IS ‐もののふ少女伝-   作:お倉坊主

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約一か月ごと(たまに二か月)の更新が定着して久しい今日この頃。今更ながらに活動報告を利用した方が良いのかと思ったり。まあ、ただの雑記になりそうだけど。
という訳で二十二話です。椛が十か月ぶりに戦闘します。


第二十二話 衝突

 椛から何とか協力を取り付けてから週が明けて月曜日。今のところ、シャルルの事に関して大きな動きは無かった。いや、大きな動きが無くて済んでいると言うべきか。

 いつ学園の関係者がシャルルの下にやって来るものかと冷や冷やしていたのだが、日曜日はこれといって問題も無く過ぎ去り、今朝になっても特に変化はない。あるとすれば、千冬姉が教室に入って来た時に目を向けてきたような気がしただけだ。

 きっと椛が上手いこと取り成してくれたのだろう。あいつには頭が上がらない。今度に何かお礼をしなきゃいけないな。

 

 そんなこんなで有り難いことに平穏無事な生活を送れている訳だが、それでも困っている事が無いと言う訳ではない。今現在、俺を苛む悩みが二つほどあった。

 一つ目は学年別トーナメントが近付いてきたことにより、クラスメイトの相川さんが活発化してきている事である。この人、何を隠そう以前の俺のセシリアや鈴との試合で行われていたトトカルチョの元締めをしていたそうなのだが、どうやらそれで味を占めたらしい。今回はかなり大規模なものを計画しているそうだ。当然の如く俺は賭けの対象になっているようで、先程「期待しているからね」とウィンク付きで言われてしまった。気が重い。

 二つ目は今まさに走らざるを得ない状況に置かれてしまっている事である。こちらに関しては非常に単純な問題であり、別に誰が悪いというものでもない。IS学園の特性上、如何ともしがたい事だ。

 

「まったく……何で男子トイレが三つしかないんだよ」

 

 小走りしながら悪態をつく。この学園で本来、男子トイレを使うのは俺と用務員の轡木さんだけだ。今は男装している関係上シャルルも使っているが、それでも三人しか利用しないものがそう多く設置されている訳がない。授業の合間の休憩時間で用を足しに行くには、どうしても走らざるを得なかった。

 可能な限り早く、されど職員に見つからないよう慎重に廊下を駆け抜ける。この先の中庭を通れば目的地だ。時間からして授業に遅れる心配は無さそうだ。

 そう算段を付けながら中庭に差し掛かったところで、俺は慌てて足を止める事になった。行く先から人の話し声が聞こえてきたからだ。

 走るのは怒られても普通に歩いて通り過ぎる分には問題ない。けれど、俺はそうせずに曲がり角からこっそりと中庭の様子を窺った。聞こえてきた声が覚えのあるものだったからである。

 

「教官、何故この学園で教鞭を取り続けるのですか? 教官の実力ならば、今でも十二分に通用するというのに」

「あまり分かり切った事を言わせるなよ。三年前のあれで私は随分と嫌われてしまったようだからな。今更になって復帰しようなど無理な話だ」

「それは日本での話です! 他の国、何なら企業でも貴方を欲するところは何処にでもあります。それに国家代表という第一線は無理だとしても、他に取れる道などいくらでも……」

 

 覗いた先に居たのは千冬姉とラウラだった。一見すると普段の冷静さのようでいて、ラウラは実際のところ興奮気味らしく、言葉の端々に感情的なものが見え隠れしていた。そんな相手に千冬姉は「やれやれ」と言わんばかりに首を振る。

 

「分からんな。どうして私の事にそこまで口を出そうとする?」

「教官の強さを知っているからです。ブリュンヒルデと謳われたその力、振るわずしてこの学園に押し込めておくには余りに惜しい。まさか、もう後進の育成に当たろうと思うほど衰えた訳でもないでしょう」

 

 随分と図々しい物言いにも聞こえるが、それでいてラウラの言葉には縋るようなものがあった。それに対して、千冬姉はしばらく黙った後に溜息をついた。

 

「篠ノ之姉から聞いたが、奴の言っていた通り、お前は何か勘違いをしているようだな」

「……それは、どういう事ですか?」

「強いとか弱いとか、そんな事で生き方が決まるほど世の中は単純じゃないという事だ。少なくとも、私は今の教師としての生活に満足している。ただ勝つことが求められた国家代表の時よりは、な」

「…………貴方も、この安穏とした場所を良しとするのですか」

「何を期待しているのか知らんが、まあ、そういう事だ。分かったらさっさと行け。もうじき次の授業の時間だぞ」

 

