昼食後、白露型と朝潮と足柄は有明鎮守府の埠頭へと移動していた。
理由はもちろん特訓:『一日一万回、感謝の『大好き』』の為である。
「全員! 有明鎮守府での隊長との生活で、最も幸せになれる瞬間を申告しなさい!! あ、朝潮、あなたは良いから」
「どうしてですか師匠?」
「だって、あなたには前に一度聞いたじゃない」
可愛らしく首を傾げる朝潮に、何を今更と答える足柄。
しかし、足柄は大事なことを忘れていた。
朝潮にとって最も幸せになれるとき、それは以前の申告から更新されたのだ。
「師匠、違います! 今、朝潮にとって一番幸せを感じる瞬間は、隊長の胸で泣き疲れて眠ったあとで、目覚めたら隊長にお姫様抱っこされた上おでこにキスしてもらったときです!」
「何ですってー!?」
そうだ、思い出した、あの日、自分も朝潮救出の為に出ていたが、目覚めた朝潮のおでこに大神は「おはよう」とキスしたのだった。
あれ? もしかして自分、弟子に、朝潮に出遅れていない? と思う足柄。
「勿論! いっちばん頑張ったときのおでこのキスだね!」
「僕は……ほっぺのキスの方が幸せかな」
「うなじにキスしてもらえるのが、すごく感じて幸せ~」
「隊長さんにキスしてもらえるなら、夕立どこでも幸せ~。隊長さんキスしてキスして~」
そして朝潮との特訓以降、大神のキスをせがむ艦娘は激増した。
勿論唇へのキスはしてはくれないが、朝潮にした、おでこやほっぺ、うなじにはしてくれる。
けれど、あれはMVPの報酬の筈。
朝潮との特訓の時点で、白露型はMVPを奪われるほど能力補正に差があったはずなのだが。
と言うか、MVP取ったことあったっけ。
そう疑問に思う足柄に朝潮が耳打ちする。
「師匠、最近は遠征や巡回から帰った時でも、頼めばしてくれるようになったんです」
「え"」
ちょっと、待て。
これは、自分も特訓しなければならないのでは。
師匠として、朝潮にも白露型にも負けていられない。
そう思い、自分も大神のキス3点セットをしてもらったときのことを思い出す。
(以下足柄の回想)
「隊長、私にも……」
そう言って足柄は大神にしな垂れかかる。
鍛えているだけあって、足柄が寄りかかっても大神はビクともしない。
(そうよ、こういうシチュエーションを私は待っていたのよ!)
「分かった、足柄くん。これは外してもいいかな?」
そういって大神は足柄のカチューシャに手を伸ばす。
「はい……」
(来たわ来たわ、このときが! 男の人にこのカチューシャを外してもらえる! このときが!)
大神の手がカチューシャに伸び、ゆっくりと外していく。
カチューシャで固定されていた髪の毛が広がっていくが、大神はその髪を集めて足柄のうなじを露にする。
髪の毛を優しく触られ、ピクっと反応する足柄。
(ふぁっ……、ダメよ足柄! ここで変に反応したら嫌がられていると勘違いされちゃう! 隊長にうなじにキスされるまでは我慢なのよ!)
「いくよ」
耳元で甘く囁かれて、足柄はそれだけで達しそうになる。
そして大神の唇が落ちた。
(回想終わり)
「漲ってきたわ! みんな準備は良い! 幸せを感じてきた?」
「「「はい!!」」」
全員が顔を紅潮させて答える、朝潮はまだしも、白露型がそうしていると結構エロい。
駆逐艦とはとても思えないエロさがそこにあった。
やっぱり負けられない、足柄はそう思う。
「全員、海に叫ぶわよー!! せーのっ」
「大神さん、大好きー!!」
「「「隊長、大好きー!!」」」
「隊長さん、大好きー!!」
思いの丈を全て込めて、足柄たちは海に叫ぶ。
だが、重要なことを朝潮以外は忘れていた。
「師匠! 皆さん! そこは『大神さん、大好きー!』と叫ぶ場面です!」
朝潮が振り返って足柄を含む全員に注意する。
「えー、それは流石に……」
「そんな、僕みたいな艦娘が隊長を大神さんって呼ぶなんて……」
「いきなりは、ちょーっと……」
「夕立はどちらでもいいっぽい~」
夕立以外は、流石にその呼び方をすぐには受け入れにくいらしい。
足柄も自分で言うのはちょっと、いやかなり恥ずかしかった。
だが、朝潮は止まらない。
「ダメです! 響さんや睦月さん、如月さん、秋雲さん、明石さん、鹿島さん、そして瑞鶴さんたちに負けない為にも、ここはみんなで『大神さん、大好きー!』と叫ぶべきです!!」
「くぅっ! 朝潮を大きく感じるわっ! この私が、呉不敗と呼ばれた私が負けると言うの!?」
元は自分で朝潮に指示したこと、言い出したことなのに、いざ自分で言うとなると恥ずかしさを感じて叫ばなかったことを見透かされたか。
けれども、足柄もこのまま朝潮に負けてはいられない。
「……そうね、朝潮の言うとおりね。白露、時雨、村雨、夕立! 師匠命令よ! 次からは『大神さん、大好きー!』と叫ぶわよ!!」
「「「はーい」」」
師匠命令と会っては仕方がない。
諦めた様子の白露、時雨、村雨。
そして、特訓は続く。
「「「シアワセカンジテー!!」」」
そして、大神への思いを心に貯めて、
「「「大神さん、大好きー!!」」」
海に叫ぶ。
「時雨、声が小さいわよ、もう一回!!」
でも、これは元々あまり大声を出すのが得意ではない時雨には難しい話である。
酷な話というべきか。
「大神さん、大好きー」
「もう一回!!」
しかし足柄は容赦しない。
どこかの英会話教室の超一流の講師養成所のように命じる。
駅前留学は伊達ではない。
「大神さん、大好きー!!!!!!」
半ばヤケになって叫ぶ時雨。
「時雨さん、隊長への想いが足りていません!!」
でも、それを今度は朝潮に見抜かれる。
「大神さん、大好きー!!」
テケスタ、それが時雨の最後の思いになりそうだった。
しかし、足柄は大事なことを忘れていた。
朝潮との特訓の時、海に叫び続けたことで苦情が来たと、大淀に注意をされていたのだ。
その注意を完全に忘れて今度は人数も6倍、音量も6倍。
どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
「足柄さん――」
自分を呼ぶ声に足柄が振り向くと、ニッコリ微笑む大淀がいた。
でも目が全く笑っていない。
そして海に向かって叫び続ける駆逐艦に気付かれないようにハンドサインを送る。
『チョット、ツラ、カセヤ』
そして、足柄たちは埠頭を追い出された。
だが、足柄は諦めない。
「まだよ、もう次の特訓を考えているんだから!!」
「まだあるの?」
蒼褪めた時雨が呟いた。
ヤバイ、白露型メインにするプロットだったのに足柄たちが勝手に動く。
最後の元ネタ(分からない人が殆どかな)
「ハイモウイチド!」
「テキストーヒライテー!」
「ヨクデキマシタ!」
でもテキストに起こしてみると洗脳じみてる気がするw
分からない人は「ヨクデキマシタ」でぐぐると分かるかもしれません。