艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

172 / 227
第十三話 7 トゥーロンでの一日3

午前八時半。

 

艦娘たちのトゥーロンでの訓練が始まる。

とは言っても、強襲部隊の彼女たちの行動指針は根本的に海戦の基本から大きく外れる。

具体的に言うのならば、マルタ島での敵戦力撃滅は以下のプロセスで行われる予定なのだ。

 

1、リボルバーカノンでのマルタ島へ展開。直後の合体技で敵の大半を浄化殲滅。

2、マルタ島に展開しての残存兵力の地上への誘引、確認、撃破。

3、残存兵力に対して追撃の合体技による敵戦力の殲滅。

4、それでも残った敵主管に対しての、夜戦でのとどめ。

 

実も蓋もないとはこのことである、ここまで暴力的な作戦が他にあるだろうか。

 

いや、はっきり言おう。

 

ない。

 

一時的とは言え北海を、W島周辺を、MI島周辺を浄化しきった、深海棲艦を根こそぎ殲滅させた

合体技を考案段階で二発撃つことを前提にした作戦。

それは欧州の人間が地中海を奪還する事を如何に望んでいるかの裏返しでもあるのだが、ここまで容赦のない殲滅作戦は大神も見たことがない。

だから、トゥーロンでの訓練も必然的に3つのポイントに絞られてのものとなる。

 

1、夜戦力の向上。

2、制空権の確保。

3、大神との絆をより深め、合体技を撃てるようになること。

 

それ故に川内による夜戦講座は凄まじく身の入ったものとなる。

駆逐艦やプリンツは何とか必死に付いてきているが、雷装の低いザラ級重巡には難しい話といえば難しい話。

苛烈な川内の扱きに音を上げている。

 

「ポーラ~、もうダメです~。雷装の低いポーラに夜戦なんて難しいんです~」

「ザラも、粘り強さが信条といっても辛いかも。昼戦での砲撃メインじゃいけないの?」

 

水面に這いつくばって息を大きく吐くザラ級の二人、砲戦には多少自信がある二人だが夜戦となると、川内・プリンツは勿論、下手をすれば駆逐艦にも劣るかもしれないから尚更だ。

 

「良い訳ないでしょ! 昼戦の砲撃なら、第一艦隊の戦艦で十分! 私たちの成すべきことは、敵主管を夜戦で肉薄して撃破すること! いい! 私たちが夜戦で十分な力を発揮できなかったら、大神さんに更に負担をかけてしまうの! そんなの絶対許さないんだからね!!」

 

愛する大神のことを思ってか、川内の指導はいまや神通並みに、いや下手をしたら神通以上に厳しいものとなっている。

かける言葉の一つ一つに容赦がない。

 

「ザラ、そしてポーラ! あなたたちには足りないもの、それは! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてぇっ! なによりも――――水雷魂が足りない!!」

「「ガガーン!」」

 

ザラとポーラが川内の言葉に揃って打ちひしがれる。

それでも川内は止まらない。

 

「まだ砲戦メインじゃダメなんて甘い事言ってるなんて、私の教えが足りなかったようね! 良いわ、ここから先、ザラとポーラの二人には神通直伝のウルトラスペシャルベリーハード訓練を受けてもらうわよ!!」

「ひぃぃぃ、川内がザラ姉様並みに怖い!? ザラ姉様~、二人で川内を説得……」

 

これ以上の訓練なんて冗談じゃないと、姉ザラと二人で川内を説得する事を模索するポーラ。

だが、

 

「そこまで言われたら私だって黙っていられないわ! 私だって重巡! プリンツにも、軽巡のあなたにも負けないわ! ポーラも行くわよ! ザラ級重巡の底力、見せてあげる!!」

「言うじゃない、ザラ! あなたの本気、見せてもらうわ!!」

 

川内の言葉に火が付いたのか、ザラまで本気になっている。

 

「ひぃぃぃ、ザラ姉様まで本気に!? あの~、一休み、と言うか、一杯入れたいんですけど~」

「「そんな余裕はない!!」」

「いやあぁぁぁぁぁぁっ!? おーたーすーけー!!」

 

やる気全開の川内とザラに引きずられ、ポーラが再び演習場へと連れ出される。

その姿はまるで、地球人に捕まった異星人かのようだ。

 

「駆逐艦とプリンツは今までの練習内容を続けて! もっと夜戦の精度良くなってもらうからね! 時間のある限り夜戦の訓練は続けてもらうよ!!」

 

ポーラを犠牲にしてこれで一息つける、そう思っていたプリンツ達にも更なる訓練が命じられる。

彼らが一休みできるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 

 

一方、空母の方はと言うと、比較的穏やかな訓練が為されていた。

 

