

 

「ア、アルベル!」

 

クラピカが俺の傍に心配そうな顔をしながら、駆け寄って来た。

蹴られた脇腹が痛い。

 

「大丈夫?」

「体のあちこちが痛い、それにお腹も減った」

「ちょっと待って、今体起こしてあげるから」

 

介護されるお年寄りの如く扱われ、俺はまたベッドに寝かされた。

クラピカは床に置かれているトレイをテーブルに置き、シチューの入った皿とスプーンを手に持つ。

 

「コラコラコラ、俺を無視すんじゃねー! さっきの言葉取り消せ、カマ野郎!」

「ユリアン、これからアルベルの昼食だから、静かにしてくれないか?」

「あぁ? そんな才能ないカスの事なんかしるか、俺もお前らと同じ方法で念を覚え

 たがそんな風にはならなかったぞ、まぁどうでもいい、それよりさっきの言葉をま

 ず取り消せ! 俺の下着は綺麗だ、手入れも完璧だぞ!」

 

ユリアンはなぜそこでキレる、意味がわからない。

 

「ーーうるさい」

 

クラピカがキレた、こんなしょうもない事で完全にキレている。目が赤く染まり、緋の眼が発動した。

念を覚えた今の俺なら見える、オーラがクラピカから漏れだし、怒りの感情が俺にも伝わってくる。

 

「お前の下着の事何てどうでもいい、アルベルを侮辱する事は絶対に許さない」

「あん、やんのか? ゴミみたいな覚えたての念で俺に勝てると思ってんのか?」

 

ユリアンとクラピカが睨み合う。

2人の殺気混じりのオーラが俺まで包む。

やめてくれ、クラピカ俺のために怒ってくれるのはありがたいが、そんな事で喧嘩するんじゃない。

止めなくては、これでクラピカまでしばらく行動不能になったらアホすぎる。

 

「何をされているのですか? ユリアン、クラピカ君?」

 

いつの間にかテルミが開けっ放しだった、部屋の入り口にいた。

ナイスタイミング、助かった。

 

「先生、ごめんなさい……」

 

ユリアンはテルミが現れたお陰で、猫被りモードに戻った

 

「クラピカも落ち着け」

「……でも」

「でもも何もないって、俺は気にしてないし」

「うん」

 

クラピカの瞳の色が戻る。シュンとした様子だ。冷静になってくれたら俺がクラピカに言う事なんか少ないし。

それより本当によかった、くだらない事で力を使うのは勿体ない。

ユリアンもテルミに軽く説教されて、落ち込んでいると思ってたが。

今目が合ったら、お前らのせいで怒られた、と言いたげ視線を送ってくる、とんでもない奴だな、あれと仲良くするのが条件とかめちゃくちゃ難しいぞ。

 

「2人共落ち着きましたね、クラピカ君」

「はい」

「自分はユリアンと買い物に行ってきますので、アルベル君の事をお願いします」

「わかりました」

 

テルミは一度ユリアンの頭をポンポンと撫でるように叩くと、それで機嫌がよくなったのかユリアンは笑顔でテルミの後を付いて行った。

 

クラピカに椅子に座るように言う。

 

「やっと落ち着けるな」

「ごめん」

「いいって、俺の事で怒ってくれたんだろ? 気にすんな」

「はぁ、だめだね僕って、頭に血が登ったら冷静な判断ができなくなるし」

「なら、そこらへんも修行だ、精神修行、どちらにせよ念は精神状態に

 比例してそうだからな、頑張ろう」

「そうだね」

「おう、ところで飯食わせてくれ、腹減った」

「うん」

 

それから丸2日間要介護者並みに手厚い介護をクラピカに受けた。

ユリアンの嫌がらせも2日程続いた、あの野郎テルミに言いつけてやる。

 

 

体が全回復したその晩に、俺はクラピカを起こさないように気を付け、庭に出た。

昼間にテルミから、夜にクラピカ君には黙って庭に出て来て下さい、と言われたため。

無駄に広い庭に着くと、先にテルミが瞑想するかのように目を瞑り、そこに立っていた。

 

