やはりおれのダンジョン探索はまちがっている。   作:しろゆき

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第4話です。
なかなか物を書くということって想像以上に難しいですね。
稚拙ながら頑張ります。



第4話

シル・フローヴァと別れた後、予定通り俺とベル・クラネルはダンジョンへと向かう。向かう道中でベル・クラネルにダンジョンについて聞いたが、どうやら他の冒険者もダンジョンについては詳しくは知らないらしい。

神達が下界に降臨する以前からダンジョンは存在していたらしいが、その神達は余りダンジョンについて深くは考えていないそうだ。もしかすると知られると神達に不利益な情報があるのかと勘繰ってしまう。元々物事を深読みする癖はあったものの、どうもこちらの世界に来てからというものが深読みが過ぎてしまう。だが俺はこの世界の神すらも知らない異世界へと帰る方法を見つけなかればならない。どうしても気が張り詰める、些細な挙動が、違和感が見逃せず余計なことまで考える。

慎重に徹しているのではない、これは焦りだ。自分のことを冷めている人間と思っていたが、案外そうではないようだ。そういえば一色にも似たようなことを言われた気がする。簡単に揺らぐアイデンティティを個性とは言わない、では個性とはなんなのだろう。この状況で揺らがな個性とはなんなのだろう。思考が帰結しないまま、俺はついにダンジョンの探索を始める。

 

ダンジョンの第一階層。俺の冒険の始まりである。

 

早朝の為、他の冒険者の数は全く見えない。どうせなら他の冒険者の戦い方も見てみたかったが、あまり人が多いのは気が滅入るので人が居ないのは気分的には助かる。恥をかいても誰にも見られることもない。経験者と言うのは初心者に失敗を見下して笑う傾向がある。サッカーの授業で調子にのるサッカー部員の様なものだ。そう考えると冒険者と言う職業はそういった上下関係に厳しそうな気がしてしまう。初心者の癖に生意気だぞ!といったジャイアニズムの冒険者とか絶対いそう。会いたくないなぁ。

ベル・クラネルの話を聞くと、モンスターはダンジョンから生まれるらしい。原理はわからないが、壁や地面からモンスターが出てくるのを目の当たりにすると納得せざるを得ない。もしかして俺も壁とかから出てきたのか?気持ち悪いので違う方法であって欲しい。

ベル・クラネルに師事を受けながらも順調にモンスター討伐は進んでいく。基本としては俺はベル・クラネルのサポートだ。

いきなり一対一は大変だというベル・クラネルの厚意から、ベル・クラネルが倒し損ねたモンスターやダメージを与えて弱らしてくれたモンスターのトドメを俺が刺す戦法を取る。美味しいとこ取り、なんといういい言葉だろう。完全に寄生プレイヤーである。

途中コボルトという犬の頭のモンスターの大量発生に何度も遭遇したり、ゴブリンの大量発生に遭遇したり。昨日のミノタウロスといい、もしかして俺は呪われてる?目が腐っているのがいけないの?ベル・クラネルもこんなハプニングは初めてと言っていたので普段はここまでモンスターは多くはないのだろう。

だがお陰で想像より早く戦闘に慣れてくる。所詮初心者に毛が生えた程度の戦闘の慣れではあるのだが、ヘスティアから受けた恩恵の効果はきちんと発揮され、貧弱な俺でもモンスターを討伐することが出来ている。本当にゲームを実体験している気分だ、正直少し楽しい。

モンスターを倒し、倒したモンスターから落ちる魔石や極稀に落ちるドロップアイテムを拾い、またモンスターを倒し、魔石を拾い、荷物が一杯になれば地上に戻り荷物を換金する。これをひたすら繰り返して夕刻になったところでヘスティアの待つホームへと帰る。

 

 

「今日は八幡君のサポートもあったお陰で凄く戦い易かったです!荷物も一杯持てたから収入も多かったですし、やっぱり仲間って大事ですね!」

 

帰路の途中でベル・クラネルが言う。俺からしたら足手まといの俺をサポートしながら戦わせたみたいで心苦しさもあったのだが全然気にしていないようだ。

 

「サポートなんて出来てないだろ。足を引っ張ってただけだ。ま、荷物持ちとしては役に立ったかもな」

 

どうやら冒険者の中にはサポーターという非戦闘員の職業もあるらしい。戦わずにして収入を得る。なんと素敵な職業だろう、装備を整える前に知っていれば最初からサポーターになるって言っていたのに。

 

「足を引っ張ってなんかいないですよ。僕も初心者だから説得力ないかもしれないですけど、余計なことをしないと言うか、冷静に判断していると言うか、凄いなって思います!」

 

普段は基本的に罵倒、もしくは呆れられることが多いので、こうして褒められると、慣れていない所為で背中がむず痒く感じる。ただ余計なことをしないって褒めてるの?もっと働けってこと?