 千冬姉の促しにラウラは「了解しました」と力なく答えると、足早に立ち去っていった。その背中が小さく見えたのは、きっと気のせいではないだろう。

 ……あいつにも、あんな風に落ち込むことがあるんだな。

 俺の中でのラウラの印象は決して良いとは言えない。一昨日に模擬戦を仕掛けられた時、三年前の事を持ち出してまで人を挑発してきたのだから当然だ。「貴様のような男のために名誉を捨てるなど、教官は判断を誤った」そう言われて、我慢できなくなり飛び掛かったのは記憶に新しい。

 軍人らしく尊大な性格のいけ好かない奴、それが俺のラウラに対する印象だった。

だが先程の姿はどうだろう。まるで小柄な背格好の通り、普通の女の子のようではなかったか。

 ただそれだけで印象が変わると言う訳ではないが、想像さえしていなかった一面を目にしたことで、俺の中のラウラ像には新しい要素が付け加えられていた。どうやら冷たいだけの無感情な奴ではないらしい。

 

「おい、そこの覗き。コソコソしていないで出てこい」

 

 ぼんやりと考えを巡らせていたせいだろうか。突然の自分に向けられて掛けられた声に、驚きのあまりビクリと肩を揺らしてしまう。

 しっかりとこちらを見据える千冬姉からして、俺が居合わせた瞬間にはもう気付いていたのだろう。その勘の良さにはもはや、驚きを通り越して感嘆するばかりである。

 

「えーと……トイレに行こうとしていたら出くわしたんだけど、何か不味かったですかね」

「いや、話の内容自体には問題ない。弟に覗き癖があった事に関しては大いに失望させられたがな」

「それは言い掛かりってもんですよ!?」

 

 大人しく曲がり角から姿を晒し、放課後でもないので一応は敬語で素直に事情を話す。ところが、返って来た言葉はいつも通りに人を詰るもの。あまりの理不尽さに声を荒げても仕方がないだろう。

 そんな普段通りの――そう言えてしまうのが悲しい――やり取りをして、ふと気付いた。

 

「千冬姉、どうしたんだ? なんか元気がなさそうだけど」

 

 些細な違和感から訪ねてみると、千冬姉は少し驚いたように目を開いた。

 

「そう見えるか?」

「ああ。何時もだったら『五月蠅い』とか『黙れ』とか言いながら出席簿で殴ってくるはずなのに、千冬姉が口だけで済ませるなんて絶対におか――」

 

 最後まで言い切る前に、俺の口は強制的に閉ざされた。例の如く、どこからともなく現れた出席簿が俺の頭を打ち据える。体感的に普段の二割増しの威力に堪らず蹲った。

 

「少しは人を見る目が養われたのかと思えば、まさかそんな事を言うとはな。僅かにでも期待した私が間違っていたようだ」

「いつつ……で、でも否定しないってことは、元気がないってことは本当なんだろ?」

「……まあな。元気がないという言い方が正しいかは分からないが」

「さっきのラウラとの話で何かあったのか? たまには弟に相談してくれよ。力になれるかは分からないけど、話を聞くくらいは出来るからさ」

 

 姉に頼ってばかりでは申し訳ない。その一念で申し出てみる。頭を擦りながらでは格好がつかないかもしれないが。

 それに千冬姉は幾度か瞬きした後、ふっと口元を緩めて「口だけは一丁前になったものだ」と言った。

 

「何かといっても、そう深刻なものでもない。ただ、ああいう言い方でしか答える事の出来ない自分に少し嫌気がさしていただけだ。どうも私は、人の悩み事を聞くのに向いていないらしい」

 

 珍しく憂鬱な様子でそう語る千冬姉。笑みを浮かべてはいたが、それは自嘲的なものだった。

 確かに先ほどのラウラとの会話は、お世辞にも親切な対応とは言えなかった。相手の態度にも問題はあったかもしれないが、過去はどうあれ教師と生徒という関係なのだ。もう少し生徒の悩みに真摯に向き合ってやっても良かったのではないかと思われる。

 そう思っているなら普段の俺の扱いも改善してはくれないだろうかと思わなくもないが、それは今言うべきことではない。むしろ、ラウラに喧嘩を売られてから抱いていた疑問を晴らすいい機会ではないだろうか。俺は意を決して千冬姉に問い掛けた。

 

「なあ、聞いていいか?」

「ん?」

「前にラウラと一悶着あった時に言われたんだ。弱い者に価値など無いって。あいつはどうして、あんなに強さに拘っているんだ? あいつの教官をやっていた千冬姉なら何か知っているだろ?」

「…………」

 

 普段の千冬姉なら過去の事を詮索するような質問には絶対に答えない。それでも聞いたのは、俺自身がラウラに一方的に突っかかれるだけで終わりたくなかったのと、その話を聞くことで千冬姉の悩みを解決する糸口になるのではないかと思ったからだ。

 無言のまま俺の目を見据える千冬姉を真っ直ぐ見つめ返す。目を逸らさない俺に根負けたのか、一つ息を吐くとポツリポツリと語りだしてくれた。

 

