第十一話 1 お世話役は誰だ!
MI作戦における深海棲艦の反攻を阻止してから数日間。
霊的回復により回復したとは言え精密検査は必要と、大神は明石の検査を受けていた。
明石は自分の身体を調べながらの作業であったようだが、そちらの結果も出たようだ。
明石は二つのファイルを持って大神のベッドを訪れる。
部屋の外では、金剛や鹿島たちが大神の病状を確認する為に聞き耳を立てている。
二回説明するのも面倒なので、明石は窓を開けて外にも聞こえるようにした上で説明を始めた。
「大神さん、精密検査の診断結果が出ました。一点一点は省いて言いますが、狙撃箇所にほど近い肺や食道は勿論ですが、内臓が全体的に炎症を起こし弱っている状態ですね。炎症の原因たる怨念は取り除いたのであとは回復を待つばかりですが、内臓ですので回復するまで無茶は禁物です。2週間は自室で安静にして療養に務めてもらいます」
「2週間か、訓練は勿論だろうけど、指揮官代理としての任務も止めた方が良いのかな?」
「そうですね、医師としては全面ストップしたいところですが、滞ると困る任務もあるでしょうから――大淀、居るんでしょう? 入ってきて」
明石が外に声をかけると、予想通り大淀は外に居た。
明石に促されて、大淀が保健室の中に入ってくる。
「ええ、居ます。筆頭秘書艦の権限で動かせることについては全て行いますが、そうでないものの方が多いですからね。一日に1回か2回ほど時間をとって、確認頂きたいのが正直なところです」
「うん。その程度であれば、大丈夫かな。医師役として許可します。ただ朝、昼の食事から2時間後くらいまでは持って来ないようにして、食べ物をゆっくり消化する時間は欲しいから」
明石が大淀の発言内容を許可するが、そこに注文をつける。
だが、その発言内容が意味するものは大神にとっては聞き捨てならないものだ。
「と言う事は、点滴生活はようやく終わりってことで良いのかな?」
消化器官へのダメージが分からなかったから、経口での栄養補給を止められていた大神。
しかし食事が許されるといっても、すぐに普通の食事が許される訳ではない。
「ここ数日間のように点滴で栄養補給する必要まではありませんが、消化にいいものから段階的に固形物を増やしていく形になりますね。残念ですけど最初からいつもの食事は食べられませんよ」
「そうか……でも困ったな。段階的にって言っても、俺、そこまでは料理できる食事のレパートリー多くないんだけど」
腕を組んで悩む大神に、明石は笑って答える。
「療養してもらう人に、長時間立って料理させる訳ないじゃないですか。本来なら医師である私が大神さんの回復度合いを直接見て料理したり、どの程度休んでもらうかを決めるのが一番なんですが――」
「その言い方だと明石くんは出来ないのかい? そうしてもらえるのが一番回復は早そうだけど」
大神の問いに明石が肩を落とす。
「はい、この間の霊的治療で無茶しすぎたせいで、私も過労に近い状態みたいなんです。だから、私もこの1~2週間は基本、自室療養メインです。あーあ、せっかく大神さんのお世話を出来るチャンスだったのになー」
ぼやくような明石の答え、だがその内容を聞いて大淀の眼鏡が煌く。
「では、筆頭秘書艦である私が大神さんのお世話を!」
「何言ってるのよ、大淀。あなたは大神さん不在の間の仕事をしないといけないんだから、そんな時間ある訳ないでしょ」
「…………」
いや、明石の言葉のカウンターに即沈黙した、その場にがっくりと膝を突く。
大神に業務上、最も近い大淀と明石の二人が無理。
と言う事は、自分たちが大神さんのお世話をするチャンスなのかもしれない!
そう、部屋の外で会話を聞いていた艦娘たちが色めき立つ。
「と言う事は、私の出番デース!」
「榛名もお姉さまをお手伝い致します!」
と言うか、金剛と榛名が実際に保健室に乗り込んだ。
「隊長の食生活を守るのも五航戦のお役目です!」
「翔鶴ねえがすごい張り切ってる、私は翔鶴ねえのお手伝いが出来ればいいかな~」
大神のお世話と聞いて、翔鶴がやる気を出して乗り込んだ。
「皆さんには負けません! 大神くんの好みの味を知り尽くしてる私こそが!」
続いて鹿島も腕まくりをして乗り込んでいった。
「ふふふ、大佐よ。この武蔵が居る。何も心配することはないぞ!」
武蔵が続こうとした時には、周囲の艦娘たちは信じられないような表情で見ていた。
「うふふっ。隊長のお世話、頑張らないと」
「えー。これでも感謝してるんだよ、隊長に。だから、お礼」
何を考えているのかよく分からない愛宕と北上も続く。
「隊長のお世話! みなぎるわ~!」
と、続いて足柄が乗り込もうとしたのだが、
「足柄さんはこないだのことがあるから却下!」
明石に拒否される。
「えー、何でよ~。私だっていいじゃない~」
「じゃあ、大神さんが寝ている間、足柄さんはどうするの?」
「え? それは勿論みなぎってくる魂のままに――ベッドインよ!」
「だから却下なの!」
保健室から投げ出される足柄だった。
あと、駆逐艦も朝早くから夜遅くまでのお世話になるのでと対象外となりかけたのだが、総反対になり、結局お世話役への名乗りを許された。
「大人ばっかりずるいですよー。頑張ります!」
「師匠のお手伝いが出来なくても、一人でも隊長に尽くします!」
「如月ちゃん、一緒に頑張ろう! えへっ♪」
「はーい、好きな隊長の為ですもの、睦月ちゃんと一緒にお世話しますわ」
「ハラショー、気が付いたらこんなに敵が居るなんて……。大神さんの傍は渡さない!」
「べ、別に、クソ隊長のお世話なんかしなくたって――ううん、隊長が心配だから私も!」
「告白の続き、お世話してる時なら二人きりだから出来るかなぁ……」
「隊長、今度こそ膝枕してあげますね」
「隊長さまに捧げた身体、こういうときこそ使用していただくのです」
「いや~、私もこんなの似合わないとは思うんだけど、隊長が心配でさ」
「隊長にはこの間の恩もあるからね、僕に出来ることなら何でもするよ」
「隊長さんのお世話、頑張るっぽい!」
出るも出たるや、20人の艦娘が名乗りを上げた、大神のお世話役。
一体この中から大神のお世話役を勝ち取るのは誰なのか!?
タイトルの時点でバレバレかもしれないが、次話に続く。
ちなみに、後に懲罰房でこの話を聞いた赤城、加賀、蒼龍、飛龍、利根、筑摩の6人は、自分たちが大神さんのお世話をするお世話できる機会が! と泣いて悔しがったという。
それも罰です、大人しく受けていなさい。
駆逐艦当てクイズ(冗談)
十把一絡げにされた駆逐艦のお世話役の名乗り発言から、誰の発言なのか推理しようw
賞品は勿論ありませんw
ホント冗談ですからwww