艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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閑話 二 大逃走! シュラバヤ沖海戦3

自由への脱出-前編

 

 

 

「川内姉さんが逃げたですって!?」

 

扶桑姉妹からもたらされた連絡に驚愕する神通。

もともと、この魔女裁判が企画されたのは川内の行き過ぎた行為、特に大神に「結婚しよう」と言わせた事が発端といってもいい。

そんな主犯が裁判を逃走したとあっては、何のための裁判か分からなくなる。

そして、夜の川内は元々何をしでかすか全く読めない。

だから、何か起きないように神通は川内を裁判待機部屋にて縄で亀甲縛りにした上、ぐるぐる巻きにしたのだ。

 

まさか、あの状態から逃走してのけるとは……

 

「夜の川内姉さんをもっと警戒するべきでした、皆さん、すいません」

「あそこから逃走するだなんて、誰も想像できないわ。流石に私も驚いてます」

「でも、この状況で逃げ出したら、もっと罪大きくならないかしら?」

 

そう、そこが納得いかないのだ。

川内については来年の年始までの大神への接触禁止と、演習で全艦娘がかりでフルボッコにして、こちらの気がスカッとしたら終わりにするつもりだったと言うのに、これではもっと重罪を課さなければ成らないではないか。

 

「あれ? 鳳翔さんの胸元に書状が挟まってますね?」

 

と、大淀が気絶した鳳翔の胸元に差し込まれた書状を取り出し、目を通していく。

そして、ぶちっとこめかみに怒りマークが出現するのであった。

 

「どうしたのかしら、オオヨド?」

 

疑問に思ったビスマルクが大淀に近寄ると、大淀は無言で書状をビスマルクに渡す。

日本語の文章はまだ苦手なので、プリンツの手も借りて書状を読み上げていく。

 

「えーっと、なになに……

 

『夜はいいよね~、夜はさ~。

神通、夜になって全能力が3倍になった私をあの程度の緊縛で止められる訳ないじゃない!

甘い甘い~。

夜の私を止めるなら十倍はきつく縛らないとね?

 

と、話がずれちゃった。

 

とにかく曙ちゃんを泣かしたこの魔女裁判にはもう正義はありません!!

これから大神さんの元に駆け込んで、ぜーんぶ暴露してみんな仲良く怒ってもらうからね!

魔女裁判の様子はこっそり大淀に取り付けたマイクで全部録音済みなのです。

曙ちゃんのガチ泣きにはいくら大神さんでも怒ると思うよ~。

さあ、みんな覚悟しておいて。

みんなで仲良く大神さんへの接触禁止令をもらおうね♪

 

あと、私、今回の訪欧に関して大神さんから個人的にお礼を貰える事が決まっていたんだけど、貰うものを決めました!!

ズバリ、『大神さんのはじめて』を貰っちゃいます!

いや、大神さんに『私のはじめて』を奪ってもらいますと言ったほうがいいかな?

どっちにしても、本当の意味で『はじめてのやせん』をやっちゃうよ~。

下手したら判決で私の処女散らされそうだもん、お姉ちゃんプンプンだよ!

 

ま、これからは大神さんの事は『義兄さん』と呼んでもらうよ、神通♪

みんなもね。

人のモノに手を出したらダメなんだからね!!』

 

……って、なんだこれは!? 喧嘩売ってるのかー!!」

 

大激怒するビスマルク、そりゃそうだ。

前半はまだ分かる、曙を泣かしたことには流石に全員が罪悪感を感じていたのだから。

だが後半はなんだ、完全な宣戦布告ではないか。

 

「私が泣いてたときの事を録音してたって、じょ、冗談じゃないわよー!!」

 

顔を真っ赤にして同じく大激怒する曙。

曙にいたっては、まあ、致し方がない。

大神が居ないからと、裁判中に、

 

『大神さんに、好きな男の人以外にそんな事されるなんて絶対にイヤだもん!! だから思い出す事も嫌だったの! 全部大好きな大神さんに上書きしてもらいたくて……だから』

 

と、誰がどう聞いても100%告白にしか聞こえない独白をしてしまっているのだ。

あれを、大神の耳に入れられたらと思うだけで曙は羞恥で死ねる。

 

「止めないと、どうにかして川内さんを止めないと!!」

「ああ、そうだ! なんとしても、川内を止めなければいけない!!」

 

曙に続いて、長門も立ち上がった。

『大神のはじめて』はなんとしても守り抜かないといけないのだ、艦娘の名にかけて。

 

「有明鎮守府はたった今を以って戦闘体勢に移行する!! 大淀、ビッグサイトキャノンは――」

「ちょっと待ってください! そんなもの使ったら、もっと大神さんに怒られてしまいます!! 全艦娘の戦闘体制移行は問題ありませんが、その他は速やか且つ他者に気付かれないように行う必要があります!!」