「……私がボーデヴィッヒに初めて会った時、奴は既に力に対する執着心を持っていた。私が教官として指導する事になったパイロットの一人だった奴は、人一倍成績やら何やらを気にするような頭の固い餓鬼だった」

 

 黙って話を聞いている限り、今のラウラとあまり大差はないように思われる。俺は普通の学校にもいるような、成績を理由に偉そうな顔をするいけ好かない優等生を想起した。

 

「ただ決定的に違ったのは、ボーデヴィッヒ自身が弱者と分類される方に身を置いていたことだ」

「え……」

 

 思わず声が漏れる。直前のイメージからあまりにもかけ離れた言葉だったからだ。

 

「詳細は言えないが……奴は生まれが特殊で、身体にあるハンデを持っている。それが原因で訓練の成績は振るわず、私の受け持ちの中でも当初は最底辺の実力しかなかった。過去には信条と現実の齟齬を何とか埋めようと無茶な訓練をして、体を壊す一歩手前まで行った事もあったらしい」

「じゃあ、今のあいつの力は……」

「仮にも教え子だ。自暴自棄になられても困るし、私が徹底的に鍛え直してやった。身体のハンデを、逆に利点に出来るようにするくらいはな」

 

 なんてことは無いかのように言ってはいるが、俺としては流石と思わざるを得ない。ラウラのハンデとやらが何かは知らないが、それまでに本人が解決できなかったことを、たかだか一年の間にやってのけたのだ。さぞ優秀な指導だったのだろう。

 俺がそう感心している間も、千冬姉はいつも通りの泰然とした態度だった。しかし、次の瞬間にはそこに一つの揺らぎが生じていた。僅かながら眉根を寄せていたのだ。

 

「優秀な成績を収められるようになって、ボーデヴィッヒにもこれで多少は気持ちに余裕ができるようになる。私はそう思っていた……だが、現実は違った。奴は力に対する執着を失わなかった。むしろ下手に実力が付いたせいで、今まで以上に力を求めるようになったようにも見えた」

「それって悪いことなのか? 人にまでそれを要求するのは兎も角、今の自分に満足しない向上心を持っていたってことだろ?」

「そんな生易しいものだったら良かったのだがな、あれは強迫観念のそれに近い。強くなければいけないと何かに駆り立てられていると言うべきか……少なくとも、前向きな理由に基づいているようには思えなかった」

 

 難しい顔のままそう語る千冬姉は、どこか悔恨染みたものを浮かべていた。

 

「……結局、私は奴の執着を解きほぐしてやることは出来なかった。その結果が先ほどの話だ。昔から人付き合いはあまり得意ではなかったが、そのツケが回ってきたようだ」

「…………」

 

 不器用だな、と思う。

 そのぶっきら棒な態度をもう少し緩めて、素直に心配している事を伝えてやればラウラと上手くいったかもしれないのに。苦労させてきた俺が言えることじゃないが、そう思わずにはいられない。

 そんな俺の様子に気付いたのか、千冬姉は咳払いを一つすると「少し話し過ぎたな」と言って表情を切り替えた。

 

「まあ、態度こそ褒められた物ではないが、奴にも色々あるという事だ。仲良くしろとは言わん。気に掛ける必要もない。だが、そういう事もあるのだと知っておいてやれ」

 

 そこで千冬姉は一呼吸区切り、見慣れた人を弄る時の笑みを浮かべた。

 

「もっとも、お人好しのお前にそんな器用な真似ができるかは知らんがな」

「な……どういう事だよ」

「言葉通りの意味だ。さあ、用が済んだならさっさと行け。次の授業に遅刻しても知らんぞ」

 

 小虫を払うように手を振られて、それ以上追及する事も出来ずに止む無く話を切り上げてその場を後にする。実際問題、これ以上話していたらトイレに行く時間が無くなりそうだった。

 走りながら話の内容を思い返す。ラウラに対する心象が良くなったと言う訳ではないと思う。逆に昔からあの調子と言われると、どれだけ面倒臭い奴なんだと思わなくもない。

 ただ何故か、俺の脳裏には先ほどの小さい背中がこびり付いて離れないのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ふふ……鈴さん、今日という今日はどちらが上か思い知らせてさしあげますわ」

「言ってくれるじゃない。その言葉、そのままお返ししてあげるわよ」

「うふふ……」

「ふふ……」

「…………」

 

 自身を挟んで不敵な笑みを浮かべ合う両者を見て思う。面倒であると。

 放課後、アリーナのど真ん中で斯様な一触即発の事態に巻き込まれているのは他でもない。単に運が悪かったの一言に尽きる。視線で火花を散らしあう眼前の光景から目を逸らすように空を見上げ、腹立たしいまでに澄み渡る青空に大きく溜息を吐くのだった。

