艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第六話 第二次W島攻略作戦、アネモネの花を取り戻せ!
第六話 1 秘書艦加賀のなんてことない一日 1


艦娘が集結し、有明鎮守府が本格的に始動してから、大神たちの業務負荷を和らげる為に始まった制度がある。

その名を短期秘書艦。

筆頭秘書艦大淀の下に、療養中の舞鶴を除く各警備府・鎮守府から一人ずつ秘書艦を選定し業務を分担するものだ。

ずっと秘書艦をやっていると練度が落ちてしまう可能性があるため、その名の通り一週間で交代することになるが、それでも秘書艦の任命は大神の信頼の現れのようなものだ。

大半の艦娘はその任命を待っている。

 

本日はその秘書艦に任命された加賀の一日を追う。

 

 

 

午前五時、起床。

 

本来の秘書艦の任務は午前八時からなのだけど、多くの秘書艦は大神隊長の朝の稽古から行動を共にしている為、私も起床時間を合わせている。

同室で寝ている赤城さんを起こさないように身支度を整えて剣道場へ向かうのだが、秘書艦に任命された子の中には、大神隊長にアプローチをかける子も少なくない。

埋没するのは少し悔しいので、私も下着をお気に入りのものに換え、香水を僅かばかりではあるけれども用いる。

あくまで他の子たちに埋没するのを防ぐ為、他意はありません。

 

剣道場に入ると、大神隊長と天龍、龍田、叢雲などの接近戦用の艤装を持つ艦娘の他にも、それなりの艦娘が柔軟体操を行っていました。

私もそれに混ざって柔軟体操を行う。

最初の方こそ、剣の稽古を行う大神隊長の姿を見学していたのだが、誰か――確か朝潮が、

「接近戦も行えるようになりたいのです!」

と大神隊長に言ったことが発端となり、装備枠を圧迫しない程度の大きさの小刀、小太刀術の指導も行うようになった。

自分の稽古の時間が短くなると云うのに、嫌な顔一つせず応える辺り、やはり大神隊長はお人よし。

私としては大神隊長が凛々しく剣を振るう姿を見ているだけでもよかったのですが、手取り足取り小刀、小太刀術を教えてもらうのも悪くありません。

 

「加賀くん、おはよう」

「おはようございます」

 

一早く柔軟を終わらせていた大神隊長と朝の挨拶を行う。

もう、こうでなくては私の朝は始まらなくなった。

秘書艦の任務が終わっても、早起きすることは決まったかしら。

 

 

 

午前七時、朝食。

 

朝の剣の稽古を終えた私達はその足で、食堂に向かう。

当初は大神隊長の傍の席は早い者勝ちであったのですが、毎度のように金剛と鹿島、6駆に7駆に五航戦に明石に睦月が隣の席を奪い合い、力づくの椅子取りゲームになることも少なくなかったので、かすみさんの怒りが落ちて秘書艦が優先的に座れることになりました。

幸い、今日の秘書艦で朝から大神隊長に帯同しているのは私しかいない。

よって朝食での大神隊長の隣の席は私のもの、自然と笑みが浮かんでしまう。

さすがに気分が高揚します。

 

「何か良い事でもあったのかい、加賀くん?」

「ええ、そうね」

 

でも、ずっと秘書艦でいられる大淀がずるいだなんて思っていない。

ないったらない。

 

食堂に入ると、いつものように艦娘たちで賑わっていた。

のだが、大神隊長を視認すると声のトーンが一段階おとなしくなる。

最初こそ、女の子らしく可愛く小食にしようとした艦娘も居たが、そんなことでは訓練で持つわけがありません。

空腹による体調不良で保健室送りになって、明石の説教を喰らって、結局いつもどおりの食事を取るようになったのが現状です。

 

「お。隊長じゃねーか。加賀もこっち来いよ」

「あら、隊長、こちらの席は如何ですか?」

 

食堂に入った私達に声がかけられる。

相手は私と同じ今週の短期秘書艦である摩耶と千歳、既に席を確保していたらしく私達を呼ぶ。

警戒して彼女達を見たところ、二人は向かい合って座っており、大神隊長がどこに座ろうと大神さんの隣には座れる。

ならばまあ良いでしょう。

 

「ありがとう麻耶くん、千歳くん。それじゃお言葉に甘えようかな」

「私も座らせてもらうわ」

 

