衛宮夫妻と迷宮都市   作:灰色企業戦士

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本日2話目。書ける時に書いとけ精神って大事。


独自解釈混じってます。
士郎に関する辺りとかとか。


生存戦略

『ここは元の世界ではない』

 

 

遠坂からの言葉に、言葉を返すことができなかった。

部屋の中は静寂に包まれた。

外の喧騒も届いてきていない。防音結界を張ったのだろう。

おそらく、人払いの結界も。

 

 

「ねぇ士郎、アーニャを見て何か気付くことはなかった?」

 

「いや、特には…強いて挙げるならよく出来たコスプレだな、と。」

 

「そうね、私も最初似たようなことを思ったわ。でもね、違うのよ。

 あれ、本物なのよ。彼女は私たちの世界の「人間」じゃないのよ。」

 

「…は?」

 

「言い方が悪かったわね。この世界には、ヒトの中でも種族があるの。

 普通の人間ーーいわゆる私たちの世界の人間ね。つまり、私たちは「ヒューマン」。

 まぁ、そのまんまね。普通の人間だと思ってくれていいわ。

 アーニャはその分類で言うとヒューマンじゃない、ってことよ。

 アーニャは「デミ・ヒューマン」。亜人ね。

 亜人(デミ・ヒューマン)私たち(ヒューマン)と似てるけど、身体的な特徴だったり能力が異なるの。

 その中でもアーニャは「キャットピープル」。猫の亜人ってことね。」

 

「なるほど。…漫画やアニメの世界だな」

 

「そうね。私たちの常識にはない世界だわ。

 そして、私たちの世界とは決定的に異なることがあるの」

 

「今までの情報だけでもかなり違ってるが…まだあるのか」

 

 

遠坂の不穏な言葉に若干恐れを抱く。

人間がさらに細分化された種族に分けられている、というだけでもかなり驚きだが、まだ上があるのか。

 

 

「さっきは私たちの常識にない、って言ったけど、亜人、ってだけなら私たちの世界でも似たようなことはあるのよ。

 例えば吸血鬼がそれね。私たちの世界でいえば、吸血鬼も亜人みたいなものよ。

 普通の人間に吸血衝動なんてないもの」

 

「まぁ、そうだな。なるほど」

 

「それで、ね。その…信じられないかもしれないけど、この世界には神様がいるの。

 それもたくさん。そこらじゅうに、と言っていいくらいに」

 

「…八百万の神(やおよろずのかみ)ってことか?」

 

「そうじゃないのよ。簡単に言い切っちゃうと、天界に居た神様が、暇を持て余して人の世界ーー

 つまり下界ね。娯楽を求めて降りてきたってわけ」

 

「………すごい世界だな」

 

「そうなのよ…」

 

 

この世界には神が存在している、らしい。某金ピカ(ギルガメッシュ)も半神半人だったけど…こっちの世界は常駐してるのか。

 

 

「じゃあ、何か。この世界は理想郷みたいなもんなのか?

 神様がいるなら困ったことがあれば、神様が解決してしまいそうだけど」

 

「んーそれがね、神様は力を制限してるらしいのよ。アルカナムってのが神様の力のことらしいんだけど、それを制限してるんだって」

 

「そう、なのか?縛りプレイみたいなものなのかな」

 

「随分俗っぽい言い方ね…まぁでもそういうことなんでしょうね。

 酒場で働きながら集めた情報だから正直真偽のほどは定かじゃないわ。

 で、重要なのはここからなの。

 さっきの話をまとめると、神様達も私たち人間と同じように生きていくことにしましたってことよね。

 同じようにってことは、食べないとお腹が空くし、服を着ないと寒いってこと。

 つまり、衣食住を用意する必要が出てきたわけ」

 

「なるほど。本当に俺たちと同じなんだな」

 

「そうね。それで、暇を持て余して下界に降りてきた神様達だけど、それでも楽をしたいのよ。

 楽しいことだけ享受したいの」

 

「……そりゃそうなんだろうけど、そう聞くと途端に胡散臭く見えてきたな」

 

「そもそもが暇を持て余して縛りプレイしだすような方達だしね」

 

くすくすと笑いながら続ける。

 

「『楽をしたい。働きたくない。どうしようか』となって、神様は考えたの。

 じゃあ人間を使って楽しよう、と」

 

 

「…ヒモじゃないか…」

 