 事の切っ掛けは、廊下で談笑中の鈴音とセシリアが、先日の実技訓練の件を蒸し返した事であった。如何様な経緯でその話になったかは知らないが、真耶に揃って叩きのめされた苦い記憶を思い起こした両者はいがみ合いにもつれ込む。あれよあれよという間に話は勝負で決着をつけるという事になり、場所を移して今に至ると言う訳である。

 私はたまたま二人がいがみ合っているところを通り掛かっただけなのだが、何故か目を付けられてドナドナの如く此の場に連れてこられていた。曰く、公正な審判が私以外に思い当たらなかったとか。

 信用はしてくれているのであろう。ただ、せめて此方の都合を確認してくれと有り難かった。

 

「お主ら、やるなら疾く始めんか。私も暇人ではないのだぞ」

「うっ……分かったわよ」

「ご心配なく、椛さん。相手は鈴さんお一人。時間は取らせませんわ」

「ああもう、いちいち喧嘩売ってくんじゃないっての! ほら、さっさと始めるわよ!」

 

 周囲の人払いは既に済んでいる。派手に叱られておいて同じ轍を踏むほどの度胸は流石に無かったらしい。

 二人が距離を取ってISを展開するのを確認し、合図のために手を挙げる。

 しかし、その手が振り下ろされることは無かった。

 

「ドクトル」

 

 掛けられた声に振り返る。能面のように無表情なボーデヴィッヒが、そこにいた。

 

「あ、アンタ!」

「……何かご用でしょうか? 何も無ければ離れていて欲しいのですが」

 

 その姿を認めた途端、鈴音とセシリアの態度が硬くなる。つい一昨日に一騒動があったばかりなのだ。無理も無からぬ事と言えた。それに対して、ボーデヴィッヒは眼中にも無いようであったが。

 

「ドクトル、私と模擬戦をしてもらいたい」

「なに?」

「いきなり割り込んできて何言ってくれてんのよ。椛はあたしたちの方に付き合ってるって見れば分かるでしょ」

 

 突然の申し出に怪訝な顔をする私を余所に、甲龍を展開したまま近づいてきた鈴音が文句をつける。

 

「模擬戦に審判など必要ないだろう。別にここを使わせろと言う訳でもない。貴様らに非難される謂れはないが?」

「むぐっ……だ、だからって横から掻っ攫うような真似が許される訳ないでしょうが」

「鈴さんの言う通りですわ! あくまで先に話を付けたのはこちら――」

「まあ、貴様らの意見など最初から聞いていない。それでドクトル、返事はどうだろうか」

 

 同様にセシリアも口を挟もうとするが、涼しい顔で無視された。心底どうでもよさそうな様子が頭に来たようだ。セシリアの額に青筋が浮ぶ。

 頭に血を上らせて食って掛かろうとする彼女を、片手を挙げて制する。怒りに任せて場を荒らされては面倒になる。此処は私だけで答えるべきであろう。

 

「一つ聞いておきたい。私と模擬戦をするとして、お主はどうすると言うのだ。其処に何の意味がある?」

 

 話を受けるにせよ受けないにせよ、まずはボーデヴィッヒの目的が分からなければ判断がつかない。素直に答えるかは疑問であったが、私は駄目もとで問い掛ける。

 

「……確かめるためだ」

 

 果たして、返って来たのは短い言葉だった。

 

「確かめることが出来る。貴方に勝つことで、私の強さが正しいのだと」

「ふむ……」

「ちょっと、それじゃ何の事だかさっぱり分かんないわよ」

 

 あまりにも漠然とした言葉の羅列。鈴音の言う通り、彼女の背景も何も知らない者では意味を測る事など不可能である。いや、ヴェルナー殿からある程度の話を聞いた私であっても、その真意を正確に理解できてはいなかろう。

 だが、その不退転の意志だけは否応も無く感じさせられるものであった。

 ここでボーデヴィッヒの申し出を拒否したとしても大きな問題とはなるまい。つい先日に騒ぎを起こした手前、相手も無理強いは出来ない。穏便に事を済ますならば、当たり障りのない形で辞退するのが賢明な判断ではある。

 しかし同時に、真意を理解しないまま断ってもいいのかと思う己もいる。ボーデヴィッヒが突然にこのような申し出をしてきたのは、間違いなく何かしらの変化が生じたからであろう。その変化が何であるにせよ、彼女を真に理解すると決めた以上は無視すべきではない。

 

「良かろう。その話、受けるぞ」

 

 それに言葉だけでは伝わらないものもある。一度はぶつかってみるのも一興か。

 

「も、椛さん!?」

「悪いな。真正面から挑まれておきながら袖にしては武士の名が廃る」

「はぁ……そういえば、アンタが売られた喧嘩は片っ端から買うタイプだって忘れていたわ」

 

 驚きの声を上げるセシリアに、幾分か本音も入り混じった言い訳をする。匙を投げた医者のように肩をすくめる鈴音。呆れたような顔に浮かんだのは苦笑だった。

 

