「大神さん、どうでしょう? 似合いますか?」
そう言ってプールサイドに現れた間宮を、大神は唖然として見やる。
それはいつもの割烹着を模した制服ではなく、黒いビキニに身を包んでおり、肌のほとんどが露になっていた。
「ま、間宮くん……」
制服を身につけてなお一目で判別の付く起伏に富んだ間宮の身体の魅力が、そよそよと揺れるフリルの付いた黒い水着によって全開となる。
におい立つような間宮の魅力に、白い肌の誘惑に、大神の目は釘付けになる。
「大神さん……あまり見ないでください、恥ずかしいです……」
そう言いながらも、大神の視線を独り占めする事に満更でもない様子の間宮。
もし華撃団や艦娘たちを花に例えるのなら、間宮は溢れんばかりの果汁を湛えた果実だろうか。
その果実にむしゃぶりつく事に、果汁を飲み干す誘惑に思わず大神はゴクリと唾を飲み込ませる。
「隊長~、いくらなんでも間宮を見過ぎデース!」
「……」
その大神のただならぬ様子に危機感を覚えた金剛が大神を呼ぶが、大神は呆然としたまま間宮を見ており視線を離さない。
「大神くん!」
「大神さん!」
更に鹿島と榛名も大神に呼びかける。
しかし大神からのへんじがない、ただのしかばねのようだ。
傍に透き通りそうな白いビキニの榛名、紅の背中の大きく開いた水着を着た鹿島、そして太陽のような明るいオレンジ色のセパレートの水着を着た金剛が居ると言うのに。
大神のことを呼んでいると言うのに。
一顧だにしないのは失礼というものだろう。
「……」
やはり大神は年上っぽい雰囲気を持つ女性に弱いのだろうか。
ときおり鎮守府にやってくる加山と大神のバーにおける話を、盗み聞きしていた青葉が流した噂の一つには、以前人妻に懸想していたという不穏なものもあった。
あの時は大神がそんなことする訳ないと一刀両断に切って捨てた艦娘たちだったが――
「大神さん、いっちゃいやだ……」
銀髪と白い肌が映える、水玉模様の可愛らしい水着を着た響が大神の手を引っ張る。
気が付けば駆逐艦たちも大神の近くに寄ってきていた。
「響くん?」
それでようやく、大神は我に返る。
自分がずっと間宮に見蕩れていた事に気付いたようだ。
だが、時既に遅し。
「冗談じゃないわよっ! せっかく水着を買ったんだから、私たちも見なさいよ、このクズ! そんなえっちな視線で間宮さんを見ているんなら!!」
無視されっ放しの艦娘たちの中でもスタイルに自信のない駆逐艦たち、その中でも特に血の上りやすい霞の罵倒が大神に襲い掛かる。
珍しいことに霞もフリルの付いた可愛らしい水着を着ている。
「いいっ!? いや、そう言うつもりで間宮くんを見ていたわけじゃ――」
「じゃあ、どういうつもりで間宮さんを見ていたの!? あんなエッチな、色気むんむんな間宮さんを見つめて! コミケの薄い本のような、え、えっちなことでも考えていたんじゃないの!?」
「そんなことは――!」
「私、そんなにえっちでしょうか……」
弁明しようとする大神、一方間宮は霞の指摘に流石にショックを受けた様子だ。
と言うか霞、君は薄い本を見たということか。
「撃たれたあの時、あんたを命懸けで救った明石さんがこの場に居ないからって、間宮さんに手を出すなんてどういうつもりよ!? あんたが先ず第一に褒めるべきは……」
「霞ちゃん? 何をそんなに怒っているの?」
大神に怒鳴り続ける霞。
頭に血が上っている為、後ろからかけられる声に振り向きもしない。
「そんなの決まってるじゃない! 明石さんがプールに来れないんだから、このクズの見張りをしないといけないのよ! 恩返しの為にも!!」
「ん~、大丈夫ですよ。私、ちゃんとここに居ますから」
それで霞は後ろを振り向く。
「ここに居るって、あなた誰よ?――って、あ、明石さん…………」
そこには明石の姿があった。
水着の上に白衣を着た、ある意味マニアックな姿で。
しかも何故かニヤニヤしている、
「ダメですよ、霞ちゃん。私をかりそめの理由にしちゃ」
「かりそめの理由なんかじゃなくて、本当にそう思ったから、私は――」
「本当にそうですか? じゃあ、最初の発言を思い出しましょうね」
「え?」
にじり寄る明石に霞が一歩下がる。
「リピート、アフター、ミー。『せっかく水着を買ったんだから、私たちも見なさいよ、このクズ!』」
「――っ!?」
自分の発言を改めて聞いて、霞の顔が瞬時に真っ赤に染まる。
「朝潮型のみんなも一緒に。さあ、リピート、アフター、ミー。『せっかく水着を買ったんだから、私たちも見なさいよ、このクズ!』」
「『せっかく水着を買ったんだから、私たちも見なさいよ、このクズ!』」
「うぅぅぅぅうぅぅっ!?」
明石に続いて、朝潮型の艦娘たちが明石に続いて復唱する。
荒潮や大潮はノリノリで霞の口調を真似している、容赦ない。
「『せっかく水着を買ったんだから――」
「分かった。分かったからぁ、もうやめてぇ……明石さんを理由にしないからぁ……」
観念した霞が両手を挙げて降参する。
「はい、良く出来ました。大神さんも間宮さんの水着姿に見とれるのは分かりますけど、私たちもちゃんと見てくださいね? じゃないと――また霞ちゃんのヤキモチが爆発しちゃいますよ?」
「――……」
もはや霞は、明石の発言を修正しようとする気力もなくなったらしい。
力なくうな垂れている。
「ああ、すまなかった、霞くん、明石くん。霞くんの水着も可愛らしいね、そう言うのも良く似合っていると思うよ」
「……ぁ、ありがと…………」
「あれー? 大神さん、私はー?」
大神に水着姿を正面からまじまじと見られ、褒められて霞は改めて顔を朱に染める。
逆に霞だけ褒められたことに、明石は若干不満のようだ。
「いや、明石くんの水着は、警備府で一度見たことがあるじゃないか?(二話-7参照)」
「でもあの時は水着の感想言ってくれませんでしたよね? どうです、大神さん? 私の水着姿」
白衣を脱いで、改めて水着姿を大神の前に見せる明石。
以前のシャワー室の時のような水着エプロンでもなく、水着白衣でもなく黄色のビキニのみを大神の前に晒す。
「うん、良く似合ってる。綺麗だよ、明石くん」
「はぁ~、良かった~」
そんな明石を見たまま、感じたままに褒める大神。
明石も安心したかのように息を一つ吐き出す。
それがきっかけで艦娘たちが雪崩をうつ様に大神へと水着の感想を問いかけ始める。
「隊長ー! 私のSwimming wearはどうデスカー! 可愛いヨネ? 可愛いって言ってー!!」
「大神くん、今年は大胆に選んでみたんです! どうでしょうか?」
「大神さん、は、榛名の水着は如何でしょうか?」
「クソ隊長! わ、私の水着は……どう、かな?」
「みんなちょっと待ってくれ! 答えるから、ちゃんと答えるから!!」
結局、大神がそれを捌ききって、プールに入るまで30分近くかかったのであった。
超難産でした、大神を我に返す方法で悩みまくりました。
某鬼嫁のまねをさせたけど、なんか合わないとボツったり、
身体を当てさせようかと思ったけど、それやる雰囲気じゃないかなーとボツったり、と。
結局霞と明石に間宮が食われましたが。
いずれにせよ、お待たせしてすいませんでした。