 

「…そんなことねぇよ。なるべく働きたくないってだけだ。人命第一、俺の命第一。危険な目には会う前に逃げる、絶対に冒険なんてしないが今の俺のモットーだ。むしろ本当ならダンジョンにだって潜りたくなんてない」

 

「あはは…でも冒険なんてしないってのは正しいんだと思います。エイナさんも”冒険者は冒険しちゃいけない”って口うるさく言ってるので」

 

「エイナさん?誰それ?」

 

初めて聞く名前だったので尋ねるとベル・クラネルは驚きの表情を浮かべる。なんでも昨日ギルドで出会ったダンジョン攻略のアドバイザーの女性の名前が”エイナ・チュール”と言う名前らしい。

名前ぐらい覚えてあげようよとベル・クラネルが呆れ混じりの笑顔で言うが、そもそもきちんと自己紹介をした覚えがない。殆どベル君にも仲間が出来たかーとか仲良くしてあげてねとベル・クラネル関連の話ばかりだった気がする。仕事しろよアドバイザー。ただ知り合いの声に少し似ているので、正直あまり話掛けて欲しくはない。それある!

 

 

ベル・クラネルと会話を多少交えながら街を歩き、ホームである教会跡地地下室へと帰ってきた。

ヘスティアとダンジョンの感想等、雑談を少しした後【ステイタス】の更新を行う。様々な出来事を通して手に入れた【経験値】を神の恩恵に付け足す事でレベルアップが出来るらしい。つまりこの【ステイタス】更新をしなければ強くはなれないということでもある。

ヘスティアに言われるまま上着を脱ぎ、ベッドへと寝そべる。背中に刺青のようにびっしりと刻まれた【神聖文字】。これが【神の恩恵】らしい。

ヘスティアは寝そべる俺の背中の上に馬乗りになり更新作業に入る。更新自体は直ぐに終わり、更新した【ステイタス】の内容を別の用紙に書き換えて俺に渡す。

 

 

比企谷八幡

Lv.1

力:I 38 耐久:I 52 器用:I 68 敏捷:I 50 魔力:I 0

魔法【】

【】

スキル【】

 

 

俺は起き上がり用紙に書かれたステイタスを読む。聞くと【ステイタス】はSからIの上から10段階で表記されるらしい。下から数えた早い【ステイタス】に才能の無さを感じてしまっていたが、ヘスティア曰くこれぐらいが最初は普通、むしろ俺の今までの人生のすべての【経験値】を入れ込んだので初めての更新としては高いほうとのことだ。

ふと【ステイタス】の魔法とスキルの欄に目を向ける。魔法の欄は最初から空欄が2つあるように見えるが、スキルのところはまるで最初は何か書いてあったのを消したかのように見える。気のせいだろうか。

 

「へぇー。八幡君って魔法のスロットが二つもあるんですね。羨ましいなー」

 

「ん?どういうことだ?人によって数が違うのか?」

 

「うん。魔法はスロットの数しか覚えられないんですよ。それで二つ以上スロットがある人は珍しくて、魔法を覚えたら色んなパーティーの勧誘が一杯くるぐらい凄いんですよ!」

 

ベル・クラネルが興奮気味に俺に言う。だが俺は魔法の覚え方を知らないし、パーティーの勧誘なんて一杯きたところでコミュニケーション取れないからあまり得はしないな。

 

「成る程な。ちなみにレベルってのはこの【ステイタス】がMAXになれば上がるのか?」

 

「違うよ。そもそも【ステイタス】の【経験値】とレベルアップの【経験値】は別なのさ。普段の【経験値】より上の【経験値】。所謂偉業を成し遂げることでレベルアップの【経験値】が貯まるんだ」

 

ヘスティアが口を挟む。つまりわざわざ【ステイタス】をカンストさせなくてもいいらしい。よかった、ステイタスを全てカンストとか気が遠くなる。

 

「因みに、レベルアップって普通ならどれぐらいでできるんだ?」

 

「そうだねー、確か君たちを助けた女剣士のヴァレン何某君で1年ぐらいだったっけな」

 

は?1年?

