やはりおれのダンジョン探索はまちがっている。   作:しろゆき

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第2話になります。
あまり話のテンポは早くはないですが、よろしくお願いします。


第2話

迷宮都市”オラリオ”広大な地下迷宮、通称”ダンジョン”を保有する巨大都市。ダンジョンを管理するギルドを中核として栄えている街らしい。ダンジョンでは先程のミノタウロスのようや数多のモンスターが闊歩し、命さえ落としかねない危険な場所である。

そのダンジョンを探索し、モンスターを倒したり、鉱石等を採掘したりして、得た収入で生計を立てる職業「冒険者」と呼ぶ。

白髪の少年、ベル・クラネルの説明を要約するとこんな感じか。今の状況を理解する為にベル・クラネルからこの街のことを説明して貰ったが、どうやら話しを聞いている限り、俺の知っている常識とは大分異なっていることから、この場所が自分の住んでいた世界とは違う世界、異世界の可能性が高いと思われる。どんなラノベ主人公だよ俺。異世界からぼっちが来てしまいました。

ただ異世界から来ました!なんて言ってしまったら完全に頭のおかしい人、もしくは可哀想な人して扱われかねないので極力そのことは隠して話を聞くことにする。雪ノ下辺りなら矛盾点や違和感を突いてきて全部バレてしまいそうだか、どうやらベル・クラネルは由比ヶ浜並みとはいかないまでも単純のようで、今のところはバレてはいないように思う。雪ノ下さん辺りならバレてないと思わせて全て以上のことを察しそうではあるが、むしろ黒幕の可能性まである。

説明を聞きながらベル・クラネルと共に街を歩く。血塗れの男二人が並んで歩いている為、どうしても奇異な視線を向けられる。嘲笑、侮蔑、どうやら異世界と言っても人間の本質は変わらないらしい。俺は別に気にも留めないが、ベル・クラネルはどうなのだろうかと少し気にかけたが、要らぬ気遣いだったようだ。口を開くと先程助けてくれた金髪女剣士の話しばかりで、周りのことなど目に入っていないようだ。

俺はベル・クラネルの今の状況を知っている。少し優しくされた、もしくは話しかけられた程度で相手を知っている気になり、これが恋だと思い込む偽物の恋心。きっとあの金髪女剣士は相手がベル・クラネルじゃなくても助けたし、助ける人間がいなくてもミノタウロスを討伐しただろう。そんな事実には目もくれず、ただ自分を助けたという事実だけを美化する、美しい思い出にする、運命の出会いだと思い込む。そしてその美化された思い出と現実に不和が発生したとき、人は勝手に絶望し、幻滅するのだ。

少し釘を刺しておくべきかとも思ったが、今は一緒に行動しているが、俺とベル・クラネルの関係は他人だ、無関係だ。一時間後には別行動しているかもしれないし、明日にはお互いのこと等忘れているかもしれない。ならこんな忠告は無意味だ、俺の言葉はベル・クラネルにとって無価値だ。苦い経験が思春期男子の心を成長させるのだ、と勝手に自分の思い出と重ね合わせて納得する。

 

「…なぁ、俺たちは何処に向かってるんだ?」

 

「えっとね、ボクと神様の家だよ。」

 

神様?何言ってんだコイツ。やべぇもしかして信仰宗教的なやつか?貴方は神を信じますかとか言われるの?神龍なら信じたいです!

相当訝しげな表情をしていたのか、ベル・クラネルは困ったように頬を指でかき、説明を始めた。なんでもこの世界には暇を持て余した神々の遊びよろしく、神々が下界に降りてきて人々に信託を与えているらしい。

凄まじいゲーム脳設定だ。おまけにこの世界には魔法やスキルまで存在するらしい。SAOなの?いやむしろALOか。成り行きでコイツの神様と会うことになってしまったが好都合だ。神様というくらいだ、俺がここに居る理由や解決策がわかるかもしれない。

なんてことを考えながら街道を歩き、街外れまで歩いたところで目的地に辿り着いたようだ。それは見るからにオンボロで、傍目では廃墟にしか見えない教会跡地。手入れも行き届いていないように感じられる。

