艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十五話 3 わりきれないもの

火車の仕掛けた海軍連続爆発事件から2時間後、火車が深海棲艦研究所に逃げ込んだとの情報を聞いた米田たちは深海棲艦研究所を制圧すべく、完全武装した戦車小隊を含む陸戦隊を動員した。

相手は二人を除いて研究者であり、戦闘を知らない者たちだ。

二人が魔装機兵を使用していた形跡がない事からも、彼ら自体は現代兵器で武装した大隊の敵ではないと予想される。

危険なのは火車の仕掛けた爆弾、放火装置と、木喰の研究の一つ、機械的に強化された深海棲艦と艦娘が完成しているか否かである。

 

出来れば大神や艦娘たちにはこのような軍内の醜い争いに関わらせたくなかった。

平和を愛する心、正義を貫く心、悪を許さぬ心を持って深海棲艦との戦いに望んで欲しかった。

 

だが、機械化されたとは言え、もし深海棲艦が相手となれば艦娘の存在は必要不可欠だ。

故に米田たちは、永井から艦娘の指揮権を返却された大神に一部艦娘の動員を依頼する事にした。

 

「海軍でそのような事が……」

 

火車によるブラック提督たちの連続爆発事件の一部始終を聞いて、絶句する大神。

深海による艦娘爆弾から艦娘たちを救う事はできたが、人間には救えぬ者たちも居たのかと嘆く。

『前の世界』で自分を侮辱したダニエルであろうと、その身を以って庇うほどだ、無理もない。

 

「火車の仕掛けた爆発による犠牲者には、自分の同期生たちも……」

『ああ、居た。かつてお前が鹿島を救い、守るために動いた際に相手取った者たちの中には爆死した物も少なくない』

「そんな……鹿島くんのために学内では相対してはいましたが、そのような死に方をするほどまでには彼らは――」

 

邪悪ではなかった、そう言おうとする大神を米田は手で制止する。

 

『大神よ、言うべきではないかもしれないが、この件についてはあまり悩むな。いずれにせよ、自分の欲望を優先させてクーデター参画を決めた時点で、ブラック提督たちの叛乱罪による処罰は免れなかったんだ。おそらくは大半が死罪となったはず、もしくは獄死していたであろう』

「それでも……いえ、分かりました」

 

続けようとした大神だったが、言葉を飲み込んで頷く。

このような争いから艦娘を切り離すためにも華撃団が作られたのだ。

ならば、その隊長たる自分がいつまでも引きずってはならないと気持ちを切り替える。

 

「艦娘の動員依頼については分かりました。自分も急ぎ帝都へ帰還し艦娘たちの指揮を執ります」

『そこまでは必要ない。光武・海Fで空路を用いて移動したとしても、お前が到着する頃には研究所の制圧は終わっているだろう。艦娘の動員も念のためだ、出来るだけ人同士の争いには関わらせない様にする』

「いえ、艦娘たちがそのような任に当たると言うのに、自分だけパラオで休息を取っている訳にはいきません。空を飛びながら指揮などは流石にできませんので、研究所制圧時の指揮は再度永井さんにお願いする事になりますが、これより可及的速やかに帝都に帰還します」

『分かった、お前の帰還についてはその判断に任せよう。ただ、無理はするなよ』

『艦娘の指揮については了解じゃ、陸軍より届く研究所の資料を基に艦娘を選出しよう』

「永井さんお願いします。では、自分は支度を整え次第、帝都へ帰還します」

 

そう言って大神は通信を打ち切ると、司令室から整備中の光武・海Fの元へ向かおうとする。

 

「大神さん?」

 

だが、司令室の外にはパラオにおける一時的な秘書艦である鈴谷が居た。

 

「大神さん、ブラック提督たちは……死んじゃったの?」

 

パラオの司令室の密閉性はそこまで高くない。

室外とは言え、大神の通信を聞いて大体の状況を把握した鈴谷が大神に確認する。

 

「ああ。主だったブラック提督は全員、爆死したらしい……」

 

ここまでの大事、そう隠しておけるものではない。

いずれ知られるのならばと大神は頷く。

 

「そっか、みんな死んじゃったんだ」

 

鈴谷は有明鎮守府に集結した当初は、明石による専門的な治療が必要なほどにブラック提督に精神的に追い詰められていた舞鶴鎮守府出身の艦娘だ。

ブラック提督に対しては一際思うところがあるのかもしれない、と大神は思ったが目の前の鈴谷の様子はそれほど変わらなかった。

 

「……? 鈴谷の様子、大神さんから見て何か変かな? もっと反応すると思った?」

 

その疑問が表情に出てしまったらしい。

鈴谷が可愛らしく小首をかしげている。

 