「そうね。人間の力を借りて養ってもらおう、ってことだからね。

 でも、ただお願いするだけじゃ、神の威光を以ってしても難しい。じゃあどうするか。

 そうして私たちが神から授かれるのが、【神の恩恵(ファルナ)】よ。」

 

 

「ファルナ?」

 

「えぇ。ここからは私たちにも関係することなの。

 この神の恩恵(ファルナ)を授かることで、その神様の眷属ーー【神の眷属(ファミリア)】に所属することになるわ。

 つまりは神様ごとの派閥ね。

 私がお手伝いしてる酒場ーー「豊饒(ほうじょう)の女主人」ね。ここにきてくれる神様の一人に「ロキ」って神様がいるわ。

 その神様に恩恵をもらったら、その瞬間から「ロキ・ファミリア」、すなわち「神ロキの眷属」になる、ってわけ。

 この神の恩恵(ファルナ)を貰ったら、1年はファミリアを変更できないらしいわ。」

 

 

「なるほどな。そのファミリアっていうのには絶対に入らないといけないのか?」

 

「もちろんそんなことはないわ。ちなみに私たちがいるこの場所は、この街(オラリオ)の中でもファミリアに所属していない労働者が多い地区よ。

 でもね、「神の恩恵」って言うだけあって、効果の方もすごいのよ。」

 

 

「運がよくなる、とかそういうのか?」

 

「いいえ、もっと即物的な効果よ。

 すごく簡単に言えば、サーヴァントに割り当てられるようなステータスを付与されるの。

 それを伸ばすことで身体能力が向上するのよ。途轍もなく、ね」

 

「それはすごいな。ものすごくステータスを伸ばせば英霊のように人間を超えることができるってことか」

 

「そんな感じね。ちなみにこの神の恩恵(ファルナ)の効果はどの神様から授かっても効果は同じらしいわ」

 

「なるほどな。それで、そのステータスを伸ばすには何をすればいいんだ?」

 

「そうね、話が前後してしまうかもしれないけど、それも話した方がいいわね。

 士郎、私は話の初めに都市の名前を言ったわね。覚えてるかしら」

 

「迷宮都市オラリオ、だろ?それがどうかしたのか?」

 

「そう、迷宮都市。士郎、この迷宮って言葉を聞いてあなたは何を思い浮かべるかしら」

 

 

「そうだな…路地が入り組んでるのか?目的地に着くのが大変だとか」

 

「そうね、私たちの世界ならきっとそうでしょう。でも答えは不正解。

 迷宮、つまり「ダンジョン」。この街の地下には【ダンジョン】が広がってるのよ。

 モンスターが出る【ダンジョン】よ」

 

「…本当にファンタジーの世界だな…」

 

 

「えぇ。私たちの世界の常識なんてまるで役に立たないわ。

 話は戻るけど、神の恩恵(ファルナ)を授かることで、誰でも下級のモンスターを倒せるようになるみたいよ。

 そうして伸ばしたステータスで戦い経験を積めばステータスは伸びていくってわけ。

 レベルとかって概念もあるみたいだけど、それはまた今度ね」

 

「なるほど。随分分かりやすい成長の方法だな。スライムを倒してレベルアップ、ってわけだ」

 

「そういうこと。もちろん人間同士での戦闘も経験値にはなるらしいわ。

 モンスター限定ってわけでもないみたいね。」

 

「……戦争にも神の恩恵(ファルナ)は使われるってことか」

 

「実際にそういう国もあるみたい。ファミリアがそのまま大きくなって国にもなった「ラキア」って国ね。

 …話を聞くと、この都市も何回かその国から攻められてるらしいのよ」

 

「はぁ?!ここで戦争があるのか?!」

 

「それがね…この街って、唯一の「迷宮都市」なの。ダンジョンで育った【冒険者】がたくさんいる。

 言ってしまえば粒ぞろいなのよ。ここの戦士たちって。

 だから毎回あしらってるんだってさ…数万を100人程度で相手して、さらには死なないように手加減してて…

 加えていえば迷宮都市の商人が戦争特需でぼろ儲けして帰ってくるとか…

 もう本当にめちゃくちゃよ…」

 

 

「……そうか」

 

 

戦争という名のお祭りのようなもんだな…

 

 