おいおい、本当にここに神様住んでんの?疫病神か死神じゃないだろうな。眉間に皺が寄り、腐っていると評判の自分の目が更に腐っているのが分かる。これは余り期待出来そうにないな。

 

「あはは…じゃあ案内するよ」

 

俺の訝しげな表情を見て、何を考えているのか気づいたのかベル・クラネルが

困ったような笑顔を浮かべながら教会へて誘う。扉を開けたらあら不思議、神秘的な空間が広がって…いる訳もなく、外装から予想された通りの半壊状態。屋根も穴が開き陽射しが入り込んでしまっている。正直に感想を言えば、最早人の住める建物ではない。お世話でもいい家だね!俺もこんな家に住みたいな!なんて誰も言わないだろう。まあ俺はお世話を言う相手もいないけどな。誰にも気を使わなくていいなんて、やっぱりぼっちって素晴らしい!

内装を観察しているとベル・クラネルは一番奥の棚の裏まで身を進める。着いて行くとそこには地下へと伸びる階段があり、ベル・クラネルに続いて階段を下り、下った先にあるドアから地下部屋へと入る。

 

「神様、帰ってきましたー!ただいまー!」

声を張り上げて地下部屋に入って行く。地下部屋というと拷問部屋や牢屋等を思い浮かべてしまったが、実際はイメージとは全く違う生活感にあふれた人の暮らす小部屋といった感じだった。まあボロいのには変わりはないが…

 

「おかえりーベルくんー!って血塗れじゃないかい!どうしたんだい⁉︎」

 

ベル・クラネルの呼び掛けに応じた少女が、ベル・クラネルの血塗れの姿を見た途端慌てて駆け寄ってくる。見た目はどちらかと言うと少女ではなく幼女だが、一部分だけが完全に幼女から掛け離れている。由比ヶ浜ばりの大きさだ、雪ノ下が落ち込みかねないな。

少し声を荒げながらペタペタとベル・クラネルを少女は触る、怪我がないかを確認しているようだ。怪我の確認方法としては不適切過ぎやしないだろうか?ただイチャイチャしているようにしか見えない。コイツ、神様とだけでなく幼女と一緒に暮らしてんの?なんて羨ましい、爆発しろ。

一通り怪我がないかを確認し終えてから、幼女はようやく俺に気づいたようだ。ふぅ、招待されたのに居ない者として扱われたのかと思って不安になってしまったじゃないか。

 

「ベル君、この子は誰だい?」

 

「あ、神様、紹介します。ダンジョンで出会った…えっと、ひ…」

 

「比企谷八幡です」

 

幼女に自己紹介をする。え、この子が神様なの?神様って髭を生やしたおじいちゃんとか全身緑色の触覚が生えた宇宙人とかじゃないの?神様のイメージ像の崩壊を呼び起こした張本人である幼女神様は人の顔をじろじろと覗きこんで思案顔になる。

この行為には身に覚えがある、強化外骨格を持ったシスコンお姉ちゃんと初めて出会った時にもこの行為をされている。つまりは品定めである。品定めの時ですらあの張り付いた笑顔を崩さなかったあの人と比べたら随分と大胆に品定めをする神様だ、隠すのが下手なのか隠す気がないのか。あるいはどちらもかもしれない。

 

「えっと…比企谷君だっけ?ベル君が友達を連れてくるなんて初めてだから驚いちゃったよ!キミも血塗れだけど、2人とも何かあったのかい?」

 

「たまたま会っただけで、別に友達じゃないですけど。説明し辛いな…ベル・クラネル、代わりに説明してくれ」

 

あまり現状を把握しきれていないのと説明するのが面倒なので説明を全てベル・クラネルに任せることにする。丸投げされたのに関わらず嫌な顔一つせずにベル・クラネルは神様に説明をする。コイツ、少しお人好し過ぎないか?直ぐに騙されたり、変な女に付きまとわれたり、嵌められたりしちゃいそうでお兄さん心配。

