もうちょっとだけ続く。
そんなこんなで昼食を挟んでトゥーロン基地での訓練、特訓を終えた大神たち一同。
大神は積み重なった精神的ダメージで完全にグロッキー状態だ。
お酒に酔ったせいも勿論あるが、足元もおぼつかない。
しょうがないなと、川内がいつぞやの時のように肩を貸して邸宅へと帰還する。
ビスマルク、ウォースパイト、プリンツも手伝おうとしたが、全員大なり小なり合体技の後遺症を残している為、鳳翔の判断で却下。
邸宅に入り、広間に到着するや否や、ソファーへと倒れこむ大神。
流石に意識はハッキリしているのか、川内を巻き込むような事はしない。
「つかれた……流石に疲れたよ」
だが、ソファーにはゆっくり帰っていた大神たちを置いて先に帰った先約が居たようだ。
飛び込んできた大神の姿に驚きを隠せない。
「キャッ! 提督? な、何をするの?」
そう言って視線を上げると、驚いているザラの姿があった。
「え? ザ、ザラくん!? すまない、今すぐソファーから離れるよ」
そう言ってソファーから離れようとする大神だったが、午後からの特訓で大神が心身共に疲労しているのは自明の理。
そんな、大神を放り出すのは悪いかな、とザラは大神を寝かしつける。
「構いませんよ。提督、お疲れなんでしょう? ザラの膝枕で宜しかったら休んで下さい」
と、大神の頭を抱えなおすと、自分の太ももが大神にとって丁度いいまくらになるように位置を調整する。
「はい、ザラは夕食の準備もあるから、あまり長い間は出来ませんが少しでも休んでもらえれば」
「あれ? 今日の食事当番はプリンツくんじゃなかったっけ?」
食事当番は朝と夜は同一人物が担当する事になっている、だから夜もプリンツが担当の筈だ。
「そうなんですけど、今日はお酒がのめるからポーラが私の料理を食べたいって……だから、プリンツさんと交代したんです」
「本当に今日は何かとすまない、ザラくん。お酒に始まり、食事まで。ポーラくんにはお酒の約束をしたけど、ザラくんにも埋め合わせはしなくちゃいけないな、何でも言ってくれて構わないよ」
「いえ、構いませんよ、ていと――あ、それなら、一つお願いしても良いですか?」
ザラは少し考え込んだ様子を見せた後、大神を覗き込む。
少し真剣な表情、何をお願いするつもりなのだろうか。
「ああ、なんだい?」
「あの……提督の耳掃除、させてもらっても良いですか?」
「耳掃除? してもらえると言うのならむしろ歓迎だけど、そんな事で良いのかい?」
「ええ、一度してみたかったんです、男の人の耳掃除を。せっかく、こうやって提督を膝枕しているので耳掃除もさせてください!」
そう言いながら、ザラはポシェットから綿棒を一本取り出した。
どうやらやる気は満々のようだ。
「分かった。じゃあ、ザラくん、お願いするよ」
そう言いながら、大神はザラに背を向け、右側の耳を上に向ける。
「では提督。失礼致します、痛かったら言って下さいね」
そう言いながらザラは先ず耳の穴の周辺、耳の裏側や耳たぶの窪みなどに綿棒を沿わせていく。
綿棒の力も絶妙な加減、正直かなり心地良い。
思わず声が出そうになるが、大神はそれを堪えて平静を装う。
「提督、耳も綺麗にされているんですね。この辺りって、結構耳垢が付くこと多いのに」
「ああ、女性がメインの鎮守府だからね、一応身だしなみには気をつけているつもりだよ」
ザラの問いにそう大神が答えると、クスクスとザラが笑い出す。
「でも耳の中は、耳垢さんが残っているみたいですね、やっぱり自分でする限界かな? 提督、失礼致しますね」
そう言って、ザラは綿棒を大神の耳の中へゆっくりと入れていく。
耳垢を奥に押し込まないように、小さめの綿棒で耳垢を掻きだすように丁寧に動かしていく。
耳の周りをふき取られるのもかなり心地よかったが、耳の中は更に段違いに心地よい。
ザラの太ももの良い感触も合わせ、大神を急激に眠気が襲う。
「ふわ……」
「どうしました提督? 痛かったですか?」
「いや、逆だよ。ザラくんの太ももの感触と耳掃除が心地よくて、ね」
「そうです? ザラの耳掃除、気持ちいいですか?」
ザラは何故か嬉しそうだ。
綿棒にそれなりの耳垢が付着するようになって、頃合かなと大神の耳を覗いてみる。
やはり耳垢はもう殆ど残っていない、今度は反対側の耳掃除をする番だ。
「提督、今度は左耳を見せて下さい」
「ああ、分かったよ」
ザラの太ももの上でコロンと反対側を向く大神。
と、ザラのお腹が目の前に写る。
僅かに視線を上に上げるとザラの胸が非常に強調された角度で見える。
これは視覚的にはよくない、と大神は目を閉じた。
そして、耳掃除が再び始まる。
ザラの力加減は絶妙で、目を閉じた大神を急激に眠気が襲う。
「これなら、これから耳掃除はザラくんに頼みたいくらいだよ」
「本当? じゃあ、提督の耳掃除はこれからザラのお仕事ですね!」
そんな風に話していると眠気を少し抑えられていたが、やはり耳掃除の心地よさが限界を超える。
「ん……」
再び綿棒にそれなりの耳垢が付着するようになって、頃合かなとザラは大神の耳を覗いてみる。
耳垢はもう殆ど残っていない。
これで耳掃除は終わりだ。
僅かばかりの寂しさに襲われながら、大神に終わった事を告げないと――と、思ったところでザラは大神が寝息を立てている事に気付く。
耳を預けていていると言うのに、ザラのお腹に顔を埋め、大神は無防備に寝ている。
「うふふっ、提督可愛い」
その様子を微笑みながら見ているザラ。
正直な話こんな無防備な大神の様子は、かわいらしくて、もっと見ていたい。
けれども、このままだとポーラがお腹を空かせてしまうかもしれない。
少しばかり考え込んだ後でザラは大神を起こす事にした。
大神の肩を軽く叩くと、大神がはっと気が付いたように目を覚まし、身を起こす。
「いたっ!?」
「あたっ!?」
と、慌てて起きた成果、ザラと大神は頭をぶつけ合ってしまう。
「ごめん、ザラくん、俺、寝てしまっていたよね?」
「ほんの短い間でしたから着にしないでください。じゃあ、ザラは夕食の準備をしますから」
互いに唇の辺りを押さえながら、身を離す二人。
「ザラくんありがとう、俺は夕飯までもう一休みしてくるよ」
そして、ザラは台所に、大神は自室に戻るのだった。
(――にしても、ザラ君のどこに唇をぶつけてしまったんだろう?)
(――それにしても、提督のどこに唇をぶつけてしまったのかしら?)
自分たちが互いの唇をぶつけて――キスしてしまった事には気付きもせず。
「う~ふ~ふ~、ザラ姉様に夕食をせがみに来たら、面白いものを見つけてしまいました~」
ザラが弱みを握らせてはいけない一人の妹を除いて。
次回でトゥーロン編終わり。