昼食時、演習でMVPを取得した鹿島。
続く大神の隣の席争奪じゃんけんにも勝利し、至福のときを待っていた。
やがて、大神の姿が食堂へと現れる。
「あ、大神くんっ! 席こっちですよー!」
立ち上がって手を振り、鹿島は大神に自分の居場所を示す。
やがて昼定食を手に取り、大神は鹿島の隣の席に座る。
「鹿島くんはすっかり、俺のこと『大神くん』呼びが普通になってしまったね」
「うふふっ、だって士官学校をずっと一緒に過ごした私だけの特権ですものっ♪ それにもう今更『さん』付けはなんとなく違う気がしますし」
「おっと」
そう言って鹿島は大神の右腕を抱き締める。
鹿島の行動を予想していたのか、箸を置いて食事を中断する大神。
「あ、大神くん、食事の邪魔してごめんなさい。じゃあ、お詫びに私が食べさせてあげますね。玉子焼き食べりゅ? はい、あーん」
「あ、あーん」
それを更にチャンスと見たか、大神の皿の玉子焼きを一つを箸でとって大神の口元へと運ぶ鹿島。
大神も抵抗せずにその玉子焼きを口に入れる。
「それ私の決め台詞……」
その様子を近くで見ていた瑞鳳が肩をがっくり落としていた。
いつか手作りの玉子焼きとセットで、大神に使おうと決めていた必殺技を奪われたようなもの。
恐らく大神には一度見た技は通用しない、新たな恋の必殺技を考えなければならない。
卍解を奪われた死神の気分だ。
そんな瑞鳳に構わず、鹿島は次々に大神の食事を運ぼうとする。
反対側の隣の席には明石が居ると言うのに。
明石の眉間に青筋が立つ。
「鹿島さん、食事は本人のペースで食べないと消化に良くありませんよ。あんまり大神さんの食事ペースを乱すことはやめて下さいね」
「ん、けほっ」
それが正しいか、大神が若干むせた後しゃっくりを始める。
「大神くん!? ごめんなさい、私お水取って来ますね!」
鹿島は慌てて水を取りにいく。
そうして残された大神だが、自分の手持ちの水で十分だったらしい。
のだが、しゃっくりが収まっていく間に鹿島が何杯も水を汲んできていた。
「大神くん、これだけあれば大丈夫ですか?」
「いや、悪いけど、大体収まってしまったんだ、鹿島くん」
「よかったー。それじゃあ、このお水がなくなるまで少し長話でもしましょうか?」
こと大神との時間となると、鹿島は凄まじいまでのプラス思考だ。
確かにこれだけの水を飲み干すとなると、昼休み終了間際までかかるだろう。
「長話って何の話をするんだい?」
「んー、そうですね。例えば仕官学校時代の私と大神くんの思い出話とか!」
鹿島の発言に辺りがざわめく。
警備府以前の大神と長く、それこそ年単位で大神と付き合いのある艦娘は鹿島しかいないのだ。
そんな絶大なアドバンテージを持つ鹿島と大神の思い出話、気にならないはずがない。
「……鹿島くん本当に良いのかい? 中には君にとって話し辛いことだって……」
言い難そうに大神が話す。
そう、楽しい思い出しかなかったと言えば嘘になる。
正直出会いの時点から、大神がもし居なかったらと思うこともある。
「そうですね、あの時は本当に怖かった。でも、だからこそ大神くんは私のことを本気で護ってくれたし、そんな大神くんのことを私も本気で好きになったんですっ!」
そう力説する鹿島。
そして、大神との出会いのエピソードを話し始めた。
ああ、男性の居ない屋上の風は気持ちいい……
士官学校の屋上で練習巡洋艦の鹿島は海風を浴びて気分転換をしていた。
彼女はあまりパッとしないように見える少女だ。
だが、長めに切られた前髪を少し上げればそれが偽りの姿であるとすぐに分かるだろう。
ツーサイドアップにした銀色の髪。
紅をひいたかのように艶やかな唇。
豊かな胸とウエストのくびれ、むしゃぶりつきたくなるようなヒップの張り。
艦娘の制服の上からでも分かるあたり、少女のプロポーションは抜群である。
それ故に士官学校の入学式から鹿島に突き刺さる、色欲に満ちた視線に鹿島は怯えていた。
他の艦娘のアドバイスに従って、顔が分からないようにしておいたのは正解だったかもしれない。
そうなったときのことを考えるだけで鹿島は憂鬱になる。