 

「そうか、色々と大変だったね。ベル君を助けてくれたみたいでありがとう、感謝するよ!ボクはヘスティア、よろしくね比企谷君!」

 

一通りベル・クラネルがヘスティアと名乗った少女に事情を説明し終えると彼女はそう言った。

助けた覚えなど微塵もないが、ここでそれを否定しても意味はなさそうなので黙っておくことにする。彼女は屈託のない笑みを浮かべているようで、眼は警戒を緩めていない。ベル・クラネル程単純でもないらしい。

 

「それよりベル君。君は一度シャワーを浴びたほうがいいんじゃないかい?いつ迄血塗れでいるつもりだい?」

 

「あ、はい。そうですね。比企谷君もシャワー浴びます?」

 

「そりゃそうだよ。ただウチは一緒に浴びれる程シャワールームが広くないから、順番に浴びるといい。客人の前で血塗れというのも締まらないし、ベル君が先に浴びてくるといいよ」

 

ヘスティアに言われるがままベル・クラネルは少し遠慮がちにシャワールームへと向かう。そりゃ客人を放っておいて家主が先にシャワーを浴びるっておかしいよな。

ベル・クラネルがシャワールームに入ったところでヘスティアがこちらに目線を向けながら椅子に座る。つい先ほどまでベル・クラネルと会話をしていた柔らかい雰囲気の幼女とはまるで別人のようだ。

 

「さてと、じゃあ本題に入ろうか」

 

一言で空気が張り詰めた物に切り替わる。二人きりという言葉を聞くとどうしても甘ったるい状況を思い浮かべてしまうが、彼女の眼が語るのは疑惑と警戒、そして敵意である。甘美な状況など微塵も感じられはしない。この状況を例えるならば、警察の取り調べである。もしくは平塚先生の呼び出し。

 

「不躾だとは思うけど聞かせて貰うよ。君は一体何者だい?人間、なんだろうけど、少し違う。まるでボクたちとは違う理の存在のように感じる。はっきり聞こうかい?君はベル君の敵かい?味方かい?」

 

彼女の人の心の奥を覗き込むような視線に、何処か雪ノ下陽乃を思い出す。もしかすると人を見抜く力なら彼女より上かもしれない。どうやらこの神様の本質は俺の苦手なタイプなのかも知れない。

 

「…別に敵でも味方でもないですよ。敵になる程アイツのことを俺は知らないですし、味方をする程アイツと関係がない。今ここにいるのだって成り行きです」

 

「…どうやな本心から言ってるようだね。そこ迄他人に関心のない人間は珍しいよ」

 

「そうですか?人間なんて、みんな他人に関心なんてないでしょう。興味が湧くのなんて極一部ですよ。別に俺が例外な訳じゃない、まあ人よりも他人に期待してない自信はありますけどね。」

 

「そこまで言い切れてしまう時点で大分捻くれてると思うけどね、ボクは。おっと、話が逸れてきてるじゃないか。とりあえずベル君の敵ではなさそうだね、じゃあもう一つの質問に答えて貰おうかな?君は一体何者なんだい?」

 

敵ではないと理解するや否や警戒を薄める。神様としては少し不用心な気もするが話が早く進むのに越したことはない。今の自分の現状、別世界から来た可能性があること等を嘘を交えても意味もなさそうなので詳らかに説明する。

荒唐無稽で電波気味た話にも関わらず、最後まで話を遮らずに説明を聞き入れた姿勢に、この女の子が神様だという信憑性に欠ける話を、少し信じてもいいかと考え始める。俺の話を最後まで聞いてくれる人間は少ないからな、むしろいないまでもある。

 

「…正直に言おう。ボクにもさっぱりわからないよ」

 

おい、俺の多少の信用を返してくれ。

肩透かしな返答に思わずうんざりしてしまう。

 

「期待していた訳じゃないが、この世界には魔法もあって神様までいるんだろ?異世界からの勇者が訪ねるなんてよくある話じゃねえの?」

 

