「一番を狙う為には由々しき事態だと思うの!!」
午前の訓練が終わった後、白露型の4人は食事に行かずに演習場に残って相談を始めていた。
前々から相談するべきだとは思っていたのだけれども、先程の訓練での締めに行われた夕雲型?4人と白露型4人の模擬戦で完全に圧倒されて心の底から実感したのだ。
このままでは不味いと。
夕雲型?4人とは同じ駆逐艦同士の筈なのに、耐久も火力も雷装も、いや、それだけではない。
命中精度、回避など、ほぼ全能力で遥か上を行かれており、まともな反撃すらすることも出来ずに一方的にボコボコにされたのだ。
それは、まるで戦艦や重巡を相手に戦っているようですらあった。
「全く歯が立たなかったっぽい~」
夕立が肩を落としてぼやく。
この無力感は大神が狙撃されたときの主犯である敵空母棲姫に11隻で挑みながらも、まともに攻撃すら出来ず突破されたときのことを思い出させる。
更に言うと、その後大神たちでなされた空母棲姫へのリベンジは赤城と瑞鶴による航空戦での一撃と、合体技の一撃。
僅か二撃で敵を浄化殲滅してしまったのだ。
ここまで差が出てしまうと、自分達の無力さを思い知らされてしまう。
かつては、ソロモンの悪夢だ佐世保の時雨だとまで言われたことがあると言うのに。
「僕の力なんて些細なものだと思ってたけど、ここまで無力だと……悔しいよっ!」
「隊長にちっとも、いいとこ見せられなかったし」
時雨が珍しく語気を荒げ、村雨も疲れたように呟く。
「そう、だからね! 私達が一番になる為に! どうすれば強くなれるか相談して――」
「話は聞かせてもらったわ(もらいました)!!」
白露が始めようとした相談を、近くにあった電柱の上にいつの間にか上っていた二つの影が遮る。
いや、本当にいつの間に上っていたんだ。
というか何をしようとして居るんだ君ら、仮面なんか被って。
「「「誰ですか(っぽい~)!?」」」
声をそろえて、電柱を見上げる4人。
「誰だ彼だと聞かれたら」
「答えてあげるが世の情けです! って師匠押さないでください! 落ちちゃいます!!」
「しょうがないじゃない! 電柱って狭いんだから! ほら、朝潮こっち側に!」
勢いきって口上を始めたは良いが、いきなり漫才を始める二人。
おまけに名前をばらしてしまっている。
せっかく被った仮面が台無しである。
「「「…………」」」
ポカーンとその漫才を眺める白露型4人。
「青き海の破壊を防ぐため」
「青き海の平和を守るため!」
さっきの漫才をなかったことにして口上を続ける二人だが、最早今更である。
「真実の愛を一途に貫く」
「ラブリーチャーミーな! マスク・ザ・アサシオ!」
「ハンガーウルフな! マスク・ザ・アシガラ!ってちょっと待ちなさい、朝潮! 何で貴方だけかわいらしい口上になってるのよ。英語で言うと、私、いつも空きっ腹みたいじゃない!? そんなデブキャラじゃないわよ!!」
「え、でも、那智さんがこれでやるといいぞって、笑ってカンペ教えてくれましたよ?」
「那智姉さん、何やってくれてるのよー!!」
いや、やっぱり二人がやっているのは漫才だ。
電柱の上で器用にバタバタ寸劇を始める二人に、今日の昼食なんだっけと思い始める白露型4人。
「じゃあ、改めて――」
「真実の愛を一途に貫く」
「ラブリーチャーミーな! マスク・ザ・アシガラ(アサシオ)!!」
「暁の水平線を駆ける、恋愛華撃団の二人には」
「ホワイトホール、白い明日が待っています!! って、皆さん食堂に行かないでください、話を聞いてください~!!」
「ちょっと、置いてかないでよ~!」
最早付き合ってられないと白露型の4人は食堂に向かおうとしていた。
電柱から降りられない二人の猫、もとい艦娘を置き去りにして。
「ねえねえ、今日の昼食何にする?」
「洋定食がいいっぽい!」
「僕は和定食かな」
「間宮さんのいっちばんおいしい定食なら何でも!」
もう足柄たちのことは見なかったことにしようとしている。
結構薄情である。
「師匠、どうしましょう? 朝潮、こんな高いところから飛び降りるなんて出来ません!!」
「そんなこと言われたって、私だってやったことないわよ!!」
結局、白露たちに手助けされてようやく朝潮と足柄は地上に降り立つのだった。
本当に君達、何しようとしてたのさ。
「で、あなた達、強くなりたいんでしょう?」
せっかくだからと白露型4人と足柄と朝潮の6人で集まって昼食を取った後、お茶を飲みながら足柄が白露たちに話し始めた。
「ええ、そうですけど……」
どこか自信満々な足柄に引き気味の4人。
朝潮は全員のお茶を注ぎなおしている、流石、よく気が付く子だ。
「それなら、とーっても大事なことを忘れているんじゃないかしら? とある普通の駆逐艦娘だった娘を一気に一軍に! 愛する隊長にMI攻略メンバーに選出されるまで育て上げた、美しく、素晴しい師匠の存在を!!」
自分で言うな、と言いたげな4人だったが、いってることは確かに間違っていない。
足柄に弟子入りするまではあまりパッとしない艦娘だった朝潮が、飛躍的に強くなったのは事実。
「でも――」
遠慮がちに声を上げる時雨。
後日、足柄・朝潮の乱とまで言われたあの大パニックを食堂で見ていただけに、あれを自分達で再現させるのは流石に良心が痛む。
いや、それ以上に隊長にキスをせがんだり、不意打ちでディープキスしたりするのは流石に――
「それ、いいっぽい~」
「村雨の、ちょっといい唇捧げちゃおうかな~」
「じゃあ競争だね! いっちばん最初にキスしてもらうんだ~!」
「みんな、何言い出してるの!?」
裏切られた、という表情を浮かべて姉妹を見やる時雨。
夕立たちは大神とのキスを思い浮かべて、幸せそうな、蕩けそうな表情を浮かべている。
けれども、意外な事に足柄の方からストップが入る。
「ダメよ、それは。まずは隊長を好きになる基礎練習をしてからじゃないと」
「そうです、皆さん! 千里の道も一歩から!! キスの前にいっぱい、もっといっぱい隊長をお慕いして好きにならなくてはいけません!!」
足柄に続いて胸を張って断言する朝潮。
ああ、なんか嫌な予感がする。
というか誰も足柄への弟子入りを了承していないと思うのだが。
「「「まさか――」」」
足柄・朝潮の乱開始前、朝食後に二人が何をしていたのかは全員が知っている。
それをやれというのか。
「そう、特訓よ! あなた達が隊長をもっと好きになるための特訓、それをやるわよ!!」
予想通りの足柄の断言。
白露たちは足柄の背景に稲光が写るのを見た。
白露たちは、自分たちがもう逃げ出すことの出来ないところまで来てしまったのだと思い知る。
やってしまったと、心の中で思うが時既に遅し。
「でも、最後に隊長さんにキスできるのならいいっぽい~?」
「よくないよ!」
夕立に突っ込む時雨であった。
なお最初の対戦、好感度で見ると、
夕雲型?
秋雲 97
夕雲 70
巻雲 68
長波 73
白露型
白露 28
村雨 28
時雨 37
夕立 35
これで4対4って、もはやいじめの領域です
頂いた案では即大神さんでしたが、アレンジとして凸凹師弟登場、でも脱線気味w
しかしこの師弟、結構息あってきたなw