試練とは乗り越えなければならいけない物だ、それが己が成長するため、己が進むべき道に訪 れたならば越えなくてはいけない。
例え他人を者を傷つけようと揺るぎない心で試練を乗り越えないとならない。
そうして人は成長する、痛みと共に。
夕焼けの空が大地も真っ赤に染め上げられる。
風が辺りを吹き荒らし、静寂の中で気味が悪いくらいに風の音だけが世界を支配する。
そこに黒髪の男2人が対峙していた。
一人はあちらこちら破れたロングコートを羽織り、多少乱れてはいるが髪をオールバックにし、額には十字のタトゥーが刻まれている男。
もう一人は見て取れる程重傷、至る所から血を流し、夥しい血が男の足元に血溜まりができている。
「なぁ、どう思う?」
重傷の男がそれを感じさせない足取りで夕焼けを背景にオールバックの男に近付いて行く。
目が虚ろながらもしっかりと相手を捕らえた。
「なにがだ?」
「今の俺の事だよ、どう思う?」
夕焼けの光が眩しいのかそれは分からない、ただ目を細め傷だらけの男を見た。
「満身創痍、瀕死、死にかけ、重傷、そう思ってるのか?」
「違うと言うのか?」
「違う事はないな、勘違いするなよ、あんたは強い、そのお陰でこの様だ」
傷だらけの男空を見つめ両手を広げ、何かをアピールする。
痛みを感じないのだろうか、なぜか男は薄く笑みを作っていた。
「逆境、そう逆境だ、今俺はピンチと言う奴だ、凄く体全身が痛い、吐き気もする、内臓もやられているんだろう、後脳もかな?」
オールバックの男は傷だらけの男が語る言葉をただ聞いている。
「目的を持つ事は大事だ、そこに至るまでの過程、痛みは成長を促しその目的を達成するまでの道筋で精神はどんどん強くなる」
夕日は沈み暗闇が世界を包もうと空を闇に染めて行く。
雲が月を隠し月光を妨げ、男の表情を消す。
「わかるか?」
「さあな」
「分かって欲しいとは思っていない、人の意志を理解するのは難しい、特に俺みたいな”あいつ”やあんたのような一種の天才とは違う、才能を持たないクズの人間の事はね」
「もういいか? 此方も時間が迫っている」
オールバックの男はどこからとか一冊の本を取り出し片手で持った。
「ああ、そうだな、俺もそろそろだ」
雲が風で流され、月光が2人を照らしだした。
赤く瞳が輝く、まるで血のように。
「ここからが”リベンジタイム”だ」
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ずっと傍にいた、物心付いた頃からずっとずっと。
一緒に遊び一緒に育ち一緒に辛い思いも経験した。
掛け替えのない友であり、親友だった。
彼が茨の道を歩むなら私はそれに付いて行く覚悟もしていた。
彼と約束した「そばにいる、僕は君を1人にしない」と。
今でも覚えている幼い頃の約束を、彼は照れ臭そうに私にお礼を言った事を。
なのになのに私を彼を裏切った。
怖かったから、彼が傷付き壊れて行くのを見ているのが、辛かった、悲しかった。
それを止められない自分の不甲斐なさを、そして彼に拒否されると思ったから、何も言えなかった臆病者の自分が何より嫌いだった。
「ヒソカ、答えろ」
私は目の前に座りこむ男を睨み付けながら問う。
「さぁ、どこかな?」
クルクルとのセンスを疑いたくなるボロボロになった紫色のシルクハットを指先で回している。
「ふざけるな、知っているんだぞ! 彼がお前と手を組んだ事は!」
私がどんなに声を荒げてもこちらを見る事すらぜず、何も答えずに持ったシルクハットを眺めている。
その表情は私が知っているヒソカとは違う全く違う、どこか哀しげで寂しそうな表情だった。
だがそれを気にかけている余裕はな。
「もっと素晴らしい物だと思っていたんだ、いつもなら実った果実を摘んだ時に最後は寂しさもあったけど、それ以上に喜びもあった」
ヒソカは持っていた帽子をくしゃりと握り締めた。
「でも何でだろうね今は虚しいって言葉がピッタリ合う、戦ってる最中感動で心が震えていたんだ」
「ヒソカ」
「最悪の気分だ……」
私はヒソカに近づきしゃがみこんでいるヒソカを見下ろす。
「もういいや」
「なにがだ?」
ヒソカはポケットの中から一枚のメモ用紙を取り出し、私に放り投げた。
「君が知りたいのはそれだろ、そこに書いてる場所に行くといい」
私は急いで中身を確認する。
その中身を見た瞬間から私の心臓が加速する。
ドンドンと胸を叩く心臓の音、体が震え、冷たい汗が全身を冷やす。
「ダメだ……」
手からメモ用紙が零れ落ちた。
「彼が心配なら、急いだ方がいい、まだ彼じゃあ勝てない」
ヒソカが何か言っているが耳に入って来ない。
冷静を取り戻そうと息を深く吸い、深呼吸をしようとするが息のしかたすら忘れてしまったのか、ゼーゼーと呼吸が荒くなる。
「彼はそこにいる、手筈だと僕が団長と闘う予定だったんだけどね」
そこからヒソカが何を言っているのかは忘れてしまった。
ただ彼の元に駆け出した事ぐらいまでだ、間に合わせなければならない、もう嫌だから。
失うのが嫌だから、彼は私に取って…………だから。