「バカ言うなよ。異世界から来た人間なんて聞いたこともないよ。イレギュラーもイレギュラーだよ。あとそれと、君は断じて勇者なんてカッコいいものじゃない、遭難者もいいとこさ」

 

「ナチュラルに罵倒すんのやめてくんない?傷ついちゃうだろ俺が」

 

「少ししか会話をしていないが、君がこの程度じゃ全く傷つかないことは理解しているさ。たださっきはさっぱりわからないなんて言ったけど、可能性の一つは提示できるよ」

 

ヘスティアが人差し指をピンと立てて笑顔を咲かせる。なにこの子、あざとい。この幼女神様属性多すぎやしいないか?一人で最近のハーレムラノベヒロインの全属性を網羅してしまうのではないだろうか。

だが少しでも今の何もわからない現状を脱却できるのなら、どんな頼りない神様の意見だろうと一考してみる価値はあるだろう。

 

「可能性ってなんだ?」

 

「ダンジョンさ」

 

ノータイムで答えが返ってくる。正直その答えは予想してなかった訳じゃない、むしろ俺も可能性の一つとして考えてはいた。だが俺にとって今この世界は凡ゆることが俺をこの世界へと誘った原因として考えられてしまえる為、むしろ何故他の魔法や神といった選択肢を排除し、ダンジョンを可能性として即答することが出来る理由かわからない。

 

「ダンジョン?ただの迷宮じゃないのか?むしろ神様の仕業ってほうが俺としては納得が出来るんだが」

 

「ちっちっちー。甘いよ比企谷君!ボクたち神ってのは娯楽に飢えてるからね、異世界から人間を召喚するなんてそんな面白そうなことを神々が話題にしない訳がないのさ。だけどダンジョンは違う、神々のボクたちでさえ未知なことが多いのさ。それに君は目覚めたらダンジョンに居たんだろう?なら原因の最優力候補はダンジョンだとボクは思うけどね」

 

神様の意見とは到底思えない、例えるならお前顔が怖いから犯人!ぐらいの暴論を得意気にひけらかし胸を張る。最早目の前の少女からは威厳を感じない、もしかするとこの幼女は神様の中でもハズレな神様なのではないだろうか。

 

「…まあ百歩譲ってダンジョンに元の世界に戻れる可能性や、この世界に招かれた原因があると仮定しましょう。では神様、俺の代わりに真偽を確かめてきて下さい」

 

「いきなり全部人任せかい⁉︎…残念だけど下界に降りてきた神は『神の力』を使えない。そして神である者のダンジョンの探索は禁止されている。申し訳ないけど君の頼みは受けられないよ」

 

「じゃああのベル・クラネルでもいいです。俺は幾らでも待ちます」

 

「君自信のことなのに、なんで君が動かないのさ…」

 

呆れて手を額に当てて溜息を吐く。呆れられようが状況が悪かろうが俺の働きたくないという本質は変わらない。更に言えばあんなミノタウロスみたいなモンスターがいるダンジョンに向かうなんて絶対にお断りだ、直ぐに返事をしない屍になる自信がある。スライムにも勝てないかもしれない、てかスライムはいるのかな?スライムがいるなら見てみたい気が…はっ!危ない危ない、スライムに釣られてダンジョンに少しばかりの興味が沸いてしまっていた。これがドラクエの魔力か、なんて恐ろしい!

 

「ダンジョン探索なんて本職がやるべきでしょう。素人が手を出しても碌な事にならないのは目に見えてる。直ぐにモンスターに殺られた俺の遺体を片付ける冒険者の苦労も考えるべきだ」

 

「考えるべき箇所がおかしすぎるよ!…まぁいいさ、じゃあ仮に君の言う通り君がこの世界に来た原因の追究や帰る方法を他の冒険者に依頼するとしよう。違うファミリアに頼んでみるのもありかもしれないね」

 

普段俺の働きたくない理論は否定しかされてこなかったので、このような反応は物珍しく感じてしまう。やはり腐っても神ということだろう、なんて寛大な精神なのだろうか。このまま俺を養ってくれると八幡的に超ポイント高い!