 

そりゃそうだ、無断でそんな戦略兵器使ったら懲罰房ものどころの話ではない。

 

「しかし、最も夜戦に秀でた川内が敵に回った以上どうすれば? 既に我々は出遅れているぞ!」

「加山さんにお願いいたしましょう。あの方ならきっと、川内さんにも引けは取りません」

「いや、一回罠に嵌めてるし、断られるんじゃないか?」

 

長波が再び常識に基づいてツッコミを入れる。

君らが加山を罠に嵌めたのが、そもそもすべての発端だしね。

 

「……お願いするとき、そのときの謝罪もかねて、艦娘の皆さんで加山さん達を歓待すると言いましょう。皆さんパーティ用のドレスはボーナスで買いましたよね?」

「え、でも、あれはクリスマスに大神さんに見てもらうために購入した物で――」

「加山さんの歓待はクリスマス後の日程にしましょう。一番最初に大神さんに見てもらえるのであればまだ! とにかく今は加山さんに連絡を!」

 

そう言って大淀はブリーフィングルームの電話を取って、加山の番号へと繋げる。

しばらくして、電話が繋がった。

 

「加山さん! お願いがあるのですが!!」

「ああ、状況は大体分かってる。だけどすまないが、大神は米田さんたちに酔いつぶされかけた状態で、ホテルに帰る前に風に当たってくると寄り道したっきり戻ってこないんだ。或いは……」

 

既に川内と落ち合っているかもしれない。

そう言外に含ませられた言葉に、ブリーフィングルームの艦娘から悲鳴が上がる。

 

「今の大神はしこたま酔っている上、米田さんたちにも手を出しちまえよと唆されている。誘惑されたら君達艦娘に手を出すかもしれない。だけど、こんな酒の上での情事だなんてスキャンダルもいいところなんだ。今から月組の情報も供与するから、大神たちを止めてくれないか!」

「利害は一致しましたね、大神さんはどこのホテルに居ますか?」

「俺達が泊まる予定だったのが、帝國ホテルだからそれ以外のホテルに居る筈だ、だから……」

「いえ、違います。川内さんと大神さんが向かったのはきっと横浜港の大桟橋です!!」

 

気絶から目が覚めた鳳翔が、大淀と加山の会話に割って入る。

 

「何で、そういえるんですか? 鳳翔さん?」

「北海と地中海で繰り出した川内さんと大神さんの合体技『初夜 は じ め て の や せ ん ?』は帝國ホテルと大桟橋が舞台でした。合体技は艦娘の心情・願望が強く出ます、つまり川内さんはどちらかの場所で事に及びたいと考えて居るはずです!!」

「なるほど、それなら帝國ホテルの可能性がない以上、大桟橋しかないな! そこなら有明から海上で移動したほうが早い。夜間だから海の交通はそんなにない筈だが、君達の往来申請はこちら月組で出しておく!」

「了解した、これより全艦娘は横浜港大桟橋へと全速力で出撃する。全艦演習用の弾薬と、探照灯を装備、完了したものから順次出るぞ!!」

「「「了解!!」」」

 

長門の声に立ち上がり装備庫に向かう艦娘たち。

と、鳳翔の裾からチケット状のものが何枚か落ちた。

大神の決済印も押されている、正式なものだろうが何だろうか。

 

「なんでしょう、これは?」

「あ、それは!?」

 

拾い上げた加賀をとめようと、鳳翔が手を伸ばす。

だが、時既に遅く加賀はチケットの内容に目を通した。

 

「大神さんと二人きりの『混浴券』? しかもこれは私の分に五航戦の分!? これはどういう事なのですか、鳳翔さん?」

「いえ……訪欧の際にいい思いをしてしまったので、大神さんから訪欧のお礼を個人的にもらえると言われた時に、皆さんにも幸せのお裾分けをしようと思いまして。皆さん全員分までは無理だったのですが、軽巡洋艦と駆逐艦、空母の分は一回だけ許可してもらえたんです」

「では、この券一枚で大神さんと……」

「はい、ここの大浴場で二人きりで混浴できますよ」

「鳳翔さん……」

 

川内は自分の欲望にまっしぐらなのに、鳳翔はここまで和を考えていたとは。

なんたる差か。

 

「大淀さん!!」

「はい、鳳翔さんは先程の情報提供と併せて無罪放免! 今は川内さんを撃破――もとい、捕縛することを最優先とします!!」




ドタバタしてまいりました。
そしてちゃっかり無罪を勝ち取る鳳翔さん。

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