「仕方のない奴ね。そう言うのなら好きにしなさい。ただし、やり合うならここでやる事。あたしたちも見させてもらうから。アンタもそれでいいわね?」

「問題ない。ギャラリーが居ようが関係ないからな」

 

 強気の念押しをボーデヴィッヒは特に拒むことなく受け入れる。「ならよし」と頷いた鈴音は、未だにごねるセシリアを引き摺って下がっていった。

 物分りが良いと言うか、適度な距離感というものを理解している鈴音に内心で感謝する。それが一夏坊相手にでも発揮できれば良いのに……と言うのは野暮であろう。

 

「邪魔者はいなくなった。さあドクトル、始めるぞ」

「まあ待て。悪いが、一つばかり条件を付けさせてもらおう」

「何?」

「勝負に余計な縛りを設けるのは本意ではないが……私の機体は今のところ、この様なのでな」

 

 時間が惜しいとばかりに自身の専用機、シュバルツェア・レーゲンを展開するボーデヴィッヒに待ったをかける。条件を設けると言うのは他でもない。私の機体、曙の現状を鑑みての事だ。機体を展開するや否や、私の眼前には赤い警告表示が点滅していた。

 

「二十分だ。生憎だが、それ以上は此奴が機嫌を損ねるのでな。了承願いたい」

「……分かった。その条件でいい」

 

 コアとドライヴの同調不全。その影響による稼働時間の制限は、日々の調整により改善の兆しを見せてはいるものの、現状では微々たる変化でしかない。申し訳ないが、二本の指を立てるのが精一杯であった。

 幾分か不満げな様子を見せたものの、結果的にボーデヴィッヒは頷いた。

 忝い。代わりと言っては何だが、時間が許す限りは全力を以て当たらせてもらうとしよう。

 

「では、やるか」

 

 これ以上の問答は不要。言外に告げ、互いに規定の距離まで離れる。油断なく構えを取ったボーデヴィッヒの姿は、千冬殿の教導を受けただけあって手強く見えた。

 思わず笑みが浮かぶ。色々と面倒な事情が絡んではいるが、いざ勝負となれば細かい事など関係ない。勝敗を賭け、ただ全力を以て当たるのみ。戦闘狂のつもりは無くとも、この血が滾る感覚は捨て難いものがあった。

 

「いざ――参る!」

「ッ!」

 

 合図は要らなかった。示し合せたかのように互いに急加速する。

 夜明けの光と黒き雨、その勝負の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「いいか。同じアリーナを使うのはいいが、こちらの邪魔はするなよ。絶対だからな」

「そう何度も言わなくても分かるって。なあ、シャルル」

「あ、あはは……」

 

 再三にわたって念押ししてくる箒に、俺は辟易とした気分になっていた。同意を求めた先のシャルルも苦笑いを零す有様である。これはアレだろうか、逆に邪魔をしろというフリなのだろうか。

 放課後、いつも通り一緒に訓練をしようとしていた俺とシャルルだが、最近では学年別トーナメントが近付いてきたせいかアリーナは混み合う事が多い。模擬戦もしたい所だし、出来るだけ空いているところを探していた俺たちは、そこで箒に目を付ける。

 近頃は一人で訓練に励んでいる箒なら、そういう穴場も知っているかもしれない。その推測通り箒は第三アリーナが比較的スペースに余裕があると知っていたが、何故かその事を教えてくれるまでに一人で長い唸り声を上げていた。教えてくれた後は今のようにしつこく念押ししてきたりと、何を考えているのかよく分からない。

 そんな経緯もあって、三人で連れ立って歩きながらアリーナへと向かう。今日は鈴とセシリアが居ないようだし、シャルルに色々と教えてもらおうかと考えていたその時だった。

 

「……ねえ、何だか人が多くなってきた気がするのだけど」

 

 違和感に気付いたのはシャルルだった。俺と箒も、言われてみればとそれに気付く。

 アリーナに近づくにつれて、人気が多くなってきたように感じる。いや、それだけじゃない。まるで何かに吸い寄せられるかのように、アリーナに向かって人が集まり始めている。中には走っていく人も見受けられた。

 

「どうなっているんだ、箒? 物凄く混雑していそうなんだが」

「私が知るか。しかし、この人の集まり方は尋常ではないぞ」

「お? やっほー、織斑君」

 

 揃って首を傾げていると、後ろから声が掛けられる。振り返った先の人を見て、表情が強張るのを自覚する。俺の中の厄介な人ランキングで順位急上昇中、通称ギャンブラー相川さんだった。

 

「なになに? 織斑君たちも賭け事の匂いに惹かれてきたの?」

「そんな訳ないだろ……」

「お前はまたそんな事に首を突っ込んでいるのか。博打などにのめり込んでいては碌な事にならんぞ。いい加減に足を洗ってだな……」

「あー、聞こえない聞こえない」

 

