艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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閑話 二 大逃走! シュラバヤ沖海戦2

逆転しない裁判ー後編

 

 

 

「さて、ここからは気を引き締めなおさないと――次は榛名さんの番ですね」

 

大淀の声に頷いた扶桑姉妹が、判決待ち組の待機部屋より榛名を連れてこようとする。

が――

 

「はい、榛名は大丈夫です!」

 

いつの間にか榛名はブリーフィングルームの壇上に立っていた。

 

「「「ぜんぜん大丈夫じゃない!!」」」

 

全艦娘からツッコミが入る。

そう、やった事の意図的な悪質さと言う意味では、この娘と川内がNo.1を争うのだから。

アレで歓迎会で改めて自己紹介するつもりだった欧州艦娘(アークロイヤルなど)や元機艦娘(酒匂、萩風など)はその機会を奪われてしまったし、歓迎会自体がかなりしっちゃかめっちゃかになってしまったのも事実。

歓迎会終了後、一通り間宮と伊良湖に怒られてはいたのだが、この様子ではあまり真摯に反省しているようには正直見えない。

話がエスカレートするものなら、ある程度庇うつもりだった金剛も『これはダメデスネー』と発言した、もはや庇うものは居ない。

 

「榛名さん、あんたは自分が為された事を自覚しているのですか?」

「ハイ、歓迎会を台無しに、間宮さんたちの準備を無駄にしてしまいかけて、大変申し訳ありませんでした……」

 

でも大淀が問い質すと榛名はシュンと縮こまった。

 

その様子を見て、なんだかんだで結構反省しているのかなと思う艦娘たち。

あの騒動で榛名自身が良い思いをしている訳ではないし、酒の勢いもあって媚薬を盛る事に、艦娘たち自身消極的とは言え反対はしていない。

積極的に反対して大神を元に戻そうとしたのはあの場では明石と大淀くらいだ。

そう考えると、あまり厳しい罰は与えにくいかなと思えてくるのだが……

 

「ですので、今度大神さんに媚薬を盛るときは、皆さんのお邪魔にならないタイミングを狙いたいと思います! 次の短期秘書艦に選ばれたときとか!!」

「「「アホかー!!」」」

 

どう考えても根本的なところで反省していない榛名の発言に、再び全艦娘からツッコミが入る。

あ、やっぱりダメだこいつ、そんな雰囲気が場に満ちる。

 

「大淀! 厳しい罰が必要と思うわ!!」

 

ただでさえ激務な大神に媚薬を盛るだなんて、冗談ではない。

医師役として、明石が挙手して提案する。

 

「「「異議なし!」」」

 

勿論艦娘たちにとっても異議はない。

二度と榛名が媚薬を盛らないように考えを改めるくらいの厳罰が必要だ。

 

「そうね、先ず勿論大神さんに媚薬を盛るのは今後永久に禁止。再発したら、金剛さん達には悪いけど、正式に上奏して榛名さんは解体処分、有明鎮守府から追放とします。良いですね?」

 

凄まじい厳罰ではあるが、再発したらと言う但し書きが着くので、現時点での罰ではない。

 

「え……いえ、分かりました。二度と『大神さん』に薬を盛るような事は致しません」

 

流石に解体、有明鎮守府からの追放と聞いて、流石に榛名も佇まい、立ち振る舞いを直す。

二度と行わないと確約してみせる、それでも怪しげなニュアンスがするのは気のせいだろうか。

 

「あと大神さんとの接触を無期限で、禁止としましょうか」

「そんな!? もう榛名は大神さんに薬を盛るような事はしないと誓ったのに! それでも大神さんのお傍に居たらいけないのですか、大淀さん!!」

「やった事がやった事ですからね。まあ、無期限は流石に可愛そうなので期限を決めましょう。金剛さん、姉としてはどの程度であれば良いと思います?」

 

大淀が金剛に尋ねる。

 

「うーん、そうデスネー。『死ぬほど』頑張ればクリスマスには間に合わせてあげたいデース」

「お姉さま!!」

 