「だから、その点については心配はいらないみたい。

 話を戻すわね。ダンジョンにはモンスターがいるってところからね。

 モンスターを倒すと「魔石」が落ちる。この魔石を売ってこのオラリオという都市は発展してるの。

 つまり、ダンジョンに行くとお金を稼げるのよ。

 神の恩恵(ファルナ)を受け取ってモンスターを相手にお金稼ぎを生業としてる人のことを【冒険者】と呼ぶみたいね」

 

「つまり、俺たちもそれになろう、ってわけか」

 

 

「あら、察しがいいじゃない。つまりはそういうことよ。

 はい、衛宮くん。そのために必要なことはなんでしょうか?」

 

「まず第一にファミリアに入ることだよな。いや、その前にファミリア選びから始まるか。

 神様がたくさんいるってことはそれだけファミリアも多いってことだろうしな。

 あとは…そうだな、ダンジョンに対する知識が必要だな。

 無知の状態で【モンスター】と戦うなんて無茶だ」

 

 

「そうね。私も似たような意見よ。私が考える行動指針は次の3つ。

 

1つ。ファミリアを決めるために情報収集をする。

2つ。ダンジョンの知識をつけること。これは街の北西にある【ギルド】って施設に行けばいいわ。

そして3つ。この世界の文字を勉強する」

 

「あー、そうだな。文字が読めないと困るよな」

 

「えぇ。クエストって形で冒険者向けの依頼があるみたいなの。

 文字を読むことができないと、いろいろな場面で損をすると思うわ。

 何よりこの世界の本を読めないのが痛い。だから文字を勉強する」

 

「そうだな。わかった。その行動指針で行動しよう」

 

「細かいスケジュールは明日にしましょう。

 ……士郎。ここまで話していなかったけど、私はこの世界で生きて行こうと思ってるの。

 もっと言ってしまえば、元の世界に戻ることは半ば諦めている。

 

 神様は力を制限している以上、元の世界に戻してもらうことは望めない。

 元の世界から私たちを取り戻しに来てくれる人がいるとも思えない。

 

 そしてなにより。士郎。この世界はあなたに合っている。

 

 士郎、この世界でならあなたはあなたが望む英雄(正義の味方)になれる。

 

 誰を犠牲にしなくてもいい。ただ人を救うことができる。

 

 この世界はそういう世界だと思うの」

 

 

「…………そうか。……ここなら俺は……」

 

「えぇ。あなたは【アーチャー】になることはない。

 元の世界でも、そうならないように見ているつもりだった。でも確証はなかった。

 でも。この世界なら、あなたは本当の意味での正義の味方になれるの」

 

 

真剣に、真摯にじっと見つめてくるこの少女(遠坂凛)は俺が寝ている間にずっと考えていたんだろう。

異世界に来てしまったことに驚きながらも、衛宮士郎の救済の可能性を知り。

元の世界への諦めも、この世界への不安も押し殺して。

ーーそれなら俺が返す言葉は決まっていた。

 

 

「…わかった。元の世界に未練がないわけじゃない。

 それでも俺は、他の誰でもない衛宮士郎として。

 この世界に生きよう。

 遠坂と共に、この世界で」

 

「…ありがとう。士郎。

 さて!それじゃあ行動指針も決まったことで今日は寝ましょう!

 とりあえず明日は午前中に酒場の女将さんに話をしにいくわよ。

 士郎が起きたら事情を説明するように言われてるの」

 

 

「わかった。…ちなみにどこで寝るんだ?この部屋はベッドが一つしかないが…」

 

「一緒のベッドに決まってるじゃないの。…ひょっとして照れてるの?

 もう可愛いんだから」

 

「…もしかして俺が寝てる間ずっと一緒に?」

 

「あら、よくわかったわね。士郎は安静にしていないといけない怪我じゃないのは分かったし、一緒に寝てたわ。

 いい抱き枕だったわ」

 

「…拒否権は?」

 

「あるわけないでしょ。なによ、嫌なの?私と、寝るの。…嫌なの?」

 

 

「……あーもうわかった。わかったよ。」

 

 

「よっし。じゃあ、シャワーに行くわよ!士郎!…あ、変な意味じゃないわよ。

 いや、ダメじゃないけど、汗流したいでしょ。」

 

 

「…変な意味でとらえてなんかないよ…わかった。行こう」

 

 

 

長い1日は終わり、夜は更けていった。

 

ーーその夜、部屋からは物音一つしなかった。

 




”迷宮都市オラリア”になっていたので、オラリオに修正

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