その晩、朝潮は敬愛する大神と二人きりで、剣道場にて小刀術の稽古をしていた。
大神に見守られる中、大神に教わった型を一心に繰り返す朝潮。
朝潮にとっては至福のときといってもいい。
が、やがて大神の注意が入る。
「待ってくれ朝潮くん、そこの刃の返しが違うよ」
「え? あ、はい、こうでしょうか、隊長?」
指摘された箇所を直そうとするが、どうにもしっくり来ない。
何度か直そうとしていくうちに、全体のバランスもおかしくなっていく。
それを見抜いた大神は、
「そうじゃない。ちょっと失礼するよ、朝潮くん」
「ひゃんっ!?」
朝潮に近づき、後ろからその腕を取る。
剣の修練において今まで何度も行われた事だ、今更慌てるような事ではないはずだ。
けれども、今の朝潮にとっては過剰に反応してしまう。
「朝潮くん?」
「い、いえっ、失礼しました。続きを教えてください、隊長!」
「分かった、じゃあ、続きを教えてあげるよ」
そう言うといきなり大神は朝潮を抱きしめる。
大神のいきなりの行動に目を白黒させる朝潮。
「た、たた、隊長!? 何をされるのですか?」
「何って、昼間に朝潮くんがした勉強の続きさ。実践もしないとね」
大神がいつ自分のお勉強の内容を知ったのだろうか。
疑問に思う朝潮だったが朝潮が尋ねる前に、大神は朝潮の唇を奪った。
「!!??」
夕食時に何回も想像した大神とのキス。
まさか、こんなところで本当にすることになるなんて。
でも、
でも、うれしい。
永遠に続くのではないかと思われたキスの後、一旦二人の唇が離れる。
その唇の間に一筋の糸が流れた。
トロンとした目で呆然と大神を見やる朝潮。
「隊長……」
「大神さんとは呼んでくれないのかな?」
「え……は、はい、大神さ、きゃっ!?」
最後まで言い終わらないうちに、大神が再び朝潮の唇を奪う。
今度は唇だけにとどまらない。
頬、首筋へとさまざまな箇所にキスを続ける、映画で見たように。
「ふわぁっ!」
首筋を強く吸われ思わず声を上げる朝潮。
だが、大神のキスは止まらない。
朝潮のシャツのボタンを外し鎖骨、うなじ、胸元へとキスを行う。
「ひゃうっ! や、やぁっ! お、大神さんっ!」
その度に声を上げて身をよじらせる朝潮。
そして朝潮の純白の身体に何箇所もキスマークがつけられる。
朝潮が大神のものである事を示すかのように。
「え?」
気づけば、朝潮は下着、スポーツブラとショーツだけを身につけた状態になっていた。
ほぼ全裸に近い姿を大神に晒し、赤面し体を隠そうとする朝潮。
だけど――
「かわいいよ、朝潮くん」
ああ、その一言だけで朝潮の頭の中はまとまらなくなってしまう。
大神が可愛いと言ってくれた、それだけで大神から身体を隠すなんてとんでもないと言う心が沸いてくる。
それを見越してか、大神が胸に、否、おっぱいにキスしようと、スポーツブラを外そうとする。
「し、下着の中はダメーっ!」
でも、やはりそれはいけない事だ。
羞恥心とまじめな心が上回り、朝潮は叫んだ。
そして、朝潮は夢から覚めた。
「え――」
その夢はあまりにもリアルすぎて、朝潮は最初、現実を認識できなかった。
起き上がって周囲を見回し、自分がベッドで寝ていたのだと数分かけてようやく認識する。
そして、羞恥に震え赤面する。
「――っ!????? なんて、なんて夢をっ!?」
大神がそういうことをする人物ではない事はよく分かっている筈なのに。
夢の中とはいえ、大神にそういうことをさせてしまった。
敬愛する人物を貶めたような気がして、罪悪感に打ち震える朝潮。
明日大神に謝らないと、と決意を決める。
そうしないと、自分がどうしようもなくえっちな艦娘になってしまった気がする。
と、朝潮は自分のショーツが濡れている事に気づく。