早く帰ろうかな……
一緒に帰る相手もいないし、いや、今は居てほしくない。
どうせ、この学校に艦娘は私一人だから。
そんな思って屋上の扉を開けようとしたときだった。
「きゃっ!?」
「おっと!」
扉のところで、士官候補生と鉢合わせてしまった。
「……やっぱりここに居たか」
出てきたのは、男子だった。
いやらしい笑みを浮かべて、鹿島の肢体を舐め回すようにして見ている。
あとから出てきた二人も、よく似た表情を浮かべている。
「……何か私に用ですか? 用がないのでしたら、私は帰りますので」
そんな視線に気圧されそうになる鹿島だったが、負けまいと精一杯の冷たい視線と口調で出てきた男たちに問い詰める。
「な、言った通りだろ?」
「これほどとは思わなかった、マジ良い身体してんじゃん」
そんな相談をしている男たちに気味が悪くなったのか、鹿島は彼らを押しのけて校舎に戻ろうとする。
「おいおい、待ちなよ。鹿島ちゃん」
その中で最もガタイのいい男が、鹿島の腕を引っ張った。
「はなしてよっ!」
少女はそう言うが、彼らは一向に彼女の腕をはなすつもりはないらしい。
「いいかげんにしてっ! 教職員の方々に訴えるわよ!?」
そう言う鹿島に男たちは嘲笑を浮かべる。
「教職員? ははっ、言ってみなよ。俺達とお前、どっちが重要なのかはわかってるだろう?」
「……くっ」
悔しさに口をつぐむ鹿島。
確かにそうだ。
艦娘を率いる士官候補生と、建造可能な上戦闘力に乏しい艦娘、どちらが重要かなど決まっている。
鹿島が黙ったことを良いことに男は、鹿島の身体を自分に近づけた。
もう一人の男も、鹿島の左側にやってきて取り押さえようとする。
「きゃあーっ! やめて、やめてよ! お願いだから!!」
男達の目的を悟り、叫ぶ鹿島。
しかし、陵辱しようとしている女にそう言われて興奮する男こそいれ、やめる男はいないだろう。
暴れる鹿島をむしろ面白がるように制服に手をかけようとする男たち。
「こいつ胸でけえなあ……お尻も良い具合だぜ」
制服を脱がそうと胸元をまさぐっていた男の一人が、そんなことを言う。
「やめて! 触らないで!!」
そして、男達の行為を止めようと暴れる鹿島の、長めの前髪で隠していた素顔が露になる。
その輝くばかりの美貌に言葉を一瞬失う男達。
「マジかよ。身体だけでなく、容姿も最高じゃねーか」
「お前ら、予定変更だ。脱がせる前に顔のほうも堪能しよう。先ず唇とか奪おうぜ」
そういった男たちが後ろから鹿島の行動を封じる。
そして、前から男が迫り来る、鹿島の唇を奪おうと、
「やっ! いやぁーっ!!」
そして、顎を持ち上げられたその時、
「何をしているんだ、お前達!」
鹿島にとって想い人となる人間が現れるのだった。
「――加山さん?」
「そんな訳ないでしょう! 大神くんに決まっているじゃないですか!! ああ、あの後、同級生だと言うにも関わらず、私を護る為に戦ってくれた大神くんカッコ良かったー! ぶちのめしてくれたし」
敢えてすっとぼけた回答を返す明石に、うっとりとした眼差しで当時を思い返す鹿島。
「いや、最初は俺に対しても警戒心全開だったじゃないか、鹿島くん」
「もう! 本当に最初のほうだけです! その後泣いた私が泣き止むまで傍に居てくれて、その後ずっと部屋まで送り迎えしてくれたじゃないですか!! 襲われたことが怖くて、眠れなかった最初の数日なんかは、部屋の扉の前で眠らずに警戒してくれましたし」
「そんなことあったっけ?」
「あったんです! まだ肌寒い春の日だと言うのに、そこまでしてくれて……うつらうつらとあくびを噛み殺しながら、護ってくれた大神さんを見て、この人は少し信じようかなと思ったんです」
襲われた翌日、起きていながら、また襲われるのではないかと怯えて外に出られなかった鹿島が外に出られるようになった理由。
それは送ったときの約束どおり、一晩中外を警戒してくれた大神の様子を見たからなのだ。
それがなかったら鹿島は今も引きこもっていたかもしれない。
長くなったので一旦分割。
二人にとっての本当の意味の出会い編、まあ、ありがちな話ですね。
まだ鹿島の好感度0近辺。