和洋二種類の朝定食から和食を選んだ大神隊長は摩耶の隣に座る。

やったと声が聞こえる、分かりやすいわね。

今日は洋な気分ではあったのだけれども、大神隊長から離れると隣の席を奪われかねない為、私も大神さんと同じ和定食を受け取ると、若干急いで大神隊長の隣に座る。

そうすると、千歳が僅かに舌打ちしながら席をずらして大神隊長の対面に座りなおす。

二時間も早起きしたのだから、ここは譲れません。

 

流石に大神隊長の隣と対面を取られた状況では席の争奪戦は起きないらしく、金剛は姉妹と、駆逐艦は集まって食事を取っています。

定食は基本的に間宮さんの監修の下作られているので、味に間違いはありません。

と、大淀が若干慌てた様子で食堂に入ってきました、多忙だし寝坊でもしたのかしら。

席を見渡して私達を確認するとがっくりと肩を落として、明石たちの方へ向かっていきました。

 

毎日チャンスがあるからって寝坊するだなんて、慢心ね。

 

あと五航戦、いえ瑞鶴が、私を悔しそうな目で見ているわ。

ねえ、今どんな気持ち、どんな気持ち、と口では言わないけど視線で勝ち誇ると「ぐぬぬ……」と言い出した。

どうやら伝わったようね、やりました。

 

 

 

午前八時、業務開始。

 

秘書艦の仕事は多い。

各鎮守府、警備府、基地から届く情報を整理し、MAPに予想される深海棲艦の存在範囲を映し出したり、巡回、遠征に向かっている艦隊への指示を定時で行っています。

もちろん緊急情報があれば、臨時通信も行うが、今のところそのような情報は上がって来てはいません。

巡回において交戦した深海棲艦もごく僅かなはぐれ深海棲艦といって良いでしょう。

有明鎮守府における近海の防衛体制は整ったのでしょうね、そのせいか私達の噂話の一つに反攻作戦がそのうちあるのではないかと云うものが上ってきました。

大神隊長もそれを否定しません。

最近、工廠への対潜装備の開発依頼が増えています。

明石本人は現在医師役として舞鶴の艦娘を見るので手一杯らしく、代わりに夕張が妖精に指示を送り開発を行っていますが。

つまり、攻略海域への主戦力投入の前に、潜水艦を一掃するつもりなのでしょう。

対潜は装備の充実が尤も重要ですから無理もない話、私にとってはその後の主戦力に入れるかが一番重要なのだけど。

 

と、巡回から第二艦隊が戻ってきたようね。

司令室にて報告を行う響。

 

「――以上が巡回の結果だよ」

「お疲れ様、疲れただろう。早いけど、今日はもう休んでも良いよ」

「一つお願いがあるんだけど、出来れば褒めて欲しいかな?」

「分かった、響くん。ありがとう、助かったよ。頑張ったね」

 

そう言って大神隊長は響たち6駆と由良、阿武隈の頭を撫でる。

6駆は幸せそうな顔をして撫でられている。

阿武隈も巡回・遠征の最初の方こそ、

 

「ふわぁ~っ! あんまり触らないでくださいよ、私の前髪崩れやすいんだから」

 

と言っていたけれども、そのうち真っ赤になって為すがままになってしまった。

むしろ、

 

「隊長さんにまた撫でられちゃった。もう、また前髪セットしないと」

 

と、スキップしながら鏡の前に向かい前髪をセットするようになっている。

これがナデポと言う奴だろうか、古い? 私たち艦娘にそんな話今更ね。

しかし、大神隊長は危険ね、いろんな意味で。

でも、私もされてみた――ううん、そんなのは一航戦としての誇りにも練度にも関わりなんてない。

 

「加賀くん?」

 

やっぱり私もされてみた――

 

「どうしたんだよ、加賀?」

 

同じ短期秘書艦の摩耶が口を挟む。

チッ、これが大神隊長なら、私の頭を撫でてくれたかもしれないのに。

 

「なんでもありません」

「そうか、それなら良いんだけど」

 

それで大神隊長はまた業務に戻り始める。

私達も席に戻ろうとするが、摩耶がボソッと呟いたのが聞こえた。

 

「……ったく、私も可愛がれってんだよ」

 

どうやら考えていた事は同じらしい。

この子も危険。




今回の加賀の独白で分かるように、好感度補正について具体的な数値は未だ把握されていません。
把握したら絶対黙ってないもん、熟れた、もとい飢えた狼が。

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