榛名の一悶着が終わり、金剛型のサークルが集まった箇所、いわゆる金剛島を練り歩く大神たち。
「大神さん……」
ちなみに榛名は大神から離れようとしない。
大神の腕を離さず、組んで全力で抱きついたままである。
先程見た同人誌がよほどショックだったのだろう。
もう片方の腕は鹿島に取られている為、金剛が抱きつくとしたら真正面か背後しかないのだが、金剛は今は榛名を優先しているようだ。
「あ、今度は比叡の本がありマース、見てみマショー!」
「本当だ……私の本、どんな中身なのかな?」
言うまでもなく、それはポイズンクッキング本であった。
自らの調理毒物で姉妹と大神をまとめて保健室送りにする比叡。
バイオハザード状態となる鎮守府。
「そんな! 私、そんなに料理下手じゃありません!! ねえ、金剛お姉さま?」
「……ノーコメントデース」
比叡の問いに顔を背けて言葉を濁す金剛。
いろいろと思うところがあるらしい。
「そ、そんなー!」
地面に蹲り、真っ白になる比叡。
いろいろと燃え尽きてしまったようだ。
「比叡お姉さま、今度、お料理の勉強会してあげますから」
「本当!? 本当よね? 絶対本当よね? 何が何でも本当よね?」
流石にいたたまれなくなった榛名が、比叡にそっと耳打ちする。
途端、いじけて地面にのの字を書いていた比叡が榛名の手を掴む。
何度も榛名に確認を取る比叡の目はグルグル回っており、はっきり言って怖い。
「え、ええ……」
「よし、これでメシマズ艦娘からは卒業よ!! 大佐を唸らせて見せるんだから」
「え、えーと、お手柔らかに頼むよ、比叡くん」
腹痛で唸ることだけは避けたい大神だった。
それ以外は基本的に金剛本がメインだったのだが、
「うふひはふひはふへほ……隊長と私、ラブラブデース!!」
基本的に金剛のアタックに押されきった、もしくは我慢が出来なくなった大神と金剛のラブラブ生活を切り取ったものが多かった。
どれくらいラブラブかというと、
『あれ、このカレー具がないよ? 金剛くん』
『これで良いのデース、だって……ん……』
『んんっ?』
そう言って具のないカレーを口移しで食べさせる金剛。
『具があると、こんな風に食べさせっこ出来ないのデース……』
『食べさせっこか、じゃあ今度はこっちの番だな。金剛、おいで』
『はい……たいちょ――ううん、ダーリン♪』
と口移しとキスしまくりながら食事するものとか、
金剛が大人しくなると逆にそれを寂しく思い金剛を押し倒す大神とか、
過程をすっ飛ばして、全編大神と金剛のいちゃラブH本も多数あった。
全盛期は過ぎたとは言え、かつて被害担当艦だったころの力は健在ということか。
「ねぇ、隊長。今度私のSpecialなカレー、食べさせてあげるデース!! ちゅー」
「金剛さん! 同人誌に触発されて口移しするつもりでしょう! そんなのさせません!!」
その気になって口移し、と言うかキスしようとする金剛をブロックする鹿島。
一方、本をあまり見かけないのは霧島だ。
いや、あることにはあるのだが、ヤンキー調になっていたりするのが多い。
「なんでヤンキー調なのかしら?」
疑問に思いながら自分の本を見て回る霧島。
そのうち、インフルエンザで休んでいる大淀の代わりに霧島が筆頭秘書艦を担当する事となる本を見つける。
「大淀さんの代わりですか。秘書艦の仕事も楽しいと言えば楽しかったですね」
最初はそつなく仕事をこなす霧島。
だけど、常に大神の傍に居られる立場は甘い麻薬のようで、霧島は大神から離れたくないとそう考えてしまう。
大淀の快復が間近になった夜、霧島はわざと仕事のミスをした。
残業して取り戻すと言う霧島を放っておけず、手伝う大神。
そして、二人きりの仕事が終わったとき、霧島は大神に抱きつき告白する。
「ええっ!?」
そして、深夜の司令室で情事に耽る二人。
大神を満足させるため、霧島はその知識の全てを用いて奉仕する。
