「大神隊長!? え、いったい何が……」
眼前に居る筈のない大神の姿を見て、神通は慌てて振り返り後ろに大神がいることを再確認する。
何が起きたのか理解できず、戦場であることを忘れ呆然とする神通。
「神通くん、今はこの戦いに集中を!」
「あ、は……はい!」
大神の声に、神通は前方に意識を集中させ砲撃を行う。
大神の言うとおりだ、今はこの敵艦載機をどうにかしないといけない。
「敵艦載機に動きが!」
そうしている間に敵艦載機はいくつかの編隊に別れ、その内二つが大神たちの上方に位置どろうとする。
急降下爆撃を行うためか。
しかし、z方向に大きく距離は開いていても、xy平面上の距離であれば大きく縮まっている。
この距離は大神の間合いだ。
「近づきすぎたのが、お前たちの誤りだ!」
大神は二刀を振り翳し、霊力を雷と化さしめる。
「狼虎滅却! 国士無双!!」
雷が更なる雷撃を呼び、大神の周囲は艦娘を除いて雷の嵐が荒れ狂う。
上方に位置どった敵機体は、悉くが荒れ狂った雷の嵐に飲まれ爆発四散した。
「残りは!」
「大神隊長の今の攻撃で敵機の3割程度を撃破した模様……敵第二波、来ます!」
残りの敵艦載機が左右から近づいてくる。
大神は再度艦娘をかばうために霊力を貯めた。
「隊長! 後方から、敵第3波が!!」
「まだそんなに残っていたのか!」
後方の白雪が悲鳴交じりの声を上げる。
振り返ると、大神の後方からも機影が近づいてくるのが見える。
完全に囲まれた形だ。
「うそ……」
初雪が絶望の声を上げる。
神通の表情にも影が差し始めた。
「総員、対空砲火! 大丈夫だ、俺が君たちを沈ませたりなんて絶対にさせない!」
「大神隊長……」
大神は艦娘の様子を見て、自らの霊力の限界を超えたとしても艦娘をかばうことを決意する。
誰一人として、失われるなんて許さない。
そんなのはあやめさんだけで十分だ。
「違う……あれは、敵機影じゃないよ! 味方だよ!」
川内の声に機影を改めて確認すると、どこか異形めいた深海棲艦の艦載機とは異なる機影。
よくある航空機のもの、艦娘の運用する航空隊のものだ。
「第4艦隊がもどってきたということか?」
味方航空隊の接近を察知した敵艦載機群は、航空戦が行われる前に大神たちに肉薄せんとした。
だが、味方航空隊の到着の方が早い。
艦戦が多めの構成なのだろう、航空隊は敵艦載機群を踏み荒らす。
そうして制空権がこちらのものとなり敵艦載機が撤退していく中、第4艦隊が姿を現した。
旗艦翔鶴、瑞鶴、祥鳳、睦月、弥生、望月の6艦で構成される、警備府唯一の航空戦力である。
遠征で少なくない戦闘を戦ってきたのか、衣服の裾は解れ、髪もどこか煤けていた。
「間に合ったみたいですね、神通さんこの方は?」
旗艦である翔鶴が、吹雪に抱きついた大神の姿を訝しみながら声をかける。
もっともな話である。
「あ…はい、大神さん。私たちの……隊長です」
「隊長ー? こんな、駆逐艦に抱きつかないと海の上を行けないような男の人間が? 神通、冗談はやめてよ」
横からツインテールにした袴姿の艦娘、瑞鶴が口を挟む。
どこかタカをくくった様子だ。
「本当です! 大神さん、戦艦だって一刀で沈められるんですから!」
「またまたー。吹雪、夢でも見てたんじゃない?」
「夢じゃない……隊長、さっきも雷の嵐を……撃った」
命の恩人である大神を軽んじられて、吹雪は瑞鶴に詰め寄った。
だが、瑞鶴はまともに取り合おうとしない。
俄かに吹雪たち駆逐艦の視線が熱いものに変わっていく。
「みんな、俺のことは後でいい。今は敵主力艦隊を撃破することに集中しよう」
「そうですね……敵に航空戦力がいるのですが、第4艦隊は大丈夫ですか?」
「参加したいのは山々なのですが、私たちも遠征で損害を受けていて……」
翔鶴の言葉は確かだ。
確かに、よく見ると衣服だけでなく、艤装も損傷している。
敵戦艦との砲撃戦に赴くにはいささか心もとないだろう。
「そういうことなら、俺にできることがある」
大神の発言だったが、第4艦隊は不審げな視線を大神に送っていた。
艦娘の損傷は入渠か明石の泊地修理でないと直せない、これは常識中の常識だ。
何を言ってるのだこの男は、と言いたげな視線を送っている。
「またー、四方山話は程々にしてよね? エセ隊長さん」