「以上が、烈風隊の基本的な運用法です」

「なるほど……制空に関してはフォッケウルフと同程度か……」

「いやーん、Re.2001じゃ相手にならなそう。せめてRe.2005が欲しかったわ」

 

航空機の運用法、予想される敵戦力に対して積むべき艦載機の配分、熟練艦載機の効用などを自分が運用する、流星改、烈風2部隊、彩雲を実例に説明する鳳翔。

念のために有明鎮守府から熟練烈風隊を3部隊、流星改を2部隊持ち込んでおり、場合によってはグラーフ、アクィラには積み直させる予定であった。

実際、グラーフの装備は、FW190T改、Ju87C改の他には高射砲しか積んでおらず、アクィラに至ってはRe.2001 OR改のみであった。

グラーフの艦載機は日本の機体と同等以上の能力を持つため熟練度をこのトゥーロンで上げ、残りスロットに烈風と流星改を入れれば問題ないが、アクィラははっきり言って全部日本の艦載機に取り替えたほうが手っ取り早いくらいである。

これは、先ず日本の艦載機に慣れさせる事からスタートしなければならない。

残り時間を考えたらかなり余裕はない。

穏やかに二人に説明する鳳翔であったが、その内心は結構焦っていた。

 

 

 

そして、最大の難関が3、大神との合体技を撃てるようになる事である。

現在、合体技を撃てるのは日本から帯同した川内と鳳翔の二人であるが、鳳翔との合体技が対空殲滅技であるため、基地の強襲・壊滅には向いていない。

また、今までの経験上、艦娘が合体技を放てるのは一出撃に付き一度のみである。

 

故に川内以外にも、欧州艦に最低一人は合体技を放てる艦娘が作戦上必要なのだ。

 

しかし合体技を撃つには高い信頼と、艦娘の好感度、そしてそれに起因する霊力の共鳴が必要。

 

「うーん。しかし、こればかりは、やってやれると言えるものではないんだよな……」

 

訓練内容の3を目にして大神がため息を吐いていた。

今までの合体技からしてそうだった。

戦場で昂ぶった意識、通じ合う想い、それらによって自然と出来るかどうか分かる物だったのだ。

訓練でやれといわれてやれるものなら、そんなに苦労しない。

 

どうしたものかと頭を悩ませる大神。

 

「どうしたの。イチロー?」

 

そんな大神を後ろから覗き込むビスマルク。

大神が手にしていた訓練予定の内容の3項目目を目にして、驚きを表情に表す。

 

「合体技……川内とやっていた、アレを私達もやらないといけないの!?」

「ああ、そうなんだけど……アレばかりは訓練で出来るものじゃないから、どうしたものかと思ってね」

「でも、出来そうかどうかくらいは、イチローでも分からないの?」

「なんとなくは分かるよ。けど、作戦においてなんとなくで済ませるわけにはいかないからね」

「……確かにそうね、ちなみに誰となら出来そうなの?」

 

艦娘の自分への信頼度合い、好意の示し方からある程度目星は付けられる。

 

「筆頭はビスマルクくんかな」

「え、私!? そう、私なんだ……」

 

名前が挙がれば良いなと思ってはいたが、まさか筆頭とは。

思わずニコニコしてしまうビスマルク。

 

「次はプリンツくん、君達となら最大威力の合体技が出来る、と、思う」

 

しかし、次に名前のあがったもの、いわば恋敵の名を聞いて複雑な表情のビスマルク。

妹分と一人の男を取り合わばならないのか、それは辛いものがある。

と、朝にプリンツが囁きかけた事が思い出される。

 

『大丈夫です、ビスマルク姉さま。私と姉さまでアドミラルさんを共有しちゃえば良いんです~』

 

大切な妹と大好きなイチローを共有する。

3人で一緒、それは甘美な誘惑にも思える。

プリンツと二人でイチローを誘惑して……二人がかりで弄んで弄ばれて……

 

「うぇへへへ……」

「ビスマルクくん、どうしたんだい?」

 

思わず涎がたれそうになるビスマルク、大神の声を聞いてあわてて正気に立ち返る。

 

「いえ、なんでもないわ。候補は私達だけ?」

「最大威力でなくても良いのなら、ウォースパイトくん、グラーフくんかな」

「そ、そう……」

 

ウォースパイトは危険とは思っていたけど、グラーフもだなんて。

 

「いずれにしても、確信じゃないからね。もう一押しが欲しいところなんだけど」

 

でも、このままでは作戦に支障をきたすかもしれない。

川内や鳳翔のように私達も確実に合体技を撃てるようにならなければならない。

そう考えたビスマルクに天啓が閃く。

その天啓のまま、大神の両手を取るビスマルク。

 

「ビスマルクくん?」

「イチロー、候補の艦娘と一人ずつデートしましょう!!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。