 惚けた事を言う相川さんに呆れかえっていると、お堅い性格ゆえに賭け事の類も快く思っていない箒が説教を始める。対する相川さんは聞か猿の態勢を取り、徹底抗戦の構えのようだ。

 なんだか最近になって急にキャラが濃くなった相川さんに苦笑いが浮かぶ。おかげさまでクラスの賑やかさは増したが、人を博打の対象にするのはどうにかならないのだろうか。というかハンドボール部所属と聞いて運動系の子かと思っていたのに、何がどうなってこうなった……

 この世の不思議につい黄昏てしまう。そこに微笑ましげに俺たちの様子を見ていたシャルルが疑問を投げかけてきた。

 

「ところで相川さん。賭け事の匂いって言っていたけど、アリーナに人が集まっているのと何か関係があるのかな?」

「あっと、そうだった。こうしちゃいられないわ」

 

 シャルルの言葉に相川さんはハッと気を取り直す。そして何事だろうかと不思議そうにする俺たちに向かって言うのだった。

 

「その様子だと知らないみたいだけど……一緒に見に行く? 賭け云々は兎も角、面白いものが見られるのは間違いないと思うよ」

「いや、見に行くって何をだよ?」

「ふふん、そんなの決まっているじゃない」

 

 事の仔細を欠く誘いに説明を要求する。それに対して相川さんは勿体ぶるかのように笑みを浮かべる。

 

「椛さんとボーデヴィッヒさん、その模擬戦よ!」

 

 シャルルがポカンとし、箒が目を見開き、俺は言葉を理解するのに数瞬の時間を要する。

 その口から告げられた事実は、勿体ぶっただけあって俺たちを驚かせるには十分なものだった。

 

 

 

 

 

 相川さんを放って、慌てて駆け込んだ第三アリーナの観客席は殆ど満員に近かった。ピットから入った俺たちはその威容を尻目に見つつ、元はこの場で訓練をしていたと思われる呆気に取られた表情の者たちの中に、例外的に厳しい表情で空を見上げる鈴とセシリアの姿を認める。

 

「鈴! セシリア!」

「一夏さん……それに箒さんとデュノアさんまで」

「やっぱり来たわね。この人の集まりを見れば、アンタたちの耳にも届くと思っていたわ」

「ああ、相川さんに聞いてな。それで、椛は?」

 

 いったい何がどうなっているのかを尋ねる俺に対して、鈴は見た方が早いとばかりに空を指差す。見上げた先のそこでは、今の俺では及びもつかないような激戦が繰り広げられていた。

 椛が駆る曙の手には漆黒の刀剣が二振り。ラウラが操る機体――確かシュバルツェア・レーゲンの両袖部からはプラズマブレードが伸びる。幾度もぶつかり合っては巧みな機体制御で間合いを取り、鋭い一撃が放たれ、躱され、衝突し火花を散らす。両者の近接戦はさながら光の舞踊の様だった。

 ハイパーセンサーを部分展開してようやく目が追いつく高速戦闘を展開する二人は、まるで周囲の盛況ぶりなど気付いていないようだった。椛は隻眼に闘志の光を灯し、ラウラは眼帯が外れて金色の左目を晒している。少なくとも、並外れて集中している事は外野の俺にも分かる気迫が感じられた。

 

「凄い……椛博士もボーデヴィッヒさんも、あそこまで出来るなんて……」

「癪だけど、アイツかなり強いわよ。近接戦の椛相手にかなり粘っているもの」

「伊達に千冬姉の教え子だったわけじゃねえって事か……」

 

 鈴の言葉に納得しながら、それにしてもと思う。目を引かれるのは曙から発せられる蒼白い粒子だ。

 先月の無人機襲撃の際、箒を助けるために秘匿を解いた椛の専用機『曙』。シールドバリアさえ貫くビームを防ぎ切った事といい、無人機を容易く翻弄した機動力といい、既存のISとは明らかに異質な機体だ。当然、居合わせた俺たち――特に言葉を弄して誤魔化されていたセシリア――は説明を求め、あまりのしつこさに辟易した椛から概要は教えてもらっている。

 IS粒子運用のための試験機、それが椛から受けた説明だった。以前に授業で教えてもらったIS粒子を生成するための機関、ISドライヴが搭載されており、主動力はコアとそのドライヴのハイブリッド式を採用しているらしい。詳細は省かれたが、武装とか装甲に粒子を利用しているそうだ。

 外観としては黒白に染められた装甲に左肩のシールドバインダー、そして通常のISと比較して全高が五十センチほど低く、より人間的なシルエットをしているのが特徴的だ。比較的小型とは言え、そのパワーアシストは従来機と比しても遜色ない。今まさにレーゲンと互角に打ち合っているのが良い証拠だろう。