「どうして? 寝る前におトイレには行ったはずなのに――」
けれども、濡れた下着を履いたまま寝れる訳がない。
下着を替えようとする朝潮。
「なんで、この下着ネチャネチャしているの?」
そのあたりのことを何も知らない、朝潮。
だが、聞こうにも同室の艦娘は全員眠っている、翌朝誰かに確認するしかない。
「よしっ、もう一度寝ます!」
下着を履き替え、スッキリしたところで朝潮は再度床につく。
だが、
『続きを教えてあげるよ――』
目を閉じたところで、夢の中の大神の台詞を思い出してしまった。
それだけで胸が、いや夢の中で大神にキスされた箇所すべてが疼いてしまう。
「どうしよう――」
目を閉じても、また先ほどの夢を見てしまうような気がして眠れない。
あんな、大神を貶めるような夢、見てはいけないと言うのに。
でも切ない。
キスがほしい。
夢の中でもいい、キスがほしい。
どうしようもなく、キスがほしい。
大神のキスがほしい。
おでこにも、頬にも、唇にも、いや、全身にキスの雨を降らせてほしい。
キスマークをつけてほしい。
朝潮が大神のものだと示してほしい。
夢の中では嫌だと言った、下着の内側でさえ――
「うわぁっ! 朝潮、なんて事を考えて!」
自分の考えのあまりのえっちさに思わず叫びだす朝潮。
しかし個室なら良かったかもしれないが、残念ながらここは共同部屋だ。
夜更けに騒ぎ出せばもちろん、
「うーん? こんな夜中にどうしたのよー、朝潮ー」
二段ベッドの下の段で寝ていた満潮が朝潮の叫びに目を覚ます。
「い、いえ なんでもありません!」
「そーう? 隊長の朝練は明日も早いんだから、はやく寝なさいよー」
「お、大神さん……」
しかし半ば寝ている状態の満潮は、こんな時間に朝潮が起きている事、その異常性に気づくことなく再び寝入る。
「そうよね。明日も早く起きて、大神さんの朝練にいかないと……」
そう思い直し、目を閉じて眠ろうとする朝潮。
しかし、しばらくして意識が揺らいでくると、
「朝潮くん――」
居ない筈の大神が、朝潮のベッドに浸入してくる。
「え? 大神さん、どうして、こんなところに?」
「朝潮くんが俺を呼んだような気がしたから」
「大神さん……」
確かに大神のキスがほしいとは思った。
だけど、こんなに早く応えてくれるなんて。
感極まった朝潮は上半身裸になると、
「隊長……ううん、大神さん……朝潮に、新しい秘密の暗号を……教えてください……」
大神を迎え入れる。
「分かったよ、朝潮くん」
そのまま大神は朝潮に覆いかぶさって朝潮の唇を奪い――
「?」
いや、キスの感触が違う。
昼間おでこに、頬に、うなじに感じた大神の唇の感触はこんな筈では――
疑問に思い目を開ける朝潮。
果たして、そこにあったのは朝潮の、自分の枕だった。
「夢?」
けれども、自分は上半身裸になっていた。
夢と同じ行動をしていたと言うのだろうか。
「……どうしよう」
眠る度、夢を見る度、どんどん夢の内容はエスカレートしていく。
いや、朝潮の行動もエスカレートしていっている。
「このままじゃ朝潮、どんどんえっちな悪い子になっちゃう……そうしたら、隊長に、大神さんに嫌われちゃう……そんなのいやぁ…………」
今度夢を見たら何を夢見てしまうのか分からない。
それにもし、今パジャマを脱いでしまったように、夢で見たような事を本当に大神にしてしまったら――
「そんなの絶対ダメぇ……」
もうこれからは一睡もできない。
いや、夢見るわけにはいかないのだ、大好きな大神に嫌われないため。
これ以上えっちな艦娘になるわけにはいかない。
布団の中で朝潮は、そう固く誓うのだった。
淫夢と書くと、今となってはもう完全に別のネタになってしまうのでw
それはそうとして、あー楽しい。
とっても楽しい、朝潮いじり。