そんな俺の淡い期待など露知らず、ヘスティアはまるで悪戯を思いついた子供ような笑みを浮かべて、でもねと言葉を続ける。もう嫌な予感しかしない。

 

「…君さ、お金は持っているのかい?」

 

お金?マニー?考えてみると今俺は総武高校の制服を着てはいるが、鞄を持っていなかった。スマホも財布も鞄の中に入れていた、つまり俺は今無一文ということになる。まあ財布をもし持っていたとしても通貨が違うだろうから余り意味はないだろうが。

だが今ヘスティアが言った金銭の問題は、この世界から出れるまでは必ず付いて回る大問題だ。働きたくなど毛頭無いが、元の世界に戻るまでの間だけでも生きて行く為に働かなければならない可能性が出てくる。働きたくない、働きたくないでござる!

 

「ちなみにうちは居候を置いてあげれる余裕は全くないよ。働かざるもの食うべからずってやつさ!」

 

「それって単に貧乏ってだけじゃないですか?…あー働きたくねー。てことは寝床も確保しないとってことか、身分も明かせない不審人物を雇ってくれるとこなんてあるもんですか?」

 

楽観視していた訳ではないが、この世界で生きて行く為にはやらなければならないことが多すぎる。そして情報の無さや異世界人である事実が枷になる。これは想像以上に大変そうだ

 

「雇ってくれるとこかい?難しいかもしれないね、仕事を選びさえしなければ生きてはいけるかもしれないけど、元の世界に戻る方法にまで手を着ける余裕はないだろうね」

 

ヘスティアの言った通り、元の世界に戻る方法が最大の問題であり、もっとも優先順位が高い問題でもある。いつまでもこの世界に留まるつもりはない。仕事と寝床の確保にいつまでも時間を費やしている場合ではないのだ。だがその二つの問題と金銭の問題をクリアしないと元の世界に戻る方法に着手できない。どう見積っても数年はかかる累積した問題に頭を抱えそうになる。

 

「…比企谷くん。一つだけ君の問題を解消する方法があるんだけど、聞く気はあるかい?」

 

ヘスティアの言葉に思わず目を見開く。えっ?そんな都合のいい方法があるの⁉︎神様ならではのコネや裏技があるのだろうか?流石神様!もうバカにしません!

俺の期待の眼差しに笑顔で応え、ヘスティアは口を開く。

 

 

「比企谷くん。君がボクのファミリアに入って、冒険者になるんだ!」

 

……

は?なに言ってんのこの神様(笑)

バカにしませんとの誓いをあっさりと捨て、彼女の言葉の意味を考える。冒険者とはつまりベル・クラネルや俺たちを助けた金髪女剣士のように、ダンジョンに潜りモンスターと戦って生活をするゲームキャラみたいな奴らのことを指しているのだろう。

そんな冒険者に俺が?ないない。

 

「さっきも言った通り、俺が冒険者になったところで死にに行くようなもんですよ。俺のコマンドはいのちをだいじに一択なんでその案は却下です」

 

「恩恵を与えればそうやすやすとは死なないさ。それにボクのファミリアに入ればこの家に住むのを許可してあげてもいい。そしてベル君が君と一緒にダンジョン探索するというサポート付きだ!まぁベル君も駆け出しだけどね…」

 

…確かに直ぐにダンジョンに手を着けられて寝床も確保できる。悪い話ではない。が、いい話でもない。

まず第一に俺には戦闘経験がない。幾ら恩恵で戦えるようになると言っても、今まで平和な世界でのほほんと学生をしてきた自分にとって、突然命懸けの戦闘は厳しいものがある。

第二にヘスティアはベル・クラネルのことを駆け出しと言った。彼女は先程ベル・クラネルのサポート付きと言ったが、彼もほぼ初心者なのであればサポートには然程期待できない。つまりダンジョン探索は難航する可能性が高い。