1年ってあれだよね、365日の1年?こっちの世界だと1年は30日とかだったりみたいな文化の違いはないですか?もしくはあの金髪女剣士さんが実は全然才能がなかったとか!それはないか。

突如打ち明けられたレベルアップする為の期間の長さに気が遠くなる。もし元の世界に戻る方法がダンジョンの最深部にあったとしたら、一体俺はレベルを幾つまで上げなけれいけなくて、一体どれぐらいの時間がかかるのだろうか?そもそも俺はそんなに長い期間冒険者を続けらるのか?こんな命懸けの戦闘を、あと何回繰り返せばいいというのか。夢半ばで死ぬ可能性だってある、むしろ俺だったらその可能性のほうが高いまである。

 

 

 

俺は本当に、

 

 

あの世界に戻ることができるのか?

 

 

「…っ!!」

 

考えないようにしていた最悪の事態が頭を過る。眼を背けてた、現実を見据えず、有耶無耶にし、霞ませていた事実。冷静さという仮面を着けて誤魔化し、自分を騙し、至って普段通りを装うことでなんとか保っていた平静。

ダンジョン?モンスター?冒険?今の今まで何処か他人事のように、画面に映し出された映像のように、紙の上をインクで綴った物語のように捉えて逃避していた。飲み込んでいる振りを、理解している振りをすることで己を欺瞞した。

 

一度意識してしまえばもう止まらない。最悪の想像が、そして今まで関わってきた人物達の顔が、思い出が頭の中を駆け巡る。

人生なんて碌な物ではないと思っていた。俺の人生がではない、全ての人間の人生全てが碌な物ではないと。思い出なんて幻想で、絆なんてまやかしで、人生なんて偽物の積み重ねだと。

 

ふと彼女たちの顔を思い浮かべる。

彼女たちに二度と会えないかもしれない。その現実が俺の頭の中で痛みを伴いながら駆け巡る。

呼吸が荒れる、鼓動が早まる。脳が、精神が現実を拒否して自分の意識を強制的に閉ざそうとする。このまま夢の中で過ごしたほうが幸せなんじゃないか?なんて甘言が己を誘惑する。甘言を振り切ろうとすれば今度は黒々とした想像が意識を焼き切ろうとする。

 

 

 

「落ち着くんだ!八幡君!」

 

 

目の前の少女が上げた叫び声にも似た声に水でもかけられたように思考が止まる。その少女の表情は憐れみでも哀しみでもなく、一言で言うなれば慈愛に満ちた表情を浮かべていた。

 

 

「大丈夫だよ。八幡君」

 

そう言いながら俺の頭を手を回し、そっと抱き寄せる。普段ならその距離の近さにうんざりしているはずだが、今はそんな気は全く起きなかった。むしろどこか胸の奥で安心感すら抱いている。

 

「大丈夫だ。必ず君は元の世界に戻れるさ。来ることが出来たんだ、戻ることが出来るのが必然だろ?だから安心するんだ。神様のお墨付きだぜ、絶対に元の世界に戻れるよ」

 

ヘスティアは俺の頭を撫でながら、まるで子供をあやす様に俺に語りかけた。

安心してしまう自分に悔しさを覚えると同時に、ヘスティアってやはり神様なんだなと納得してしまう。落ち着きを取り戻すと急に恥ずかしさを感じ悪態を吐きながらヘスティアを払い除ける。近いんだよ本当に。

 

「…つか、ヘスティアって炉の神様で家庭生活の守護神ですよね。俺の今の事態とあんま関係ないからお墨付きでも意味ないでしょ」

 

「…ははーん。君は照れると悪態を吐くんだね。案外分かり易い性格してるね。可愛いところもあるじゃないか」

 

男の子に向かって可愛いとか言わないで!傷ついちゃうから!自尊心とか色んな物が傷ついちゃうから!顔を背けるが、背けた先にはベル・クラネルが暖かい目を向けていた。完全にコイツの存在を忘れてた、恥ずかしい!死にたい。

 

「兎に角!君は落ち着いて一歩ずつ着実に進むべきだ。焦りは禁物だぜ」

 

「…わかりましたよ」

 

先程の手間、体裁だけは納得をしておく。内心では半分は納得したというとかだろうか。誰がなんと言おうと、この世界に何年も滞在している訳にはいかない。何の情報もない八方塞がりの状況だが、それに甘んじてはならない。模索するしかないのだ。この世界を。ダンジョンを。

 

 