 そんな最新技術てんこ盛りの機体な訳だが、それ自体に対して個人的には驚きは小さい。驚いたのはむしろ、それを操る椛の馬鹿みたいな技術にあった。

 

「箒、あれは……」

「……ああ、間違いない」

 

 椛の動きが変わる。機体の出力に頼ったオーソドックスなISの格闘戦術から、彼女が本来得意とする人の身の剣術へと。

 

「篠ノ之流、一刀一閃ノ型……!」

 

 構えを取った椛が空中に踏み込んだ(・・・・・)。鋭さを増す斬撃が身を逸らしたラウラの鼻先を疾駆する。流水のような淀みのない動きで二撃目。ラウラはプラズマブレードで防ぎはしたが、その顔には苦悶が浮かぶ。

 反撃に移るも、その一閃を放った先に既に椛の姿は無い。普通の機動では絶対に有り得ない速度で、椛はラウラの側面に回り込んでいた。再び椛の剣閃が宙を舞う。その常識外れな動きにラウラは苦戦を強いられ始めた。

 一連の流れを見て、もはや驚きを越えて呆れてしまう。他三人も同様だ。唯一、シャルルだけが開いた口が塞がらないようだった。

 

「……何なの、あれ?」

「そういえばデュノアさんは初めて見るのでしたわね。椛さんの模擬戦」

「まあ、椛の奴は模擬戦なんか滅多にやらないしな。見た事のある奴の方が少ないだろ」

「そりゃ驚いても仕方ないわね。あんな変態機動見せられたら」

 

 まるで空中に地面があるかのように、剣術の足捌きをISでやってのける椛。入学当初のセシリアとの試合で垣間見はしたが、実際にまざまざと見せつけられた時は俺も驚いたものだ。

 

「良く考えるもんよ。PICと足回りの推進器系で踏込を再現しようだなんて」

 

 PICのマニュアル操作に加え、同時にスラスターとアポジモータ―を駆使する事で反発力を生み出し、疑似的に地面に踏み込んだ時と同じ状況を再現する。それがISでも生身と同等の剣術を扱うために椛が編み出した業である。

 曙の解説のついでに聞いてはみたが、その時は皆で揃って「何言ってんのコイツ」という状況になったのは説明するまでもない。

 

「そ、そんなこと出来るの? 理屈は分かるけど、どう考えても無理があるような……」

「……試しに真似しようとしてみたが、少なくとも私には無理だ。PICのマニュアル操作だけでも神経を使うのに、そこから更に複数の細かい推進器系を、しかも連続的に制御するなどふざけているぞ」

「恐らくは開発当時から関わっている椛さんだからこそ出来る芸当なのでしょう。あそこまで自在に動くためには、ISそのものを熟知していなければ不可能ですわ」

「ま、そういうことね。それより上を見ておきなさい。どうやら動くみたいよ」

 

 鈴の言葉に視線を試合の様子に戻す。状況は出鱈目な動きで攻める椛が優勢であり、ラウラは何とか間合いを離そうと四苦八苦しているところだった。

 

「チィッ!」

 

 ラウラが大きく舌打ちする。途端、最低限のダメージで済まそうとしていた動きから一転。斬撃を装甲が削られながらも受け止め切り、無理矢理に曙の腕を絡め取った。

 剣舞を止められた椛の顔に僅かな驚きが浮かぶ。その隙を逃さず、ラウラはレーゲンの脚部で蹴り飛ばす。同時に後方に瞬時加速、曙と距離を突き放そうと急速に後退する。

 

「逃がさぬ!」

「やらせんよ!」

 

 すぐさま体勢を立て直した椛も瞬時加速を発動、その背後に蒼白い粒子の輪を広げながら後を追おうとする。だが、それを許すラウラではない。レーゲンの機体各所から六基のワイヤーブレードを射出。複雑な軌道を描いて襲い掛かり、曙の進路を塞ごうとする。

 椛の反応は早かった。相対的に急速接近するワイヤーブレードの一つを、回転運動で紙一重で擦れ違うように回避、そのままワイヤーを断ち斬って無力化する。加えて接近する二つに対し、先程の変態機動を上下反転(・・・・)した状態で敢行。黒の双剣が閃き、ワイヤーは過程を置き去りにされたかのように寸断された。

 おいおい……アレ、あんな姿勢でも使えるのかよ。

 内心で驚愕する。理屈通りなら、例え逆立ちしていようが真横になっていようが実現可能とは理解できるのだが、実際に見ると信じられない気持ちが先立つ。傍から見れば上下逆のまま、そこに不可視の地面があるかのように立ち振る舞っているのだ。異様な光景にしか感じられない。

 次々と襲い来る残りのワイヤーブレードも椛は苦も無く処理する。五基目を左手の黒剣で斬り払い、そして正面から向かってくる最後の六基目を潰そうと右手を振り上げたその時だった。