つまりこの提案を受けるということは俺が一からダンジョンを攻略するという事だ。素人があっさり攻略出来るのであれば冒険者なんて職業は衰退しているはず、そんな簡単なものではないだろう。つまりこの方法も元の世界に戻るのに数年、いや数十年とかかる見込みの提案だ。

断りたい衝動に駆られるが、俺の返事を待たずにヘスティアは話し始める。

 

「…君には全く関係ない話だけど、ボクは不安なんだ。今日もだけどベル君は冒険者に夢を見て無茶をし過ぎる。だけどボクはベル君と一緒にダンジョンには行けない。もどかしいよ」

 

寂しさと辛さを噛み締めてヘスティアは笑みを浮かべる。思えば出会ってから彼女はずっとベル・クラネルの心配ばかりしている。余裕大切に思っているのだろう。痛々しさも感じる笑みを消して、ヘスティアは真っ直ぐとこちらを見て言う。それは何よりも真剣で、そして、本物を感じる言葉だった。

 

「お願いだ。ベル君の助けになってくれないか?」

 

そのまま彼女は頭を下げる。ただ頭を下げる訳ではない、土下座だ。この世界にも土下座という文化があったとは。

ヘスティアは真摯に誠意を見せた。本音を晒した。俺の事情よりもベル・クラネルを助けて欲しいと。身勝手な思いを吐き出した。なら俺はどうする?

彼女の誠意を蔑ろにし、踏み躙り、提案を蹴るのか?

俺には関係のない話だ。こんな提案を飲む必要はないし、なによりメリットが少ない。ならこんな話はなかったことにすればいい。この場をとっとと去ればいい。

 

頭では解は出ている。

だが何かが解は間違っていると俺の足を止める。

 

溜息をついて頭をガシガシと掻く。

わかっている。何が俺の解を邪魔をしているかなんてとっくに理解している。どうやら俺には社蓄の才能があるらしい。思わず笑ってしまいそうだ。

 

俺は答えを決め、真っ直ぐヘスティアを見る。

俺の答えを彼女に伝えよう。

 

 

奉仕部としての答えを彼女に伝えよう。

 

 

「その依頼、引き受けよう」

 

あーあ、言ってしまった。もう後戻りは出来ない。

この解は間違っているかもしれない。だけど俺はこの解しか出せなかった。

俺が応えると思っていなかったのかヘスティアが驚きを露わにし口をポカンと開ける。自分から提案しておいて酷い反応だ。

 

「あと一つ言っておく。最優先は俺の命と元の世界に戻る方法だ。ヤバかったら逃げるし隠れる。アイツを助けるなんて二の次だ。それでもいいなら、俺はお前のファミリアになってやる」

 

「うん、うん!ありがとう比企谷君!」

 

ヘスティアは満面の笑みで立ち上がり俺に抱き着く。おいやめろ、鬱陶しい柔らかい鬱陶しい鬱陶しい可愛い鬱陶しい!

必死の抵抗でヘスティアがようやく俺から離れる。危ない危ない、俺以外の人間なら勘違いして惚れてしまっているところだ。ぼっちでよかった。

冷静さを取り戻そうとしていると目の前にヘスティアが手を差し伸べる。えっ、なにこの手は?握手とかハードル高すぎませんか?

 

「これからよろしく!八幡君!」

 

眩しい笑顔を向ける彼女に、俺は手を握らずに顔を背ける。

ヘスティアは少し不満そうだが、俺は別に馴れ合うつもりはない。これは一時的な協力関係で、彼女は俺にとってはただの依頼者だ。だから仲良くなる必要なんてない。

そう考えていると彼女は俺の右手を掴み、無理矢理手を繋ぐ。先程の眩しい笑顔に少し青筋を入れて、今度は有無を言わさぬ力強い言い方をする。

 

「これからよろしく!八幡君!」

 

「よ、よろしく…」

 

ヘスティアに圧倒され、小声で返事をする。

何故だろう、セリフは同じなのに威圧感が半端じゃない。

 

 

こうして俺はベル・クラネルと同じ、ヘスティア・ファミリアのメンバーとなった。

これが俺の、冒険者としての物語の序章である。

 


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