「あ、ああう。あうあう……」
金剛型の中では知識派を自称する霧島だったが、実のところそっち方面の知識は薄い。
「うそ、そんなところまで……ええっ、こんなこともするの?」
目の前で繰り広げられるR-18行為に狼狽しながらも、目が離せない霧島。
「霧島くんは何を読んでるんだい?」
「ひゃあぁぁぁぁうっ? た、隊長っ!? いえ、私が秘書艦になる話です! それだけです!」
「霧島くんは勤勉だね。じゃあ、大淀くんが任に就けないときは霧島くんに筆頭秘書艦をお願いしようかな」
「は、はいっ! なんでもお命じ下さい! 何からナニまで応えてみせます!」
ナニの意味合いが微妙に怪しい霧島。
特に追求せず大神たちが通り過ぎてゆくのを確認して、
「この本、おいくらでしょうか」
一冊購入した。
勉強のためである。
あくまで、勉強のためである。
そうしていくうちに金剛島を抜ける大神たち。
並ぶポスターの内容からすると空母島にきたらしい。
と、聞き慣れた声で言い争っているのが聞こえる。
「あれ、瑞鶴と加賀が言い争ってマース、あの二人もけんかが好きデスネー」
「けんかするほど仲がいいとは言うけど、流石に通行の邪魔になるのは不味いかな」
そう言って大神たちは二人を止めようと近づく。
話の詳細が聞こえてくる。
「なんで! なんで私が一航戦なんかと、れ、れ、恋愛関係になってるのよ!」
「それはこっちの話です。五航戦とだなんて冗談ではありません」
どうやら、瑞鶴と加賀の百合本を見つけてオーバーヒートしているらしい。
よくけんかしている二人は、見る人間によっては百合カップリングとしてベストチョイスなのだが、どうもお気に召さないらしい。
まあ、好きな男性に女の子が好きと誤解されたくないのは、ある意味当然の話か。
「まあまあ、そこまでにしておいたら瑞鶴」
「翔鶴ねえはいいよね! 隊長さんとのラブラブ本ばっかりなんだもん! 結構買ってるし!」
よほど納得できないのか、宥めようとする翔鶴にさえ噛み付く瑞鶴。
しかし、噛み付いた内容に加賀が反応した。
「そうね、あなたには大神さんとのらぶらぶ本がないものね」
「なんですってー! そう言うあんただって――」
「お生憎様、わたしには大神さんとのらぶらぶ本もえっちな本もあるわ、こんなに」
そう言って加賀は紙袋から自分と大神のラブラブ本を取り出す。
はっきり言って翔鶴より多い。
「そ、そんな――」
敗北感に打ちひしがれる瑞鶴。
何故だ、何故自分には大神とのらぶらぶ本もえっちな本もないのか。
何が足りないというのか。
「胸ですね。瑞鶴さん、あなたにはおっぱいが足りていません!!」
大神から離れ、瑞鶴に近寄った鹿島が残酷な結論を言う。
「そんな、おっぱいだけでここまで差が出ちゃうの?」
「蒼龍さんを見てください! 今一つ影が薄いのに、同人では、コミケでは大人気です!」
鹿島の指差した方向、蒼龍を見ると、確かに多くの視線を集めている。
胸に。
ふんわりやわらかおっぱいに。
蒼龍の持つ蒼龍本も結構多い。
「で、でも、瑞鳳だって胸は――」
「瑞鳳さんはあなたと違ってロリ属性がありますから。だけどあなたにはどちらも、ない!」
「ガーン」
再度敗北感に打ちひしがれる瑞鶴。
力なくその場に崩れしゃがみこむ。
「そうね、あなたと大神さんとではBLになってしまうわ、五航戦」
加賀のその言葉がとどめとなった。
「うわあぁぁぁぁん! 次のコミケまでには豊胸してやるんだからー!!」
泣きながら、コミケ会場を駆け去る瑞鶴。
だから、コミケ会場は走るの禁止です。
「加賀さん、少しやりすぎですよ」
「そんなことはないわ、赤城さん。事実を告げただけ」
そう言いながらも、居心地が悪そうな加賀。
少し言い過ぎたかもと思っているようだ、だからこそ、瑞加賀が百合カップルと認知されるのに。
「ところで、何で私の本は大食い物が多いのでしょうか?」
自分が大食いと認識していない赤城だった。