一夜が明けて、警備府の正門にそれぞれの荷物を持ち集まった大神たち。
今日は流石に朝稽古等をするものはいなかった。
かさばるものは定期便で既に有明に向けて送ったので、全員何処となく軽装だ。
「あんまり美味しいものを出せなくてごめんなさいね、向こうでは給糧艦の子も居るのでしょう? 美味しいものを食べて頑張ってね」
食堂の担当のおばさん達も艦娘の見送りに揃っていた。
「そんなことないわよ! あのときの、あのときのオムライス! すごく美味しかったわ!!」
「そうなのです、今度は巡回とかで来る事もあるのです。またおばさん達のお料理食べたいのです!」
「うれしいわ、今度は美味しいもの用意してるからね」
「「「はい!」」」
長い長い付き合いだった彼女達との別れを惜しむ艦娘たち。
「準備は整ったようじゃの」
「はい、司令官。これから自分と、艦娘は有明鎮守府に向けて出立いたします」
一方、正門まで見送りに来た司令官達に出立の挨拶を行う大神。
「よいよい、先ほど司令室で出立の挨拶は一度やったではないか。今は一私人として友人と、娘たちのように思っていた子達を見送りに来ただけじゃよ」
「「「司令官……」」」
「それでな、一つお願いがあるのじゃが。せめて、最後くらい名前で呼んでくれんかの?」
少し言い出し辛そうに言葉を放つ司令官。
大神が艦娘たちを見やると、全員が笑顔で頷いていた。
「「「はい、今までありがとうございました! 永井さん!!」」」
息を揃えて、全員で司令官の名を呼ぶ。
永井司令官は嬉しそうに何度も頷いていた。
駅まで徒歩で移動し、そこからローカル線で新幹線の駅まで移動しようとする大神たち。
駅に着くと、たい焼き屋やブティックの店主など、今まで艦娘が利用していた店舗の主が勢揃いしていた。
「どうしたんですか、皆さん。こんな時間に」
「決まってるじゃないか、艦娘の嬢ちゃんと大神隊長を見送りに来たんだぜ」
たい焼き屋の店主が代表して大神たちに声をかける。
「あんた達のおかげでこの辺の近海から深海棲艦もさっぱり居なくなった。ありがとよ!」
「いえ、自分は自分の為すべきことを為しただけです。それで皆さんの平和が取り戻せたなら、それが何よりの褒美ですよ」
「かー、聞いたか、みんな! 泣ける事言ってくれるじゃないか!!」
飾ることなく自らの思いを口にする大神に沸き立つ店主達。
「それにな、見てたぜ。あんたが、渥頼の野郎に引導を渡してたの。いや、スカっとしたね!!」
そして、たい焼き屋の店主が人数分のたい焼きを後ろから取り出した。
「あんまりかさばるのを持っても仕方ないだろうと思ってな。皆で移動中に食ってくれ、勿論タダだぜ!」
「ありがとうございます、親父さん。みんな、一人一つずつ受け取ってから駅の中に入ろう!」
艦娘がそれぞれたい焼きを受け取りながら、駅の中に入っていく。
そして、最後に残った大神にたい焼き屋の店主がたい焼きを手渡す。
「短い間だったけど、あんたなら艦娘の嬢ちゃんを任せられるよ、大神隊長」
「ありがとうございます。その信頼、絶対に裏切りません!」
そう言って、大神とたい焼き屋の店主は固く握手を交わす。
最後に駅の中に入ると、艦娘たちが始発列車の席に座っていた。
事前に注意していたのを守っていたらしく、一つの車両にまとまっている。
「美味しいのです、今までで、今までで一番美味しいたい焼きなのです……」
電が涙混じりにたい焼きを頬張っていた、6駆をはじめ常連だった者たちはみんなどこかしんみりしている。
「What's!? 何これ、すごく美味しいデース! この味がFirstでFinalだなんてあんまりダヨー!?」
「金剛お姉さま、私の分差し上げましょうか?」
「う~、やっぱりNonnon! こういうのはみんなで食べるから美味しいのデース!」
逆に今まで昏睡状態で一度も食べた事のなかった金剛は肩を落としてガッカリしている、そうとう気に入ったらしい。
比叡の差し出したたい焼きを食べるか一瞬迷っていた。
そうこうしてるうちに、発車合図が鳴り列車のドアが閉まる。
ゆっくりと列車が動き出すと、駅員の人がインターホンに手を伸ばす。
だが、発車連絡をするのかと思いきや、その後の行動は大神たちの予想を超えていた。
『これより、周辺から深海棲艦を一掃した艦娘たちが次の場所に向かいます、お近くの皆さんは是非お見送りをお願いします』
その放送は街中に届くようになっていたらしく、放送を皮切りに人々が線路の周辺に集まってくる。
窓の外の風景に目をやると、店主以外の人たちも駅の、線路の周辺に集まっていた。
学校側にも連絡が行っていたのか、子供たちも近くに居る。
電車から見ても一人ひとりの顔が見えるほどに。
「「「がんばれー!」」」
「「「負けないでー!」」」
街中のみんなの声援が聞こえる。
中には「暁ちゃん好きだー!」とか「響ちゃーん、復帰おめでとー!」、「神通さん負けるな!」など個々の艦娘に寄せられた声援も聞こえる。
列車が少しずつ速度を速めていく中、列車に並んで走りながら、声援を送るものも居る。
そして、『深海棲艦に負けないで』と小学生達の手で書かれた巨大な横断幕が目に入る。
「――っ!」
耐え切れなくなった艦娘の誰かがその場で涙を流す。
でも、誰も咎めようとはしない、誰もが涙を我慢していたからだった。
ほとんど街に関わる事のなかった金剛や比叡でさえも、つられて涙ぐんでいる。
そして決意を新たにする。
負けない。
絶対に負けない。
絶対に日本に、世界に、平和を取り戻すんだ。
それまでしばしの間、
さらば……警備府。
しんみりした形になったので、ここで一区切りします。
おかしい。もっとサラッと書くはずだったのだが。