時間をもてあました大神たちが剣道場で剣を教えている内にそれなりの時間がたったらしい。
明石による艦娘たちの検査も、歓迎会の規模拡大の準備も終わったようだ。
『大神隊長、それと間宮さんのお手伝いをしていない欧州艦娘さんも食堂にお集まり下さい。準備が整いましたので欧州艦娘さんと今回救出できた艦娘の歓迎会を行いたいと思います』
と、館内放送で大神たちに食堂に集合するように大淀の案内が流れる。
「時間か。今日はここまでにしよう。いつもは朝に剣術の練習をしているから、気が向いたら剣道場に来てくれれば良いよ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「リベは毎日行くよー。ケンジューツ面白かったもん♪」
「ゆーも、いく。日本っておもしろいね」
剣道場から食堂に移動しながら、そんな会話をビスマルクたちと交わす大神。
やがて、食堂の前に辿り着くが、いつもは開かれている食堂の扉が今は閉められている。
「あれ? まだ準備中なのかな?」
「でも、さっきの放送では歓迎会の準備はもう終わったといっていたわよ」
「そうだね、とりあえず扉を開けてみる事にするよ」
そう言って、食堂の扉を開く大神。
しかし、次の瞬間――
「「「大神さんお帰りなさい! お疲れ様でした!!」」」
という歓迎の声と共にクラッカーが大神へと打ち鳴らされたのだった。
垂れ幕も『有明鎮守府にようこそ!』ではなく、『有明鎮守府にお帰りなさい!』となっている。
どう考えても大神の帰還を祝うものになっている。
「え? え? なんで、俺?」
欧州の艦娘の歓迎会と言う名目だった筈なのに、何故自分が歓迎されているのだろうか。
訳が分からず困惑する大神。
そんな呆けた顔をしている大神に間宮と伊良湖が話しかける。
「欧州艦娘の皆さんとお料理の準備をして、飾り付けの準備を指示している間に相談したんです。一部とは言え欧州の皆さんとはもう仲良くなってしまいましたし、大神さんに助けられた機艦娘は昔からよく知っている人も居ました」
「だから、今回一番歓迎するべき事が何かといったら、欧州まで旅立って、欧州を深海棲艦から開放して、その戦傷が直った直後にパラオを救援して、更に機艦娘にされた艦娘も元に戻し、火車と木喰を成敗までした、八面六臂の活躍をした大神さんの帰還だって、みんなで決めたんです!!」
説明を聞いて、ようやく合点が行く大神。
「なるほど……みんなありがとう! ただいま!!」
「隊長ーっ! 隊長と会えなくて寂しかったネー!」
「金剛さん。乾杯もまだなんですから、後にして下さいね。私だって抱きしめたいし……」
いきなり金剛が大神に抱きつこうとするが幹事を努める大淀に制止される。
欲望が駄々漏れではあるが、それでいいのだろうか。
その隙にグラスに生ビールを注いだ榛名が大神へとそろりと近づく。
「大神さん。いきなりですいませんが、乾杯の音頭を取っていただいても宜しいですか? 榛名、一応ビールを用意いたしましたが、別のお飲み物に致しましょうか?」
「ありがとう、榛名くん。ビールで大丈夫だよ。じゃあ、みんなの準備が揃ったら乾杯の音頭を取らせてもらうよ。みんな、飲み物は行き渡ってるかい?」
「「「ぐぬぬ……」」」
同様に大神に飲み物を渡そうとして、榛名に先を越された鹿島、瑞鶴、鈴谷などがぐぬっていた。
「「「はーい」」」
それ以外の有明に揃ったすべての艦娘が大神に答える。
「みんなの助けもあってユーラシア大陸近海は開放された。まだ海は広いけれど、俺達なら出来る筈だ! 海を! 世界をみんなの手で取り戻そう!! 乾杯!!」
「「「かんぱーいっ!!」」」
全員がグラスを高々と差し上げる。
流石に全員が大神の元にグラスを合わせに行ったら、それだけで時間が潰れてしまうからだ。
勿論、飲み終わったグラスを床に投げつけて、砕くなんてはしたない事をする艦娘も居ない。
「んっんっんっ……、ふぅ~。トゥーロンはどちらかと言うとワインメインだったからね、久しぶりに飲むビールは美味しいな」
「ぱぱー、ほっぽも、のみたい」
大神も戦いが終わったので、流石に今日くらいは大丈夫だろうとビールを一気に飲み干す。