恩赦とも言うべき期間の設定に、榛名が感謝の涙を流す。

でも榛名の脳内ではクリスマスを大神と二人っきりで過ごす情景が流れていた、なかなか図太い。

 

「でも、『死ぬほど』頑張らないと、クリスマスに間に合わないヨー。うふふ」

「えーと……お姉さま?」

 

薄笑いを浮かべる金剛に、疑問の表情を浮かべる榛名。

 

「榛名ー、時々比叡に料理を教えてましたヨネ~。進捗はどうデスカー?」

「え? ええ、なかなか思うようには上達して頂けなくて……って、まさか、金剛お姉さま!?」

「Yes! 榛名の隊長との接触禁止期間はズバリ! 『比叡の料理がまともになるまで』デース! これなら、榛名の比叡への料理教室も気合が入るでしょうし、一石二鳥デース!!」

「そ、そんなーっ!? それでは無期限も同然じゃないですかーっ!!」

 

雷に打たれたように、榛名はその場に崩れ落ちる。

でもなかなかに酷い事を言っている榛名、比叡はちょっとお冠だ。

 

しかし、しばらくして決意も新たに榛名は立ち上がる。

その瞳には炎が燃え盛っていた。

 

「金剛お姉さま! でも、逆に言えばすぐに比叡お姉さまの料理が上達したら、すぐに大神さんとの接触が許可されるのですよね!!」

「ん? まあ、それが出来たらだけど、ソーダヨー」

 

金剛はそんな事できるわけがないと、タカをくくっている。

でも言質は取った。

 

「分かりました、この榛名、心を鬼畜魔道に身を落とすつもりで比叡お姉さまへの指導に当たりたいと思います! 香取さん、鞭をしばしお借りしても宜しいでしょうか!?」

「え? ええ、私はしばらくは遠洋航海練習の下調べがメインと成るので構いませんが……」

「ありがとうございます! 比叡お姉さま、料理教室は早速始めます! 今までのように優しくは行きません! 味が落ちるような行動をする度に鞭で身体に叩き込んでいきます!!」

 

香取から鞭を受け取った榛名は全力で鞭を振るう。

風を切る音がブリーフィングルームに鳴り響く。

 

「ひっ!? お、お姉さま!? 榛名が怖いですよ!?」

「大丈夫デース。榛名がそんなに鬼になれる訳ないデース」

 

だが、金剛は一つ思い違いをしていた。

恋する乙女は男のためなら、いくらでも鬼になれるのだと言う事を。

 

「さあ、早速料理教室を始めましょう!!」

「ひっ、ひえー!!」

 

比叡が榛名に引きずられドナドナされていく。

この様子だと恐らく一週間もかからずに、比叡のお料理はポイズンクッキングから脱却しそうだ。

正に金剛にとっては一石二鳥。

だが――

 

「これ、一番の被害者比叡さんじゃね?」

 

長波が呟いたが、誰もあえてツッコミを入れはしなかった。

 

 

 

さて、これで本来の予定外である増えた艦娘の魔女裁判は終結した。

これからが予定通りの魔女裁判と成るのだが――

 

「榛名とか曙のした事に比べれば、鳳翔さんそこまで酷くないよね?」

 

そう鳳翔に限って言えば、大神と同室で過ごしたうらやましさはあるけど、川内の結婚詐欺を止めた功労者だし、お風呂に関しても大神が覗こうとしたのがそもそもの原因。

 

「鳳翔さんの落ち度は罪咎を背負うほどあるのでしょうか?」

 

不知火の言葉に何割かの艦娘が首を捻る。

これは結論が出るまでに長くなりそうである。

 

「大淀さん、大変です!!」

 

と、次の裁判対象、鳳翔を連れて来ようとした扶桑姉妹が気を失った鳳翔を抱えて慌ててブリーフィングルームに入ってくる。

一体何が起きたと言うのだろうか。

 

疑問に思う一同だったが、扶桑たちの次の一言に全艦娘が戦闘体勢に入ったのであった。

 

「川内さんが逃げました!!」




素直に全員の裁判フェイズ→処刑フェイズ(演習)からの逃走劇と思いました?
その予想を裏切るスタイル。

ここからこそが逃走劇の本番です。

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