「来ましたけど、何かようですか?」

 

俺の言葉に反応し、ゆっくりと目を開く。

 

「ええ、ここではその用は済ませられないので、少し移動しましょう

 走って行きますが、大丈夫ですかね?」

「え、はい」

 

こんな時間に移動してまでする用事とは何だ、嫌な予感がする。

テルミの行動はまったく読めない、念を強制的に覚えさせて貰ったが、俺の提案したんじゃなく、テルミから言い出した事だった。

原作知識が書いている手帳には、これは外法で本来ならゆっくり目覚めさすのが正当な念の習得法。

テルミはそれを何の躊躇もなく行った、外法や何やら説明する事なく、だ。ありえるのかそんな事。

下手をすれば俺は死んでいた可能性もある。

テルミの後を付いてしばらく走っていると、ダイナミック公園と看板に書かれた公園に着いた。思い切った名前だなしかし。

 

公園には誰一人もいない、静けさが不気味だ。

無言で公園のだいたい中央まで歩いたところでテルミがやっと歩みを止めた。

 

「君は運命と言う物を信じますか?」

 

唐突な質問に俺は何も言う事が出来なかった。

 

「フフっ、自分はこう考えていますよ、運命とは抗えない物だと思っています。

 例えばですよ、本当に些細な原因、明日交通事故や通り魔に殺される事が分かって

 いるとしても逃れる事は出来ない。どうしても明後日は迎える事は出来ない。

 明日死ぬという事が決定しているから、それが運命です」

 

ハットのつばの部分でテルミの顔が隠れ口元のつり上がった笑みだけが不気味さを際立たせる。

 

「ああ別に不幸な事だけではないと思いますよ、財布を拾った、満員電車で座れたとか、

 そんなラッキーと思えるちっぽけな事でも、必ず起きるそれもまた運命だと思っています」

 

意味が分からない、淡々と語るテルミが一歩俺に近付いた。

俺をゆっくりと押し潰すような圧力が迫ってくる。

 

「でもそれって腹が立ちませんか? 誰か知らねーけど勝手に決めてんじゃねーよ糞野郎って言いたくなりません?」

 

また一歩俺に近付く、対して近い距離じゃない筈なのにテルミの姿が大きく見える。

 

「だけど死ぬと決まった事を覆す、運命にうち勝つ、それって素晴らしい事ではないでしょうか」

 

テルミの歩みが止まり、俺を見下すように顔を上げた。

何時も通りの能面のような笑顔、何ら変わりのない変化だが、嫌な汗が俺の背筋を伝う。

 

「失礼、自分1人喋っていましたね、お喋りはあまり得意ではなかったのですが、

 自分が思っている以上に機嫌がいいらしみたいです、お恥ずかしい出来れば先ほどの話しは忘れて下さい

 特に意味はないんです言ってみたかっただけですから」

 

一旦間をおいて、テルミがパチンと指を鳴らす。

 

「さぁ仕切り直しです、ではやりましょうか」

「な、何を」

 

不穏な空気に飲まれていた、俺が精一杯出した言葉がこれだった。

テルミは右手を背中に回しスーツの中に手を入れ何かを取り出した。

手に持った物は月の光に照らされ薄く光を反射させる、テルミが取り出したのは野球のボールサイズの”鉄球”だ。

 

「何を、ですか?」

 

持っていた”球”がテルミの手から落ちた、いや、落ちなかった。

地面に落ちるはずだったが、重力を無視したかのようにその”球”は空中に浮き、高速で回転する、さらに”球”がテルミの周りを回りだした。

 

「言わせないで下さい恥ずかしい、ーー殺すって事ですよ、アルベル君をね」

 

普段と変わらない、気味の悪い笑顔から口に出した言葉の意味を理解した頃には、テルミが俺の目前まで迫っていた。




やっと念習得、じっくり書いたら念習得まで後2~3話使いそうだったので色々省きました。

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