その様子が美味しそうに見えたらしい、オレンジジュースを手に持っていたほっぽが大神の袖を引っ張ってねだる。
「ん? いや、これは苦い飲み物だからね。ほっぽには合わないと思うよ」
「ううう……にがいの?」
「そうだね、試しにちょっとだけ舐めてみるかい?」
そう言って大神はグラスの中に少し残っていたビールを手のひらに移す。
「んー……んんっ!? にがっ! にがっ! ぱぱこれにがい!!」
ビールを舐めたほっぽは途端に顔をしかめて、手に持ってたオレンジジュースで口直しをする。
グラスをテーブルにおいて、明らかに機嫌を悪くした風情のほっぽの頭を撫でてなだめる大神。
「♪~」
大神の手のひらが心地よいのか、すぐに機嫌を取り戻すほっぽ。
「いいなあ……」
そう呟いたのは、どの駆逐艦だっただろうか、その艦の心の中には雪が吹いているかもしれない。
「ほっぽ、食べ物や飲み物で迷ったら間宮くんに聞けばいいよ。すまない、間宮くん!」
「あら、どうしました、大神さん?」
大神に呼ばれて、欧州の料理の出来る艦娘たちと談笑していた間宮が大神の元に近づく。
「ああ、この子なんだけどね。見ての通り身体も、精神的にも幼いから、味覚も幼いと思うんだ。出来れば、食べ物を少し選んであげてくれないかな?」
「なるほど、わかりました。ほっぽちゃん、どんな食べ物が好きかな? 甘いのとか好き?」
「あまいのだいすき!」
勢い込んで間宮にそう答えるほっぽ。
「うふふ。じゃあ、とびっきり美味しいケーキを食べましょうね。自慢のケーキだから」
「まみやままのてづくりなの?」
「ママっ!? ……ええ、ママの手作りよ。向こうのテーブルにあるから行きましょう」
「はーい、まみやままー」
ママと呼ばれてびっくりする間宮だった。
常ならば間宮にとってママは年増に見られているように思えていい気はしないのだが、大神をパパと呼ぶほっぽにママと呼ばれるのなら話は別だ。
大神がパパで、間宮がママ、そしてほっぽが娘。
完璧ではないか、そう思いながら間宮はほっぽを連れて行く。
「ぐぬぬ……」
そんな間宮を見て、今度は伊良湖がぐぬっていた。
大神の訪欧までは大神のママである事を自認していたが、やはり根本は恋する乙女ということか。
大神はと言うと、ほっぽが舌をつけた手のひらのビールの残りを拭き取ろうとする。
だが、
「睦月もビールの味見したいのにゃしい!」
と言って、睦月が大神の手のひらをぺろりと舐めた。
そして、ほっぽ同様に
「ううう、苦いよ~」
と即座にジュースで口直しをしていた。
「睦月くん、君はお酒は苦手なんだから無理に飲まなくても……」
「大有りなのです! 睦月たち駆逐艦は大神さんに愛でられる役目だったのに、このままじゃほっぽちゃんに取られちゃうのにゃしぃ! 睦月寂しいよぉ……」
睦月なりの嫉妬と言ったところだろうか。
しかし、いずれは海防艦が加わり、ロリ=駆逐艦のイメージは失墜する事を彼女はまだ知らない。
「……そうだね、君達に目を向ける頻度は少し下がっていたかもしれない。ゴメン、睦月くん」
そう言って、大神は睦月を正面から抱きしめた。
「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃにをするんですか、大神さん!?」
全艦娘の刺すような視線を浴びながら、パニくる睦月。
「これから更に有明鎮守府の陣容が増えたとしても、君達から絶対に目を離しはしない、その約束代わりに――」
大神は睦月の唇を奪った。
全艦娘の視線は刺すようなレベルを超えて、もはや殺すようなレベルだ。
二人の唇がゆっくりと離れていく。
「これで信じてくれるかな、睦月くん?」
「はい……もう大神さんの事、疑わないのにゃしぃ…………」
トロンとした目つきで大神を見上げ頷く睦月。
「いいなあ……」
そう呟いたのは、どの艦だっただろうか、その艦の心の中には更に雪が吹いているかもしれない。
新艦娘の挨拶と、欧州艦の改めての挨拶とかやったら更に文字数いくのでもっかい分割します。
せっかくの機会だから、全部は無理でもいろんな艦娘出したいし。
なかなか閑話に至らなくてすいませんm(__)m