「そだね。舞鶴のブラック提督に艦娘はいっぱい死なされてたよ。だから、鈴谷はブラック提督の事もっと憎めると思ってた。爆死したと聞いてもっとザマアミロと思えると思ってたんだ」

 

言いながら、鈴谷は廊下を大神の方へゆっくりと歩き出す。

 

「……でもね」

 

下から大神を見上げる鈴谷。

 

「今もそうやって、ブラック提督の爆死を割り切れていない大神さんの方が心配だよ。そっちの方が心配で仕方がないんだよ?」

「いや、こんな争いから君達艦娘を切り離すためにも華撃団が作られたんだからね。だから、その隊長たる俺はもう気持ちを切り替えて――」

 

続けようとする大神の頬に両手を当てる鈴谷。

その潤んだ瞳には、大神の、今も尚苦虫を潰したような表情が写っていた。

 

「切り替えられてないよ、大神さん。だって、ずっと割り切れないって顔してる。そんな気持ちのまま戦ったら、きっと制圧するべき敵でも庇って大怪我しちゃうよ、そうなったらまた明石さんが悲しむよ? 鈴谷も悲しくなる!」

「いや、しかし……俺は」

「『すべての人々と艦娘の幸せを、平和を守るために戦う』だよね? でも、鈴谷はしなくてもいい戦いで大神さんが大怪我したりしたら、もう幸せな日々なんて送れないよ! 大神さんじゃなきゃ! 大神さんが傍に居てくれなきゃダメなの!!」

 

感極まった鈴谷の目から涙が一つ、二つと零れ落ちる。

 

「鈴谷の、鈴谷たちの幸せを守るって言うのならお願い! そう言う無茶はしないで、お願い……だから…………」

 

後はもう声にならなかった。

大神に縋り付いて、大神を離すまいと鈴谷は泣き始める。

 

しばしの間、廊下に鈴谷の泣き声が響く。

 

「……分かったよ、鈴谷くん。約束するよ、敵のために無茶はしないと」

 

泣く子をあやす様に鈴谷の背中をさすりながら、大神は鈴谷に語りかける。

 

「本当?」

「ああ、君達が幸せな日々を送るために俺が必要だって言うなら、必ず帰る。約束するよ」

「本当の本当に?」

「ああ」

「……うん、分かった」

 

それでようやく鈴谷は大神の傍を離れる。

泣きすぎで鈴谷の目元が僅かに赤くなっている。

 

「大神さん、引き止めてごめんね。有明のみんなが待ってるはずだから、行って」

「ああ、分かったよ。鈴谷くん」

 

そう言って、大神は光武・海Fの元へ向かう。

パラオから帝都まで直接飛ぶのだろう。

 

あと鈴谷に出来る事は、大神たち、いや大神の無事を祈ることのみだ。

手を組んで祈りを捧げる鈴谷。

 

「まるで恋人の無事を祈る乙女ですわね、鈴谷」

 

そんな鈴谷の後ろから熊野が声をかける。

 

「うわぁっ!? 熊野居たのっ!?」

「居ましたわよ。あんまりにも鈴谷が乙女過ぎて、声をかけられませんでしたわ」

「……もしかして、聞いてたの?」

 

冷や汗を流しながら鈴谷が問うと、熊野がえへんと一回咳払いをして、

 

『大神さんが大怪我したりしたら、もう幸せな日々なんて送れないよ!』

 

と、鈴谷の声真似をする。

 

「あ、ああ……あああああ…………」

「外であんな大声を出していましたら、聞こえない訳がありませんわ」

 

たちまち赤面する鈴谷。

 

「まあ、鈴谷の言ってた事はみんなの総意でもありましたから、止めはしませんでしたが。でも宜しいんですの?」

「な、何が?」

「もちろん、あんなふうに隊長に告白した事です。私達は明石さんの恋路を見守るのではなかったのですか?」

「こっ、告白~っ!? いや、そこまで言ったつもりは……」

「鈴谷、あなた本気ですの? 自分の発言と行動を思い返して御覧なさい」

 

言われて、自分の発言と行動を思い返す鈴谷。

それはどこからどう見ても、告白し恋人の無事を願う乙女そのものだった。

今度は蒼白に成る鈴谷。

 

「ど、どうしよう、熊野~」

「私は知りませんわ。まあ、鈴谷が本気だと言うなら止めはしませんが」

 

その後大井にもその告白を知られ、海に沈められそうになる鈴谷だった。




米田たちとの連絡後ちょちょっと秘書艦の鈴谷と話して飛ぶはずが、気がついたら鈴谷が乙女になって告白してました
何故だw

あと、現在連載中の十五話終了後、一旦閑話を書く事に決めましたが、その内容について活動報告で現在アンケートを行っております。
宜しければ、皆様にも回答いただけると幸いです。

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