俺が密かな決意を固めた後、ベル・クラネルが【ステイタス】の更新を行う。どうやら大幅な【ステイタス】の向上があったらしく、異様にベル・クラネルが興奮している。まああのダンジョン探索での戦闘は殆どベル・クラネルが一人でこなしていたようなものだ。急激に成長していてもおかしくはない。

だがベル・クラネルが成長したというのに、何故かヘスティアはどんどん不機嫌になっていく。なんだ、可愛いベル君が逞しくなるのが嫌なのか?確かに俺も小町や戸塚が逞しく成長したら嫌だから気持ちはわからんでもない。いや戸塚は実は結構逞しい気もしなくはないが、ムキムキな筋肉野郎にでもなってしまったら枕を濡らす自身がある。

結局何故か怒り出したヘスティアに追い出される形で俺たちはホームを後にし、酒場に向かうことになった。正直行きたくはないのだが、ヘスティアを怒らせたことで落ち込むベル・クラネルを置いていくのは流石に気が引けるので、共に酒場に向かうことにする。

 

「…僕、何かわるいことしちゃいましたかね?」

 

落ち込んだベル・クラネルが尋ねる。どうやらコイツにとってヘスティアは余程特別な存在らしい。

 

「気にすんなよ。女なんて基本的に自分本意だから考えてもわからんぞ。性別が違えばもう別の生き物だって理解しとけ。そういう時は自分が悪いと思うな、全部社会が悪いって思っとけ」

 

「…八幡君は凄いね。色んなことを知ってて、自分をしっかり持ってる。僕とは全然違うや」

 

「は?どこがだよ。この世界に来てから俺が個性だと思ってた物なんて揺らぎまくりだぞ。それに自分らしさなんて曖昧な物、他人が見てもわかりゃしねぇよ。まず自分自身もわかってなんかいないだからな」

 

「そうなの?」

 

「…俺の知り合いで自分らしさってので悩んでる奴がいたんだよ。いや、きっと今でも悩んでるのかもな。誰かに憧れて、真似て、追いかけて、依存して。どんどん自分らしさなんてものを捨ててしまって、挙げ句の果てには憧れた相手に詰まらないとまで言われちまった。誰にも何にも影響されない個性なんてものはないのかもしれない、だけど何かを求めたらそれが個性になったりするんじゃねーの?わからんけど」

 

俺の話を聞いてベル・クラネルは何かを考え始める。きっと今の話はベル・クラネルにも当て嵌まる。恐らく憧れるだけでは駄目なのだ、追いかけるだけでは駄目なのだ。追い越さなければ、通過点にしなければ、この人間にすら追いつけない。結局答え出ないのかもしれない。だけどそれを理解して自分自身と見つめ合って、それがようやく個性になるのではないだろうか?

 

お互い無言のまま歩き続け、日も沈もうという頃合いに酒場へと辿り着いた。

『豊饒の女主人』ここが朝にあった少女の働いている酒場のはず。こっそり入り口から店内を覗き見ると、中にはウエイトレスさんがひーふーみー、、、

嘘だろ、女性スタッフしかいない。えっ敷居が高すぎませんか?もしかしてぼっちお断りですか、サイゼないの?帰っていい?

 

「ここ、だよね?」

 

ベル・クラネルが自信なさ気に俺に尋ねる。気持ちは痛い程わかる。今なら間に合う、違うお店に行こう。むしろホームに帰ろう。

目の前のお店は酒場というイメージとはかけ離れたオシャレな内装でシックな雰囲気を持ち、だが酒場の雰囲気を崩していない。高そうだ、やっぱりぼったくりなんじゃないのここ。

 

「よし。帰るか」

 

「えぇ⁉︎まだ店に入ってすらないよ⁉︎」

 

いやだってもう入るまでもなく店員に話しかけられない自分が眼に浮かんでくるから。もしくは声出してるのに無視してくる店員さんとか。だから注文呼ぶベルみたいなのがないお店には基本行きたくないんだよ。

 

「ベルさん!八幡さん!」

 

気付くとベル・クラネルの隣に朝に会った少女、シルがいつの間にか笑顔で立っていた。クソっ!逃げられなかったか!

 

「…やってきました」

 

ベル・クラネルは観念したようで、作りきれていない笑顔を浮かべてシルに応える。そんな失礼極まりないベル・クラネルの態度と笑顔に対してもシルは100点満点の対応をする。やはりコイツは胡散臭い、だが確証がある訳でもない。今日だけの付き合いと割り切り、俺たちはシルに案内されて店内へと足を運ぶ。この時の俺は、この後とんでもなく面倒な事に巻き込まれることになることを、まだ知らない。

 

 

 


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