「ちょっと、瑞鶴。いくらなんでも言い過ぎよ」
「そんな事言わないでさ、瑞鶴ー。隊長のやる事ちょっと待ってみてよ」
だが、川内たちは先ほど大神が神通をかばいきった事、雷の嵐を放ったところを目の前で見ている。
大神が何かできるというのであれば、本当にできる事なのだと今なら信じられる。
「大神隊長……あまり時間もありません。何かできるというのならお願いします」
「ああ、わかった。狼虎滅却!」
「え?」
先ほど雷の嵐を放ったときと同じ、装甲板を、敵を切ったときと同じ掛け声に、神通たちの笑顔が強張る。
エセ隊長呼ばわりがそんなに頭に来たのだろうか。
吹雪は大神を制止するべきか一瞬迷うが、大神を信じ支える。
「金甌無欠!!」
大神から優しい光が放たれ、周囲の味方を癒していく。
艤装の損傷は勿論、力まで回復していく。
これは泊地修理のレベルではない、入渠したときと同じ、完全回復だ。
「うそっ?」
衣服の解れ、煤けた髪まで回復して、おまけとばかりにピカピカになった肌。
高速修復材よりも早く、入渠した時と同じ効果を海上で受けて、瑞鶴はびっくりする。
「何とかできたかな? ええと……」
「瑞鶴よ……ごめんなさい、四方山話とか、エセ隊長とか言って」
ここまで見事に回復されてしまうと、減らず口も出る言葉がない。
「分かってくれたのならそれでいいよ、瑞鶴くん。翔鶴くん、問題は有りそうかな?」
「え、あ、はい。全く問題ありません。みんなも大丈夫よね?」
「ええ、俄かには信じられませんが」
「びっくりしました、ええ、大丈夫です」
「いいです……」
「はーい、お風呂はいるのもめんどいときいいかも」
翔鶴の言葉に答えていく、第4艦隊の面々。
約一人、問題発言をしているものもいたが。
「よし、なら敵主力艦隊を撃破する!」
「「「了解!」」」
「「「りょ、了解……」」」
第3艦隊に遅れ、第4艦隊が続き答える。
大神たちは敵艦載機が去り、味方航空戦力が追って行った方へ進んでいく。
なお、航空隊の索敵結果から敵艦隊の位置を把握した大神たちは、作戦通りに交戦。
敵戦艦を一刀の下に、返す刃で敵空母を沈黙せしめた大神に、第4艦隊、と言うか瑞鶴は自分の軽口を後悔するのであった。
「ねえ、神通? ホントに私大丈夫? 隊長さんにズンバラリンされないかな?」
「瑞鶴、口には気をつけなさいって言ったでしょう?」
「ひーん、こんな事になるだなんて思わなかったんだよー」
いささか顔が青くなった瑞鶴だったが、神通たちは答えない。
大神をエセ隊長呼ばわりした事に流石にムッとしたようだ。
口は災いの元。
「みんな、大丈夫かい?」
敵艦隊を全滅させ、突入した大神たちがこちらに近づいてくる。
大神の姿が大きくなる毎に、瑞鶴は絞首台の13階段を登っている心地になる。
「ええ、問題ありません。大神さんが空母も一隻沈めてくれたおかげで」
「よし。なら、前回と同じくアレをやりたいんだけどいいかな?」
「あ、アレ?」
アレって何だ。瑞鶴は何かされるのではないかと気が気でない。
「大賛成ー、アレやると気分がいいんだよね~」
「気分がいい?」
ヘンな想像をしてしまう。
もしかして、淫らな事なのだろうか。
「よし、第4艦隊もいいかな?」
「あのー、アレって何ですか?」
「第4艦隊、翔鶴くんたちには教えてなかったね、アレってのは――」
翔鶴ねぇに大神が近づいてくる、翔鶴ねぇにも何かするつもりではないだろうか。
「待って!! 隊長さん、さっき言った事なら謝るから、何度でも謝るから! 翔鶴ねぇにヘンな事しないで!」
「さっき? だから、分かってくれたのならそれでいいって……」
「でも、アレをやりたいって、隊長さん言った」
「ああ、じゃあ翔鶴くんと一緒に教えるよ。アレっていうのは――」
「……」
「……――っ!?」
「せぇの――」
「「「勝利のポーズ、決めっ!」」」
大神の声に続き全員が勝利のポーズを取る。
が、瑞鶴はどこかヤケクソな感じであった、自分の勘違いが恥ずかしかったらしい。
本戦はもう完全に消化戦なので省略割愛。
かばうも大概チートですが、ゲーム的に艦これ世界で一番チートなのは回復技だと思うのです。
入渠ドッグ要らず。
次回警備府の艦船も揃ったことですし花見回。