 

「む……!?」

 

 右腕が突如としてその動きを止める。まるで見えない何かのように押さえつけられたその様子を目にし、隣でセシリアが「まさかAIC!?」と叫びを上げる。だが、その詳細を聞く暇は俺には無かった。

 最後のワイヤーブレードが椛に迫る。右腕がその場に張り付けられて動けないのか、彼女は躱そうとする気配を見せない。

 直撃する。そう思った瞬間、椛の眼前にまで迫っていた刃は横合いからの衝撃で弾き飛ばされた。椛が振り切った左手を強引に引き戻して、黒剣を叩き付けたのだ。

 何とか凌いだのを見てホッとする。ところが、そこに追い打ちを掛けるかのように、俺の耳に甲高いチャージ音が届いた。

 

「これならば防げまい!」

「レールカノン!?」

 

 その音の正体を見て、俺は思わず驚きの声を上げてしまう。

 不味い。椛の動きに気を取られて、まるでラウラの方を気にしていなかった。

 ワイヤーブレードを犠牲にしながらも近接戦の間合いから脱した彼女は、右掌を椛に向けて突きつけながら肩部の大型レールカノンを展開していた。俺が目を向けた時には既に照準が終わっていたそれは、今まさに椛がギリギリで攻撃を防いで隙を晒す瞬間を狙い澄まして放たれた。

 今度こそ避けられない。少なくとも、俺には致命的なダメージを回避する方法が全く浮かばなかった。

 

「ッ! やらぬわっ!!」

 

 だが、そんな必中が避けられない状態でも椛は足掻くことを止めない。

 左肩のシールドバインダーが稼働、無人機との戦闘で見せたあの粒子フィールドが形成され、レールカノンの弾頭を受け止めた。拘束された右腕が許す限り体を捩じる。粒子フィールドに進路を阻まれる間に弾道を逸らされ、弾頭は椛の右腋を抜けてゆく。

 標的を逃した弾頭はそのまま地面に突き刺さる。派手に土煙が上がり、振動が僅かながら俺たちの方にも響いた。やはり、かなりの威力があったのだろう。

 ギリギリの攻防に息が詰まる。だが、彼女らの戦闘の勢いは留まることを知らない。捩じった体を戻す勢いで椛が左の黒剣を投擲。まるで忍者の苦無のように正確無比な狙いのそれを、ラウラは虚を突かれた様子ながらもプラズマブレードで掬い上げるように弾き飛ばした。

 途端、椛の右腕の拘束が解ける。もしかしたらレーゲンの第三世代兵器だったのかもしれない。ラウラの集中が途切れたせいで、効力が無くなったという事だろうか。

 

「この……往生際の悪い!」

「生憎と諦めの悪い方でな。簡単には負けてやれぬよ」

「黙れ! 勝つのは私だ……正しいのは私だ!」

「ならば此の首、討ち取ってみるがいい!!」

 

 俺がそんな推測をする間にも戦況は動き続ける。椛は残った片手の黒刀を逆手に瞬時加速を行い、ラウラは間合いを詰められまいと後退しながら残り一つのワイヤーブレードとレールカノンで応戦する。

 ここで再び近接戦になれば椛が押し勝てるだろう。しかし、右腕を拘束した機能――セシリアが言ったAICとやらを警戒してか、椛は突貫して即座に距離を詰めなかった。むしろ、ラウラとの距離を測るかのような動きだ。

 その様子から膠着状態になるのではないかと、俺を含めた周囲は予想したことだろう。それはもしかしたら、ラウラも同じだったかもしれない。

 

「この距離なら得意の剣は役に立たない……!」

 

 そう、俺たちは忘れていたのだ。いくら良識的だろうと、椛もまた束さんや千冬姉みたいな超人枠の一人であり、そんな常識的な判断を当てにしてはならないのだと。

 

「遠距離戦では、こっちが有利!!」

「戯言を!」

 

 椛が左手を掲げる。その手にラウラに弾き飛ばされ、宙を舞っていた黒剣の片割れが収まる。まるで最初からそうなるよう動いていたかのように。

 ラウラがレールカノンをチャージする。対して椛は何を思ったのか、双剣の柄を連結した。

 両刃剣(ダブルブレード)……? いや、違う!

 

「これが、私の!」

 

 あれは……()だ!

 

「ISだ!!」

 

 弓を引く動作と共に粒子が集い、光の矢を形成する。レーゲンのレールカノンが轟音を伴って弾頭を吐き出す。引き絞っていた右手が離され、光矢が開放される。

 疾駆した粒子ビームの矢は、レールカノンの弾頭を抉り飛ばすように焼き尽くした。

 ラウラは驚愕する。だが、間に合わない。レーゲンの黒い装甲を鏃が貫いた。

 




コッチガ・ユーリ少佐に敬礼!(試合はもうちょっと続きます)

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